文化人類学

【文化人類学とは】学問の特徴から文化の定義までわかりやすく解説

文化人類学とは

文化人類学(Cultural anthropology)とは、文化で成立する人類社会を理解する学問です。

「文化なんて研究して何の意味があるんだ」と言われそうですが、異文化との出会いが日常的な日本で、文化人類学の知識は幅広い社会的意義があるはずです(と信じています)。

そこで、この記事では、

  • 文化人類学の定義・意味・対象
  • 文化人類学の研究方法
  • 文化人類学から生まれた思想
  • 文化人類学の「文化」概念

を順番に解説します。

興味のある箇所だけでも構いませんので、ぜひ読んでみてください。

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1章:文化人類学とはなにか?

まず、1章では文化人類学を概説します。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 文化人類学の定義・意味

冒頭の定義を繰り返しますが、文化人類学とは、文化で成立する人類社会を理解する学問です。定義だけでは理解が深まりませんので、「文化人類学(Cultural Anthropology)」という語を分解してみましょう。

文化人類学とはなにか?

このように、「文化人類学(Cultural Anthropology)」分解してみると、以下のようになることがわかります。

  • 「文化(cultural)」は、あくまでも形容詞である
  • 中心はとなるのは、「人類(anthropos)」を対象にする「学問(ology)」である

「しかし、人類を対象にする学問は他にも多くあるのでは?」という意見があると思います。たしかに、人類を対象にする学問はパッと思いつくだけでも、以下のようなメジャーな学問があります。

  • 心理学
  • 社会学
  • 歴史学
  • 教育学

■ 他の学問と区別される文化人類学の特徴は「文化」

すると、人類を対象にした他の学問と異なる「文化人類学」の特徴とは何なんでしょうか?その答えは、形容詞の「文化」です。つまり、この学問は「文化」を中心概念にして、人間社会を理解しようと試みます。

1-1-1: 文化人類学の文化とは言語みたいなもの

すると、次の疑問は「それでは中心概念となる「文化」とはなに?」となりますね。ここでは一旦、「文化」は言語みたいなものと考えてみましょう。

言語みたいな「文化」とは、次のような考え方です2たとえば、太田好信「文化―文化の日、文化鍋、軽チャー…etc.でも、人類学者にとり、文化とはナニ?」『人類学のコモンセンス』学術図書出版社や、太田好信「第2章カルチュラル・スタディーズとの出会い」『民族誌近代への介入』人文書院など

  • 社会ごとに話されている言語は多様だが、言語がない社会はない
  • ある社会で生まれ育った人びとは、その言語を共有する人びとと意思疎通ができるようになる
  • 言語の役割のように、「文化」を共有する人びとによって社会は成立する

このような文化人類学の「文化」は、一般的に使われる「文化」と異なる意味をもちます。一般的に使われる「文化」は、「人間の作り出した最高のもの(ex: 京都にある文化財は保護されるべきである)」「人間生活の総体(ex: アイヌ民族の文化は独特です)」といった意味で使われます。

文化人類学の「文化」概念については第二章で詳しく解説しますので、ここでは一般的な「文化」とは異なる意味をもつと覚えてください。



1-2: 文化人類学の対象

さて、文化人類学はだれを対象にしてきたのでしょうか?伝統的に、文化人類学の対象となってきたのは非西洋社会です。今では口にすることもおぞましいですが、「未開」と形容された社会を伝統的に対象にしてきました。

たとえば、文化人類学の対象として頻繁にイメージされる社会には、次のようなものがあります。

  • アフリカの民族社会
  • 東南アジアの少数民族社会
  • 北米のインディアン社会

しかし、全世界中の非西洋社会が対象になってきたため、対象社会によって文化人類学を規定することは難しいと思われます。

ちなみに、日本社会も非西洋社会ですから研究の対象です。ルース・ベネディクトの『菊と刀』(1946)は、文化人類学者による日本社会の分析(書籍リストで紹介します)でした。

