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【イヌイット語とは】一覧・特徴から歴史・現在までわかりやすく解説

イヌイット語とは

イヌイット語(Inuit languages)とは、カナダ、グリーンランド、アラスカ、シベリアの極北地域に住む民族が話す「エスキモー語」の下位語派の一つです。イヌイット全体でみれば、イヌイット語は話せる能力をもった人々は減少しつつあります。

あなたが先住民族に関心をもっているならば、言語は一番最初に理解すべきものです。

それは先住民とのコミュニケーションの確立という実利的な意味だけではなく、言語が社会的な現実を反映する象徴のシステムだからです(詳細は後述)。

そこで、この記事では、

  • イヌイット語の一覧や特徴
  • イヌイット語と雪
  • イヌイット語の歴史と現在

をそれぞれ解説していきます。

あなたの関心のある箇所から読み進めてください。

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1章:イヌイット語とは

1章ではイヌイット語の「一覧」「特徴」「雪との関係」をそれぞれ解説します。

イヌイット語の歴史と現在に関心のある方は、2章から読み進めてください。

1-1: イヌイット語の一覧

さて、まずは冒頭の確認となりますが、

イヌイット語とは、カナダ、グリーンランド、アラスカ、シベリアの極北地域に住む民族が話す「エスキモー語」の下位語派の一つ

です。

これだけの説明ではなかなか理解しにくいですよね。ですから、まずはイヌイット語が属する語族を、極北人類学者の大村が提示した一覧表から詳しくみていきましょう。

そもそも、「イヌイット」と「エスキモー」の違いから確認したいという方は、次の記事を参照してください

→【イヌイットとエスキモーとは】両者の違い・概要をわかりやすく解説

1-1-1: エスキモー=アリュート語族とエスキモー語派

系統的にいえば、イヌイット語は「エスキモー=アリュート語族(Eskimo-Aleut family)」「エスキモー語派(Eskimo branch)」の流れに属します。

こちらの一覧表をみてください。まず、「エスキモー=アリュート語族」に「エスキモー語派」があることがわかるはずです。

イヌイット語の語族(大村敬一『カナダ・イヌイトの民族誌ー日常的実践のダイナミクス』大阪大学出版会, 27頁から引用)

1-1-2: ユッピク下位語派とイヌイット下位語派

さらに、「エスキモー語派」は、「ユッピク下位語派(Yup’ik sub-branch)」「イヌイット下位語派(Inuit sub-branch)」から構成されることがわかります。

ユッピク下位語派とイヌイット下位語派のそれぞれ語派は、

ユッピク下位語派…①中部シベリア・ユッピク語(Central Siberian Yupik)、②ナウカンスキー語(Naukanski)、③シレニクスキー語(Silrenikski)、④アルティーック語(Alutiiq)、⑤中央アラスカ・ユッピク語(Central Alasken Yupik)

イヌイット下位語派…⑥イヌイット語(Inuit)

から成っています。

さらに複雑なのは、ユッピク下位語派とイヌイット下位語派を構成する6つの言語はさらに約30の方言と約50の下位方言に分岐していることです。

このようにみると、グリーンランドから、アラスカ、カナダ、シベリアまで極北地域における人々の言語は「エスキモー語」と総称されますが、実に多様な言語をもっていることがわかります。

言語体系の詳細な分岐を覚える必要はありませんが、冒頭で説明したように、「イヌイット語は「エスキモー語」の下位語派の一つである」と理解することは大事かもしれません。



1-2: イヌイット語の特徴

さて、イヌイット語の特徴として、イヌイット研究の第一人者である岸上は、

  • 接尾語をつけることで、1文を1つの単語のようにすること(接尾語とは「神さま」「子供たち」「寒さ」の「さま」「たち」「さ」を指す)
  • 狩猟生活に密接した語彙が豊富に存在すること

を指摘しています。(岸上伸啓 2005「イヌイット語を話す人々」『月刊言語』34(8): 8-11)

たとえば、「雪」の総称は存在しない一方で、

  • 「水をつくるための雪」=「アニウ」
  • 「地表上の雪」=「アプット」
  • 「溶けつつある雪」=「マングック」
  • 「降る雪」=「カニク」

という言葉は存在します(雪に関してはさらに後述)。

発音に関していえば、母音は[i][u][a]の3つのみです。一方で、アラビア語やフランス語でみられる咽頭音(たとえば、うがいをするときのように喉を震わすフランス語の[r])や喉の奥で発する[k]といった、日本人にとって難しい子音が存在します。

