機能主義(functionalism)とは、社会の慣習、例年の行事、制度、文化の各要素は相互に支持しあいながら一つの統合体(社会)を形成するという考え方のことです。
文化人類学や社会学で頻繁に使われるこの概念は、多くの方に親しみの薄いものかもしれません。しかし、社会進化論を批判した機能主義の視座は今でも大切な意味をもつはずです。
そこで、この記事では、
- 機能主義の定義・意味・特徴
- 機能主義の提唱者:マリノフスキーとラドクリフ=ブラウン
などを解説していきます。
興味のある箇所だけでも構いませんので、読んでみてください。
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1章:機能主義とはなにか?
1章では、機能主義を意味や特徴から概説します。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 機能主義の定義・意味
繰り返しになりますが、機能主義とは、
社会の慣習、例年の行事、制度、文化の各要素は相互に支持しあいながら一つの統合体(社会)を形成する
という考え方のことです。
簡単にいうと、いろいろな慣習や制度が、その社会のなかで密接に関連していることを、「機能」と考える思想です。
たとえば、機能主義では以下のように考えます。
- トーテム信仰(動物が自分たちの氏族の先祖であるという考え)は、集団の結束を保ったり、親族関係をはっきりさせる「機能」をもつ
- つまり、信仰という要素は親族制度という要素と密接に関連をもつ
「そんなの当たり前じゃないか」と考える方もいるかもしれませんが、1920年代の機能主義は社会進化論を批判するきわめて重要な思想でした。(※機能主義が生まれる文脈は2章で詳しく解説します)
その前に、機能主義の提唱者である二人の人物を紹介します。
1-1-1: マリノフスキー
機能主義の提唱者には、ブロニスラウ・マリノフスキーとアルフレッド・レジナルド・ラドクリフ=ブラウンという二人の人類学者がいます。
まず、マリノフスキーとは、以下のような人物です。
- ポーランド人(もともとの専攻は天文学と物理学)の人類学者
- イギリス人の人類学者であるフレイザーに影響を受けて、民族学を勉強
- オーストラリアの先住民に関する調査中に、第一次世界大戦が勃発
- ポーランド人は敵性市民ということで、イギリスに帰ることができなくなる
- 大戦が終わるまでパプアニューギニアのトロブリアンド諸島で調査を実施
- トロブリアンド諸島で調査の結果は、1922年に『西太平洋の遠洋航海者』として出版
『西太平洋の遠洋航海者』では、ニューギニアの東の海域でおこなわれるクラ交易について詳細な調査をしました。
1-1-2:ラドクリフ=ブラウン
一方で、ラドクリフ=ブラウンは以下のような経歴をもちます。
- インドに属する島々であるアンダマン諸島で1906年から1908年の二年間、調査を実施
- 研究成果は第一次世界大戦前の1914年に完成していたが、『アンダマン島民』の出版は大戦後の1922年まで待たなければならなかった
歴史的な偶然の結果ですが、1922年に機能主義の理論のベースとなる二つの書物が出版されました。そのため、人類学の歴史では1922年が機能主義の始まりとなっています。
ラドクリフ=ブラウンの『アンダマン島民』は英語の原著しかありませんので、興味のある方は参照ください。
1-2: 機能主義の特徴
次に、機能主義の特徴をみていきましょう。
結論からいうと、機能主義の特徴は、
- フィールド調査にもとづいていること
- 対象の文化や社会の文脈に媒介された解釈をすること
です2たとえば、桑山敬己、綾部真雄 (編)『詳論 文化人類学:基本と最新のトピックを深く学ぶ』(ミネルヴァ書房)や岸上伸啓 (編)『はじめて学ぶ文化人類学:人物・古典・名著からの誘い』(ミネルヴァ書房)などを参照。詳しく説明します。
1-2-1: 機能主義のフィールド調査について
フィールド調査は、たしかに機能主義の特徴です。しかし、機能主義の専売特許ではありません。植民地行政官や宣教師のために、フランスやイギリスは、フィールド調査のガイドブックを早くから編集していました。
つまり、人類学より先行して、植民地行政官や宣教師はフィールド調査をしていたのです。
それでは機能主義者のフィールド調査と、宣教師などのフィールド調査はなにが違うのでしょうか?端的にいえば、それは次の特徴です。
- 通常二年以上といわれる長期滞在
- 現地の言葉の習得
- 異文化の概念で考えて、異文化の価値体系を尊重
- 異文化社会の生活に溶け込み、その体験を人類学の概念で説明
植民地行政官や宣教師は現地の社会のコントロールが目的でしたが、機能主義人類学は異文化を「現地の人びとの視点から」捉えようとしました。そのため、機能主義人類学の目的は、「異文化の翻訳」といわれるときがあります。
機能主義とフィールドワークの関係に関しては、『メイキング文化人類学』を参照しています。フィールドワークとの関係が人類学を捉える上で、重要な書物です。
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1-2-2: 機能主義の文化の解釈
機能主義の次の特徴は、文化の解釈に関することです。機能主義には、「異文化はその文化の内部で理解されなければならない」という命題があります。
機能主義の定義をもう一度振り返ってみましょう。機能主義とは、社会の慣習、例年の行事、制度、文化の各要素は相互に支持しあいながら一つの統合体(社会)を形成することでした。
つまり、機能主義には文化や社会はさまざまな要素の統合体である、という前提があります。
