主権国家体制(Sovereign state system)とは、国家より上位の権力を認めず、国家間が対等な立場に置かれることを前提とした国際社会におけるシステムのことです。
17世紀の西ヨーロッパの一部の国家で成立し、それから地球全体に広がったシステムですが、実は現在は「主権国家体制が揺らいでいる」と言われています。
しかし、かと言ってそれ以外のシステムが見つかっているわけでもありません。
私たちが暮らす世界は、もしかしたら新しいシステムへの過渡期にいるのかもしれません。
あなたが政治学、経済学、社会学などの社会科学を学びたいと考えているのなら、主権国家体制について理解することは必須です。
あなたが社会人(ビジネスマンでも投資家でも)であっても、世界の理解をより深める上でとても大事な考え方です。
主権国家体制を抜きに、現代の国際社会を理解することはできないからです。
そこでこの記事では、
- 主権国家体制とは何か?
- 主権国家体制どのような問題を抱えているのか?
- 主権国家体制はどのように成立したのか?
- 主権国家体制について学べる書籍リスト
について説明します。
興味のあるところから読んでみてください。
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1章:主権国家体制とは?
1章では、まずは主権国家体制の意味や過去の体制との違い、抱える問題点などについて整理します。
主権国家体制成立の経緯については、2章をお読みください。
1-1:主権国家体制の意味
もう一度意味を確認しましょう。
主権国家体制とは、国家より上位の権力を認めず、国家間が対等な立場に置かれることを前提とした国際社会におけるシステム
ということでした。
主権国家体制は、ウェストファリア条約(1648年)によってはじめて成立し、それ以降アジア・アフリカの植民地の独立を経て世界中に広がることになりました。
1-1-1:上位権力がないとはどういうことか
現在の世界を見ると、国家に権力を及ぼす(つまり国家をコントロールできる)何らかの組織や人間はいませんよね。
たとえば、漫画ONE PIECEには、国家に権力を及ぼす「世界政府」が出てきますが、これは国家の上位権力であると言えます。
しかし、私たちの世界には世界政府的な存在はありませんし、歴史上存在したこともありません。
これが、「国家の上位権力が存在しない」という主権国家体制の最大の特徴です。
1-1-2:主権国家とはどういう意味か
主権国家について、もう少し詳しく説明します。
主権国家とは、上位権力が存在しないことから、以下の特徴を持ちます。
- 国境によって他国と区別された領土を持つ
- 領土内の統治について一切の制約を受けない排他的な権利を持つ(対内的主権)
- 国際関係において、他国と対等な立場が認められている(対外的主権)
現在の世界が、主権国家体制がベースになっているということは、これらの権利について犯すことは許されないと考えられているということです。
たとえば、A国の国内政治にB国が干渉しようとすると、それは「内政干渉」であると批判されることになります。
極端な話、日本の政治についてアメリカが口を出すことは許されないということです。
1-2:主権国家体制とそれ以前の体制の違い
しかし、主権国家体制が当たり前になった世界に暮らす私たちにとって、当たり前のことを説明されてもよく分からないかもしれません。
主権国家体制を理解するためには、過去の政治体制について理解する必要があります。
ウェストファリア条約が結ばれるより前、つまり17世紀初頭より前の時代、ヨーロッパ世界は、
- カトリック教会による宗教的支配
- 土地支配を通じた国王や諸侯による支配
という重層的な支配体制が存在しました。
2章で詳しく説明しますが、この支配体制を崩そうとした人々による戦争(三十年戦争)からウェストファリア条約が結ばれ、各国の主権が認められ、それ以降主権国家体制が広がっていくことになったのです。
1-3:主権国家体制が抱える問題点
こうして成立した主権国家体制ですが、現代ではこのシステムが揺らいでいると言われています。
その理由は以下の通りです。
