社会思想

【ワンドロップ・ルールとは】その意味・ジムクロウ法との関係を解説

ワンドロップ・ルールとは

「ワンドロップ・ルール(one-drop rule)」とは、黒人の血が一滴でも混ざっていれば、その人物を「黒人」と分類する法的な人種分類です。アメリカ合衆国の多くの州では1910年代から1960年代までこの制度を採用していました。

21世紀的な感覚で捉えると、「ワンドロップ・ルールは極めて差別的で恣意的な分類基準だ」と思う方が多いと思います。

確かにその通りで、人種の分類とは社会的・文化的に決定されたものです。だからこそ、ワンドロップ・ルールが現在の人種分類にどう影響を与えているのかを知ることが大事です。

そこで、この記事では、

  • ワンドロップルールの意味
  • ワンドロップルールとジムクロウ法
  • ワンドロップルールと生物学的人種・社会構築的な人種

をそれぞれ解説していきます。

あなたの関心のあるところから、読んでみてください。

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1章:ワンドロップルールとは

冒頭の説明を繰り返しますが、

ワンドロップ・ルールとは、黒人の血が一滴でも混ざっていれば、その人物を「黒人」と分類する法的な人種分類です。

「ワンドロップルールとはなにか?」という疑問に対しては、この説明で理解できる方が多いのではないでしょうか。

しかしワンドロップ・ルールがもたらす人種分類の影響は奥が深いものがあります。

まず、1章ではワンドロップルールの意味を掘り下げて、ジムクロウ法との関係を解説します。

人種に関して興味のある方は、2章から読み進めてください。

1-1: ワンドロップルールの意味

『人種差別の世界史-白人性とはなにか-』の著者である藤川隆男は、マライア・キャリーを挙げながらワンドロップ・ルールによる人種分類の影響を説明しています。彼の議論を紹介していきます。

「白人性研究」とは「白人」という人種がいかに歴史的・社会的に形成されたのか、白人であることの社会的な意味を研究する分野です。

今さらですが、あなたはマライア・キャリーをご存じですか?マライア・キャリーはアングロ系の母とアフリカ系アメリカ人の父から生まれた世界の歌姫です。

藤川はアメリカの学会で白人性に関する報告したことを述べて、次のようにワンドロップ・ルールを紹介しています。

  • ある大学の先生は、学生がマライア・キャリーを「白人」と考える学生が多いことを嘆いた
  • 事実(藤川の勤める大阪大学も含めて)、日本人学生の多くはマライア・キャリーを「白人」であると信じている
  • しかし、ワンドロップ・ルールを適用すれば、黒人の血をもつマライア・キャリーは「黒人」となる
  • アメリカの人種差別制度と関係のない日本人学生がマライア・キャリーを「白人」と思うのは当然であるが、アメリカ社会の人種分類に精通するその先生はマライア・キャリーを「黒人」と認定していた(→キャリーはアメリカでは「黒人」)

このことから、藤川は「白人」や「黒人」といった人種カテゴリーは身体的な特徴によって決定される分類ではなく、文化・社会的に決定されていることを説明しています。

言い換えると、歴史のある時期に形成された「ワンドロップ・ルール」は、今でも私たちの人種分類に強い影響を与えていることがわかります。

1-2: ワンドロップルールとジムクロウ法

では一体、ワンドロップ・ルールはどのように形成されたのでしょうか?ここでは「ジムクロウ法」とともに「ネイティブ・アメリカンの分類」から紹介していきます。

1-2-1: ジムクロウ法

先ほどもいったように、「誰が黒人なのか?」といった人種分類は極めて文化社会的であり恣意的です。

たとえば、バージニア州の州法の変遷をみてみましょう。

  • 1910年の州法において「黒人」はアフリカ系の血を1/4以上もつ者であった
  • しかし同年の州法改正によって「黒人」はアフリカ系の血を1/16以上もつ者になった

1924年の「人種純血保全法(Racial Integrity Act)」は白人と非白人の結婚を禁止する目的で作られた法律で、このとき黒人の血が一滴も混ざっていない者が「白人」となりました。

この「ワンドロップ・ルール」に基づいた人種隔離政策が「ジムクロウ(Jim Crow)」と呼ばれる制度です。

端的にいえば、ジムクロウ制度とは、

  • 「法律規制」「社会的規範」から成り立ったもの
  • 「法律規制」とは州・郡・市町村において人種隔離をする規則と条例を指す。黒人は公共施設、公立学校、病院、待合室、レストランなどで「平等に」隔離された
  • 「社会的規範」とは日常における暗黙のルールを意味する。たとえば、黒人は白人男性に必ず敬称を用いた(MrやMiss)こと、黒人は白人と話すときに帽子を取る必要があったこと

