社会思想

【生権力とはなにか】その意味・フーコーの議論をわかりやすく解説

生権力とは
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生権力(英; bio-power, 仏; bio‐pouvoir)とは、古典的な権力である「殺す権力」とは異なり、従属者たちを「生かす権力」を意味します。フーコーは人間の生に積極的に介入して、しかるべきやり方で管理・運営しようとする現代的な権力のあり方を「生権力」と呼びました。

フーコーの「生権力」は現代における権力作用を理解するために極めて重要な概念の一つです。その概念を理解するためには、『監獄の誕生』で提示された規制権力とともに、学ぶ必要があります。

そこで、この記事では、

  • 生権力の意味
  • 生権力と規制権力
  • 生権力とセクシュアリティ

をそれぞれ解説していきます。

あなたの関心に沿って読み進めてください。

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1章:生権力とはなにか

まず、冒頭の説明を確認すると、

生権力とは古典的な権力である「殺す権力」とは異なり、従属者たちを「生かす権力」です。

この説明だけではなかなか理解することが難しいですよね。しかし、この概念を難しくしている理由は他にもあります。

社会学者の大澤がいうように、「生権力」という用語の使い方はフーコー自身でも揺らいでおり、論文によってその意味を異なるように捉えることができるといった事情があります。

そのため、ここでは「生権力は、近代から現代へとつながる権力の類型」大澤真幸『社会学史』p586)と大まかに理解することをオススメします。

この理解をもとに、1章では上述の「生権力」の説明を深掘りし、より深く理解するための前提知識を説明します。

『知への意志-性の歴史-』におけるセクシュアリティと生権力の議論に関心のある方は、2章から読み進めてください。

1-1: 生権力の意味

さて、まずは冒頭の「殺す権力」と「生かす権力」をより詳しく説明します。

さっそくですが、古典的な権力である「殺す権力」とはなにを意味するのでしょうか?それは基本的に次のようなことです。

古典的な殺す権力の特徴

  • 古典的な時代とは、フランス革命以前のアンシャンレジーム(→フランス革命について詳しくはこちら
  • 権力者である君主は「逆らったら殺す」という生殺与奪の権力をもっていた
  • それは君主は臣民の命を奪ったり奪わなかったりする権力である
  • このような時代に権力が生に介入するときは、その生が終止符を迎えるときのみである

これに対して、「生権力」とは上で説明したように、従属者を「生かす権力」です。

生権力の特徴

  • フランス革命以降の市民社会における権力のあり方
  • 社会の構成員に死を与えるよりも、生に積極的に介入する
  • よりよく構成員の生かすことで、管理・運営しようとする権力のあり方

大まかにいえば、外部から強権的に抑圧する古典的な権力は、支配しやすい市民を調教する権力へと変化したのです。

この権力モデル転換は①『監獄の誕生』で示したような規制権力があり、②『知への意志-性の歴史-』で提示された生権力が後から誕生したと考えるとわかりやすいです。

(①と②はどちらも生権力の一部ということができますが、わかりやすくするためにあえて分けて説明しています。)

大事な点は「規制権力→生権力」と移行したわけでなく、二つの主要な権力形態は重なりながら作用していることです。

ここでは、規制権力を「従順な身体」と「パノプティコン」から説明していきます。



規制権力に関しては、次の記事で詳しく解説していますので、ここでは要点を絞って解説します。フーコーの重要概念とともに、読むと理解が深まるはずです。

1-2: 従順な身体

哲学者の中山元が指摘したように、フーコーの規制権力は「身体と精神の関係についての二つの向き合ったベクトル」で学ぶと理解しやすいです(『フーコー入門』p139を参照)。

  • 身体から精神に向かうベクトル…身体を調教することで人間の精神を支配する(従順な身体)
  • 精神から身体へのベクトル…精神を規制し、道徳的な主体とすることで、身体をコントロールする(パノプティコン)

ここでは監獄に関する議論がされていますが、大事なのは従順な身体」と「パノプティコン」で説明される規制権力は近代社会のいたるところで作用していることです。

まずは「従順な身体」を解説します。

端的にいえば、「従順な身体」は3つの規制テクニックによって形成されます。

3つの規制テクニック

  • 空間…学校の校舎、兵舎、工場などの閉鎖的な空間を設置して、この空間をそれぞれの活動や集団ごとに区切る
  • 時間…起床から就寝までの時間を細かく振り分ける
  • 身体…道具や機械と一体化した身体をつくりあげる

たとえば、あなたは学校で身体動作の細かい規則を学び、運動会のために行進練習をしたことがあると思います。

このように身体を調教することで精神を支配する「従順な身体」とは監獄だけでなく、学校でも作用しているのです。

そのため、重要なので繰り返しますが、従順な身体は監獄における囚人だけでなく、学校、兵舎、工場、病院などにおける身体を対象とし、近代社会に適合する人間を作り上げるための権力だったといえるのです。

