先住民

【ハオレとはだれか?】その意味から白人性までわかりやすく解説

ハオレとはだれか

ハオレ(haoles)とは、ハオレとは、ハワイ語で「白人」を意味する言葉です。

ハワイ語のある単語の意味を知ること自体、大した意味をもたないかもしれません。

しかし、「ハオレ」をめぐってハワイ社会で論争が起きていることを知ることは重要です。なぜならば、日本社会にも「ハオレ論争」と近い問題があるからです。

ハワイは楽園とイメージされがちですが、それだけはハワイ社会の表面しか理解できていません。

そこで、この記事では、

  • 「ハオレ」の歴史的変遷
  • 「ハオレ」をめぐる論争
  • 「ハオレ」に関する白人性研究

を解説します。

知りたいところからで構いませんので、読み進めてください。

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1章:ハオレとはだれか?

1章では、ハオレを概説します。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 「ハオレ」の歴史的変遷

冒頭の定義を確認しますが、「ハオレ」とは、

ハワイ語で「白人」を意味する言葉

です。

「人種について話すなんて行儀が悪い」と思ったあなたは鋭いです。たしかに、アメリカ本土では「人種について話すことはマナー違反」という認識があります。

そのため、「白人」を意味する「ハオレ」がハワイ社会で頻繁に使われることに多くの白人は驚くといいます(トロピカルなビーチやフラダンスといったイメージは、非歴史的・非政治的なハワイを想像させるからでしょう)2Rohrer, Judy 2010 Haoles in Hawaii. University of Hawaii Press.

しかし、実際のハワイ社会は人種問題が深く残っています。特に、白人と先住民との間には大きな問題があります。

ちなみに近年、日本人観光客や日系人は「ハオレみたいなことをするな!(Don’t act like a haole)」といわれます。すると、以下のことがわかります。

  • 「ハオレ」は単に肌の白い「白人」を意味する言葉ではない
  • ある特定の社会的な態度や言動を説明する言葉でもある

では一体、「ハオレ(haole)」という言葉はどのように形成されたのでしょうか?そもそも、西欧文化に接触する以前の「ハオレ」は「外国のもの」「ハワイのものではないもの」を指す言葉だったといわれています3Rohrer, Judy 2010 Haoles in Hawaii. University of Hawaii Press.

そして、西欧諸国の支配を経過すると、「ハオレ」の意味は徐々に変化していき、「白人」「アメリカ人」「イギリス人」を意味する言葉になったといわれています。

その後、1986年の「英語-ハワイ語辞書」において「ハオレ」は「白人」「アメリカ人」「外国の」「外来の」を指す言葉として記載されています。



1-1-1: 「ハオレ」の起源に関するいくつかの説

「ハオレ」のもともとの意味は「息をしない(without breath)」だったという説があります。その理由は「haole」を分解すると、次の意味を指す言葉だからそうです。

  • 「hā」=「breath」
  • 「ole」=「without または lacking」

そして、「ハオレ」が「白人」を意味するようになった起源には諸説があります。

たとえば、ハワイでは顔をこすり合わせながら「息を共有する」伝統的な挨拶をするが、白人は握手だけで「息をしない」挨拶をするため、「ハオレ」と呼ばれるようになった説や、白い肌の色は息をしないことを意味すると、ハワイアンに考えられた説があります4Rohrer, Judy 2010 Haoles in Hawaii. University of Hawaii Press.

1-1-2:「ハオレ」に関するハワイ言語学者による見解

一方で、ハワイ言語学者たちは「息をしない」説に否定的な見解を示しています。ハワイ言語学者たちは、ハワイ語を知らない人たちは言葉を好き勝手に分解して、意味を与えることができると考えがちであると批判をしています。

いずれにせよ、ハワイ言語学者の結論はこの言葉の起源が何であれ、「ハオレ」はハワイ社会における部外者と内部者を区別するための言葉である、というものです。なぜそのような区別が未だに必要なのか?は、ハワイの歴史を学ぶことで理解できます。

ちなみに、上記の議論はRohrer, JudyのHaoles in Hawaiiで読むことができます。

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1-2: 「ハオレ」は蔑称なのか?

さて、「ハオレ」は議論を巻き起こす言葉です。なぜならば、「ハオレ」は「ニガー(nigger)」と変わらない蔑称である、としばしば非難を受けるからです。

「ハオレ」が巻き起こした論争をいくつか紹介します。

日系人男性とハオレ女性の1995年の論争

  • 原告と被告・・・ハオレ女性が日系人男性を人種的中傷として起訴を起こす
  • 理由・・・日系人男性が「くそ、ハオレ」とハオレ女性に言ったため
  • 結果・・・人権委員会(Civil Rights Commission)はハオレ女性の訴えを認める