を意味します。

重要なのはジムクロウ制度が実践される背景には、ワンドロップ・ルールという社会構築的な人種分類があったということです。

ジムクロウ法に関してより詳しくは次の記事で解説していますので、ぜひ参照してください。

→【ジムクロウ法とは】その内容・具体例・理由をわかりやすく解説



1-2-2: ネイティブ・アメリカンの分類

血の濃度が人種分類に重要という点では、ネイティブ・アメリカンの部族員の認定もそうです。

多くの部族政府は、部族員申請者の「血の濃さ」を提示するように求めています。

血筋の濃さの規定では、

  • 8割以上の部族が4分の1以上の血筋の濃さを基準としている
  • しかし父母のどちらかが同族である必要があるホピ族から(1/2の濃さ)、1/16の濃さでよいとするチェロキー族まで幅広いのも事実

です。

重要な問題は部族員であることを証明するために血筋の濃さだけに頼ると、歴史的・文化的なつながりを無視することになりかねないことです。

このように、血の濃さが人種分類の重要な基準となりますが、それ自体は文化社会的に構築されたものであることがわかると思います。

ネイティブ・アメリカンについてはこちらの記事で詳しく解説しています。ぜひ参照ください。

→【ネイティブ・アメリカンとは】部族・歴史・居留地をわかりやすく解説

1章のまとめ
  • ワンドロップ・ルールとは、黒人の血が一滴でも混ざっていれば、その人物を「黒人」と分類する法的な人種分類
  • 「白人」や「黒人」といった人種カテゴリーは身体的な特徴によって決定される分類されるのではなく、文化・社会的に決定されている
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2章:ワンドロップルールと人種

1章で見てきたように、人種分類はかなり恣意的です。

「人種区分が恣意的なら、人種という概念なんて無くせばいいじゃないか」

と思う方もいるかもしれません。

たしかに、生物学的な人種は存在しないと言われて久しいです。しかし歴史的・社会的に構築された「人種」はさまざまな理由で簡単になくならないのです。

そこで、2章では「生物学的な人種」と「社会構築的な人種」の解説をします。「人種」や「人種主義」に関しては次の記事で詳しく解説してますので、ぜひ読んでみてください。

→【人種とはなにか】分類の歴史・生物学の研究からその意味を解説

→【保存版】人種主義とは?その意味から具体例までわかりやすく解説

2-1: 生物学的な人種

先ほども言ったように、生物学的な人種は存在しないと言われて長い年月が経っています。生物学的な人種が消滅するキーポイントは「ユネスコの人種に関する宣言」「ヒトゲノム配列の解読」です。それぞれ解説していきます。

2-1-1: ユネスコの人種に関する宣言

そもそも、18世紀の博物学や人種学は皮膚の色や頭蓋骨という可視的な形質的差異を弁別基準としてきました。そのような身体的特徴が人種の分類に大きな役割を担っていたのです。

しかし、この人種分類と有効性を早くから否定する論者がいました。たとえば、1900年、メンデルの遺伝法則の再発見によって開始される遺伝学の論者は、そのような人々です。

なかでも人種分類と有効性を強く否定したのは、アメリカ合衆国で文化人類学を立ち上げたフランツ・ボアズとその弟子です。彼らは次のように人種を捉えていました。

  • 進化論的人種主義が蔓延した19世紀末、人種という概念は思考様式や祖先からの無意識的な遺伝という多様な意味を内包した
  • 人種が人間の行動パターンである文化を決定するという思想が支配的であり、身体的要素と文化的要素の間に明確な境界は存在しなかった
  • このような思想に対して、ボアズや彼の学生は、人種は形質的な遺伝でしかないことを主張した
  • 彼らは人種を生物学的な存在とする位置付けることで、人間の行動パターンを決定する文化を人種から切断することを試みたのである

たとえば、『菊と刀』の著者で有名なルース・ベネディクトは『人種主義とその批判的考察』において、

  • われわれが「人種について語るとき、(1)遺伝、そして(2)関連集団のメンバー全員を特徴づけるような遺伝的特質について語っている」(同上 10頁)と主張
  • そして、人種と対立する概念として提示される「文化とは、習得された行動を意味する社会的用語であり、人間が生まれたときにはそれは与えられておらず、蜂や蟻のようにその生殖細胞ですでに決定されておらず、それぞれの世代が前の世代から新たに学びとらねばならないもの」(同上14-15頁)であると指摘

