先住民

【アボリジニのブーメランとは】狩りのブーメランから投げ方まで解説

アボリジニのブーメランとは

アボリジニのブーメランとは「く」の字型のリターンタイプ、「7」の字型のノンリターンタイプ、さまざまな形状の儀礼用の3種類があります。

アボリジニといえば、「ブーメランで狩猟をする民族」と思う方も多いと思います。

しかし、投げると戻ってくるタイプのブーメランはオーストラリア大陸の非常に狭い地域にか存在しなかったことを知っている方は少ないのではないでしょうか?

そこで、この記事では、

  • アボリジニのブーメランの種類
  • アボリジニのブーメランの投げ方
  • アボリジニのブーメランと現在のアイデンティティ

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:アボリジニのブーメランとは

冒頭の確認となりますが、アボリジニのブーメランには、

  • 「く」の字型のリターンタイプ
  • 「7」の字型のノンリターンタイプ
  • さまざまな形状の儀礼用

の3種類があります。

それぞれのブーメランに関して、中野は『アボリジニーの国』(中公新書)で詳細な記述を残しています。貴重な資料ですので、この書物に沿って解説していきます。

1-1: アボリジニのブーメラン:狩り用

さて、狩り用のブーメランは「ノンリターンタイプ」と「リターンタイプ」の2種類あります。それぞれ解説していきます。

1-1-1: ノンリターン・ブーメラン

まず、ノンリターン・ブーメランとは、

  • さまざまな形状があるが、「7」の字型をしたものが多い
  • カンガルーやブッシュ・ターキーを倒すために使用された
  • 断面は飛行機の垂直尾翼に近い形状で、かなりの殺傷能力をもつ

ものです。

投げ方でいえば、7の時の下の部分を握って水平に投げるものです。投げれば投げっぱなしで戻ってくることはありません。

中野によると、大きいものでは1メートル前後あり、狩猟用具というより振り回すことを目的とした格闘用武器に近いです。

つまり、ノンリターン・ブーメランは鉄器をもたないアボリジニが硬質のユーカリで作り出した鋭利な刃物といえるでしょう。

1-1-2: リターン・ブーメラン

そして、リターン・ブーメランとは、

  • 「く」の字型のブーメラン(実際には一辺がもう一辺より長く、「へ」の字型に近い)
  • 暑さは5ミリ以下で、断面は飛行機の主翼のようになっている(下面は水平で、上面はふくらみがある)

ものです。

広く知られているように、「く」の字型のブーメランはアボリジニの狩猟用具です。幅の観点からいえば、

  • ほっそり型・・・物差しを二本組み合わたように外縁と内縁が平行なもの
  • ずんぐり型・・・両端部にいくにしたがって細くなるもの

の2種類があるようです。

中野は「く」の字型のブーメランにとても感心していたようで、次のような記述を残しています1中野 1985『アボリジニーの国』(中公新書, 168頁)

この「く」の字型のブーメラン、見れば見るほどよくできている。断面のなすみごとな航空力学的形状はいうにおよばず、両翼の長さに若干のズレを与え、それにより空中での回転に偏心を出させるなど、この種の木製武器、いや金属製武器と比較しても、まさに大発明である。

そして、このパラグラフの最後に、「何世紀にわたる試行錯誤を繰り返し、ついに到達したこの物理学的アイデアは、脱帽に値する」2中野 1985『アボリジニーの国』(中公新書, 168頁)と惜しみない賞賛をおくっています。



1-2: アボリジニのブーメラン:儀礼用

そして、儀礼用のブーメランですが、

  • 形や大きさは極めて多様である
  • 一般的に、さまざまな装飾がほどこされている

ものです。

博物館などで展示されているブーメランは、幅5センチ、長さ40センチ、厚さ5ミリぐらいのものが多いです。

部族儀礼の際には、ディジュリドゥーと合わせてリズムをとる拍子木のように活用されます。

このようにみると、アボリジニのブーメランと一言でいっても、用途も形状もさまざまなタイプがあるとわかると思います。

1-3: アボリジニのブーメランの投げ方

驚くべきことに、中野はブーメランの投げ方に関しても記述しています。

具体的に、投げ方については次のような記述があります3中野 1985『アボリジニーの国』(中公新書, 172頁)

「く」の字型の一端を持って、リーディング・エッジを前方に向けて野球のオーバースローで前上方に投げるのだが、この角度がむずかしく、サイドスローになってはいけない。角度がまずいと、帰ってくるブーメランが高すぎたり低すぎたりする。初心者はまずここで苦労させられる。

