カルチュラル・スタディーズ

【大衆文化とはなにか】その意味から具体例までわかりやすく解説

大衆文化とはなにか

「大衆文化(mass culture)」とは、

中産階級を対象にして大量に生産された商品に関する文化を指します。

大衆文化を理解する一番の近道は、イギリスの階級社会を理解することです。

イギリス社会は階級間の文化的差異を深く議論してきた歴史をもちます。この議論を理解することで、「ポピュラー文化」や「高級文化(またはハイ・カルチャー)」などの相違がクリアーになるでしょう。

特に注意しなければならないのは、「大衆文化」と「ポピュラー文化」の相違です。それぞれ異なる意味をもつため、混同すると非常に危険です。

そこで、この記事では、

  • 大衆文化の意味(「大衆」と「文化」の意味)
  • 大衆文化とイギリス社会の関係
  • 大衆文化とカルチュラル・スタディーズの関係

などをそれぞれ解説していきます。

文化という切り口から頻繁に社会は説明されますが、「どの文化から誰がどう社会を理解しようとするか?」を知ることは大事です。

興味関心ある箇所から読んでください。

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1章:大衆文化とはなにか?

まず、冒頭の定義を確認しましょう。

大衆文化とは、中産階級を対象にして大量に生産された商品に関する文化を指します。

この定義から少なくとも、二つのことがわかります。

  1. 中産階級が結びつけられる文化があること
  2. 大量に生産される商業的・産業的な資本主義社会が前提にあること

これらの点は大衆文化を理解する鍵ですので、注意して読み進めてください。

1-1: 大衆文化の意味

まず、「大衆文化」と「ポピュラー文化」の相違を解説します。

冒頭でも触れましたが、「大衆文化」と「ポピュラー文化」は日常的な言葉として混同して使われますが、この二つは異なる意味をもちます。

「大衆文化」と「ポピュラー文化」の相違はおおまかに次のように説明されます。

大衆文化・・・受動的な消費者としての中産階級

ポピュラー文化・・・自立した社会的・政治的な実践

つまり、「大衆文化」は資本主義における受動的な消費者を対象に大量生産された商品に関する文化ですが、「ポピュラー文化」は人びとのつながりをもった実践なのです。

1-1-1: 大衆とはだれか

そもそも「大衆」という言葉が使われるとき、それは歴史的に何を意味してだれを指したのでしょうか?

社会学者のアラン・スウィングウッドの『大衆文化の神話』によると、次のような意味で使われていました。

歴史的な用法における「大衆」の意味と対象

  • 意味・・・商業や産業といった資本主義的な実践に対して、貴族が軽蔑の意味を込めた言葉
  • 対象・・・中産階級層や労働者だけでなく、ブルジョア層も含む

たとえば、ニーチェは嫌悪をもって「大衆」という言葉を使った代表人物です。そして、重要なのは当初の「大衆」はブルジョア層を含んだ言葉だったという歴史的な事実です。

1-1-2: 文化とはなにか

次に「文化」ですが、非常にやっかいな言葉です。「文化」は英語でもっとも複雑な言葉といわれています。それはさまざまな研究領域で、さまざまな意味をもって使われてきたからです。

そのため、ここでは重要な点だけ簡単に解説します。「大衆文化」の特徴を理解するために、その対義語である「高級文化」と比較していみましょう。

大衆文化と高級文化の特徴

大衆文化・・・中産階級を対象にして大量に生産された商品に関する文化(ex: 新聞、映画、レコード…etc)

高級文化・・・人類が作り出した最高のもの(ex: 文学、哲学、絵画、彫刻、etc)

(※大衆文化と高級文化の区分が生み出された歴史は2章で詳しく解説します)

ここでは、高級文化と一線を画すものとして大衆文化を理解してください。



1-2: 大衆文化の誕生

さて、大衆文化を深く理解するためにはイギリス社会における「ブルジョア層の変容」「資本主義の発展」という二つの軸を知る必要があります。

それぞれの点を理解することで、現代の大衆文化がどう誕生したのかを理解することができます。

1-2-1: 大衆文化をめぐるブルジョア層の変容

先ほど当初の「大衆」はブルジョア層を含んだ言葉といいました。結論からいうと、その後ブルジョア層は「大衆」に含まれなくなります。なぜでしょうか?

