カルチュラル・スタディーズの知識は書籍から学びましょう。
学問的知識を深めようとするとき、古典的でありながら一番の手段は専門の書物を読むことです。
しかし、あなたは、
「どの書物から読んでいいのかわからない」
「難解な学術書には抵抗がある」
と考えではないでしょうか。
たしかに、幅広い研究範囲をもつカルチュラル・スタディーズを一度に理解することは不可能に近いです。
そのため、まずはカルチュラル・スタディーズの急所を押さえることを目標に、専門書を何冊も読み通していく経験が大事です。その読書経験をとおして、知識が自然と身につきます。
この記事では、初心者、中級者、上級者のそれぞれに向けて本を紹介しています。
ぜひ興味のあるものから手に取ってみてください。
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1章:カルチュラル・スタディーズ:初学者編
いきなり、中級編・上級編は早いと考える方におすすめなのが、カルチュラル・スタディーズの入門書です。短い時間でカルチュラル・スタディーズの概要をつかめるため、非常に効率がいいです。
カルチュラル・スタディーズの概要をつかむと、初級編以降で紹介される書籍が読みやすくなるはずです。
①『カルチュラル・スタディーズ入門』
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『カルチュラル・スタディーズ入門』は、この学問分野を知らない人でも読める本です。カルチュラル・スタディーズの学説史・研究対象・今後の展開をわかりやすく学ぶことができます。
獲得できるスキル | カルチュラル・スタディーズの基本的な知識 |
こんな人におすすめ | カルチュラル・スタディーズに関する前提知識ゼロの方 |
良い点 | カルチュラル・スタディーズの基本が解説されています。この本で解説される内容を抜きにして、カルチュラル・スタディーズの学びは始まりません。 |
悪い点 | 特にありません。強いていえば、言及される文献への理解がないとところどころ読みにくいかもしれません。 |
②『カルチュラル・スタディーズ』
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『カルチュラル・スタディーズ』は有名な社会学者である吉見俊哉によって書かれた入門書で、カルチュラル・スタディーズの理論的源流から社会的意義まで学べます。吉見俊哉の文章は理解しやすいという点もポイントが高いです。
獲得できるスキル | カルチュラル・スタディーズの基本的な知識 |
こんな人におすすめ |
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良い点 | カルチュラル・スタディーズの理論的な背景を学べることです。さまざまな理論が合流するカルチュラル・スタディーズという学問において、理論的背景を押さえることは大事です。 |
悪い点 | 構造主義・構造言語学・上部構造ー下部構造・ヘゲモニー概念といった社会科学の基礎知識があった方がいいかもしれません。 |
③『現代思想 2014年4月臨時増刊号 総特集◎スチュアート・ホール 増補新版』
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『現代思想 2014年4月臨時増刊号 総特集◎スチュアート・ホール 増補新版』は、カルチュラル・スタディーズの創設者であるスチュアート・ホールの特集です。ホールの思想的背景を彼の論文から学ぶことは、カルチュラル・スタディーズの入門者にとって極めて重要です。
獲得できるスキル |
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こんな人におすすめ |
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良い点 | ホールを抜きにして、カルチュラル・スタディーズを語ることはできません。ホールの論文を日本語で読めるため、英語が苦手な方には大変有益です。 |
悪い点 | 原著の英語論文と読み比べた結果、誤訳があった点は非常に残念です。 |
ちなみに、カルチュラル・スタディーズという分野とスチュアート・ホールについては次の記事で解説をしています。ぜひ参照ください。
2章:カルチュラル・スタディーズ:中級編
さて、カルチュラル・スタディーズの理解するために必要なのは、以下のような社会科学の基礎知識です。
- 英文学の文芸批評、特にレイモンド・ウィリアムズ
- 古典的マルクス主義の批判的読解
- アルチュセールの構造主義的マルクス主義
- グラムシによるマルクス主義の解釈とヘゲモニー論
それぞれを学ぶための書籍を紹介していきます。
④『長い革命』
『長い革命』はイギリスの文芸批評家であるレイモンド・ウィリアムズによって書かれた本です。ウィリアムズはこの著作で「文化」を定義づけ、カルチュラル・スタディーズに貢献をしました。
簡単にいうと、文化とは単なる経済的、物質的環境のもとでおこなわれる結果ではなく、その状況を理解し経験したものを社会的に意味づける作業です。このような生きた経験をウィリアムズは「文化」と呼び、古典的なマルクス主義に反論します。
獲得できるスキル | マルクス主義とは異なる「文化」の定義 |
こんな人におすすめ | カルチュラル・スタディーズの文化主義的立場を学びたい方 |
良い点 | スチュアート・ホールと並んでカルチュラル・スタディーズの創設者とされるウィリアムズの考えを学べることです。ウィリアムズの文化主義的な立場はカルチュラル・スタディーズの認識的視座を学ぶ上で欠かせません。 |
悪い点 | 日本語訳は読みにくいかもしれないので、英語の原著にあたる必要があるかもしれません。 |
『長い革命』はウィリアムズの他の著作をあわせて読むと、理解が深まります。
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⑤「Rethinking the “Base and Superstructure” Metaphor」
