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社会思想

【保存版】人種主義とは?その意味から具体例までわかりやすく解説

人種主義とは

人種主義(racsim)とは、①人種に本質的な優劣があることを前提に、人種的な差別をすること、②人種をとおして、不均衡を作り出すパワーのシステムです。

21世紀も四半世紀が過ぎた今日、人種的な優劣から人種差別を正当化する人は少ないと思います。たとえば、「白人は優秀で、黒人は劣ってる」と考える人は多くいないでしょう。

それでは、なぜ人種主義が今日も問題となるのでしょうか?それは人種をとおして、利益を得る人と不利益を被る人が生まれる不均衡なシステムが社会にあるからです。

この記事では、

  • 人種主義の定義・意味
  • 人種主義の具体例
  • 21世紀の人種主義(アメリカ・日本)

をそれぞれ解説します。

読みたい箇所から、読んでみてください。

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1章:人種主義とはなにか?

まず、そもそもの大前提から始めましょう。私たちが「人種(race)」と呼ぶものは、生物学的に存在していません。

人種とは形質的な差異に基づいて人間を分類する概念でした。それは「科学的」根拠をもつとされて、人種的な差別を正当化してきました。

しかし遺伝学の発展が明らかにしたのは、地球上のいかなる人間も99.9%DNAの塩基配列レベルで同一、ということでした。つまり、人種という用語に対応する生物学的な実体はありません。「人種」を使用する生物学的な正当性は存在しないのです1たとえば、竹沢 泰子 (編集)『人種概念の普遍性を問う―西洋的パラダイムを超えて』人文書院

1-1: 人種主義の定義・意味

人種は生物学的に存在しないということを前提に、人種主義の定義を再度振り返りましょう。

冒頭の繰り返しになりますが、人種主義とは、

  1. 人種に本質的な優劣があることを前提に、人種的な差別をすること
  2. 人種をとおして、不均衡を作り出すパワーのシステム

です。

人種に本質的な優秀を認める立場は、もはや存在しないに等しいです。この立場を個人的に肯定する人はいるかもしれませんが、社会的に認められることはないでしょう。

たとえば、国連の教育機関であるユネスコは、1950年代に「人種に関する声明」を発表し、人種優越の理論をはっきりと否定しています。つまり、「人種」はもはや社会的神話でしかないという立場をとっています。

人種分類の歴史や生物学的研究については、次の記事で解説しています。ぜひ読んでみてください。

→【人種とはなにか】分類の歴史・生物学の研究からその意味を解説



1-1-1: パワーのシステムとしての人種主義

「それじゃ人種なんて存在しないのに、なぜ今でも人種主義が問題になるんだ?」と考える方がいると思います。結論からいうと、社会的につくられた「人種」が未だに影響力をもつからです。

社会的につくられた人種

  • 生物学的な実体はないにもかかわらず、人種間の差異や優劣が「科学的」につくられて、あたかも社会的存在するような意味をもった
  • 重要なのは人種が生物学的に意味がないことは、社会的にも意味がないわけではないことである
  • なぜなら、今日の「人種」は人種主義の歴史という社会性をもつからであり

言い換えると、人種主義は社会構造の一部として、社会のいたる箇所に残っています。その結果、ある集団に利益をある集団に不利益を与えているといえます2たとえば、Michael Omi, Racial Formation in the United States, Routledge

だからこそ、人種主義は人種をとおして不均衡を作り出すパワーのシステムといえるのです。抽象的な説明が続きましたので、ここからは具体的な例とともに人種主義を解説します。



1-2: 人種主義の具体例

「科学的」とされた人種主義は植民地主義や国民国家の形成と共犯関係にありながら、マイノリティ集団の抑圧、排斥、虐殺を引き起こしました。これは人種主義の第一の意味です。

しかし、今日問題となるのは人種をとおして不均衡を作り出すパワーのシステムという意味での人種主義の場合が多いです。それぞれの人種主義をアメリカを事例にみていきましょう。

1-2-1: アメリカにおける人種主義:第一の意味

アメリカでの人種主義でもっとも悪名高い事例は、黒人の奴隷制度でしょう。奴隷制度がどう形成されたのかを確認すると、第一の意味の人種主義を理解できます。

再度確認すると、人種主義の第一の意味とは、人種に本質的な優劣があることを前提に、人種的な差別をすることです。そして、アメリカにおいて奴隷制度は、大まかに次のような過程で形成されました3竹沢 泰子 (編集)『人種概念の普遍性を問う―西洋的パラダイムを超えて』人文書院

