社会思想

【エスノグラフィーとはなにか】その意味や書き方をわかりやすく解説

エスノグラフィーとは
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エスノグラフィー(ethnography)とは、フィールドワークや参与観察といった経験的な調査をとおして、自分の慣れ親しんだ文化と異なる文化に生きる人びとの社会生活について記述する営みを意味します。

「エスノグラフィー」という言葉は文化人類学や社会学を学ぶ学生にとって馴染みの深いものかもしれませんが、一般の方にはなかなかつかみどころがない言葉なのかもしれません。

しかし今日、「エスノグラフィー」は福祉や看護、医療に携わる方だけでなく、ビジネスマンや行政職員などの実社会における現場でも使われる用語となっています。

そのため、エスノグラフィーの意味や生まれた歴史、そして実際の作業を知ることはとても大事です。

そこで、この記事では、

  • エスノグラフィーの意味
  • エスノグラフィーの書き方
  • エスノグラフィーの注意点

などのそれぞれ解説していきます。

あなたの関心に沿って、読んでみてください。

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1章:エスノグラフィーとはなにか

エスノグラフィーを生み出した文化人類学という学問は、この記述の営みに関して膨大な蓄積があります。そのため、1章では文化人類学の歴史に触れながら、エスノグラフィーの特徴や意味を解説していきます。

1-1: エスノグラフィーの意味

再度確認しますが、エスノグラフィーとは、

フィールドワークや参与観察といった経験的な調査をとおして、自分の慣れ親しんだ文化と異なる文化に生きる人びとの社会生活について記述する営み

を意味します。

非常に簡単にいうと、エスノグラフィーとは異文化を記述した記録です。

「なぜ異文化を記述した記録をエスノグラフィーというの?」

とあなたは思うかもしれません。それは「エスノグラフィー」の語源を知ることで理解できます。

1-1-1: エスノグラフィーの語源

そもそも、「エスノグラフィー」という言葉は、

  • ギリシャ語の由来する2つ言葉が合わさった造語
  • 具体的に、「(異なった)民族」を意味する「ethnos」と「描く・書く」を意味する「graphein」に由来する

ものです。

もともとは多様な民族を研究する学問分野であった「民族学」を指す言葉でしたが、今日では異なる用法があります。

そのため、ここで注意したいのは「エスノグラフィー」という言葉はいくつか異なった意味で使われることです。具体的に、「エスノグラフィー」は次のような意味で使用されます。

  1. 経験的な調査から異文化の記述をした「生産物」を意味するもの(冒頭で示したもの)
  2. フィールドワークという調査の「プロセス」を指すもの
  3. 「民族誌学」「記述民族誌学」を意味するもの(古い用法)

それぞれの意味は大きく異なりますので、注意してこの言葉を使用する必要があります。特に、方法論として「エスノグラフィー」が頻繁に使われますので注意してください。

お分かりのとおり、この記事では①の用法で「エスノグラフィー」を使っています。そのため、日本語では「民族誌」と訳される場合が多いです。

1-1-2: 異文化の記述とその対象

さて、これまで乱暴に「異文化を記述したもの」を「エスノグラフィー」といってきました。それは文化人類学が伝統的に対象としてきた社会が「未開社会」だったからです(→【文化人類学とはなにか】の記事へ)。

たしかに、文化人類学はラテンアメリカやアフリカといった「辺境」における社会を対象としてきました(→エスノグラフィーの古典的な例は『西太平洋の遠洋航海者』)。

しかし、今日「異文化」といわれる対象は大きく変化しています。たとえば、次の人びとを考えてみてください。

  • 都市におけるゲットーなどの地区
  • 奇抜なファッションをする若者文化
  • 一見理解しがたい、サブカルチャー
  • 永田町における政治家たちの世界

こうしてみると、従来の国家や民族といった枠組みを超えて、現代世界で起きるあらゆる現象がエスノグラフィーの対象となっているのです。

事実、エスノグラフィーの対象は、

  • ビジネスシーンやマーケティングにおける応用
  • 消費者調査やサービス改善などの調査
  • 災害を経験した人びとに対する「災害エスノグラフィー」
  • 観光をテーマとするエスノグラフィー