文化や社会がさまざまな要素の統合体ならば、その理解は部分にわけてはできない。そのため、その文化の内部に重点をおきつつ、長期滞在が必要になる、といった考えがあります。
フィールド調査と文化の解釈が機能主義の特徴になるのは、以上ような理由のためです。
1-3: 「機能」の意味
そもそも、機能主義の「機能(function)」とは何を意味するのでしょうか?たとえば、日常の用語としての「機能」は、以下のような用法などがあります。
- 「発達の機能」
- 「国家の機能」
つまり、日常的な用語の「機能」は作用・働きを指します。
ところが、この「機能」は英語の「function」の訳語で、英語の「function」は函数の意味を含みます。
そのため、機能主義の「機能」には、ある現象はある変数の函数として現れる関係という考え方が含まれています。
「機能(function)」を「作用・働き」として捉えるのか、変数と函数という二つの「関係」の意味で捉えるのかで、社会制度や慣習の解釈が変わりますので注意が必要です。
基本的に、「機能」は社会・個人のニーズを充足させる作用として考えられています。
- 個人・社会が存続していくための生物学的機能(食事や生殖)
- 社会が統合体であるために成員同士が連帯する社会的機能(儀礼や祭り)
この二つの機能をまとめて、「社会の機能的必要条件」といいます(覚える必要はありません)。
1-4: 各分野における機能主義
さて、実は「機能主義」という言葉はいくつかの学問で使われます。皆さんご理解のように、この記事では文化人類学で使われる機能主義を解説しています。
ここでは、他の分野における機能主義を混同しないように、各分野の機能主義を簡潔に解説します。
1-4-1: 社会学における機能主義
「機能主義」はもともと文化人類学の用語ですが、社会学でも使われます。そのなかでも、タルコット・パーソンズの提唱した機能主義が有名です。
アメリカ人社会学者のタルコット・パーソンズはイギリスに留学した際、上で紹介したマリノフスキーのもとで勉強をしました。そこで機能主義のアイデアを学びます。
社会学では「構造−機能主義」とか「機能主義」とかいわれますが、簡潔にまとめると、以下の点を指します。
構造−機能主義
- 社会は統一性をもち、自ら維持しなければならない
- 社会の維持のために、個々の要素(行為)が必要な活動を果たす必要がある
- 行為の「機能」とは、統一性なシステムが維持されるための「役割」
- 諸行為や諸集団はシステムのために必要な役割に応じている
- さまざまな役割間の関係として「構造」がある
文化人類学における機能主義とどこか似通っているので、理解しやすいと思います。
1-4-2: 心理学における機能主義
続いて、心理学における機能主義です。
簡単にいうと、心理学における機能主義とは、
心的状態をその機能によって定義すること
を指します。
たとえば、あなたが誰かに足を踏まれたとき、顔をしかめるといった振る舞いを結果的におこしますよね?このような心の因果的役割を「機能」として説明することを機能主義といいます。
1-4-3: 国際政治学・国際関係論における機能主義
国際政治学や国際関係論における機能主義は、
政治的領域(安全保障など)と非政治的領域(主に経済的なこと)を区別し、非政治的領域での国家間の協力を深めることが、国際平和に繋がっていく
という考え方のことです。
簡単に言えば、国家間での経済的繋がりを深めていくと、その国家間で戦争が起きにくくなっていくということです。
経済的に密な関係にある国家同士が闘うと、国益が大きく損なわれるため戦争が起きにくくなる=平和になるという考え方です。古典的な思想で、その後「新機能主義」という考え方に発展していきました。
これまでの内容をまとめます。
- 機能主義とは、いろいろな慣習や制度が、その社会のなかで密接に関連していることを、「機能」と考える思想
- 機能主義には、文化や社会はさまざまな要素の統合体であるという前提がある
- 「機能(function)」には「作用・働き」の意味と、変数と函数という二つの「関係」の意味がある
- さまざまな分野で「機能主義」が使用されるため、注意をしよう
2章:機能主義の歴史
さて、2章では機能主義が生まれた歴史や役割から深掘りしていきます。
2-1: 機能主義が生まれた歴史
結論からいえば、機能主義は社会進化論を批判する思想として登場しました。その歴史を詳しくみていきましょう。
ちなみに、この歴史に関しては『文化人類学20の理論』がわかりやすく詳細です。
2-1-1: 19世紀後半における社会進化論 vs 機能主義
19世紀後半になると、人類文化の発展段階を図式が、「未開」社会を底辺におき、イギリスを頂点とする形でもてはやされます。これが「社会進化論」といわれる考えです。
社会進化論を信じる人は、非西洋文化・社会が西洋社会の過去を反映するものとして疑いませんでした。機能主義は社会進化論のそうした議論に2つの点で反論します。
機能主義による第一の批判
- 西洋・非西洋社会からある習慣を、その社会での他の習慣との関係を無視して、その社会から抜き取って比較したこと
- 西洋・非西洋社会の比較が可能になるために、比較される対象が同型同質であることを前提としている必要がある
- しかし、その前提をどう保障するのか、について社会進化論は回答しない
機能主義による第二の批判
- 解釈の方法が主観的であること
- 解釈の対象になる相手の地位・感情を無視して、自分の知識から憶測による解釈をしたこと
- 社会を抜きにして、西洋人の心理に頼って、異文化社会を理解しようとしたこと
どうでしょう?上記した「現地の人々の視点から」世界を理解するという、機能主義の特徴がわかりやすいと思います。
では具体的に、社会進化論と異なり、機能主義はどう人間社会を説明したのでしょうか?