しています。

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他にも、社会進化論や優生学が支配的だった20世紀前半、ボアズの弟子であるモンタギューは、学会で嘲笑されながらも、人種の恣意性を指摘していました。

そのなかでも、グローバル規模のインパクトがあったのは1950年にユネスコから発表された「人種に関する声明」です。

ユネスコの「人種に関する声明」では、

  • すべての人種の知能は同等であること
  • 混血による退化は、生物学的に無根拠であること
  • 国籍や宗教にもとづく集団と人種は無関係であること

が謳われています。

主な起草案であるモンタギューは、人種優越の理論をはっきりと否定すると同時に「人種は社会的に作られた神話である」ことを強調しました。

2-1-2: ヒトゲノム配列の解読

そして、時代は大きく進みます。2003年に遺伝学によるヒトゲノム配列の解読が終了すると、人種概念に大きな影響を与えました。

「ゲノム」と「ヒトゲノム」とは、

  • ゲノム…アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)から構成される4種類の塩基が鎖状につながったDNAの一セット
  • ヒトゲノム…30億塩基対からなるヒトDNAのすべての塩基配列

です。

ヒトゲノム配列の解読結果によると、地球上のいかなる人間も99.9%DNAの塩基配列において同一であるということでした。0.1%の差異は個体差であり、集団間の差異は限りになく0に近いといいます。

つまり、外見上がいかに異なっていても、遺伝学的にいえば、人類は同一性が極めて高いのです。そのため、「人種」という用語を使用する科学的な正当性は存在しないのです。



2-2: 社会構築的な人種

では、なぜ人種が日常的な用語から消滅しないのでしょうか?人種差別をする側もそうですが、人種差別をされる側にとっても「人種」は簡単になくなるべきものではないのです。

端的にいえば、それは、

人種を生物学的に無意味な概念として扱うことで、歴史的な不正義から生じる責任への主張が担保できなくなる集団が存在するから

です。

たとえば、「エスニシティ」という概念を考えてみてください。

  • エスニシティ理論は19世紀後半の東・西ヨーロッパからの白人「新移民」を対象とし、彼らがアメリカ合衆国の主流文化を獲得することによって同化する過程をモデルとしている
  • このエスニシティ理論は生物学的決定論としての人種に対抗するようなリベラル思想として機能し、エスニシティ論者は、文化人類学者と同様に、人種をエスニシティに代替する試みをした

「人種→エスニシティ」は極めてリベラルな思想にみえますが、次のような問題がありました。

  • 人種をエスニシティに回収することで、人種というカテゴリーに付随する奴隷制や虐殺などの歴史的不正義を無視してしまうことになる
  • 1960年代以降、人種を担保に主流文化との差異を主張する有色人種の説明をエスニシティ論者はできなくなり、その結果、エスニシティ論者は集団的権利を主張する有色人種に対してネオコン的な立場を取っていった

つまり、人種を他のカテゴリーに還元し説明することは有効な手段とはいえないのです。

最大の問題点は人種主義に起因する人種という概念をエスニシティに回収することで、人種という抵抗の土台を奪い、歴史的な不正義から生じる責任への主張が担保できなくなる危険性があることです。

そのため、人種差別をされる側にとっても「人種」は簡単になくなるべきではないのです。

2章のまとめ
  • 「人種」という用語を使用する科学的な正当性は存在しない
  • 人種差別をされる側にとっても「人種」は簡単になくなるべきではない
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3章:ワンドロップ・ルールと人種に関するおすすめ本

ワンドロップ・ルールや人種について理解を深めることができたでしょうか?

人種は膨大な研究蓄積がある分野ですので、まずは人種研究の全体像をつかめる本がおすすめです。ぜひ、これから紹介する本を参考にしてください。

オススメ書籍

オススメ度★★★藤川 隆男『人種差別の世界史』(刀水書房)

人種とはなにか?特に、白人とはなにか?といった疑問に答えてくれます。学術書ではありませんので、手軽に読める本です。

オススメ度★★ Michael Omi 『Racial Formation in The United States』(Routledge)

社会学的な立場から、人種の分析がされています。人種に関する古典本でもありますので、一度は読んでおきたい本です。

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最後に、書物を電子版で読むこともオススメします。

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まとめ

今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • ワンドロップ・ルールとは、黒人の血が一滴でも混ざっていれば、その人物を「黒人」と分類する法的な人種分類
  • 「白人」や「黒人」といった人種カテゴリーは身体的な特徴によって決定される分類されるのではなく、文化・社会的に決定されている
  • 「人種」という用語を使用する科学的な正当性は存在しないが、人種差別をされる側にとって「人種」は簡単になくなるべきではない

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