社会思想

【記号論とは】ソシュール・パースを具体例とともにわかりやすく解説

記号論とは

「記号論(semiology)」とは、

人間が意味づけをする行為や意味を読み取る行為を意味する「記号現象」を研究する分野を指します。この現象を人間は絶えず、しかもあらゆる文化の側面でおこなっています。記号論は人間のこの「意味づけ」の仕組みや意義を関心をもち、研究をしています。

私たちは「記号」で満たされた「文化的テクスト」の中で生活をしています。それは人間であれば誰しも「意味づけ」行為をするからです。たとえば、葉の落ちる様子に秋の訪れを感じる時、私たちは「記号」を生み出しています。

この学問を理解することで、言語や文化の捉えるモノの見方を獲得できるはずです。

そこで、この記事では、

  • 記号論の意味
  • 記号論とソシュール
  • 記号論とパース
  • 記号論の具体例

をそれぞれを解説します。

興味のある箇所だけでも構いませんので、ぜひ読んでみてください。

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1章:記号論とは

まずは記号の意味や創設者であるソシュールとパースの議論を紹介し、それから具体的な分析事例を紹介します。

1-1: 記号の意味

記号論を理解するためには、まず一般的に使われる「記号」の意味から距離を取る必要があります。

1-1-1: 一般的な「記号」の意味

あなたは「記号」と言葉から何を連想しますか?

一般的に、記号とは「なにかを代わりに表すもの」と考えられます。たとえば、

  • 「解答は所定の記号で記入せよ」といった使い方をする場合、選択肢にある(a)(b)(c)が「記号」となる
  • この「記号」は本当の解答を意味する「なにかの代用」
  • または、本当の解答と一対一に対応させられたものが「便宜的」に使われたもの

このような「記号」は「符号」とでも呼ばれるべきものです。すでに正確に規定された内容があり、それを持ち出す代わりに、対応したものを便宜的に使用するといったものです。

このような「記号」は「記号論」が対象するものではありません。

1-1-2: 記号論の関心

繰り返しとなりますが、記号論とは人間の意味づけ行為である「記号現象」を研究する学問分野です。

たとえば、「命名行為」を考えてみてください。

  • 自分の飼っている猫に「タマ」と名付ける行為は、他の猫と区別をつけるためである
  • 名付けるのは、その猫が他の猫と特別な価値をもっている認識があるため
  • 特別な名前が与えられることで、ある意味づけが完了して、自分との関連が構築される

命名行為からわかるのは、人間はある存在を想定してそれを自分の関連で世界を位置づけようとすることです。そのとき、使われるのが「記号=ことば」です。

つまり、人間はことば」をとおしてのみ意味づけ行為をします。人間は未知のものを自分との関連で捉えるとき、ことば(=記号)によって世界を秩序立てていくのです。

記号論の関心はこの「ことばをとおした意味づけ行為」にあります。その祖として有名なのが「ことば」について、深く考えたのが言語学者のソシュールです。



1-2: 記号論とソシュール

一般的に、スイス人言語学者のフェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure 1857年 – 1913年)が記号論の祖とされています。ソシュールは構造言語学という分野を立ち上げた人物で、「近代言語学の父」といわれる言語学の大家です。

ここでは、記号論にとって重要となる「ソシュールの言語学」と「シニフィアンとシニフィエ」を簡潔に解説します。

1-2-1: ソシュールの言語学

ソシュール言語学の特徴は、ことばを自立した一つの「体系(système)」として捉える視点にあります。

ことばが「自立した一つの体系」とは、

  • 出発すべきは常に全体からであり、全体はことばの算術的総和ではないということ
  • ことばを構成する諸要素は、その共存それ自体によって相互に価値を決定しあっている
  • 価値は対立から生じ、関係の網の目に生まれる
  • つまり、ある語はあくまでも全体に依存しており、その大きさはその語を取り巻く他の語によってしか決定されない

という意味です。わかりにくいもしれませんので、次の例を考えてみてください。

たとえば、

  • 日本語の事例…「犬」という言葉は「狼」という言葉が存在しない限り、狼も含むものであること
  • 英語の事例…「foot/feet」の対立。「feet」という語に複数なる概念を与えるものは、「foot」との対立現象以外の何物でもなく、「feet」に内在するいかなる特性とも無関係である

つまり、体系に依存する価値とはこれらの辞項間に対立を生じさせる差異です。言語の中には「差異(différence)」しかないのです。

そのため、ソシュールは

  • 「犬」と「狼」という語で指し示される動物が、初めから二種類に概念化されなければならない必然性はどこにない
  • つまり、あらゆる経験や知覚、そして森羅万象は言語の網を通してみる以前は連続体である

