経済思想

【マルクス経済学とは】史的唯物論から『資本論』の世界まで解説

マルクス経済学とは

マルクス経済学(Marxian economics)とは、

経済学者のカール・マルクスが、古典派経済学を批判的に継承して「剰余価値説」「資本蓄積」などの理論から、資本主義体制はプロレタリア革命によって崩壊し、社会主義が到来すると論じた経済学です。

「マルクスや社会主義なんて古くて学ぶ必要ないものでは?」

と思われるかもしれませんが、マルクスの思想は今でも社会科学に広く影響していますし、マルクス経済学が行った資本主義の批判は今でも学ぶべきところがあります。

言い換えると、マルクス経済学は近代社会=資本主義社会論として読むことができます。そのため、マルクス経済学を理解しなければ、さまざまな学説はわかりにくいものになってしまします。

そこで、この記事では、

  • マルクス経済学の歴史や特徴
  • 『資本論』などから分かるマルクス経済学の詳しい理論

について分かりやすく解説します

マルクス経済学は難解だと思われていますが、できるだけ簡単に説明するので関心のある所から読んでみてください。

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1章:マルクス経済学とは

マルクス経済学は、ドイツ出身の経済学者カール・マルクス(Karl Marx)が『資本論』などの著書で明らかにした独自の経済学です。

カール・マルクスカール・マルクス

マルクス以前の主流派の経済学は、アダムスミスデヴィットリカード、マルサスなどによる古典派経済学でしたが、古典派経済学から思想を継承しつつも、それを独自の立場で体系化したのがマルクス経済学です。

1章では、まずはマルクス経済学の概要について説明します。

『資本論』などを通して明らかな、マルクス経済学の具体的な理論については2章から解説します。

1-1:マルクス経済学が生まれた背景

カール・マルクス(Karl Marx/1818-1883)が生きた時代、イギリスでは産業革命の真っただ中であり、

  • 産業資本家の力が強くなる
  • 労働者の立場が弱く、1日16時間を超えるような長時間労働、児童労働、恐慌による失業

といったことが社会問題になっていました。

そんな社会の中でマルクスは自身も実践的に革命運動に参加し、1850年代以降に入ってから経済学の本格的な研究をはじめました。

マルクスは大学に所属する研究者ではなく、今でいう在野の研究者で、大英博物館の図書館で研究を進め『資本論』という大著を書き上げたのです。

マルクスは『資本論』の第1部のみを書き上げ、彼の死後に共同研究者だったフリードリヒ・エンゲルス(Friedrich Engels)がマルクスから預かった草稿をもとに、『資本論』の第2部、第3部を発表しました。

1-2: マルクス経済学の世界観(史的唯物論)

マルクス経済学について知るためには、マルクスが立脚している世界観(※)である史的唯物論について知っておく必要があります。

※世界観とは、一般的に使われるような「世界の雰囲気、イメージ」というものではなく、「世界をどのようなものとして見るか」という立場のことです。

マルクスの世界観である「史的唯物論」とは、

  • 社会には歴史的段階があり発展していくもの
  • 世界は物質によって統一されており観念は物質のいち働きでしかない

という立場から世界を見ることです。

逆に、唯物論と対立するのが観念論であり、これは物質に観念が先行する、つまり物質より先に観念があったとする世界観です。観念論は、物質世界は観念によって生み出されると考える(つまり宗教的立場)ものとして、マルクスは批判します。

史的唯物論の立場からマルクスは考えるため、

  • 資本主義社会では、労働が「疎外」されるが、この疎外の在り方は歴史的な一形態にすぎない
  • また、歴史の原動力は観念的なものではなく、社会の物質的側面が持つ矛盾である
  • 社会の物質的側面が持つ矛盾がある段階に達すると、次の歴史的段階に進むための階級闘争が生まれ、社会主義が誕生する
  • 社会主義社会では、人間は「疎外」されない

という議論をしています。

これだけではよくわからないと思うので、簡単に説明します。

1-3-1:労働の疎外

そもそも、資本主義社会は財産の私的所有(私有財産制)を前提にしています。

なぜなら、近代以前の中世的世界では、財産の私的所有の自由がなく大衆は権力者に支配されていたからです。そのため、資本主義社会の私的所有とは、封建制社会からすると進歩です。