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1-2-1: 文化人類学の研究対象

それでは、非西洋社会のなにを文化人類学者は調べるのでしょうか?文化人類学の専門分野はきわめて多様ですので、ここでは分野を列挙して確認します。

文化人類学の分野

  • 言語を中心した分野
  • 衣食住や芸術といった生活の営みを中心とした分野
  • 親族体系を中心とした分野
  • 宗教・儀礼・呪術を中心とした分野
  • 神話・民謡・伝説を中心とした分野
  • 都市の変容に関する分野
  • その他の下位分類(映像人類学、解釈人類学、医療人類学…)

文化人類学の分野を紹介するだけでは理解が深まりませんので、以下のカテゴリーを参照してください。→人類学の記事一覧へとぶ

1-2-2: 文化人類学が成立したのはいつ?

さて、文化人類学が学問として成立したのは、19世紀後半から20世紀初頭の欧米諸国においてです。

アメリカ合衆国ではドイツからの移民であるフランツ・ボアズ(1858-1942)が、人類学を1899年にコロンビア大学につくりました3太田 好信 (編集), 浜本 満 (編集)「媒介としての文化― ボアズと文化相対主義」『メイキング文化人類学』世界思想社

ボアズの構想した人類学は「言語学」「考古学」「自然人類学」「文化人類学」という4つの分野が統合されたものです。人類学者が何でも屋?であるのは、4つの学問をカバーする幅広い姿勢からきているかもしれません。

■ 公的知識人としてのボアズ

ところで、フランツ・ボアズは不正義に対してきっぱりNOといえる人でした。たとえば、社会進化論への批判は、彼が残した遺産の一つです。

※社会進化論については、次の記事を参照ください。→【社会進化論とは】スペンサーの議論や問題点をわかりやすく解説

加えて、ボアズが唱えた文化相対主義はいまや社会の常識的な倫理観になっています。文化相対主義についても解説しましたので、興味のある方はぜひ次の記事を参照ください。→文化相対主義とはなにか】具体的な例や問題点をわかりやすく解説



1-3: 文化人類学の方法論

文化人類学の調査方法は、フィールド調査と参与観察です。フィールド調査と参与観察を簡単に説明すると、以下のとおりです。

  • フィールド調査・・・実際に現地を訪れて、特定の目的に沿った調査をすること(ex: 現地の人びとにインタビューをして、地域コミュニティの安全性に関して調べる→より詳しくはこちら
  • 参与観察・・・現場に参与しながら、同時に観察をすること(ex: 儀礼に参加しながら、その儀礼を観察する)

ここで注意したおのは、文化人類学の教科書をみると、フィールド調査と参与観察が文化人類学の特徴と書かれいることが多いことです。

しかし少し考えると、これらの調査方法は文化人類学の専売特許ではないことがわかります。フィールド調査や参与観察は文化人類学より先行して、博物学者のダーウィンや宣教師などがおこなっていたためです4太田 好信 (編集), 浜本 満 (編集)「ァーストコンタクト再演― 博物学と人類学の間」『メイキング文化人類学』世界思想社

すると、文化人類学の教科書に書いてるように、調査方法で文化人類学の特徴を説明できません。そのため、文化人類学という学問を特徴づけるのは、やはり「文化」概念を中心とした人類社会の分析です。



1-4: 文化人類学の理論

文化人類学の「文化」概念を解説する前に、文化人類学の代表的な理論を説明します。まずは、マリノフスキーやラドクリフ=ブラウンによって唱えられた「機能主義」です。

簡単にいうと、機能主義とは、次のような思想です(→より詳しくはこちら)。

  • 社会をさまざまな要素からできあがる一つの統合体と考える思想
  • 社会がどこまで発展しているとか考えるのはおかしい、と社会進化論を批判
  • 発展段階より重要なのは、その社会のなかでどう各要素が役立つのか、つまり機能するのかを調べることが重要