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『Essential Essays: Foundations of Cultural Studies』に含まれる「Rethinking the “Base and Superstructure” Metaphor」は古典的マルクス主義の批判的読解として読めます。
マルクス主義の「上部構造ー下部構造論」を乗り越えていく、ホールの読解はカルチュラル・スタディーズの基礎です。
獲得できるスキル | マルクス主義の批判的読解力 |
こんな人におすすめ | カルチュラル・スタディーズがマルクス主義を批判的読み解くあり方を学びたい方 |
良い点 | 創設者であるスチュアート・ホールの論集です。「Rethinking the “Base and Superstructure” Metaphor」の論文以外にも、読むべき論文がまとめられています。 |
悪い点 | 『資本論』を代表とするマルクス経済学への理解が必要です。 |
⑥『マルクスのために』
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『マルクスのために』は、フランス人構造主義者のルイ・アルチュセールによって書かれた本です。アルチュセールはマルクスを構造主義者と捉える視点を提示しており、「重層的決定(overdetermination)」や「相対的自立(relative autonomy)」という重要な概念を示しました。
それらの概念は、要するに「社会編成はstructure in dominanceである」ということです。社会編成には一定の傾向や配列のある構造が重要になりますが、複雑な構造においてあるレベルにおける実践を他のレベルに還元することはできないことをアルチュセールは主張します。
獲得できるスキル | マルクス主義の批判的読解力 |
こんな人におすすめ | マルクス主義を批判的読み解く一つのあり方を学びたい方 |
良い点 | スチュアート・ホールが指摘するように、アルチュセールは古典的マルクス主義を乗り越えるものでした。アルチュセールの理論的貢献を理解することは、カルチュラル・スタディーズの重要なポイントです。 |
悪い点 | こちらも、資本論を代表とするマルクス経済学への理解が必要です。 |
アルチュセールの著作は他にも、次のようなものが重要です。
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⑦『グラムシ・セレクション』
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『グラムシ・セレクション』はその名の通り、イタリア人マルクス主義者のアントニオ・グラムシの論集です。グラムシによる支配への考察とともに、資本主義社会における闘争の可能性を学ぶことができます。
獲得できるスキル | マルクス主義の批判的読解力 |
こんな人におすすめ | マルクス主義を批判的読み解く一つのあり方を学びたい方 |
良い点 | 支配が合意形成のもとにされるというグラムシのヘゲモニー論は、カルチュラル・スタディーズを理解する鍵の一つです。 |
悪い点 | こちらも、資本論を代表とするマルクス経済学への理解が必要です。これを機に学ぶといいかもしれません。 |
3章:カルチュラル・スタディーズ:上級編
最後に、カルチュラル・スタディーズを学ぶ上で触れておきたい書籍を紹介します。
⑧『Cultural Studies 1983: A Theoretical History』
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『Cultural Studies 1983: A Theoretical History』はイリノイ大学で実施された「マルクス主義と文化解釈」という短期講習会と講義をもとに書かれた本です。
8回の講義を通して述べられる点は、ホールの個人的な視点に立脚したイギリスのカルチュラル・スタディースの理論的発展です。具体的には、カルチュラル・スタディーズ入門の出現と発展に重要であった理論が取り上げられており、実際の研究は控えめに示されているのみです。
獲得できるスキル | カルチュラル・スタディーズの理論的展開をホールの視点から理解する |
こんな人におすすめ | カルチュラル・スタディーズを深く理解したい方 |
良い点 | ホールがどのように当時のイギリス社会を理解し、どんな理論が必要だったのかを理解することができます。中級編で紹介した書籍も多く言及されています。 |
悪い点 | 英語に不安のある方は読みにくいかもしれません。 |
⑨『The Fateful Triangle: Race, Ethnicity, Nation』
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『The Fateful Triangle: Race, Ethnicity, Nation』で、ホールは「人種」「エスニシティ」「国家」というカテゴリーを考察しています。
私たちが直面する問題は文化的差異の言説によって形作られた3つの歴史的な形態で、それらの形態は近代的な時代を通してパワーに結び付けられてる、といえます。ホールはカルチュラル・スタディーズ的な視点からそれらの点を議論しています。
獲得できるスキル | カルチュラル・スタディーズのポストコロニアル研究の知識 |
こんな人におすすめ | カルチュラル・スタディーズを深く理解したい方 |
良い点 | 「人種」「エスニシティ」「国家」というカテゴリーをこれまで紹介してきた理論から分析したホールの議論は、とても刺激的です。 |
悪い点 | 英語に不安のある方は読みにくいかもしれません。 |
まとめ
どうでしょう?初学者にとって、すべてを読むことは難しいかもしれません。
しかし、まずはカルチュラル・スタディーズの急所を押さえることを目標にして、ここで紹介された書籍に挑戦してみてください。