まず、ブルジョア層が「大衆」に含まれた理由をみていきましょう。その理由は次のようにまとめることができます。

ブルジョア層が「大衆」に含まれた理由

  • 教育制度と巡回図書館制度の発展による、ブルジョア層の読み書き能力の向上
  • ブルジョア層による雑誌や新聞、小説といった活字メディアの発展
  • 大量生産された商品を消費する「大衆」のブルジョア層

一方で労働者階級が読み書き能力を獲得していくのは20世紀に入ってからです。そのため、当初の「大衆」はむしろブルジョア層を指した言葉ともいえます。

しかし、すぐに「大衆」の意味が変化します。「読み書き能力」を労働者階級まで拡大しようとする改革運動が起きるとブルジョア層は異なった態度を取り始めたからです。

ブルジョア層が「大衆」から距離を取る理由

  • 「読み書き能力」をとおして労働者階級をブルジョア社会に統合することに反対
  • 19世紀前半は労働組合や選挙権の拡大を目的とした「チャーチスト運動」が盛んな時期であったことが背景
  • ブルジョア層は労働者階級の取り込みに反対し、一転して上流階級に接近

おおまかにこのような歴史的な展開を経て、「大衆」はブルジョア層を指す言葉ではなくなります。

「それでは「大衆」とは誰を指すの?」と感じる方が多いと思います。結論からいえば、資本主義の発展が要請した中産階級の人びとを指す言葉となります。

1-2-2: 資本主義に要請された中産階級

20世紀に入ると、大量生産・大量消費という資本主義のさらなる発展がおき、中産階級が誕生します。

注意して欲しいのは、中産階級は資本主義が発展に伴い、徐々に誕生した階級だということです。言い換えると、資本主義の発展当初に中産階級はありませんでした。

しかし、資本主義は中産階級の誕生を必要とします。その過程は以下のとおりです。

中産階級の誕生過程

  • 資本主義は均質な労働者を市場に送り込むことを目的とする→大衆にむけた教育制度が発達
  • 大衆は労働者となるために、最低限の読み書き能力が必要とされる
  • 大量生産・大量消費を軸とするため、一定の購買力をもった階級がうまれてくる
  • この消費者が中産階級

このように、資本が中産階級を必要としたのでした。

そして、中産階級が求めたのは大量に生産された商品という「文化」です。それこそが新聞や雑誌、映画、ラジオといったマスメディアの大衆文化でした。

この歴史的な背景に誕生した大衆文化の本質を、社会学者の渡辺潤は次のように述べます。

「大衆文化」として批判されたものの本質は、資本主義に統合された労働者階級の文化ではなく、商業主義化したブルジョア文化なのだ(「大衆文化論の系譜」『ポピュラー文化』(2012)から参照)

いったんこれまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 大衆文化とは、中産階級を対象にして大量に生産された商品に関する文化
  • 高級文化と一線を画すものとしての大衆文化
  • 「ブルジョア層の変容」と「資本主義の発展」から大衆文化の誕生を考えるべき

大衆文化の概要は以上ですが、大衆文化と深く結びつくカルチュラル・スタディーズが誕生する文脈を学ぶと理解が深化します。

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2章:大衆文化とカルチュラル・スタディーズ

カルチュラル・スタディーズが発展したのはイギリス社会においてです。そして、「大衆文化」と「高級文化」の議論からカルチュラル・スタディーズが生まれたといっても過言ではありません。

そこで、2章では「大衆文化」と「高級文化」の議論ともに、カルチュラル・スタディーズの発展史を解説します。

2-1: 大衆文化と高級文化

1章でも述べたように、「文化(culture)」は英語でもっとも複雑な言葉です。多くの研究分野でキーワードになるにもかかわらず、合意ができる定義を生み出せなかったからです。