  1. イギリス植民地化の17世紀の北アメリカ大陸、皮膚の色ゆえに黒人は市民的または社会的な障害に出逢うことはなかった
  2. しかし17世紀末になると、アフリカから直接連行される人々の数が増加
  3. これらのアフリカ人は新世界で必要とされる農業技術を身につけていた(熱帯の土壌での農業についての知識、金属細工、木材加工、カゴ作り、革細工、家屋の建築、陶器の製造といった農夫がそなえる技術)
  4. これらのアフリカ人は労働者として奉仕されるにはもっとも望ましい存在と考えられ、貪欲さに駆り立てられたプランテーションのオーナーが彼らを奴隷化
  5. 当初、大勢のアフリカ人を奴隷にするために正当化された根拠として、彼らが異教徒であることが利用された
  6. しかし18世紀の初めまでに身体的特徴、特に皮膚の色が自由・非自由と結びつけて考えられるようになる
  7. 18世紀末に奴隷反対運動が勢いをもつと、黒人とその子孫を奴隷化する新たな根拠が必要となる
  8. そこで黒人、インディアン、白人といった別々の集団が不平等であるのは自然なことであるという「科学的」な人種概念が登場する

どうでしょう?奴隷制度の形成過程を大まかに理解できましたか?

奴隷制度で使われた人種のイデオロギーは経済的、宗教的、政治的、社会的に作用して、長らくアメリカの支配的な考え方となります。

言い換えると、アメリカの人種主義の歴史は有色人種の社会的上昇に制約を与え、白人に特権を与えた歴史といえるでしょう。



1-2-2: アメリカにおける人種主義:第二の意味

それが人種主義の第二の意味、つまり人種によって白人が利益を得て、有色人種が不利益を被るシステムに繋がっています。

ここではアメリカの生活水準、失業率、教育達成度、貧困率といった指標をみてきましょう。

2014年のアメリカでの失業率4Bureau of Labor Statistics 2015 Labor Force Characteristics by Race and Ethnicity, 2014: REPORT 1057

  • 白人:5.3%
  • ラティーノ:7.4%
  • 黒人:11.3%

2015年のアメリカでの教育達成度5Excelencia in Education 2015 The Condition of Latinos in Education.

  • 93%の白人が高等学校を卒業する一方、高等教育を終えたラティーノは66%
  • 大学(学部レベル)を卒業した割合は白人36%に対して、ラティーノ15%

2015年のアメリカの貧困層6Kaiser Family Foundation 2015 Employer Health Benefits Annual Survey

  • 白人:9%
  • ラティーノ:21%
  • 黒人:24%

2005年までの職業と富の割合7Gardner, Marilyn 2005 “Is White the Only Color of Success?” Christian Science Monitor”

全米上位500社の95%が白人によって経営さていて、特定の技術を要する専門職も白人に独占

  • 獣医
  • 農家
  • 探鉱機械製作者
  • 言語病理学者
  • 電気技師
  • 薄板工
  • パイロット
  • 建設監督者や管理者
  • 探偵

などの33の職業の90%はアメリカ合衆国人口の約60%の白人が占める

どうでしょう?人種間の差異が、階級的・社会的な差異に直結してることがわかると思います。

人種間の不均衡は、歴史的な人種主義により限定的な選択を強いられた結果生まれたものです。つまり、社会構造による特定の人種の歴史的な排除が問題なのです。

アメリカで今日人種主義が非難されるとき、このような白人が利益を受けて有色人種が排除うける社会構造が問題となるのです。

1章のまとめ
  • 人種主義とは、①人種に本質的な優劣があることを前提に人種的な差別をすること、②人種をとおして不均衡を作り出すパワーのシステムのことである
  • アメリカの場合、白人が利益を受けて有色人種が排除うける社会構造が問題となる

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2章:21世紀における人種主義

さて、2章では21世紀における人種主義を解説していきます。

2-1: 見えにくい人種主義

21世紀においても人種主義が問題になるのは、なぜだか理解できましたか?アメリカの、強いては日本の人種主義は大きな問題に直面しています。それは人種主義が見えにくくなっていることです。