1-3-1:非国家主体の増加
主権国家体制では、国際社会はあくまで国家がメインの行為者(アクター)であることが前提とされていました。
しかし、近年は、
- GAFAのような国際社会に大きな影響を与える巨大多国籍企業
- 国連、IMF、WTOのような国際機関
- 国境なき医師団、グリーンピースなどのNGO
など、国際社会のアクターは多様になっています。
したがって、国家が最高の権力を持っているという主権国家体制は、曖昧なものになっているのです。
非国家アクターが増えている現在の世界の状況について、国際政治学者の田中明彦は「新しい中世」と名付けました。以下の記事をご覧ください。
1-3-2:地域主義(リージョナリズム)の進行
近年は、地域主義(リージョナリズム)が進行しています。
地域主義とは、地理的に近い国家同士が政治的まとまりを作り、経済統合を進めたり協調的な政策を行ったりすることです。
代表的なものはEUですが、日本の参加しているAPECやTPPもその一種です。
EUを見ると分かるとおり、地域主義は国家の権力と一部干渉するものであり、主権国家体制を揺らがせる一つの現象と言えます。
地域主義について、詳しくは以下の記事で解説しています。
【地域主義・地域統合とは】国際経済の新たな流れが生まれた理由・背景を解説
また、地域主義の代表例であるEUが抱えている問題については、以下の記事で解説していますので、ぜひ読んでみてください。
1-3-3:国境が曖昧になる
グローバル化の進行によって、国境を越えたヒト・モノ・カネ・情報の移動が進行し、世界は一体化・同質化を進めていると言われます。
国家はヒト・モノ・カネ・情報の動きを国境で管理していたのですが、現在すべての動きを国家が管理することは不可能になりました。
つまり、国境が曖昧になっているのです。
したがって、国家の主権が完全なものにはならなくなってきている。つまりグローバリズムの進行も主権国家体制を揺るがせているのです。
※主権国家体制について以下の本では簡単に説明されているので、入門書として最適です。
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ここまで主権国家体制について詳しく説明しましたが、主権国家体制はある日突然生まれたわけではありません。
そこで2章では、主権国家体制が成立した歴史について、詳しく解説します。
- 主権国家体制とは、国家が最高の権力で国家間が対等な立場のシステムのこと
- 主権国家体制は、ウェストファリア条約以降に成立した
- 主権国家体制は、現在では崩れつつあると言われる
2章:主権国家体制が成立した経緯
主権国家体制は、時間をかけて成立しました。
端的に言うと、
- カトリック教会に対抗するプロテスタント
- カトリックの教皇に対向する国王・領主
という戦いだった三十年戦争で、国王・領主たちが勝ったことで、はじめて国家主権が認められたのでした。
2-1:主権国家体制成立のきっかけになった三十年戦争
三十年戦争とは、
- カトリック教会の教義に疑問を持ち、教会の改善や新しい宗派の独立を目指したプロテスタントによる宗教的な争い
- カトリック教会による支配を打ち破り、自分たちの領土は自分たちで支配したいと考えた国王や諸侯による政治的な争い
の2つが合わさった戦争でした。
2-1-1:ヨーロッパにおける支配体制
繰り返しになりますが、そもそもヨーロッパでは国境によって明確に領土が決められ、一つの政体によって完全に支配された政治的まとまりは存在しませんでした。
存在したのは、
- 土地とその土地に縛り付けられた人間を支配する国王や諸侯による支配
- 国王や諸侯をさらに支配する皇帝による支配
- ヨーロッパの最高の宗教的権力者であるローマ教皇による支配
といった重層的な支配関係です。
2-1-2:中央集権国家の成長
しかし、カトリック教会を頂点とした支配関係は、14世紀に入って国王が権力を強めるに連れて崩れていき、主にイギリス、スペイン、フランスなどで中央集権国家が成長していきました。
さらに、ルターをはじめとして、カトリック教会の腐敗を嘆いた人々が、カトリック教会の改善を求めて立ち上がり、16世紀以降宗教改革がはじまりました。