私たちは「大衆文化」「高級文化」「ポピュラー文化」という言葉を使いますがが、そもそも「文化」がどのような歴史をもつのかをまず確認しましょう。

2-1-1: 「文化」とはなにか

「文化(culture)」の語源はラテン語にあります。その要点をまとめると、次のようになります。

「文化」の語源

  • 「culture」の前形は、ラテン語の「cultura(耕作)」
  • 語源はラテン語の「colere」。その意味は「住む」「耕す」「守る」「敬い崇める」であり、さまざまな言葉に派生していった(ex:「住む」という意味は、ラテン語の「colonus」を経て、英語の「colony」への発展)
  • 16世紀の初期から「culture」は「自然生育の世話をする」という意味であったが、19世紀初期までに「人間の発達過程」という意味をもつようになる
  • その後、複数形の「cultures」という使用される。これは「個別の多様な文化様式」を意味するために用いられた

(*詳細な議論を見たい方は、レイモンド・ウィリアムズの『キーワード辞典』を参照してください。3章の「学び方」に記載しておきます。)

これだけでも十分複雑ですのでよね。さらにわかりやすくするために、ここでは「文化」の意味を大きく3つに分類したいと思います。

最初の二つはすでに述べていますが、「文化」を大きく3つの意味にわけると、

  1. 人間の知的・精神的・美学的発達の過程
  2. ある国民・ある時代の特定の生活様式
  3. 知的、とくに美術的な活動の実践と作品

といった用法がありました。

お気づきの方もいるかもしれませんが、私たちにとって重要なのは③の「知的、とくに美術的な活動の実践と作品」という意味です。この「文化」は、そのまま「高級文化」を意味するからです。

2-1-2: 高級文化とは

カルチュラル・スタディーズの創設者に大きな影響を与えたマシュー・アーノルドは「高級文化」を軸に「文化」を定義しました。

アーノルドによると、「文化」とは、

「これまでに思考され、語られてきたものの最高のもの」

です。(『カルチュラル・スタディーズ入門』(2000)から参照)

アーノルドが『文化と無秩序』(1869年)を書いた時代、近代化のなか多くの人々が都市部に集まり労働者階級独自の文化を創り出していました。

アーノルドは、労働者階級の文化は「(高級)文化」に対する脅威と考えました。教養のない大衆は「文化」のない存在で、教養のある少数の人々による「文化」しか存在しなかったのです。

そのため、アーノルドは野蛮な大衆から「文化」を守るべきだと考えたのです。

2-2-2: 大衆文化とアメリカ化

しかし第二次世界大戦前後の時期、アーノルドの「文化」はまったく異なる社会状況に直面します。それは1章で説明した、中産階級と結びつく大衆文化の誕生です。

しかも、第二次世界大戦後にヨーロッパで広がりを見せた大衆文化はアメリカ化として理解されていました。

具体的に、大衆文化とは自国の大衆の文化ではなく、文化のアメリカ化(ex: 自動車、ジャズ、映画、雑誌…etc)として考えられていました。

アーノルドから影響を受けたリーヴィスという文芸批評家グループは、この大衆文化(アメリカ化)に対して、

  • アーノルド的な「文化」を維持するために、大衆教育が必要
  • アーノルドは大衆文化に絶望していたが、教育を通じて「文化」を浸透させる必要がある

といった考えを打ち出します。

この考えはこれまで高等教育を受けることがなかった階級に対する大衆教育として受け入れられました。

そして、アーノルドから影響を受けたリーヴィス主義からカルチュラル・スタディーズが誕生します。



2-2: 大衆文化研究としてのカルチュラル・スタディーズ

ここで、「高級文化を軸としたアーノルドから影響を受けて、大衆文化を研究するカルチュラル・スタディーズが誕生したって矛盾してない?」と思う方もいるかもしれません。

一見矛盾してるように見えますが、連続した伝統がカルチュラル・スタディーズにはあります。ここでは二人の理論家を簡単に紹介します。

2-2-1: リチャード・ホガートとレイモンド・ウィリアムズ

リチャード・ホガートとレイモンド・ウィリアムズとは、

  • 両者ともに労働者階級出身
  • 伝統的な英文学の教育を経て、リーヴィス主義に影響を受ける
  • 労働者階級の自らの経験から、研究の対象を「高級文化」だけでなく、労働者階級の「文化」まで拡大した