挨拶言葉はもともと存在しなかったため、既存の言葉が転用されるケースが多いです。たとえば、

  • 「ご機嫌いかがですか?」「はい、元気です」は、「カヌイッピット?」「カヌインギツンカ」と表現される
  • 直訳すると、「病気ですか?」「病気ではありません」となる

ケースがあります。

その他の特徴として、20以上の数を表現する単語は存在しないため、英語が援用されることなどが挙げられるでしょう。

1-3: イヌイット語と雪

そして、イヌイット語の特徴して「雪」を表す言葉の多さが頻繁に挙げられます。

多くのサイトでは「雪」を表す言葉が実際にいくつあるのか?が問題とされてますが、本当に知るべきことは「雪」を表す言葉が多いことは何を意味するのか?です。

まず、宮岡伯人が「言語の違い、認識のちがい」で提示した雪の種類をみてみましょう。

宮岡によると、「雪」には次のような種類があります。

  • 「カニック」=「降っている雪」
  • 「アニユ」=「飲料水をつくるための雪」
  • 「アプット」=「積もっている雪」
  • 「プカック」=「きめ細かな雪」
  • 「ベシュトック」=「吹雪」
  • 「アウベック」=「イグルーを作るための雪」

そして、注意してほしい点は、

初めに「ユキ」があって、それを細分化しているのではなく、初めから別個に分かれています。つまり、互いに音声の類似がないことからわかるように、(細雪、どか雪、粉雪といったように、雪に形容をつけて2次的に細分化しているのでなく)それぞれまったく別物

(宮岡『今、世界のことばが危ない! : グローバル化と少数者の言語 : 2005第19回「大学と科学」公開シンポジウム講演収録集』クバプロ, 2006, 46頁)

であることです。

この事例から、個々の言葉はイヌイット生活と切り離しがたく結びついた日常的な基礎語彙であることがわかります。そして日本語の「雪」とは比較できないほど、多くの語彙があり異なった社会的意味が付与されているも理解できるでしょう。

そのため、カルチュラル・スタディーズスチュアート・ホールが「Representation」で指摘したように、

  • 世界ははじめから個別の事物(たとえば、「雪」という事物)があるのではなく、言葉によって世界の区切り方は異なる
  • 言葉がなにを指して、なにを意味するかは、物質的世界のあり方と独立し、言語システムの内部で決まっている

といえるのです。

試しに、日本語の「水」と英語の「water」を比較してみてくだい。

  • 日本語の「水」と英語の「water」に正確な一致はない
  • 英語では形容詞のhotを加えると「hot water」になりますが、日本語では「温かい水」ではなく、「お湯」と表現しなければならないからである
  • そのため、日本語の「水」は冷たい液体を限定的に指すが、英語の「water」は温かくも冷たくもなるものとして表現してることがわかる

このように、言語はありのままの現実ではなく、人々が作り出した「社会的な現実」を反映する象徴システムです(→より詳しくは構造言語学の記事へ)。

そのため、言い方を変えると、イヌイット語を学ぶことはイヌイットを理解するための近道なのです。

いったん、これまでの内容をまとめてます。

1章のまとめ
  • イヌイット語とは、カナダ、グリーンランド、アラスカ、シベリアの極北地域に住む民族が話す「エスキモー語」の下位語派の一つ
  • グリーンランドから、アラスカ、カナダ、シベリアまで極北地域における人々の言語は「エスキモー語」と総称されるが、実に多様な言語をもっている
  • 言語はありのままの現実ではなく、人々が作り出した「社会的な現実」を反映する象徴システム

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2章:イヌイット語の歴史と現在

2章ではイヌイット語の「歴史」と「現在」をみていきましょう。

結論からいえば、

  • イヌイット語話者は歴史的に抑圧をうけてきた(同化政策)
  • 現在では保護法があるものの、イヌイット話者は減少傾向にある

といえます。

2-1: イヌイット語の歴史

ここではイヌイット語の歴史を、「寄宿学校」からみていきましょう。

第二次世界大戦、カナダ連邦政府は極北地域における主権を強めるために、さまざまな政策をおこないました。

もっとも有名な政策はイヌイットの国民化政策(=同化政策)で、それはイヌイットの食事や住居に大きな変化をもたらすものでした。

国民化政策の影響

  • イヌイットの食事…現金やクレジットカードを利用して、生協・小型スーパーで南から運搬された食材を手にできるようになった
  • イヌイットの住居人口が分散した移動型の社会から、人口が集中した定住型のコミュニティへと変貌