この私有財産の本質について、マルクスは「疎外された労働」にあると言います。

マルクスによると、私有財産制の社会では以下のように「人間の人間からの疎外」が生まれるとしています。

  1. 労働によって生み出された生産物は、それを生み出した労働者に属さない疎遠なものとなり、労働者と対立する存在である(労働生産物からの疎外)
  2. 労働者の「労働」そのものも、強制されたものであるため、労働者自身は自己実現の喜びを得られないものである(労働からの疎外)
  3. 労働は本来、人間が他人とともに生きる社会的存在(類的存在)であることを認識し、喜びを得るものだったはずだが、疎外された労働は生存手段でしかない(類的存在からの疎外)
  4. 上記の疎外の結果、人間の人間からの疎外が生まれる

この「疎外」が私有財産制の本質であるとマルクスは考えたのです。

こうした考えから、労働者を疎外から解放するために、私的所有をやめること、つまり資本主義から脱することが必要であるという結論に至ります。

1-3-2:社会の物質的側面の矛盾(生産諸力と交通形態の矛盾)

また、マルクスはこうした労働疎外の在り方は、歴史の一形態に過ぎず普遍的なものではない。つまり、資本主義社会に特有のものだと考えました。

ここでも史的唯物論的な立場から論じられます。

まず、マルクスは社会構造を大きく二段階のものと考えています。これを「上部構造」と「下部構造」と言います。

少し長いですが、『経済学批判』からマルクスの説明を引用します。

「この生産諸関係の相対は社会の経済的機構を形づくっており、これが現実の土台となって、そのうえに、法律的、政治的上部構造がそびえたち、また一定の意識諸形態は、この現実の土台に対応している。物質的生活の生産様式は、社会的、政治的、精神的生活諸過程一般を制約する。人間の意識がその存在を規定するのではなくて、逆に、人間の社会的存在がその意識を規定するのである。」

『経済学批判』

これを整理すると、

  • 社会には「労働」「生産」といった生産に関する構造(物質的生産諸力)が土台として存在する
  • その生産に関する構造(土台)の上に、法律や政治、社会的意識などの観念的な上部構造が存在する
  • そして、観念(上部構造)が物質的生産関係(下部構造)を規定するのではなく、物質的生産関係が観念を規定する

ということです。

上部構造・下部構造とはなにか

つまり人間の精神的活動は、その生活の実態から規定されているのであり、その逆ではないということです。

物質的世界が観念的世界に先行するという唯物論的立場から社会構造を明らかにしていることが分かります。

「上部構造・下部構造」という概念について、詳しくは以下の記事で解説しています。

【上部構造・下部構造とはなにか】マルクスの議論をわかりやすく解説

1-3-3:経済的社会構成の発展

そして、社会の物質的な面である生産過程(物質的生産諸力)は、ある一定の所まで発展し続けるが、ある段階を超えると崩壊し、次の社会構造を作るようになると考えました。

マルクスは、世界の歴史を物質的生産諸力の面から整理すると、以下のようになると考えました。

  • アジア的生産様式
  • 古代的生産様式
  • 封建的生産様式
  • 近代ブルジョア的生産様式(資本主義社会)
  • 社会主義的生産様式

それぞれの段階で、その時代の生産様式が限界まで発達すると構造が崩壊し、次の社会構造が形成され、また限界まで発展していったのだ。これがマルクスの史的唯物論の要点です。

これを見て分かるように、マルクスは自身が生きた資本主義社会の「生産諸力」も発展の余地がないほどまで発展しており、いずれプロレタリア革命(労働者による革命)によって崩壊すると考えたのです。

では、資本主義社会は、具体的にはどのように崩壊することになるのか。それに答えたのが『資本論』です。

2章では『資本論』を解説しますので、まずはここまでをまとめます。

1章のまとめ
  • マルクスは失業、不況といった現実の社会問題を解決するため、各命運動に身を投じ、その後マルクス経済学を体系化した
  • マルクス経済学は、「史的唯物論」の立場に立っており、社会構造の持つ矛盾が限界に達すると次の社会構造が現れると考えた
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2章:『資本論』から見るマルクス経済学のポイント

