社会思想

【言説・ディスクールとは】意味からフーコーの議論までわかりやすく解説

言説・ディスクールとは

言説(英:discourse, 仏:discours)とは、「書かれたり、言われたりした言語の意味」を指す用語です。原語であるフランス語では「ディスクール(discours)」といい、フーコーの権力論と強く関連づけられた用語となっています。

「言説」という用語は言語系および社会科学系の学問分野で広く使われます。特に、フーコー的な意味での「言説」は、社会科学全般に強い影響を与えた概念でした。

そのため、社会科学に関心のある学生は必ず知っておきたい概念です。

そこで、この記事では、

  • 一般的な言説の意味
  • 「言説」と「談話」の違い
  • 「ディスクール」の意味や特徴

をそれぞれ解説していきます。

興味のあるところから読んでみてください。

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1章:言説とは

この記事では「言説」の混合を避けるために、一般的な意味での「言説」を「言説」と呼び、フーコー的な意味での「言説」は「ディスクール」と呼びます。

1章は「言説」を辞書的な意味から概観し、2章で「ディスクール」を解説します。あなたの読みたい箇所から、読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 言説の意味

まず、言語学者である中西の議論に沿って「言説」の概要と辞書的意味を概観しましょう2中西満貴典 2008「ディスコース概念の再考―Van Dijk及び Fairclough の言説概念の検討―」『岐阜市立女子短期大学研究紀要第 57 輯』 29-39。そもそも「言説」とは、以下の意味をもちます。

  • 英語の「ディスコース(discourse)」の訳語である
  • 原語はフランス語の「ディスクール(discours)」である
  • 日本語では「言説」または「談話」と訳される

英語の「ディスコース(discourse)」が日本語で「言説」または「談話」と訳されるだけで混乱を招く要因になりますが、その上にこれらの用語が日常的・学術的に使用されるため、さらに理解しずらい用語となっています。

中西によると、「言説」は社会学系で「談話」は言語系で好んで使用されれます。そこで「言語」と「談話」の意味の違いを辞書からみていきましょう。

1-2: 「言説」と「談話」の違い

ここでは中西が提示した「国語辞典」「英和辞典」「仏和辞典」における意味を紹介します3中西満貴典 2008「ディスコース概念の再考―Van Dijk及び Fairclough の言説概念の検討―」『岐阜市立女子短期大学研究紀要第 57 輯』 29-39

1-2-1: 国語辞典における「言説」と「談話」の違い

まず、国語辞典(『広辞苑』第5版)によると、

  • 言説…「ことばで説くこと。また、その説」
  • 談話 …①「はなし、ものがたり、会話(e.g.「談話室」)」②「ある事柄についての見解などを述べた話(e.g.「首相談話」)」

と記載されています。

国語辞典では日常的な用法のみ記載されており、学問的な意味を示していないことがわかります。

1-2-2: 英和辞典における「言説」と「談話」の違い

次に「言説」に訳される以前の形、つまり「ディスコース(discourse)」の意味を確認しましょう。

『ジーニアス英和大辞典』によると、「ディスコース(discourse)」とは、次のような意味をもちます。

  1. 講演; 講話、説教(lecture) ; 論説、論文
  2. 口頭伝達; 会話、談話(conversation)
  3. [言語]話法(narration); 談話、言説《文・発話の有機的集合体》
  4. 《古》推理能力; 思考力;合理性

「談話」は②と③の異なった意味があると記載されています。②は日常的な意味である「会話」を指し、③は学術的な意味である「談話分析」を意味すると考えてください。

一方で、「言説」は「文・発話の有機的集合体」という説明が加えられていますが、これだけでは意味不明です。国語辞典における「ことばで説くこと。また、その説」という表象の意味がどう「文・発話の有機的集合体」に結びつくのかが理解しずらいですね。

1-2-3: 仏和辞典における「言説」と「談話」の違い

最後に、「ディスコース(discourse)」の原語である「ディスクール(discours)」の意味を仏和辞典からみていきましょう。

  1. 演説;スピーチ、挨拶;説教;(弁護士の)口頭弁論
  2. 《蔑》(行動・事実・証拠を伴わない)空言; 駄弁、長たらしい話
  3. 《やや古》話(はなし)、言葉
  4. [文法]話法
  5. 【語】言述、言説、談話、話(わ)[langue の対]
  6. (思想としての)言説;《哲、論》論述[事物についての論理表現.intuition の対]
  7. (論文の題名として)…論