重要な点は、「ハオレ」という言葉自体は中傷的な言葉ではないということです。このケースでは「ハオレ」を中傷的に使ったのか使わなかったのか、が問われました。

ローカル新聞における「ハオレ」の使用に関する論争

  • 白人人口の増加とハワイアンの「特権」に対する訴訟に活気づけられて、ローカル新聞には「ハオレ」の使用を禁止するべきというクレームが増加
  • 加えて、「ハオレ」を公の場で使用する人びとに対するクレームも増加
  • ハワイアンは「ハオレ」が蔑称ではないことを主張することで対応

私たちが注意すべきは「ハオレ」が蔑称なのか?そうではないのか?という二元論に陥らないことです。

重要なのは、「ハオレ」はハワイ社会における部外者と内部者を区別するための言葉、だということです。そのような区別が未だに必要な理由を考えなければならないのです。

1章のまとめ
  • 「ハオレ」とは、ハワイ語で「白人」を意味する言葉
  • 「ハオレ」はハワイ社会における部外者と内部者を区別するための言葉
  • 「ハオレ」は蔑称か否かで、しばしば論争になる

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2章:ハオレと白人性研究

さて、2章では白人性研究を紹介していきます。

2-1: 白人性研究とはなにか?

「白人性研究(whiteness)」とは、

生物学的な意味ではなく、歴史的・社会的に「白人」がどう構築されたのか?を研究する分野

です5たとえば、藤川 隆男 2011『人種差別の世界史―白人性とは何か』刀水書房。。定義だけでは意味不明ですので、さっそく詳しく解説します。

皆さんは、「プア・ホワイト」や「ホワイト・トラッシュ」という言葉を知っていますか?「プア・ホワイト」や「ホワイト・トラッシュ」とは、社会的に底辺にいる白人を指す言葉です。

「なんてひどい言葉なんだ」と感じるかもしれませんが、さらにひどいことがあります。アメリカ社会において、「プア・ホワイト」や「ホワイト・トラッシュ」に対応する「プア・ブラック」や「プア・インディアン」という言葉はないです。

つまり、それは「プア」や「トラッシュ」という意味が、「ブラック」や「インディアン」にすでに内包されているからなのです。常に社会の底辺にいた有色人種を「プア」や「トラッシュ」と形容する意味がないということです。

その反面、白人は常に教養がありお金持ちという前提があり、その前提から逸脱した白人は「まともではない白人」として「プア」や「トラッシュ」が形容されるのです。

  • 白人とは肌の色で決まる問題ではない
  • 白人としての教養や権力といった中身が白人の資格となる(中身が伴わないと「プア」といった形容がされる)
  • たとえば、アパレルヘイト期の南アフリカで、日本人が「名誉白人」と認められたのは白人の中身を獲得したためである

歴史的・社会的に「白人」がどう構築されたのか?を研究すること、言い換えると、白人としての資格を与える中身とはなにか?を研究することが白人性研究です。



2-1-1: アメリカ社会における白人性

そして、アメリカ社会で白人は一般的・普遍的なカテゴリーとして機能しました。「白人が一般的・普遍的である」とは、以下の意味を指します6藤川 隆男 2011『人種差別の世界史―白人性とは何か』刀水書房や、藤川 隆男『白人とは何か?―ホワイトネス・スタディーズ入門』刀水書房を参照されたい

  • 有色人種(people of color)という言葉はあるが、白人を指す無色人種(people of non-color)という言葉はい
  • エスニシティ・フードといえば有色人種の食べ物で、白人の料理は含まれない

つまり、白人は非白人と比較して普遍的であったため、(異常な)非白人だけ「印を押された(marked)」のです。

その結果、アメリカ社会では、差別を受ける黒人の不利な社会状況は、白人基準の平常な状況からの逸脱とされます。黒人問題の解決は謳われるが、差別を生み出す白人性の構造の責任は問われないといったことが起きます。

白人性の特徴を簡単にまとめると、アメリカ社会で普遍的に機能したため、白人性は見えないものだったといえるでしょう。当然ですが、それはアメリカ社会において白人が支配的な集団だったからです。

白人性についてより詳しくは、こちらの書物を参照してください。

2-2: ハオレ学生とトラスク教授の論争

しかし、白人性が見える場所があります。それは社会で周縁化された人びとが作り出した空間です。その空間こそが、ハワイです。

言い換えるとアメリカ本土とは異なり、ハワイという土地において人種的マイノリティである白人は「ハオレ」として名指しされる経験するといえます。ここでは、「ハオレ」がハワイアンにとって何を意味するのかを示した論争を紹介します。

1990年9月、「ハオレ」というハワイ語に不満を抱いたルイジアナ州出身のハワイ大学の白人学生、ジョウイ・カーターは学生新聞「カ・レオ(Ka Leo)」へ投書しました。彼はそこで次のように主張します。

ハオレ学生の主張
  • 彼はその投書で、白人を指す「ハオレ」は「ニガー(nigger)」と同等の蔑称であり、人種主義的な意味が内包されるため使用されるべきではないと主張する
  • 人間は歴史を遡った民族の一員ではなく、一人の個人として扱われるべきだと述べる
  • つまり、個人は自分自身の意思に従って自己を位置づけることができる存在であると主張した