投げたブーメランは投げた人に戻ってきますから、それを「真剣白羽取りを横にしたような手つきで、肩の力を抜き、胸のあたりでぱっとはさんでとる」4中野 1985『アボリジニーの国』(中公新書, 172頁)必要があります。

このような説明をしていますが、「いうはやすし」です。実物のブーメランをもっている方は、ぜひ鍛錬を積んでください。

1章のまとめ
  • ノンリターン・ブーメランとは、さまざまな形状があるが、「7」の字型をしたものが多い
  • リターン・ブーメランとは、「く」の字型のブーメランが一般的である
  • 儀礼用のブーメランは形や大きさは極めて多様で、装飾がほどこされている

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2章:アボリジニとブーメランの関係

さて、これまでブーメランの種類や投げ方を概観してきましたが、2章はアボリジニとブーメランの関係をみていきましょう。

2-1: 狩りにおけるブーメラン使用

冒頭で説明したように、アボリジニを「(「く」の字型の)ブーメランで狩猟をする民族」と考える方も多いですが、実際にはごく一部の地域で使われていたにすぎません。

中野が指摘するように、

  • オーストラリア大陸の東部、東南部、西南部の非常に狭い地域でのみ、「く」の字型のブーメランは使用されていた
  • 他の地域にもブーメランは存在したが、それらの地域ではノンリターン・ブーメランしかない。しかも、殴打用の武器として主に使用されていた

といいます。

そのため、中野は別の書物で、「く」の字型のブーメランについて「本格的な狩猟用具だったとは思えない。狩猟に使われていたとしても、補助的なものでしかなかった」と述べています5中野 1993「アイデンティティ-の核を見失ったアボリジニ-(オ-ストラリア先住民)–ブ-メラン文化かエコロジ-か–拡散する運動の焦点」世界週報 74(24), 41頁を参照

その点を考えると、現代において実際に使用されることはないことも、ブーメランによる狩猟経験のある人が恐らくいないことも当然の成り行きに思えます。



2-2: 社会運動における伝統文化の復活

しかし、興味深いのはブーメランやディジュリドゥーがアボリジニのシンボルとして社会運動の際に採用されたということです。

都市や辺境に住むアボリジニの運動が盛り上がった1960年代、若者の間でブーメランやディジュリドゥの練習をする者が増えたといいます。

「なんて本質的なアイデンティティなんだ!」

と思う方もいるかもしれません。

たしかに、過去と直線的につながるアイデンティティは、しばしば「本質主義」と揶揄されます。

しかしより重要なのは、1960年代のオーストラリアという局面(moment)において、本質主義的な民族的アイデンティティが、社会的権利を主張する運動で有効だったということです。

事実、そのような「先住民」としてのアイデンティティから、アボリジニはこれまで否定されてきた社会的権利を獲得することができました。

このようにみると、

  • アボリジニがブーメランを実際に使用していたのかどうかという史的事実は大した問題ではない
  • むしろ、そのような「事実」が「どのように誰によって何のために」利用されるのかの方が重要である

ことがわかります。

これまでの内容をまとめます。

2章のまとめ
  • オーストラリア大陸の東部、東南部、西南部の非常に狭い地域でのみ、「く」の字型のブーメランは使用されていた
  • ブーメランがアボリジニのシンボルとして社会運動の際に採用され、民族アイデンティティの一部となった

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3章:アボリジニのブーメランを学ぶためのおすすめ本

どうでしょう?アボリジニのブーメランを学ぶことはできましたか?

最後に、参照した本を含めてアボリジニ社会を深く理解する参考書物を紹介します。初学者向けの書物が選定されていますので、これから学ぼうとする方に特におすすめです。

おすすめ本

青山晴美『アボリジニで読むオーストラリア』(明石書店)

この書物では非常にわかりやすくアボリジニ文化・社会が紹介されています。「です・ます調」で解説されるため、初学者にもとても読みやすい書物です。

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中野不二男『アボリジニーの国』(中公新書)

中野は彼自身の経験を民族誌的に記述しています。アボリジニ社会における実体験がもとになっているため、とてもリアルで読み物としても面白いです。

藤川降男(編)『オーストラリアの歴史』(有斐閣)

オーストラリア史が簡潔にまとめられた書物です。アボリジニを深く理解するには、オーストラリア史の前提知識が必要ですから、この書物から学んでみてください。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • アボリジニのブーメランには「く」の字型のリターンタイプ、「7」の字型のノンリターンタイプ、さまざまな形状の儀礼用の3種類がある
  • オーストラリア大陸の東部、東南部、西南部の非常に狭い地域でのみ、「く」の字型のブーメランは使用されていた
  • ブーメランがアボリジニのシンボルとして社会運動の際に採用され、民族アイデンティティの一部となった

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