注目したいのは、「言説」が⑤と⑥の意味で使用されることです。⑤は言語系の学術的な意味での「談話」を意味し、⑥はフーコー的な意味での「ディスクール」を指します。

こうしてみると、学術的な用法がされない限り、フランス語の「ディスクール」と日本語の「言説」では含意する意味が異なることがわかります。それはフランス語の「ディスクール」にはフーコーが提唱した概念が色濃く反映されるからです。

繰り返しますが、この記事ではフーコーの「ディスクール」概念を説明する際、日本語の「言説」という言葉はあえて使いません。それは上述してきた意味を混同しないためです。

一旦、これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 「言説」とは英語の「ディスコース(discourse)」の訳語で、原語はフランス語の「ディスクール(discours)」である
  • 英語の「ディスコース(discourse)」は日本語で「言説」と「談話」に訳される
  • フランス語の「ディスクール」と日本語の「言説」では含意する意味が異なる
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2章:ディスクールとフーコー

では一体、フーコーの「ディスクール(discours)」とはどんな概念なのでしょうか?

端的にいえば、フーコーの「ディスクール」とは、

  • なぜ「言われたこと」「書かれたこと」がそれでなければならないのか?
  • 逆にいえば、なぜそれ以外ではなかったのか?
  • なにが歴史的に「言われたこと」「書かれたこと」を成立させた社会的・物理的条件なのか?

を分析するものです。

フーコーの「ディスクール」概念は、知の枠組みを意味する「エピステーメー」を言語表現に限定して方法論を精緻化するものでした。

→エピステーメーに関して詳しくはこちら

2-1: ディスクールの意味

フーコーの「ディスクール」を理解するためには「エノンセ」「アルシーヴ」「ディスクールの稀少性」を知る必要があります。それぞれを解説していきます4ミシェル フーコー (著) 小林 康夫, 松浦 寿輝, 石田 英敬 (編) 『フーコーガイドブック』(ちくま学芸文庫)

2-1-1: エノンセ

エノンセ(énoncé)とは、

  • 実際に語られたものを意味する概念
  • 日本語では「言表」と呼ばれるもの

です。

たとえば、あなたが適当にパソコンのキーボードを出力して完成した文字の列は「言われたこと」「書かれたこと」という出来事であり、「エノンセ(言表)」になります。

つまり、エノンセとは「言葉が実現する」「表現が実現する」という出来事を意味しています。

フーコーはさまざまなエノンセが存在する全体的なまとまりを「ディスクール」と呼びました。

2-1-2:ディスクールの稀少性

ここで重要なのは、フーコーがいう「ディスクールの稀少性」です5ミシェル フーコー (著) 小林 康夫, 松浦 寿輝, 石田 英敬 (編) 『フーコーガイドブック』(ちくま学芸文庫)

「ディスクールの稀少性」とは、次のような意味を指します。

  • 文法的に「言われること」「書かれること」には膨大な可能性がある
  • にもかかわらず、文法的に言えることはすべて言われるわけではない
  • 繰り返し繰り返し言われることもあれば、文法的には可能だが言われないことも多くある
  • つまり、人間が実際に「言う」「書く」ことは文化・社会的に制限されている

すると、ディスクールには「実際に言い得るはずのこと」と「表現から排除されたもの」との間に差異があることがわかると思います。ディスクールが「差異」によって構成されると言われるとき、これを意味しています。

言い換えれば、実際に実現した言葉の出来事として「ディスクール」は成り立つといえます。

では一体、どのようにディスクールは稀少化されるのでしょうか?フーコーによると、それは以下の3つの手続きによってです。

ディスクールの稀少化の3つの手続き

  • ディスクールの外的な排除…たとえば、狂人の言葉を理性から区別して、狂人の言葉を排除するシステム
  • ディスクールの内的な統制…たとえば、ディスクールの恣意的な発生を食い止めるために、「学問」という規格化された形式からのみディスクールを生産するシステム
  • ディスクールの所有の制限…たとえば、教育というシステム。知と権力を与えることから、一定の人々にディスクールを分配して、ディスクールの所有を制限する

このように、ディスクールの外部、ディスクールの内部、そして諸ディスクール間の特定の条件において、あるエノンセが語られることが可能となります。

2-1-3: アルシーヴ

そして、アルシーヴ(archives)という概念は、

  • さまざまなエノンセが歴史において語られた条件を分析する概念
  • 具体的に、語られたエノンセが後世に伝えられる条件、エノンセを記録に残す条件、誰がこのエノンセを記録し、解釈し、活用するのかといった条件が分析される

ものです。

「アルシーヴ(archives)」とはもともと「古文書」を意味する単語ということからもわかるように、実際に歴史において語られたエノンセを一つの「記念物」として考察し、ディスクールの存在条件を分析するものです。