1-4-1: 構造主義の登場

続いて、人類学者のレヴィ=ストロースが創造した構造主義があります。これは人間の社会的・文化的現象の背後には目に見えない構造があると考える思想です。

構造主義は、20世紀を代表する現代思想です。私たちの常識の多くは、構造主義からきています。人類学に興味がなくても、知っておきたい思想です。

構造主義について、詳しく知りたい方は次の記事を参照ください。→【構造主義とは】その定義から実存主義との論争までわかりやすく解説

1-4-2: ポストコロニアリズム

そして、1980年代以降のポストコロニアリズムを無視することはできません。文化人類学が成立する背景には、植民地主義の構図がありました。ポストコロニアリズムによって浮上した「異文化を表象・代弁する権利」に関する問題は、人類学が抱える直近の課題です。

※ポストコロニアリズムとその理論について、次の記事を参照ください。→【ポストコロニアリズムとはなにか】定義や代表的な理論を簡単に解説

どうでしょう?文化人類学の概要をつかむことはできましたか?これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 文化人類学は、文化で成立する人類社会を理解する学問である
  • 文化人類学は、非西洋社会を19世紀後半から20世紀初頭から対象である
  • フィールド調査と参与観察という方法論で、文化人類学を規定することはできない

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2章 :文化人類学の「文化」とは?

2章では、「文化」概念について解説していきます。

2-1: 文化人類学における「文化」という考え方

まず、日本でも大変有名なルース・ベネディクトの『菊と刀』から「文化」概念を確認しましょう。ベネディクトによると、「文化」とは「ある社会の成員による諸行動を有意味にする暗黙の前提となっている考えのこと」5ルース・ベネディクト『菊と刀』(1946)を参照です。

簡単にいうと、文化とはある社会で当たり前と見なされており、その成員にとり当たり前になっている行動の前提です。しかもそれはあまりにも自然なため、空気を吸うように、世界で起きる出来事を無媒体で透明に知覚すると錯覚させるほどに自然ということです。

このような「自然化した行動のパターンや意味の体系」に文化人類学者が与えた名前が「文化」でした。

2-1-1: 「媒介」としての「文化」

これだけではまだわかりにくいので、「文化=媒体」として考えてみましょう。私たち人間は「文化=媒体」をとおして、世界で起きる出来事を理解しています。しかし、息を吸うように、当たり前すぎて「文化=媒体」の存在に気づかない場合がほとんどです6太田 好信 (編集), 浜本 満 (編集)「媒介としての文化― ボアズと文化相対主義」『メイキング文化人類学』世界思想社

そんなことをいきなり言われるとびっくりするかもしれませんが、「文化=媒体」を説明した事例を紹介しましょう。

2-1-2: フランツ・ボアズの文化概念:「変化する音」

先ほど紹介したフランツ・ボアズは「変化する音」(1889)という論文で、未開言語の特徴といわれた「sound blindness」に対して批判をしました7Franz Boas On Alternating Sounds, American Anthropologist Vol. 2, No. 1 (Jan., 1889), pp. 47-54 (8 pages)

簡単にいうと、「sound blindness」とは、時・状況・場所が変わると、同一の対象にもかかわらず、まったく異なった発音することです。言い換えると、音を区別できないことを指し、これは長らく未開言語の特徴といわれてきました。

それに対して、ボアズは、言語学者のいう「sound blindness」が存在しないことを主張します。なぜならば、調査を実施した言語学者たちの母語が異なるため、「未開人」が同一の対象を指していても異なった発音に聞こえることを発見したからです。

つまり、ボアズの発見とは、以下のことを意味します8Franz Boas On Alternating Sounds, American Anthropologist Vol. 2, No. 1 (Jan., 1889), pp. 47-54 (8 pages)、]太田 好信 (編集), 浜本 満 (編集)「媒介としての文化― ボアズと文化相対主義」『メイキング文化人類学』世界思想社