人種主義が見えにくいとは何を意味するのでしょうか?結論からいうと、人種主義が見えにくいとは、

人種主義が社会構造として残るにもかかわらず、あたかも人種主義は個人・社会に影響を与えない

とされることです。

「人種間の格差がこれほどひどいのに、構造的な人種主義がないとはいえないだろう」という方も多いと思います。

しかし私たちが生きる社会は人種主義を社会的なものではなく、個人的なものに還元しています。アメリカと日本の具体例をみてきましょう。

2-2: アメリカの人種主義

アメリカで人種主義が見えにくくなる要因は大きく3点あります。ここでは「2008年のオバマ大統領の当選」「MTVの調査」「人種主義制度の廃止」からみてきましょう。

2-2-1: 人種主義が見えにくくなる要因:2008年のオバマ大統領の当選

人種主義が見えにくくなる要因の一つは、オバマ大統領の当選です。たとえば、ビジネス新聞のウォール・ストリート・ジャーナル紙はオバマの当選を次のように伝えています8Wall Street Journal “President-Elect Obama” November 5th, 2008.

「アメリカ社会における平等な機会の証拠であり、他の西洋民主主義国家において、このような出来事はおきなかった」

「もしかすると、我々は人種主義が成功への障害であるという神話を鎮めることができるのではないか」

有色人種であるオバマの当選は、人種主義を乗り超えた平等な社会の証明として社会一般に認識された出来事だったのです。

2-2-2: 人種主義が見えにくくなる要因:MTVの調査

2014年にMTVは2000年代に成人する世代(ミレニアル世代)の人種的偏見に関する調査をおこなっています。その調査は人種主義を乗り超えた平等な社会という考えを示しています9MTV 2014 Bias Survey Summary.

MTVの調査は、以下のように要約されています。

  • 72%の回答者は自らの世代は以前の世代に比べて平等な社会である
  • 回答者の89%が個人は人種的差異に関係なく平等に扱われるべきである
  • 62%の回答者(58%の有色人種、64%の白人)は黒人の大統領は人種的マイノリティにも白人と同等の機会があることを証明する存在と考えている
  • 回答者の67%は黒人大統領の存在は人種が社会的成功への障害ではないことを証明すると回答
  • 73%は人種自体を考慮しないことが社会を進歩させると考えている

MTVの調査に示されていることはなんでしょうか?それはカラーブラインド社会と社会的成功に対する個人の責任の強調されていることです。

カラーブラインドとは要するに、「色(人種)に対してブラインドになる(見ない)こと」です。つまり、人種を語ることそれ自体が「マナー違反」であるという考えです。(→カラーブラインドとは

そして社会的成功に対する個人の責任は、成功しても失敗しても自己責任であるという考えです。この考えは新自由主義という思想と容易に共鳴します(→新自由主義とは)。

MTVの調査からわかることは、人種主義や人種それ自体の認識が衰退しているということでしょう。人種の神話が常識となった今日、もっとも礼儀正しい振る舞いは人種をみないことなのです。



2-2-3: 人種主義が見えにくくなる要因:人種主義制度の廃止

加えて、アメリカの人種主義的な制度はすべて撤廃されています。たとえば、アメリカの人種主義的な制度は時代ごとに進歩を見せてきました。

  • 南北戦争後の再建期での奴隷解放(アメリカ合衆国憲法修正案第13条、14条、15条の承認)
  • 1940年代には中国人排斥法の廃止
  • 1950年代から1960年代の公民権運動(人種隔離の撤廃や1965年の投票権法の制定)
  • 1967年に異人種間の結婚を禁止する法律の違憲と認める

このようにみると、さまざまな人種主義的制度は時代とともに改善されたといえます。公民権運動の成果は有色人種の教育達成度の改善、経済的な成功、さらには政治的指導者の出現に示されています。

しかしその結果、人種主義が存在するとすれば、それはある一個人の問題であり責任となる状況に陥っています。社会構造と結びついた出来事として、人種主義が認識されないのです。