2-2: 言説分析

そしてフーコーによると、ディスクール分析(節のタイトルは一般的には「言説分析」といわれるため、そのようにしている)は二つの局面によって支えられています6内田隆三『ミシェル・フーコー』(講談社)

それは「批判的な分析」「系譜的な分析」です。それぞれをみていきましょう。

2-2-1: 批判的な分析

批判的な分析とは、

ディスクールの稀少化の働きを分析すること

です。

上で説明したように、ディスクールの生産は「外的な排除」「内的な統制」「所有の制限」のシステムによって制限されます。

批判的な分析は稀少化のシステムが制限するディスクールの生産の働きを分析するものです。

2-2-2: 系譜学的な分析

そして、系譜学な分析とは、

稀少化のシステムによって与えられたディスクールが形成する実定性を分析すること

です。

「実定性」とはある事物に関して語りながら、その命題が真か偽かを判断するような対象領域です。

つまり、系譜的な分析は稀少化のシステムを通して与えられたディスクールがどうのように実定性を形成するものとして編成されるのかを分析します。これは「ディスクール編成」とフーコーが呼ぶものです。

言い換えれば、それは「個々のディスクールの規範とはなにか」「ディスクールの出現、増加、変容を規定する条件はなにか」といった問題を扱うものです。

このようにみると、

  • 「エノンセの排除や統制」や「ディスクールの編成」は中立的な文化や社会の場において起きることではない
  • むしろ、ディスクールを成立させる条件は「権力」と深く関連している

ことがわかると思います。



2-3: 非言語的なディスクール

そのような問題関心から、フーコーのディスクール分析は権力分析に発展していきました。その際、重要だったのは「非言語的なディスクール」です。

「非言語的なディスクール」とは、

  • ディスクールは「言うこと」、つまり言語の領域に属している
  • しかし言語表現に限定せずに、社会制度や組織、政治的実践や出来事を非言語的な「ディスクール」として読むこと

です。

たとえば、「人間の性」「刑罰」があります。

2-3-1: 人間の性と刑罰

たとえば、人間の性的な行為に関しては、

  • 実際に性に関するエノンセを可能にする条件だけを分析するにとどまらない
  • 性のエノンセを生み出す「慣習」「思想」「宗教的規範」などを非言語的ディスクールとして分析する

といったことがされます7中山元『フーコー入門』(ちくま新書)

他にも、刑罰に関しても同様です。

  • 刑罰に関するディスクール(法哲学、精神医学、犯罪学)の分析だけではない
  • 監獄という制度における身体のあり方を、非言語的ディスクールを分析する

→パノプティコンという監獄と権力の関係についてはこちら

このように、身体的な表現である非言語的ディスクールが言語的な表現(ディスクール)との関係で分析されていったのです。その代表作が『監獄の誕生』でした。

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2章のまとめ
  • フーコーの「ディスクール」には「エノンセ」「アルシーヴ」「ディスクールの稀少性」の理解が重要となる
  • ディスクール分析には「批判的な分析」と「系譜的な分析」がある
  • フーコーのディスクール分析が権力分析に発展するなかで、「非言語的ディスクール」とディスクールの関係が重要となった
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3章:言説・ディスクールに関するオススメ本

どうでしょう?言説、特にフーコーのディスクールに関して理解を深めることはできましたか?

フーコーのディスクールは社会科学を学ぶ学生ならば、必ず触れなければならないものです。この記事をきっかけにして、ぜひあなたの学びを深めっていってください。

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ミシェル・フーコー『知の考古学』(河出書房新社)

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中山元『フーコー入門』(ちくま新書)

内田隆三『ミシェル・フーコー』(講談社)

どちらともフーコーの入門書です。難解なフーコーの議論を体系的に学ぶためにはとても有益です。どちらの書物もこの記事で参照しました。

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ミシェル フーコー (著) 小林 康夫, 松浦 寿輝, 石田 英敬 (編) 『フーコーガイドブック』(ちくま学芸文庫)

フーコーの主要著作をわかりやすく短く解説しています。また、フーコーの講義も収録されているため、彼の思想の全体像を掴むには有益な本です。この記事でも参照しました。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 「言説」とは英語の「ディスコース(discourse)」の訳語で、原語はフランス語の「ディスクール(discours)」である
  • フーコーの「ディスクール」には「エノンセ」「アルシーヴ」「ディスクールの稀少性」の理解が重要となる
  • ディスクール分析には「批判的な分析」と「系譜的な分析」がある
  • フーコーのディスクール分析が権力分析に発展するなかで、「非言語的ディスクール」とディスクールの関係が重要となった

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