2-2: 機能主義の担った役割
結論からいえば、「未開」の段階からだんだん進歩して、最終的に西欧近代にたどり着くという社会進化論に対して、機能主義は以下のような説明をします3橋爪大三郎 『はじめての構造主義』 (講談社現代新書) を参照。
「未開」社会といっても一つの統合体なはずだ。どこから伝播したとか、どこまで発展しているとか考えるのはおかしい。そんなことより重要なのは、その社会のなかでどう各部分が役立つ、つまり機能するのかを調べることではないか
たとえば、社会進化論者は「未開」宗教は迷信だから、社会の進歩の挙げ句に消滅するといった主張をします。
その一方で、機能主義者は、
- 社会は統合体だから、一つにまとまるための機能が必要
- 社会の連帯を強める機能として、宗教やお祭り、または儀礼はある
といった現地の人びとの視点から統合的な社会を想定し分析をしました。
2-3: 機能主義に対する批判と構造主義の出現
機能主義への批判は、大きく2点あります。
- 実証的ではあるが、理論化できない
- 対象社会で生活している人びと自身の解釈がない
2-3-1: 機能主義は実証にとどまっている点
まず、機能主義は、
- 現地で観察される具体的な社会関係などを収集するが、それは観察された事実でしかない
- 観察された事実から、レヴィ=ストロースのいうような構造といった抽象化はできない
と批判されます。
つまり、より抽象的な理論を求めたとき、機能主義では一般化不可能と批判されました。
2-3-2: 現地の人びとの解釈について
つぎに、機能主義は、
- 現地調査でデータを集めますが、その解釈は「機能」の発見に終わっている
- 現地の人びとは自分たちの社会の慣習をどう理解しているのか説明がない
という点です。
たとえば、マリノフスキーは、トロブリアンド諸島民は漁獲の成果に対する不安から呪術をおこなう、と呪術の社会的・心理的機能を説明します。
しかし、「機能」より重要なのは呪術に現地の人びとが与える「意味」である、という主張がされました。
まとめると、機能主義には以下のような「弱点」があったのです。
- 現地の人びとの「意味」を探るためには、実証的な観察方法だけは不十分なことが明らかになる
- インタビューを含めた、人文科学で使われる言語学的アプローチが必要となる
そして、機能主義に対するこのような弱点が露呈されたとき、言語学に影響を受けた構造主義が登場しました。→【構造主義とは】その定義から実存主義との論争までわかりやすく解説
- 機能主義は、進化論に叛旗を翻す形で登場
- 機能主義は、①実証的すぎること、②現地の人びとが与える意味が抜け落ちることに対して批判をうけた
- 機能主義を乗り越える思想として、構造主義が登場する
3章:機能主義を知るための書籍リスト
最後に、機能主義を知るための書籍リストを紹介します。初学者用から上級者用まで紹介しますので、自分にあった本を選んでみてください。
まず、何よりも文化人類学という学問自体に興味をもった場合は、こちら記事を参照ください。さまざまな書籍の良い点と悪い点を解説しながら、紹介しています。
ブロニスワフ・マリノフスキ 『西太平洋の遠洋航海者』(講談社学術文庫)
機能主義を理解するために、不可欠な本です。読み物としてもおもしろいです。文章自体は難しくありませんので、原著にあたってみることを強くおすすめします。
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太田好信・浜本満(編)『メイキング文化人類学』 (世界思想社)
文化人類学の歴史と未来を学べて、一石二鳥な本です。機能主義についても、マリノフスキーの経歴とともに解説しています。
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綾部恒雄(編)『文化人類学20の理論』(弘文堂)
文化人類学の重要な理論として、機能主義が初学者用にわかりやすく説明されています。この記事の多くは、この本を参照しました。
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まとめ
いかかでしたか?この記事の内容をまとめます。
- 機能主義とは、社会の慣習、例年の行事、制度、文化の各要素は相互に支持しあいながら一つの統合体(社会)を形成すること(文化人類学と社会学的な定義)
- 1920年代に社会進化論を批判する思想として登場した
- 機能主義の限界は指摘されたとき、レヴィ=ストロースの構造主義が登場した
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