社会思想

【科学的社会主義とは】マルクスの問題意識から理論までわかりやすく解説

科学的社会主義とは

科学的社会主義とは、マルクス、エンゲルスらによって理論的に体系化された社会主義のことで「マルクス主義」とも言われます。プロレタリア革命によって資本家階級を打倒し、社会主義を実現しようとするものです。

科学的社会主義(マルクス主義)は、共産主義がイデオロギーとして支持されなくなり失敗であったことが明らかになった現在において、「もう見るべきものはない」と思われる方も多いかも知れません。

しかし、マルクスの理論は世界史上にはもちろん社会科学の広い分野に影響を及ぼしたものですので、それがどういうものであったか理解しておくことは現代でも大きな意義を持ちます。

そこでこの記事では、

  • 科学的社会主義とそれ以前の社会主義の違い
  • 科学的社会主義の具体的な理論

について詳しく解説します。

関心のある所から読んでみてください。

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1章:科学的社会主義とは

繰り返しになりますが、科学的社会主義とはカール・マルクス(1818-1883年)、フリードリヒ・エンゲルス(1820-1895年)によって体系化された、社会主義の理論のことです。

 

カール・マルクスカール・マルクス
フリードリヒ・エンゲルスフリードリヒ・エンゲルス

科学的社会主義について説明するために、まずは「そもそも社会主義とは何か」「科学的社会主義はどういう背景から生まれたのか」ということから説明します。

具体的なマルクスによる理論から知りたい場合は、2章からお読みください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:そもそも社会主義とは

そもそも社会主義とは、フランス革命期のフランス、産業革命期のイギリス(18世紀末頃)に生まれた、経済的に平等な社会を実現しようとする思想のことです。

このような思想が生まれたのは、

  • フランスでは君主、貴族や聖職者が特権を持っており、その他の市民は抑圧されていた
  • イギリスでは生産手段を持つ資本家と労働者の間に大きな格差が生まれ、労働者は貧困に苦しんでいた

という背景があったからです。

こうして抑圧された労働者たちを解放するために、生産手段を個人が私有せず共有し、格差が生まれない社会が理想とされ、さまざまな思想家が社会主義を構想しました。

しかし、生産手段を共有とするような理想社会を作るのは簡単ではありません。

なぜなら、そのような社会を実現しようとすれば、自らの富を解放しなければならない貴族や資本家が強く抵抗するからです。

そのため、初期の社会主義は実際に社会に変革をもたらすほどの力は持ちませんでした。

この初期の社会主義は、空想を描くだけで社会に強い影響を与えるほどの厳密な議論が行われなかったことから、後にエンゲルスによって「ユートピア社会主義」と言われました。

それが日本では「空想的社会主義」と訳されています。

→空想的社会主義(初期社会主義)について詳しくはこちら

初期の社会主義は実際に社会を変革する力を持ちませんでしたが、その思想は後に受け継がれていきました。



1-2:科学的社会主義が生まれた背景・問題意識

初期社会主義がフランス、イギリスで多く議論されたのに対して、科学的社会主義はドイツ出身のマルクスによって生み出されました。

マルクスが科学的社会主義を打ち出したのは、自分の祖国であるドイツが、フランス、イギリスのような他のヨーロッパ諸国に対して立ち遅れていたためです。ドイツが先進国らに追いつくためにはドイツでも革命が必要であると考えていたためです。

注意が必要なのが、マルクス自身は(エンゲルスも)裕福な出自であり、決して苦しい労働者側の立場ではなかったということです。そのため、マルクスが持った問題意識は苦しい自らの立場を打破するためではなく、ドイツを先進国の水準に引き上げたいという「祖国愛2猪木正道『共産主義の系譜』29頁」でした。

では、そもそもフランスやイギリスはなぜ豊かになれたのでしょうか?マルクスの考えでは、それは17世紀(イギリス)、18世紀(フランス)にすでにブルジョア革命を達成していたためでした。

ブルジョア革命とは、資本家階級が君主、貴族らが特権を持つ体制(アンシャン・レジーム)を打破して、民主主義的な社会を実現する革命のことです。

「じゃあ、ドイツでもブルジョア革命が必要だと考えたの?」と思われるかもしれませんが、マルクスはそうは考えませんでした。

マルクスは、ドイツのブルジョアジー(資本家階級)は貴族らのアンシャン・レジームと妥協することを選んだため、革命の原動力を持たないと考えたのです。

そのため、革命を起こす力を持つのはむじろ資本家ではなく労働者である、労働者が革命を起こすことで社会主義を実現すべきである、と考えたのです。

つまり、マルクスは搾取されている労働者を開放するための科学的社会主義を体系化したというよりも、革命の主体として労働者の役割を見出したのでした。

こうした背景・問題意識から生み出されたマルクス主義については、これから詳しく説明します。

まずはここまでをまとめます。

1章のまとめ
  • 社会主義とは、平等な社会を実現しようとする思想で、産業革命期のイギリスやフランス革命気のフランスで生まれた
  • マルクスは祖国ドイツを豊かにするためには、革命が必要であり、そのためには資本家ではなく労働者による革命が必要と考えた
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2章:科学的社会主義を特徴づける理論