それではこれから、マルクス経済学の各理論を『資本論』から解説していきます。

『資本論』を要約すると、以下のようになります。

『資本論』の要約
  • 商品の価値…具体的な使用時の価値である「使用価値」、交換できること自体の価値「交換価値」、そして抽象的な「価値」が区別される。使用価値は「具体的有用労働」が作り、「価値」は抽象的人間労働が作る。
  • 貨幣の物神性…商品の価値形態は最終的に貨幣になる。資本主義社会では商品・貨幣に支配される(物神性)。
  • 剰余価値説…資本家は労働者の労働力に賃金を払うが、支払った価値以上に労働させることで剰余価値を得ることができる。
  • 資本蓄積…剰余価値を高めるために、労働時間の延長か労働生産性を高めるという選択肢があるが、長期には機械設備の導入が進められる(資本の有機的構成の高度)
  • 産業予備軍…長期には労働に代わって機械設備化が進むため、労働者は景気の波で雇用・解雇される「産業予備軍」になり、立場が弱体化
  • 革命…機械設備化を進めると資本家の利潤は減り、巨大企業しか生き残らないため、資本主義社会が崩壊し社会主義社会に移行する

『資本論』についてこれから簡単に説明しますが、『資本論』を分かりやすく説明した以下のような本もあるのでオススメします。

それでは簡単に解説していきます。

2-1:商品・労働の価値と貨幣

マルクス経済学を理解する上では、まずは「商品はいかにして、どのような価値を持つようになるのか」という問いと答えを理解する必要があります。

2-1-1:商品の使用価値と交換価値

マルクス経済学では、商品は以下の2つの価値を持っていると考えます。

  1. 使用価値:その商品を使うことによって欲望を満たす(つまり商品が役に立つ)という面の価値
  2. 交換価値:他のものと交換できるという面の価値

そして、商品は労働者が労働力を注ぎ込んで作ったもの(労働生産物)であるため、それは労働力が結集されたものだと考えることができます。

さらに、ややこしいかもしれませんが、マルクスはこれらとは異なる単なる「価値」も区別しています。

交換価値によって、例えば1表のお米1台の自転車が交換される場合、この2つの商品の交換価値は等しいです。しかし、本来この2つはまったく異なる性質を持つもので、価値を比較することはできないはずです。

そのため、この2つの商品には根源的な「価値」があると考えられ、それは「使用価値」とも「交換価値」とも区別されるのです。

2-1-2:具体的有用労働と抽象的人間労働

では、商品にはどのような労働力が投下されているのでしょうか?