*より詳しくは以下の記事を参照ください

言語の観点からいえば、英語による初等教育の実施を挙げることができます。1951年頃から教会に運営が委託された寄宿学校がつくられ、英語への同化教育がされ始めました。

そのような寄宿学校では、

  • イヌイット語の使用が禁じられた
  • 食事、衣服、設備が十分ではなかった
  • そもそも、寄宿学校へは親が納得しないまま、ほとんど拉致のように連れて行かれた

といった問題がありました。

寄宿学校における個々人の経験は多様ですので、ここでは一枚岩的に触れることができませんが、長谷川瑞穂の『先住・少数民族の言語保持と教育』(明石書店)はそのような経験を知るために有益な書物です。

いずれにせよ、寄宿学校にという経験は世界の先住民にとっては「普遍的」であったことを考えると、社会進化論的な考えが白人社会に根強く存在したことがよくわかります。

ネイティブ・アメリカンの経験は、以下の記事で読むことができます。

→【ネイティブ・アメリカンとは】部族・歴史・居留地をわかりやすく解説

オーストラリアにおける寄宿学校の悲劇に関しては、映画「裸足の1500マイル」がおすすめです。

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2-2: イヌイット語の現在

さて、では一体、現在のイヌイット語の現状はどうなっているのでしょうか?ここでは「イヌイット語保護法」「イヌイット語使用の現在」から確認しましょう。

2-2-1: イヌイット語保護法

「イヌイット語保護法」とは、2008年8月に発効されたヌナブト準州法です。

イヌイット語保護法において、

  • ヌナブト準州では全てのイヌイットがイヌイット語を学べる権利を有すること
  • カリキュラム開発や教員育成プログラムが積極的に実施されてる必要が述べられること
  • イヌイット語は文化遺産であり、イヌイットのアイデンティティであること

などが明記されています。

ヌナブト準州はカナダの一準州に過ぎませんが、州単位で先住民言語を保護しようとする試みは画期的です。この法律によってイヌイット語の保護、標準化のためにきめ細かい規定がされ、バイリンガル教育への道がつくられることになりました。



2-2-2: イヌイット語使用の現在

そして、上述した長谷川瑞穂の『先住・少数民族の言語保持と教育』(明石書店)によると、

  • 2011年の段階で、イヌイットがイヌイット語は話せる割合は約64%
  • 全体的には減少傾向にある。地域差があるもの、若者の多くがイヌイット語を話す能力を失いつつある

といいます。

バイリンガル教育が言語の維持には重要ですが、そもそもイヌイット教員が不足していることや、教育体制が整っていないことを考えると、言語の維持は簡単ないことがわかります。

2章のまとめ
  • イヌイットは寄宿学校による英語の初等教育を強制された歴史をもつ
  • 現在では準州レベルで保護法があるものの、イヌイット話者は全体的に減少傾向にある

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3章:イヌイット語に関するおすすめ本

イヌイット語について理解を深めることができたでしょうか?

繰り返しますが、言語を学ぶことは当該社会を理解するための一番の近道です。これから紹介する書籍を参考に、あなたの学びを深めていってください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 岸上 伸啓『イヌイット―「極北の狩猟民」のいま』 (中公新書)

イヌイットに興味をもっているすべての人にお勧めできる本です。イヌイットの歴史、衣食住、現在を確かなフィールドワークから紹介しています。

オススメ度★★ 長谷川瑞穂『先住・少数民族の言語保持と教育』(明石書店)

イヌイットの歴史からイヌイット語の現状までまとめています。しかし全体的に文章が論理的に構成されていないので、各章を「情報」として読んだ方がいいかもしれません。

オススメ度★★浅井 晃『カナダ先住民の世界』(彩流社)

イヌイットに限らず、カナダ先住民に関して知ることができます。文体も非常に読みやすいので、初学者におすすめです。

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最後に、書物を電子版で読むこともオススメします。

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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、気になる方はお試しください。

まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • イヌイット語とは、カナダ、グリーンランド、アラスカ、シベリアの極北地域に住む民族が話す「エスキモー語」の下位語派の一つ
  • グリーンランドから、アラスカ、カナダ、シベリアまで極北地域における人々の言語は「エスキモー語」と総称されるが、実に多様な言語をもっている
  • 現在では準州レベルで保護法があるものの、イヌイット話者は全体的に減少傾向にある

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