人物です。

ここでは二人の代表的な著作から、カルチュラル・スタディーズの先駆者となる理由をみていきましょう。

まず、ホガートの重要な著作は『読み書き能力の効用』(1958)です。

『読み書き能力の効用』とは、

  • 労働者階級出身の学生に、一方的にアーノルド的な「文化」を教えるのではなく、労働者階級の文化を記述する必要があると考えて書かれたもの
  • アメリカ化を批判しつつ、労働者階級の文化を書き出したもの

です。

リーヴィス主義のノスタルジーの対象が17世紀の「文化」ならば、ホガートのノスタルジーは労働者階級の文化だったといえるでしょう。

次に、ウィリアムズの『文化と社会』(1958)と『長い革命』(1961)です。

『文化と社会』と『長い革命』とは、

  • リーヴィス主義的な考えをもつが、文学作品と社会事象との関係を記述しようと試みられた
  • 「文化」をアーノルド的な意味ではなく、「ある時代のある特定の生活の感覚」と定義づけた

といった特徴をもちます。

この定義によると、「文化」とはアーノルド的な意味ではなく、特定の文化にある意味と価値体系を指す、といえるでしょう。

■ カルチュラル・スタディーズの先駆者

このようにホガートとウィリアムズは「高級文化」を支持したエリート主義的な考えに影響を受けた論者ですが、この伝統の中から自らの経験とともにカルチュラル・スタディーズを作り出していったのです。

2章のまとめ
  • 高級文化とは「これまでに思考され、語られてきたものの最高のもの」
  • 第二次世界大戦前後のヨーロッパにおける大衆文化とは自国の大衆の文化ではなく、文化のアメリカ化
  • アメリカ化を批判しつつ、研究の対象を「高級文化」だけでなく労働者階級の「文化」まで拡大した

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3章:大衆文化の学び方

どうでしょう?「大衆文化」という概念と、「大衆文化」が研究対象になる歴史を理解することができましたか?

しかし、大衆文化に関する議論はこの記事で解説できた内容よりも複雑です。あなたの関心にあった沿った研究をみつけてください。

ここでは大衆文化の議論を学ぶためのいくつかの書籍を紹介します。ぜひ参考にしてください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★上野俊哉・毛利嘉孝(編)『カルチュラル・スタディーズ入門』(ちくま新書)

カルチュラル・スタディーズは、大衆文化を学ぶための第一歩です。高級文化と大衆文化の歴史をわかりやすくかつしっかり学ぶことができます。

オススメ度★★★ 井上 俊, 伊藤 公雄 (編)「大衆文化論の系譜」『ポピュラー文化』(世界思想社)

大衆文化論の概要を解説している章があります。この本の多くをこの記事では参照しました。社会学の重要な論考を学べる初学者にうってつけの本です。

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オススメ度★★★ レイモンド・ウィリアムズ 『キーワード辞典』(平凡社)

レイモンド・ウィリアムズが言葉の語源と社会の関係をまとめた本。非常にわかりやすく、語源が説明されています。私たちが日常的に使う言葉の語源を知ると、世界の見方がかわります。

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まとめ

今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 大衆文化とは、中産階級を対象にして大量に生産された商品に関する文化
  • 「ブルジョア層の変容」と「資本主義の発展」から大衆文化の誕生を考えるべき
  • 第二次世界大戦前後のヨーロッパにおける大衆文化とは自国の大衆の文化ではなく、文化のアメリカ化
  • アメリカ化を批判しつつ、研究の対象を「高級文化」だけでなく労働者階級の「文化」まで拡大した

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