科学的社会主義、つまりマルクスとエンゲルスが体系化した社会主義の理論のすべてを1つの記事で説明するのは難しいですが、ここでは以下の要点に絞って説明します。

  • 唯物史観(史的唯物論)
  • 剰余価値説
  • プロレタリア革命

これらを足がかりに、さらに書籍等で知識を深めてみてください。これから順番に説明します。

2-1:唯物史観(史的唯物論)

結論から言えば、マルクスは社会主義の実現のために労働者(プロレタリアート)による革命を訴えたのですが、「なぜ労働者が革命を起こす必要があると考えたのか?」ということを理解するためには、そもそもマルクスが世界を捉える上で立脚した唯物史観(史的唯物論)から理解することが必要です。

2-1-1:唯物論とは

まず、マルクスは唯物論の立場から世界を捉えました。唯物論とは、「世界は物質によって統一されており観念は物質のいち働きでしかない」と考える哲学的立場のことです。

これに対置されるのが観念論であり、観念論とは物質的世界に対して観念が先行させる捉え方です。簡単に言えば、

  • 物質的世界が生まれる前に観念が存在した(神が世界を創造した)という考え方
  • 観念的なもの(人間精神、規範、法、学問的概念など)が物質の働きとは独立して存在するという考え方

などが観念論です。

マルクスらは、哲学の伝統を唯物論と観念論の2つの潮流として捉え、観念論の問題点を指摘し、「唯物論の立場から世界を捉える」ということを前提に理論を組み立てたのです。

2-1-2:唯物史観(史的唯物論)とは

次に、唯物史観(史的唯物論)とは、上記の唯物論の立場から歴史を捉え、歴史を物質的な諸関係の発展段階として捉える方法のことです。

まず、マルクスは社会構造は大きく「上部構造=観念的なもの=法律的、政治的なもの、精神的なもの」と「下部構造=物質的なもの=労働、生産など」の二段階に分けられると言います。

上部構造・下部構造とはなにか

そして、上部構造(観念的なもの)は下部構造(物質的なもの)に規定されると主張します。つまり、人間の精神的な活動は「労働」「生産」といった物質的な生活に規定されており、物質的な生活から独立して生まれるわけではないのだ、ということです。

マルクスは「世界は物質的に統一されていて観念は物質に先行しない」という唯物史観に立つため、このような捉え方になるわけです。

2-1-3:世界の発展段階

さて、ここからが特に重要なポイントです。

マルクスは世界を唯物史観で捉えたため、世界の物質的な面(物質的生産諸力)の構造は段階的に発展してきたと考えました。

マルクスが考えたその発展段階は、以下のものです。

  • アジア的生産様式
  • 古代的生産様式
  • 封建的生産様式
  • 近代ブルジョア的生産様式(資本主義社会)
  • 社会主義的生産様式

世界の文明は、古代オリエントの世界から中世、近代(マルクスが生きた時代=資本主義社会)まで、上記の段階を経て発展してきたという考え方です。

マルクスは、物質的な生産過程(物質的生産諸力)はある段階まで発展すると崩壊し、次の段階に移行すると考えました。つまり、封建的生産様式(中世を規定したもの)は崩壊して、その後の近代ブルジョア的生産様式(資本主義社会)に移行したということです。

これが、マルクスの唯物史観(史的唯物論)のポイントです。

マルクスは、上記の発展段階から歴史を捉え、マルクスが生きた当時の資本主義社会が発展の余地がないほどまで発展しており、いずれプロレタリア革命(労働者による革命)によって崩壊すると考えたのです。

マルクスの唯物史観(史的唯物論)について、詳しくは『経済学批判』で書かれています。やや難解ですがぜひチャレンジしてみてください。

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さて、それではなぜ資本主義社会は限界を迎えていたと考えられるのでしょうか?それは、実態から見れば労働者が搾取され苦しい労働を強いられていた、ということが言えますが、マルクスは資本主義社会の構造的な分析を行うことで、資本主義の限界を指摘しました。

それが『資本論』なのですが、その中でも重要なポイントである剰余価値説に論点を絞って説明します。



2-2:剰余価値説

マルクスは『資本論』で資本主義の分析をしましたが、その中でも中心的な議論が剰余価値説です。

剰余価値説とは、簡単に言えば、労働者が余分に生み出す価値(剰余価値)を資本家は搾取し、それによってさらに資本家は資本蓄積していくという理論です。

順番に説明します。

■労働者は再生産が必要

そもそも、労働者とは労働を売ることで対価を得る人々のことで、資本家が所有する生産設備(工場、機械)を使ってモノを生産し、その対価に賃金を得て生活します。マルクスの理論においては、労働者は自らの労働力を再生産するために労働をすると説明します。

つまり、労働者は自らの売り物である労働力を再生産するために、一定時間労働する必要があるということです。

■剰余価値が生まれる仕組み

仮に労働者が自らの労働力を再生産するのに8時間分の労働が必要であるとします。それに対して、資本家は8時間分の賃金を支払い、実際には12時間分働かせるとしましょう。