マルクスは、これも2つの面から考え、「具体的有用労働」と「抽象的人間労働」によって商品の価値が作られていると考えました。

  1. 具体的有用労働:「お米」「自転車」などの商品の具体的な使用価値を作る労働のこと
  2. 抽象的人間労働:その商品の「価値」を作る労働のこと

この商品の価値は、「具体的有用労働」と「抽象的人間労働」の2つの統一物である、とマルクスは把握したのです。

マルクスの議論はややこしいかもしれませんが、まずは大まかにでもイメージしておくとその後の議論が分かりやすくなります。

2-1-3:貨幣と物神性

マルクスは、商品の価値の形態は最終的には貨幣になり、資本主義社会では商品や貨幣が社会を支配するのだ、と論じました。

まず、様々な商品は他の商品との比較の中でさまざまな「価値形態」をとります。

たとえば、「10表のお米」と「10台の自転車」が同じ価値を持つ場合、「10台の自転車」が「10キロのお米」の「価値形態」です。

さらに、「10台の自転車」と「50キロのトマト」が同じ価値を持つ場合、「50キロのトマト」は「10台の自転車」の価値形態です。

これを繰り返していくと、最終的には以下のようになり、これが貨幣形態です。

マルクス経済学の貨幣の物神性

「では、なぜ商品や貨幣が社会を支配するという結論になるの?」

と思われるかもしれませんが、それは、資本主義社会が「私有財産制」であるからです。

私有財産制の社会では、商品は特定の誰かの所有物ですので、商品を交換しあわなければ社会的な結びつきが生まれません。

そのため、商品・貨幣の交換が社会の前提になるため、人間は商品・貨幣から支配される。これをマルクスは「物神性」と呼んでいます。

したがって、社会から物神性を取り除こう。そのために革命を起こそう、とマルクスの革命思想に繋がっていくことになります。

さらに、資本主義社会では「労働」それ自体も商品化されているとマルクスは考えましたが、この思想からマルクス経済学の本質的な理論である「剰余価値説」に繋がっていきます。

2-2:剰余価値説

そもそも、資本主義社会では労働者は「労働」を売らなければ生きていけません。

それは、以下の意味で、労働者が二重の意味で「自由」であるからです。

  1. 労働者は人格的に自由であること
  2. 生産手段の所有から自由であること

この②については、自由というとポジティブな気がしますが、労働者は他に何も売るものがないため、自らの労働を売るしかなくなるという意味になります。

この「労働を売るしかない」という労働者の立場を利用して、資本家は自らの利潤を拡大していくことができます。

2-2-1:支出としての労働と労働力の再生産のための労働

これを、マルクスは支出としての労働と、労働者が自らの生産量を創出するための労働とに区別して説明します。

まず、資本家は賃金を支払って労働者を雇用するとき、労働者の「労働」という商品を買ったことになります。その労働者を働かせれば、例えば1日12時間働かせることで何らかの商品を作らせることができます。

さらに、マルクス経済学では、労働者が自らの労働力を再生産(取り戻す)するためにも「労働」が必要であると考えます。

つまりは、労働者は食事をしたり休養を取ったりするのにかかる時間が、労働力の再生産のための労働です。

具体的には、

  • 資本家が使う労働者の労働:1日12時間
  • 労働者が自らの労働力を再生産するのに必要な労働:1日8時間

というように考えることができます。

2-2-2:剰余価値が生まれる仕組み

ここで考えるべきなのが、資本家は労働者に「8時間分」の賃金を支払うだけで、「12時間分」の労働をさせることができるということです。

なぜなら、資本家は労働者の「労働」を買っているため、後はどのようにその労働力を使っても構わないからです。

したがって、労働者に支払う賃金と実際に労働によって生み出される価値との差額が生まれます。

この差のことを「剰余価値」と言うのです。

マルクス経済学の剰余価値説

もちろん、商品を生産するのに必要なのは労働力だけではなく、工場などの生産設備も必要です。

したがって、マルクス経済学では商品の価値は以下のようにあらわされます。

商品が持つ価値=生産手段の価値が転換したもの+労働力+剰余価値

マルクス経済学の商品価値

さて、もしあなたが資本家なら、労働者を自由に雇用し働かせることができる場合、どのように考えますか?

「何とかしてもっと儲けたい」と思うのではないでしょうか。

マルクスはこのような資本家の性質から、資本蓄積によって労働者はさらに弱い立場に追い込まれてしまうと論じています。

2-3:資本蓄積

資本家が「もっと利潤を増やしたい」と考えた場合、やるべきなのは「剰余価値を増やすこと」です。

では、どうしたら剰余価値が増えるでしょうか?

マルクスは剰余価値を増やす方法について、以下の2つを指摘しています。

①絶対的剰余価値の生産

労働時間の延長によって、剰余労働時間を増やし剰余価値を増やすこと。たとえば労働時間を12時間から13時間に増やし、剰余労働時間を5時間から6時間に増やすなど。

絶対的剰余価値の生産

②相対的剰余価値の生産

労働生産性を高めることで労働時間を減らし、支払う賃金を減らし剰余価値を増大させる。労働時間を12時間から10時間にし、剰余労働時間をそのままに支払う賃金を減らすなど。