と考えました。

1-2-2: シニフィアンとシニフィエ

重要なのは、ことば(=記号)が登場する以前の思考には、何一つ明瞭に識別されるものはないことです。

たとえば、仮に観念以前から人間精神内においてあらかじめ決定されているとしたら、仮に言葉が世界の事物を単に説明するだけだとしたら、ある言語の辞項と他の言語の辞項とは正確に一致するはずです。

しかし、次の例をみてください。

  • 観念の場合…フランス語の「親愛な(cher)」とドイツ語の「愛する、愛しい(lieb, theuer)」に正確な一致はない
  • 事物の場合…日本語の「水」と英語の「water」の正確な一致はない。英語では形容詞のhotを加えると「hot water」になるが、日本語では「温かい水」ではなく、「お湯」と表現しなければならないからである。日本語の「水」は冷たい液体を限定的に指すが、英語の「water」は温かくも冷たくもなる

このように、ことば(=記号)とは、

  • 自らの外にアプリオリに存在する意味を示したものではなく、「表現と意味を同時に備えた二重の存在」である
  • ことばは表現であると同時に、意味であり、それはカオスの如き連続体に反映して現実を非連続体化し、概念化するもの

といえます。

ソシュールはことば(=記号)が表現と意味を同時にもつ二重の存在であることがはっきりしたため、前者を「シニフィアン(signifiant)」、後者を「シニフィエ(signifie)」と呼びました。

たとえば、「cat」という語のつづりや音はシニフィアンであり、「cat」が指し示す猫そのものや猫のイメージがシニフィエになります。この二つが結合することで「記号」となります。

  • シニフィエとシニフィアンの恣意的関係である
  • 「恣意的関係」とは、「たばこ」という音のつながりが、たばこという内容を指す必然性はなにもないを意味する

ちなみに、ソシュール言語学を学びたい方は『ソシュールの思想』がおすすめです。丸山はソシュールを深く理解した研究者の一人で、解説が非常にわかりやすいです。

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1-3: 記号論とパース

さて、ソシュールのほとんど同時期にアメリカで記号論を形成したのは、チャールズ・サンダース・パース(Charles Sanders Peirce 1839年 – 1914年)です。パースも記号論の祖として有名です。

ソシュールから影響を受けずに形成されたパースの理論は、ソシュールの主張を別の用語で説明したようなものとなっています。ですからここでは簡潔にみていきましょう。

パースが打ち立てた理論の特徴は、記号現象が3つの要素から成り立ち、それぞれに順位があると主張したことです。まず、それは次の3要素です。

記号現象の3つの要素

  • 「レプレゼンテイメン(representamen)」…記号そのもの(ソシュール言語学ではシニフィアンと呼ばれるもの)
  • 「インタープレタント(interpretant)」…記号の受け手で表象されるもの(ソシュール言語学ではシニフィエと呼ばれるもの)
  • 「オブジェクト(object)」…記号が示す実在のもの

そして、パースは3つの要素は「レプレゼンテイメンの第1次性」「オブジェクトかの第2次性」「インタープレタントかの第 3 次性」にあるとしています。

そのため、パースの理論はなりよりもまず記号そのものが存在し、その次に実体であるオブジェクトがあり、最後に記号の受け手が意味を知覚するという順位があると理解できます。

しばしばソシュールの「記号学(semiology)」とパースの「記号論(semiotics)」は区別されてきましたが、現代では同意義です。

いったんこれまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 「記号論(semiology)」とは、人間が意味づけをする行為や意味を読み取る行為を意味する「記号現象」を研究する分野
  • 人間は「ことば」をとおしてのみ意味づけ行為
  • 記号論の祖はソシュールとパース

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2章:記号論の具体例

では一体、記号論はどんな分析をするのでしょうか?

たとえば、フランス人哲学者のロラン・バルトは『神話作用』(1958)において、写真、絵画、ポスター、儀礼等々の多様な文化現象を記号論的に分析しています。

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ここでは、バルトの分析を記号論の事例として紹介します。

2-1: バルトと神話の意味作用

バルトの分析を紹介する前に、とても大事な概念を解説します。

バルトは「神話とは言葉である」という点から分析を出発していいます。しかも、神話はただの言葉ではなく、二次的な言葉・体系であるといいます。

これが何を意味するかというと、

  • 1章でみたように、シニフィアンとシニフィエのつながりによって「意味の表象」は生まれる
  • しかしよく考えるとわかるように、神話とはある意味の表象に上乗せされたもう一つの言葉であったものが、別の意味するものとして作用するときに生まれる
  • そのため、言葉には直接的な意味としての「デノテーション(直示)」と多様な意味を含意する「コノテーション(共示)」という働きがある