すると、資本家が払った8時間の賃金に対して12時間の労働をしてもらうことができるため、4時間分の剰余価値が生じます。
※これは非常に簡略化した説明です。

マルクス経済学の剰余価値説

■資本蓄積

こうして得られた剰余価値を資本家が自らの利益として手に入れていくことを、資本蓄積と言います。つまり、資本家は労働者を多く労働させるほど剰余価値を手に入れることができるということです。

さらに、労働者に余分に労働させることには限界があるため、資本家は得た利益を機械化に投資し、商品の価値における機械の割合を増大させていきます(資本の有機的構成の高度化)。

あらゆる産業で機械化が進むと、労働者は失業し雇用が不安定になっていきます。マルクスが生きた時代のヨーロッパにおいて、労働者が困窮していたことはこのようにして説明できるわけです。

ただし、マルクスはこのような労働者の困窮を助けるために科学的社会主義を提唱したのではなく、1章で説明したように祖国ドイツの発展のためには、労働者が必要なのだと考えました。

剰余価値説や『資本論』について、詳しくは以下の記事で解説しています。

→マルクス経済学とは



2-3:プロレタリア革命

ここまで説明すれば十分理解できるかもしれませんが、上記のようなメカニズムで労働者は限界まで搾取され、資本主義は極限まで発展したため、労働者が革命することで次の段階である社会主義に移行すべきなのだ、とマルクスは主張したのです。

この労働者による革命を「プロレタリア革命」と言います。

プロレタリア革命は、労働者(プロレタリアート)による社会を実現するという意味で捉えられることが多いですが、実はマルクスは、この革命を哲学的な側面から論じています3猪木正道『共産主義の系譜』56-57頁など

■人間の人間からの疎外(自己疎外)

マルクスは、下記のように私有財産制の社会(つまり社会主義ではない社会)では、人間が人間から疎外されると考えました。

  1. 労働によって生み出された生産物は、それを生み出した労働者に属さない疎遠なものとなり、労働者と対立する存在である(労働生産物からの疎外)
  2. 労働者の「労働」そのものも、強制されたものであるため、労働者自身は自己実現の喜びを得られないものである(労働からの疎外)
  3. 労働は本来、人間が他人とともに生きる社会的存在(類的存在)であることを認識し、喜びを得るものだったはずだが、疎外された労働は生存手段でしかない(類的存在からの疎外)
  4. 上記の疎外の結果、人間の人間からの疎外(自己疎外)が生まれる

自己疎外によって、人間は自らを商品化していくということです。そのため、プロレタリア革命によって労働者は自己を開放することが主張されています。

このように資本主義を厳密に分析して社会主義への革命を主張した点に、それ以前の初期社会主義との大きな違いがあり、科学的社会主義としての特徴があるのです。

このように厳密に議論したために、科学的社会主義(マルクス主義)は20世紀、多くの国が採用するイデオロギーとして、また社会を説明する理論として、非常に大きな影響力をもったのです。

2章のまとめ
  • 唯物史観とは、唯物論の立場に立って歴史を発展段階として捉え、最後の発展段階として社会主義を位置づける立場
  • 剰余価値説とは、労働者の労働によって生み出された剰余価値が資本家に搾取され、資本家が資本蓄積することを説明する理論
  • プロレタリア革命とは、資本主義の社会構造の限界を労働者が革命によって社会主義へ転換させることを主張したもの
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3章:科学的社会主義について学べるおすすめ本

科学的社会主義について理解することはできたでしょうか?マルクスの議論は難解ですが、今でも読む意義のある本です。時間をかけても挑戦してみることをおすすめします。

関連書と共に読んでみてください。

おすすめ書籍

猪木正道『共産主義の系譜』(角川ソフィア文庫)

少し古い本ですが、マルクスを含む共産主義の系譜が詳しく書かれた名著です。マルクスの理論についても簡潔にまとまっているため、ぜひ読んでみてください。

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オススメ度★★和田春樹『歴史としての社会主義』(岩波新書)

こちらは社会主義の歴史についての名著です。思想的な側面より社会的な側面が多いため、マルクスや社会主義について学ぶ上で参考書として合わせて読むことをおすすめします。

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マルクス『経済学批判』(岩波文庫)

『経済学批判』はそのタイトルどおり、マルクスが経済学を批判して自らの理論を展開しているもので、マルクス主義を学ぶ上で避けて通れないものです。一度通読してみてください。

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マルクス『資本論』(国民文庫)

言わずと知れた『資本論』は大著ですが、時間があれば一度チャレンジしてみてください。

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以下のような解説書と合わせて読んでみると良いでしょう。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 科学的社会主義とは、マルクス、エンゲルスらが体系化した社会主義理論であり、それ以前の初期社会主義より厳密に体系化され、その後イデオロギーとなったもの
  • 科学的社会主義の理論のポイントは、唯物史観、剰余価値説、プロレタリア革命

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