つまり、人種の重要性を否認し個人の自由と平等を謳うとき、

  • 継続する人種主義の構造の存在は見えにくくなる
  • 社会構造による排除は不問となる

といった問題に直面します。

アメリカで人種主義が見えにくくなる社会状況が理解できましたか?続いて、日本の状況をみていましょう。



2-3: 日本の「人種」主義

日本では人種が問題の原因となりにくいため、日本の人種主義といわれてもピンと来ない方が多いと思います。そこで、そもそも大前提を思い出してください。

人種主義の大前提とは、私たちが「人種(race)」と呼ぶものは、生物学的に存在していない上に、存在するのは社会的につくられた「人種」だけというものです。

人種主義の大前提を理解すると、たとえば、日本のアイヌ民族は社会的につくられた「人種」であるといえるかもしれません10東村 岳史 「呼称から考える「アイヌ民族」と「日本人」の関係–名付けることと名乗ること」『国際開発研究フォ-ラム』(34), 87-101それは次の理由からです。

  • アイヌ民族とは誰か?という問題を語るとき「血の濃さ」が頻繁に問題になるが、生物学的に人種を区別をすることは意味をなさない
  • 問題はどうアイヌ民族が社会的につくられたのか?アイヌ民族が社会的につくられたとき、社会構造からどのような排除がされたのか?が問題となる
  • 言い換えると、「日本人」は社会構造からどう利益を得るのか?が問題の焦点となる

重要なことは人種主義とは皮膚の色による差別ではなく、社会的にパワーをもつものが特定の集団を排除する社会構造だということです。

2-3-1: 見えにくい日本の人種主義:民主主義の落とし穴

日本で人種主義が見えにくくなるのは、民主主義が広く共有されるからこそ起きる落とし穴があるからです。

民主主義的な社会では、社会の構成員はだれもが同等の位置にあるかのように扱うことを原則としています。つまり、個人の自由と平等が強調されます。

たとえば、東京医科大学の女性差別問題を考えてみてください

  • 公正・平等に実施されるはずの大学入試で、女性の合格者数が意図的に抑えられて大きな問題になる
  • 個人を平等扱わないことが問題になるのは、民主主義が広く共有されるからこそ起きる問題
  • 民主主義の原理は、私たち社会を支える重要な権利(→民主主義についてはこちらの記事を参照ください)

確認しますが、個人の自由と平等が強調されることを否定しているのではありません。それらは私たちが生きる社会でもっとも必要な権利の一つです。

問題は「機会への公平性」が強調されすぎることで、人種主義を受け続ける人びとはしばしば特権集団として描かれるという逆火(backfire)が起きることです。

  • たとえば、日本が近代化する過程で抑圧をうけたアイヌ民族に対する補助金制度は、特権としてしばしば批判の対象
  • ある元市議会議員によると、「アイヌなどもういない」のにかかわらず、「同じ日本人を区別する」ことが補助金制度の問題であるという

元市議会議員の主張は、民主主義の意識が広く共有されるから起きる主張ではないでしょうか?

一見リベラルな民主主義の原則に潜む落とし穴を、一度深く考えてみてください。「機会への公平性」というレトリックよって制度的な排除が正当化される場合があります。

日本人でないということが抑圧される理由になるような状況がとき、それはどのような社会構造から生まれているのでしょうか?考える価値のある疑問です。

2章のまとめ
  • 個人の自由と責任を強調する社会で、人種主義は見えにくくなっている
  • 人種主義が存在するとすれば、それはある一個人の問題であり責任となる状況
  • 人種主義とは皮膚の色による差別ではなく、社会的にパワーをもつものが特定の集団を排除する社会構造

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3章:人種主義の学習リスト

どうでしょう?人種主義とはなにか?を理解することはできましたか?これから紹介する学習リストから、人種主義に関する理解を深めてください。

おすすめ書籍

藤川隆男 『人種差別の世界史』(刀水歴史全書

エビちゃんからマライア・キャリーまで登場する人種主義の書物。世界における人種主義の歴史をわかりやすく解説しています。タイトルは真面目ですが、学術的な専門書ではありません。初学者に大変おすすめ。

竹沢泰子『人種概念の普遍性を問う―西洋的パラダイムを超えて』人文書院

人種主義の歴史と現在を学術的に議論した本。人種主義を真面目に学びたい方におすすめ。

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まとめ

いかがでしたか?この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 人種主義とは、①人種に本質的な優劣があることを前提に人種的な差別をすること、②人種をとおして不均衡を作り出すパワーのシステム
  • 個人の自由と責任を強調する社会で、人種主義は見えにくくなってい
  • 人種主義とは皮膚の色による差別ではなく、社会的にパワーをもつものが特定の集団を排除する社会構造

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