相対的剰余価値の生産

労働者が働ける時間には限界がありますので、多くの資本家は②の経営努力をすることになります。

もっと具体的に言えば、資本家は得た剰余価値をより良い生産設備などの機械に投資することで、生産性を向上させるようになります。

この剰余価値の新たな資本への投資のことを、「資本の蓄積」と言います。

生産設備などの資本が増大していくということです。

こうして資本はさらなる資本の増大を求めていくことになります。

そしてマルクスは、こうした資本蓄積が結果として不況を生み、恐慌を生み、多くの失業者を生み出すことになるのだ。それが資本主義社会が抱える問題なのだと主張します。

2-4:恐慌の発生

現代でも問題になる「不況」ですが、マルクスも当時の社会を見て不況のメカニズムを考え、その原因が「資本蓄積」にあると論じました。

2-4-1:不況のメカニズム

なぜ不況が発生するのか。マルクスは、それを貨幣の存在から説明します。

資本主義社会では、資本家は最大限の利潤を得るためにできるだけ売れ残りを作りたくないと考えます。

その場合、得た利潤のすべてを次の商品の生産に充てるわけにはいきません。

そこで、富を貯蔵する手段として貨幣を使うことになります。生産物は劣化の恐れがありますが、貨幣は劣化の心配なく手元に置いておき、好きな時に使うことができるからです。

将来に不安が大きいほど、資本家は富を貨幣という形で貯蔵します。

その場合、投資の需要は小さくなり世の中で購入される生産物の量が減少します。これが「不況」です。

2-4-2:恐慌発生のメカニズム

逆に、将来に対する予測がポジティブなら、資本家は多くの資本を投資して新しい商品を作ります。

その場合は世の中で購買される商品の数が増えて「好況」になりますが、多くの商品を生産しようとすれば多くの労働力が必要になります。

社会が持つ労働力には上限があるため、労働者の賃金は上昇し、資本家が得られる利潤は減少し、やがて「不況」に転換します。

この「不況」のより激しい状態が「恐慌」です。

2-4-3:資本の有機的構成の高度化

繰り返しになりますが、商品の価値は生産手段からの価値の転換と、労働による価値の転換によって生まれます。

2-3の「資本蓄積」で説明したように、より多くの剰余価値を得ようと考える(つまり儲けようとする)と、「労働時間を増やす」か「労働生産性を高める」かのどちらかしかありません。

そして、労働時間には限界があるため、資本家は、いつかは必ず労働生産性を高める努力をしなければならなくなります。つまり、新しい技術に投資して労働生産性を高め、逆に投下する労働時間の数を減らしていこうとするのです。

こうして競合他社よりも高い剰余価値を得られるようにしていきます。この他社と比較した際の剰余価値を「特別剰余価値」と言います。

マルクスは上記の説明を「不変資本」と「可変資本」という言葉で説明しています。

  • 不変資本(c):商品の生産の際に、機械設備などの生産手段から転化される部分
  • 可変資本(v):商品の生産の際に、労働から投下される部分

つまり、資本家はより高い特別剰余価値を得るために、商品に対する「可変資本(v)」の割合を少なく、「不変資本(c)」の割合を多くしていこうとするわけです。

商品の持つ価値に対する、上記の割合は「c/v」という数式で表されますが、分母である「v」が大きくなると資本家の得る剰余価値が大きくなるということです。

このことを、マルクスは「資本の有機的構成の高度化」と言っています。

資本の有機的構成の高度化

そして、資本の有機的構成が高度化、つまり不変資本の割合が高まると、資本家が得る利潤の割合は減少していきます。

2-4-4:労働者の失業と産業予備軍化

ここまで理解できれば、資本主義社会ではなぜ労働者の立場が弱くなり、失業者が増えていくのか分かると思います。

資本家はより高い剰余価値を得て競合他社に勝ち、生き残っていくために、労働者の雇用を減らして機械設備に投資し生産性を高めていかなければなりません(資本の有機的構成の高度化)。