  • 母語が異なると識別できる音の領域が変化すること(ex: 日本人には、sing(発音記号síŋ)とthing(発音記号θíŋ)の違いがわかりにくい)
  • 私たち人間は世界で起きる出来事を無媒体で、つまり透明に知覚するのではなく、統覚すること(apperception、〜として理解する)

このように、人間は「文化(ことば)=媒体」をとおしてのみ世界を理解できます。その「文化」は共有されて、社会の成員にとり当たり前になってる前提となります。文化人類学は、当たり前の前提を「文化」と名付けたのです。



2-2: 文化人類学の「文化」は「レンズ」

比喩としての限界はありますが、ベネディクトは「レンズ」という比喩を用いて、行動の前提としての「文化」を説明しました。

ベネディクトは『菊と刀』で、以下のように「文化=レンズ(媒体)」を説明しています9ルース・ベネディクト『菊と刀』(1946)から参照

どの国の人々も独自のレンズを通して世界を統覚している。そのレンズを通して与えられた世界はあまりにも自然なため、意識する(レンズをはずすこと)は難しい。そのような時は眼科医(文化人類学者)が必要になる

つまり、私たちは目をとおして現実世界を見ていますが、いちいち眼球のレンズで現実世界を見ていることを意識しません。「文化」とはそういった感覚で、あまりにも当たり前であるため、自文化を意識化することは難しいということです。

2-3:「文化」概念からみる文化人類学の社会的意義

どうでしょうか?文化人類学の「文化」について理解を深めることはできましたか?文化人類学の「文化」を振り返ると、以下のような特徴をもちます。

  • 文化とはある社会で当たり前と見なされており、その社会の成員にとって当たり前になっている行動の前提である
  • あまりにも自然なため、空気を吸うように、世界で起きる出来事を無媒体で透明に知覚すると錯覚させるほどに自然である(第二の自然)

このように、文化人類学の「文化」概念を理解すると、別の社会の出来事を説明するのに、自分たちの社会の概念を適用することはしばしば誤解を生む原因になります。自己反省点な姿勢を「文化」概念は思い出せてくれます。

言い換えると、「文化」概念からわかるのは次のような過程があることです10太田好信「文化人類学と『菊と刀』のアフターライフ ――21世紀におけるリベラリズムと文化概念との新たな対話」『日本はどのように語られたか』昭和堂

  • 親和化・・・(異文化という)見えるものを(当たり前にすることで)見えなくすること
  • 意識化・・・(自文化は当たり前すぎて)見えないものを(他文化と比較しすることで)見えるようにすること

どうでしょう?文化概念について理解することができたでしょうか?このような文化概念が文化人類学の基層にあります。

2章のまとめ
  • 文化人類学の文化概念は、ある社会で当たり前と見なされており、その成員にとり当たり前になっている行動の前提である
  • 人間は「文化=媒体」をとおしてのみ世界を理解できる

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3章:文化人類学を学ぶための書籍リスト

最後に、文化人類学を楽しく学ぶための書籍を紹介します。文化人類学に少しでも興味のある方に向けて書籍を紹介します。

おすすめ書籍

浜本満・浜本まり子 (編)『人類学のコモンセンスー文化人類学入門ー』(学術図書出版社)

文化人類学者の考え方をさまざまな事例からわかりやすく説明しています。この本読んだら文化人類学にハマること間違いなし?な本です。

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ルース・ベネディクト『菊と刀』 (光文社古典新訳文庫)

第二次世界大戦中に、日本文化を研究したベネディクト。文化概念に学ぶために、きわめて重要な本です。

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オススメ度★★★ 映画「メッセージ」(2016)

宇宙人との遭遇は、非常に文化人類学的。文化人類学の感性を学べるいい映画です。映画のストーリーも面白いので、オススメです。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 文化人類学は、文化で成立する人類社会を理解する学問である
  • フィールド調査と参与観察という方法論で、文化人類学を規定することはできない
  • 文化人類学の文化概念は、ある社会で当たり前と見なされており、その成員にとり当たり前になっている行動の前提である

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