1-3: パノプティコン

そして、精神から身体へのベクトルは「パノプティコン」によって比喩的に説明されます。

パノプティコン(写真1)Wikimedia Commonsより

そもそも、「パノプティコン(panopticon)」とは、

  • 日本語で「一望監視施設」または「全展望監視システム」と呼ばれる監獄施設
  • 特徴は中央に監視塔があり、その周辺を円形に配置された独房があること(写真1)
  • 中央に建てられた監視塔からは、囚人に見られることなくすべての囚人を監視することができる

ものです。

フーコーはパノプティコンが精神から身体へのベクトルと向かう規制権力を説明すると考えました。なぜならば、それはパノプティコンには、次のような特徴があるからです。

  • 監視者(権力者)は不可視であり、抽象化されている
  • 中央の監視塔に、監視者は常駐する必要がなく、監視される可能性があるだけで、囚人の内部には第二の監視者が生まれる
  • 「監視される囚人の内部にいる監視者」という構造が生まれる

端的にいえば、人間は常に権力からのまなざしを意識し、権力を内面化するのです。そしてそのような権力の対象となることで、規律化・従順化された近代的主体が生まれるのです。

ここまでくると、「従順な身体」と「パノプティコン」によって説明される規制権力が、人々の生に働きかける権力だということがわかりやすいと思います。

いったん、これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 生権力とは古典的な権力である「殺す権力」とは異なり、従属者たちを「生かす権力」
  • 『監獄の誕生』で示したような規制権力がまずあり、その後『知への意志-性の歴史-』で提示された生権力が誕生した
  • 「従順な身体」と「パノプティコン」で説明される規制権力は近代社会のいたるところで作用している

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2章:生権力とセクシュアリティ

さて、1章で説明した規制権力から遅れて、18世紀の中葉に形成されたのが「人口」に対する「調整」です(しばしば「生政治」といわれる)。

これだけでは意味不明ですので、まずは「人口」や「調整」の概念を説明し、その後にセクシュアリティについて解説します。

2-1: 生権力と「人口」

1章で説明した規制権力は個人の身体と精神を標的としていましたが、18世紀中葉以降になると個人の身体だけではなく「人口」が「調整」の対象となります。

フランス思想を研究する慎改が以下のように指摘するように、フーコーの「人口(population)」という概念には注意が必要です(慎改康之『ミシェル・フーコー: 自己から脱け出すための哲学』p150 を参照)

「人口」とは、

  • 本来、フランス語で「一定の地域に住む人々の総体」「特定のカテゴリーの人々の総体」「統計学の対象となる生物的な個体群」を指す言葉
  • フーコーは「生物学的な法則に支配されるものとしての人間集団」として使用した
  • つまり、繁殖、誕生、寿命、死亡率、健康水準という人間の生物学的に固有の現象が問題となり、その「人口」を管理する権力が想定されている

ものです。

大事なのは身体と精神の「規制」と(1章)、この「人口」に対する「調整」を通して、人間の生に介入する権力、つまり生権力があることです。

その権力の形成で最も明瞭にあらわれる場が、「セクシュアリティ」という領域でした。



2-2: 生権力とセクシュアリティ

セクシュアリティに関しては、社会学者である内田隆三の『ミシェル・フーコー: 主体の系譜学』(1990)の議論がわかりやすいので紹介します。詳しい内容を知りたい方はぜひ手に取ってみてください。

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2-2-1: 性の告白

フーコーは西洋社会における「告白」という実践に着目します。特に、キリスト教における告白の儀礼です。

知っている方もいるかもしれませんが、告白の儀礼の特徴とは以下の通りです。

  • 信者は祭司に対して、自分の秘密やセックスを告白する
  • 具体的に、告白する内容はその行為から欲望という魂の内部まですべて語ることが義務づけられている
  • そのような告白は、祭司と信者という権力関係において遂行される

そして、フーコーは告白の儀礼における告白の内容は歴史的に変化したといいます。

  • 中世における告白…性の掟に関しての違反行為が告白の内容
  • 16世紀以降における告白…性的なものは拡大して、快楽や肉体の欲求について告白することも求められるようになる
  • 17世紀における告白…すべての良きキリスト教徒の義務として万人の規則となる
  • 18世紀におけるブルジョワ社会…性の告白は大規模となり、ブルジョワ的個人の形成と大きく関わることになる

特に重要なのは18世紀における性の告白です。この告白では、性によって個人は自己を理解し、自分の身体を手に入れて、自己同一性を確立する媒体として機能したからです。

このように主体を確立するものとしての「告白」は、その後も発展してきます。

ブルジョワ社会の発展とともに、「告白」の関係はその主体形成の図式を維持しながら、それが作用する場をずらしていく。それは教会の制度を超えて、裁判や、医学、精神分析、教育、家族関係、愛の関係など、社会のさまざまな領域に適用されていく。これと平行して、主体についての知、主体の科学が性のまわりに展開されていくのである。