カーターの主張は一見リベラルな主張にみえますが、先住民の視点からすると非常に問題のある主張です。ハワイ先住民でハワイ大学の教授のハウナニ=ケイ・トラスクは、この外征に批判以下のように批判をします。

トラスクの批判
  • 「ハオレ」という用語はアメリカ合衆国による植民地支配から生き残った数少ない用語
  • カーターの主張は白人による植民地主義の歴史を逃れる典型例
  • 「アメリカ・インディアンを虐殺し、アフリカの黒人を奴隷にし、アジア系移民を日雇労働で酷使し、先住ハワイ民族の土地と政府を奪ってきた、醜悪で邪悪な歴史に対する責任逃れ」(『大地にしがみつけ』(2002)を参照)
  • カーターの主張とは逆に、アメリカ法体系の下で血液の濃淡によってのみ法的に先住民は分類される
  • つまり、先住民は自分自身の意思に従って自己を位置づけることができない

一連の批判の最後に、「ハオレ」という用語に居心地が悪いのであれば、つまり抑圧者の一員として名指しされる経験が苦いものであれば、ルイジアナ州へ戻らないかという提案をトラスクはしました。

どうでしょう?先住民にとって、「ハオレ」が何を意味するか理解できましたか?「ハオレ」とは、先住民が自らの言葉によって植民地主義の経験を位置づける言葉だったのです。

このように、自らの経験、出来事、土地の名前を自ら言葉で定義することは、継続する植民地主義に対抗する重要な鍵となります。

ちなみに、植民者を名指しする言語行為は世界中でみられれます。ハワイでは「ハオレ」、メキシコでは「グリンゴ(gringos)」、ニュージーランドでは「パケハ(pākehā)」などです。

植民者を名指しするそれぞれの言葉は、それぞれの地域において特定の歴史と経験を意味しているのでしょう。



2-3: ハオレと日本社会

日本社会ではどうでしょう?たとえば、アイヌ民族が私たち日本人をいまだに「和人」と呼ぶことにどんな意味があるのでしょうか?

ここで白人性の特徴を思い出してください。白人性とは肌の色の問題ではなく、社会のなかで普遍的なものであり、見えないもでした。そして、白人性を念頭において、「日本人」とアイヌ民族の関係をみると、以下のようなことがわかります7東村岳史「呼称から考える「アイヌ民族」と「日本人」の関係–名付けることと名乗ること」『国際開発研究フォ-ラム』(34), 87-101

  • 歴史的に「日本人」はアイヌ民族を名付ける主体であった
  • アイヌ民族には「旧土人」という呼称が使用されたに対して、「日本人」は「常人」が用いられた
  • 「日本人」が「普遍」に存在し、無徴のものとして扱われた

その結果、アイヌ民族が「特殊」という印をつけられることで「普遍的な」日本人の立場が意識されず、先住民問題と呼ばれるものはあるが、それが日本人問題として認識されることは少ないといった状況に陥ります。

「ハオレ論争」を深く考えると、日本社会にも近い問題があるではないでしょうか。

2章のまとめ
  • 「白人性研究(whiteness)」とは、生物学的な意味ではなく、歴史的・社会的に「白人」がどう構築されたのか?を研究する分野
  • 「ハオレ」とは、先住民が自らの言葉によって植民地主義の経験を位置づける言葉
  • 植民地主義の経験を含む言葉は、世界中にある。日本では「和人」

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3章:ハオレを学ぶための書籍リスト

「ハオレ」について理解を深めることはできましたか?これからおすすめする書籍を参考に、ハオレについての理解を深めてください。

おすすめ書籍

ハウナニ=ケイ・トラスク 『大地にしがみつけ-ハワイ先住民女性の訴え-』(春風社)

先住民のトラスク教授(ハワイ大学)がハワイの帝国主義的状況を批判的に考察した書籍。日本版では「日本人観光客よ、ハワイに来るな」といっています。トラスク教授の主張に、あなたはなんと答えますか?

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藤川隆男 『人種差別の世界史』(刀水歴史全書)

エビちゃんからマライア・キャリーまで登場する人種主義と白人性に関する書物。世界における人種主義の歴史をわかりやすく解説しています。タイトルは真面目ですが、学術的な専門書ではありません。初学者に大変おすすめ。

Judy Rohrer Haoles in Hawai’i University of Hawaii Press

白人の著者が自らを歴史的文脈に位置づけて、「ハオレ」である意味を議論しています。英語自体は簡単ですので、強くおすすめします。

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • ハオレとは、ハワイ語で「白人」を意味する言葉
  • 「ハオレ」とは、先住民が自らの言葉によって植民地主義の経験を位置づける言葉
  • 植民地主義の経験を含む言葉は、世界中にある。日本では「和人」

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