とバルトは考えました。

そして、バルトは神話のような二次的な意味体系は「写真」や「ポスター」などにもみられると考えたのです。

  • 1章でみたように、シニフィアンとシニフィエのつながりは恣意的である
  • バルトは恣意的なのにもかかわらず、そのつながりは自然な関係とみられる作用があり、その結果、客観的な「自然」や「事実」なるものが構成される
  • それこそが「現代の神話」である、とバルトは考えた



2-2: 記号論の3つの例

バルトの分析をここでは「写真」「建築物」「見出し」の例からみていきましょう。

2-2-1: 写真

まずとても有名な例は、雑誌『パリ・マッチ』に掲載されたフランス軍の服を着た「ニグロ」の写真です。

バルトによると、この写真はつぎのような意味作用があります。

  • ニグロはただ植民地支配の象徴を意味するだけでない
  • 軍服を着て敬礼をする「ニグロ」のイメージは、見る人びとの会話や思考に軍隊性とフランス性の共犯を混同させる
  • パリに暮らす黒人の日常生活は忘れられる
  • 最終的に、フランスの帝国性だけが意味として提示される

2-2-2: 建築物

続いての例は、建築物です。

突然ですが、ある日、スペインバスク領を散策してると、共通の意匠の建築物を見たとしましょう。そして、別の日にパリの郊外を散歩しているときに、山小屋風の建物をみます。

このとき、あなたは、次のような意味作用を引き起こすはずです。

  • パリにおいても、建築物に「バスク性」をみるように誘惑される
  • 具体的に、バスク風の様式や壁のデザイン等々に記号=徴候として、「バスク性」をみるように呼びかけられる
  • 「バスク性」が本当に存在するかは問題ではなく、命令のように呼びかける神話こそが大事

2-2-3: 見出し

最後に、新聞の見出しを紹介します。

ある日、新聞に「物価低下の兆し、野菜値下げの糸口つく」という見出しがでたとします。

バルトによると、この神話の意味作用とは以下のようなものだと考えられるものです。

  • 「野菜が値下がりするのは政府がそう決めたから」という人びとの反応が意味作用である
  • 本当に値下がりする原因は季節的なものからさまざまであるが、理由は政府の力にすりかえられる

2-3: バルトの問題関心

簡潔に事例をみてきましたが、バルトが問題としたのは「神話の生産と流通における受け手の位置」です。バルトは3つの立場を提示しています。

バルトが提示した3つの立場とは、以下の3つです。

  1. 神話の生産者…たとえば、新聞の編集者。空虚に意味するものに焦点化し、神話を受け入れるポジション
  2. 神話学者…中身のある意味するものを明確に理解し、神話を理解するポジション
  3. 神話の消費する読者…意味作用をそのまま受け入れるポジション

特に大事なのは第三の立場の人びとの立場です。彼らはそれぞれの文脈・社会的状況において神話を異なる目的で使用するからです。

バルトによると、この使用をとおしてそれぞれの立場の「交渉」「折衝」が生まれます。しかしそのようなプロセスにおいてこそ、神話が自然化したり、事実として馴化したりするのです。

バルトの『神話作用』はカルチュラル・スタディーズの文脈で取り上げられることが多いです。この記事でも参照した本を、おすすめとして紹介します。

これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • バルトは『神話作用』(1958)において、写真、絵画、ポスター、儀礼等々の多様な文化現象を記号論的に分析した
  • バルトは神話のような二次的な意味体系は「写真」や「ポスター」などにもみられると考えた

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3章:記号論の学び方

どうでしょう?記号論の輪郭をつかめることはできましたか?

この記事ではできるだけ簡潔に記号論を解説しました。より詳しく知りたい方は、必ずこれから紹介する書籍に当たって、あなた自身の理解を深めていってください。

オススメ書籍

オススメ度★★★ 池上 嘉彦『記号論への招待』(岩波新書)

記号論の入門書。身近な事例から記号論を説明してるので、初学者には特におすすめです。

オススメ度★★★ ロラン・バルト『記号学への夢』(みすず書房)

バルトの論集。さまざまな文化現象を記号として分析するバルトの手法は見事です。記号論を深く学びたい方におすすめです。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 「記号論(semiology)」とは、人間が意味づけをする行為や意味を読み取る行為を意味する「記号現象」を研究する分野
  • バルトは『神話作用』(1958)において、写真、絵画、ポスター、儀礼等々の多様な文化現象を記号論的に分析した

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