その結果、労働者は失業していきます。

また、資本主義社会では景気循環があり「不況」と「好況」を行ったり来たりするため、労働者は不況時には解雇され、好況時には雇用されます。

そのため、労働者は「産業予備軍」として資本家が経営を最適化するための役割として、ストックされることになります。

しかし、長期で見ると資本主義社会では、資本の有機的構成が高まり続けるため、産業予備軍は巨大化していきます。つまり、雇用が不安定な労働者の層が増大していくのです。

こうした趨勢によって資本主義社会では、恐慌が頻発し不安定な労働者が大量に発生するようになるのです。

さらに、企業は特別剰余価値を生み出すために競い合いますので、新しい技術の投資に失敗した会社は、成功した会社に取り入れられて生産性の高い巨大企業・大資本家が生まれていきます。

大資本家の成長に伴って大衆への抑圧は高まり続けていくため、ある時点で限界が来るだろう。そこで労働者がプロレタリア革命を起こし、資本主義社会は崩壊し、社会主義の時代が来るのだ。と、このようにマルクスは論じています。

この「産業予備軍」の増大は、現代の日本に目を向けても明らかです。特に日本では90年代以降に労働者派遣法が改正され、それ以降非正規雇用が増大しました。派遣労働者は正社員に比べて、人員の補充・削減の調整がしやすいため、「産業予備軍」として企業に活用されている現状があります。

以上が『資本論』第一部の内容です。これに続いて第二部、第三部もありますが、マルクスが生前に自分で完成させたのは第一部だけで、二部、三部はエンゲルスが手を加えています。

そのため、これ以降について知りたい場合は原著を読んでみることをおすすめします。

『資本論』第一部の内容をまとめます。

『資本論』の要約
  • 商品の価値…具体的な使用時の価値である「使用価値」、交換できること自体の価値「交換価値」、そして抽象的な「価値」が区別される。使用価値は「具体的有用労働」が作り、「価値」は抽象的人間労働が作る。
  • 貨幣の物神性…商品の価値形態は最終的に貨幣になる。資本主義社会では商品・貨幣に支配される(物神性)。
  • 剰余価値説…資本家は労働者の労働力に賃金を払うが、支払った価値以上に労働させることで剰余価値を得ることができる。
  • 資本蓄積…剰余価値を高めるために、労働時間の延長か労働生産性を高めるという選択肢があるが、長期には機械設備の導入が進められる(資本の有機的構成の高度)
  • 産業予備軍…長期には労働に代わって機械設備化が進むため、労働者は景気の波で雇用・解雇される「産業予備軍」になり、立場が弱体化
  • 革命…機械設備化を進めると資本家の利潤は減り、巨大企業しか生き残らないため、資本主義社会が崩壊し社会主義社会に移行する
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3章:マルクス経済学の学び方

マルクス経済学について理解することはできたでしょうか?

実際には、マルクスの経済学・思想は非常に壮大な体系なので、記事の上で説明できたのは一部に過ぎません。より詳しく知りたい場合は、下記に紹介している参考書や原著を読んでみることをオススメします。

オススメ書籍

オススメ度★★★小暮太一『マルクスる?世界一簡単なマルクス経済学の本』(マトマ出版)

マルクス経済学の入門書として最高の本です。とても分かりやすく、経済学の素養がなくても理解できます。

もちろんこの本だけでマルクス経済学を100%理解することはできませんが、最初のステップとしてオススメします。

オススメ度★★佐々木隆治『カール・マルクス‐「資本主義」と闘った社会思想家-』 (ちくま新書)

マルクス経済学を理解するためには、マルクスの人物や思想について広く知ることもとても意義があります。このような新書なら数時間で読み終わりますので、ぜひ読んでみてください。

オススメ度★★カール・マルクス『資本論』(国民文庫)

上記の入門書などで概要を把握したら、実際に『資本論』を読んでみることをオススメします。過去の偉大な学者が書いた名著を、自ら読み通すことは学問をする上でとても大事な作業です。第一部だけでもぜひ読んでみてください。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • マルクス経済学は、史的唯物論に立脚しているため、資本主義社会の物質的な生産過程(生産諸力)が限界まで発展すると、社会構造が崩壊して社会主義が到来すると考えた
  • マルクス経済学では、労働者が機械設備(不変資本)に代替されていき、産業予備軍として不安定な立場になり、いずれはプロレタリア革命が起こると考えられた

この記事では、古典派経済学を含め経済思想を詳しく解説していますので、ぜひブックマークしてください。