政治と宗教の両方から、カトリック教会の支配を崩す動きが出てきたのです。
※宗教改革について、詳しくは以下の記事を読んでみてください。
特に、カトリック教会の抑圧を受けていた神聖ローマ帝国(ドイツ)で1618年に内乱が起こり、そこに周辺国が介入したことで三十年戦争が起こりました。
この三十年戦争を終わらせたのが、ウェストファリア条約です。
2-2:ウェストファリア条約による主権が成立
ウェストファリア条約では、
- 国王は自分の領土において、カトリック教会の介入を受けない排他的な権力が認められる
- 国王や自分の領土において、自由に宗教を決めることができる(つまり、カトリックを強制的に信仰しなくて良くなった)
ということが認められました。
現代のように、個人が宗教の自由を持つことはできず、国王による支配も受けるのですが、ウェストファリア条約によってはじめて領土内では上位の権力からの干渉を受けないことが約束された、主権国家が誕生したのです。
その後、主権が認められた国家は、さらに国家として強固な体制を作って行くために、
- 傭兵中心の軍事力→常備軍の創設
- 臨時的な租税制度→常態的な徴税システム
- カオスな国内秩序(身勝手な貴族や能率的ではない行政)→秩序的にするための改革
- カオスな国際社会→国際法の制定や勢力均衡による安定した秩序
といった努力をしていきました。
これがベースとなり、現在に近い国家が作られていったのです。
2-3:植民地の独立による主権国家体制の拡大
こうして生まれた主権国家体制でしたが、主権国家は当初西ヨーロッパにしか成立していませんでした。
主権国家という概念自体、西ヨーロッパで成立したのですから当然ですよね。
その後、世界では、
- アメリカ→独立戦争によって主権を得る
- 日本→諸説あるが、明治維新以降に主権を得る
- アジア・アフリカの植民着→第一次世界大戦、第二次世界大戦を経て、宗主国から独立することで主権を得る
というように、主権国家体制が拡大し現在に至っています。
それでは、ここまでをまとめてみましょう。
- 主権国家体制は、30年戦争を終わらせたウェストファリア条約によって成立した
- 30年戦争は、プロテスタントと国王、諸侯がカトリック教会の支配体制を崩すために行われた
- 主権国家体制は西ヨーロッパから世界中に拡大した
3章:主権国家体制について学べる書籍リスト
主権国家体制成立の経緯について、理解できたでしょうか?
ここでは大まかな流れしか紹介できませんでしたが、主権国家体制の成立は国ごとにドラマがあり、独自の歴史があります。
それぞれを学ぶことは、世界を理解することに通じますし、日本の主権の歴史について知ることは、私たち自身のアイデンティティに関わるとても重要なことです。
そのため、より深く知りたい方には、以下の書籍をおすすめします。
高沢紀恵『主権国家体制の成立 (世界史リブレット) 』(山川出版社)
主権国家体制成立の歴史について、まずは広く学びたいという場合はこちらの書籍をおすすめします。100ページにも満たない量ですが、コンパクトに学ぶことができます。
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清水聡『国際政治学: 主権国家体制とヨーロッパ政治外交』(法律文化社)
国際政治学の視点から、主権国家体制とヨーロッパの歴史についてより深く説明された本です。主権国家体制を中心に、国際政治学について広く理解できます。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 主権国家体制とは、ウェストファリア条約によって成立した、国家の上位権力を認めず、国家の領土内における排他的支配や国家間の平等などをベースにしたシステム
- 主権国家体制のもとでは、いかなる権力も国家に内政干渉したり、領土を侵されたりすることが許されない
- 主権国家体制は、現在ではグローバル化や地域主義、非国家アクターの登場によって揺らいでいる
このサイトでは、他にも現代社会を構成する重要な概念について解説していますので、ぜひこれからも読んでみてくださいね。