内田隆三『ミシェル・フーコー: 主体の系譜学』(講談社現代新書, 1990, p184)

つまり、中世以来の西洋社会では「告白」が真実の産出にとって重要なポイントであり、犯罪・裁判などに関わる宗教的/世俗的な権力の中心的な役割を担うものとして発展したのです。

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2-2-2: セクシュアリティ

さて、これまで見てきたように、告白の対象は「性の観念」を前提としています。

「性の観念」とは人間の深部にある普遍的な本質であり、さまざまなセクシュアリティを生み出す源です。

内田は性の観念の特徴として、以下の3つの側面を挙げています。

  1. 性は生理学的・解剖学的な機構に根ざすが、それ固有の本質と法則をもった自律的領域
  2. 性からさまざまなセクシュアリティが発生する
  3. 性にしたがって、セクシュアリティは一定の規準(norme)をもつ

*セクシュアリティとは性的欲望や性的行動、性的な言説などのすべての性現象の総体を意味する

フーコーはこの性の観念を権力との関係において、系譜的な分析をします。

よく言われるように、ヴィクトリア朝に代表される近代ブルジョワ社会おいて、性に関する表現は抑圧されていたという通念があります。端的にいえば、性に対する権力関係は否定的なものだったという考えがあります。

しかし、フーコーによると、権力は告白という形で性の言説化をあおり、むしろセクシュアリティという領域を積極的に生産しているのです。

それに加えて、ブルジョワ社会の権力は、

  • セクシュアリティに関する一定の規準を設定する(→性的異常や性的倒錯がそのまわりに設定される)
  • セクシュアリティを抑圧するというよりは、それを管理・調整するべき一つの秩序として積極的に組織している

のです。

それを実行するために、「人口」という人間集団レベルに「調整」(生殖行動の社会化)をし、個人には身体と精神の規律がされるのです。

2-2-3: 権力の特徴

以上のように、一見近代ブルジョワ社会は性表現を抑圧するようにみえますが、告白からその言説化を煽動して、セクシュアリティという領域を組織しました。

言い換えると、社会の網の目に張り巡らされたマクロな権力から性の言説は産出され続けているのです。

最後に、そのような権力の特徴を紹介します。

  • 権力は獲得・奪取されるものではなく、力関係のなかで行使される
  • 権力は社会関係の外部ではなく、内部で働いている
  • 権力は上から下に波及するものではない。むしろ、それは下から行使され、ロカールな場における力関係が大事となる
  • 権力関係は合理的な戦術がある。合理性な戦術は主体の選択の結果ではなく、非主観的で権力の戦略に属する
  • 権力への抵抗はその外部に立つのではなく、権力ゲームの相関項となる

内田隆三『ミシェル・フーコー: 主体の系譜学』(講談社現代新書, 1990, p187)

このように、権力とは社会の網の目状に存在するミクロな力関係です。

セクシュアリティとの関係にでいえば、権力はそのような領域を産出・組織していきます。そこでは告白といった装置が仕掛けられ、それを通して個人の主体が形成されます。国家権力はこのような主体に対して、権力を実践していくのです。

2章のまとめ
  • 18世紀中葉以降になると個人の身体だけではなく「人口」が「調整」の対象となる
  • 身体と精神の「規制」と、「人口」に対する「調整」を通して、人間の生に介入する権力、つまり生権力がある
  • その権力の形成で最も明瞭にあらわれる場が、「セクシュアリティ」という領域である

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3章:生権力に関するおすすめ本

生権力について理解を深めることができたでしょうか?

生権力の議論は大変奥が深く、本来記事で紹介できるような内容ではないかもしれません。言い換えれば、この記事での紹介できたことはほんの一部にすぎませんので、これから紹介する本を参考に、あなた自身の学びを深めていってください。

オススメ書籍

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フーコーの権力論を学ぶためには必ず読みたい本です。権力を禁止や抑圧ではなく、社会のいたるところで細かく作用してるという視点は『監獄の誕生』と『知への意志』で共通しています。

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オススメ度★★中山元『フーコー入門』(ちくま新書)

オススメ度★★慎改 康之『ミシェル・フーコー』(岩波新書)

両者ともフーコーに関する入門書です。フーコーの議論をうまくまとめており、初学者にはおすすめです。

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最後に、書物を電子版で読むこともオススメします。

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まとめ

今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 生権力とは古典的な権力である「殺す権力」とは異なり、従属者たちを「生かす権力」
  • 『監獄の誕生』で示したような規制権力がまずあり、その後『知への意志-性の歴史-』で提示された生権力が誕生した
  • 身体と精神の「規制権力」と「人口」に対する「調整」を通して、人間の生に介入する権力、つまり生権力がある

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