などに広がりをみせています。

今日エスノグラフィーという「異文化の記述」が実践的な役割を担っていることがわかると思います。



1-2: エスノグラフィーの特徴

さて、エスノグラフィーの特徴は「参与観察・フィールドワーク」「文脈理解」「自己の相対化」から理解できます。それぞれ解説していきます。

1-2-1: 参与観察・フィールドワーク

エスノグラフィーの特徴的な点は、

異文化と自分自身で直接対峙するというフィールドワークが方法論であること

です。

他の学問では、対象に対して異なるアプローチをします。たとえば、

  • 文学…対象に対する想像をふくらまして語る方法(文学という学問についてはこちらの記事→【文学とはなにか】の記事
  • 歴史学…文献資料をもとに、対象を再構成する方法

これらのアプローチと異なって、エスノグラフィーでは異文化の中に自ら飛び込み、相手の視点から物事を理解しようとします。これが「参与観察」といわれるものです。

エスノグラフィーが経験的な調査とおした記述と定義されるのは、このような徹底的な経験主義的なあり方にあるのです。

言い換えると、エスノグラフィーとは現地の人びとを内側から理解しようとする記述の営みといえるでしょう。

フィールドワークという方法論について詳しくは、次の記事を参照ください。

【フィールドワークとは】やり方からメリットまでわかりやすく解説

1-2-2: 文脈理解

「参与観察」とつながる部分でありますが、エスノグラフィーでは、

具体的な事象を細かく観察しながら、他の事象と関係でその事象を捉えること

が大事です。

他の調査方法では対象を文脈から抜き出すこともありますが、エスノグラフィーでは対象をその文脈に位置づけることが重要です。

たとえば、エスノグラフィーの対象は、

  • 非言語的な行為
  • 社会組織や親族体系
  • 写真や映画といったイメージ

と多岐にわかります。

エスノグラフィーではそれらの対象を現地の歴史や国際情勢など関係性、つまり「文脈」に位置づけて理解しようとするのです。

この特徴は文化人類学において支配的であった社会進化論的な立場に批判をした、機能主義的な立場と重なります。それぞれの立場を知ると、エスノグラフィーの理解が深まります。

1-2-3: 自己の相対化

異文化を内側から記述することが可能になってくると、

現地の人びとのモノの見方が当たり前になり、自分が慣れ親しんだモノの見方が奇妙にみてくる

という現象が起きます。これを「相対化」と呼びます。

たとえば、あなたが異文化の不思議で一見理解不可能な慣習や主張に触れたときを想像してみてください(「亀が私の祖先である!」「暴走族のトップになることが俺の夢だ」)。

そのとき、

「なんて劣った考えをする人びとなんだろう」

「奇妙な習慣だから、笑いのネタにしよう」

とあなたが反応したとしたら、それはエスノグラフィー的な態度ではありません。

このような場合、エスノグラフィーではある奇妙な習慣の背後にある社会的な機能や体系を知ろうとします。つまり、ある社会の内部からモノの見方をしろうとするのです。

自分の慣れ親しんだ世界から距離をとり、その社会における文脈で意味を理解することは簡単ではありません。しかし自分の世界を反省的に省みること、そのような批判的な態度がエスノグラフィーの特徴であり、本質なのです。

自己を省みることは、文化人類学の基本的な倫理観でもあります。それは「文化相対主義」と呼ばれるものです。ぜひ合わせて読んでみてください。

【文化相対主義とはなにか】具体的な例や問題点をわかりやすく解説

これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • エスノグラフィーとは、フィールドワークや参与観察といった経験的な調査をとおして、自分の慣れ親しんだ文化と異なる文化に生きる人びとの社会生活について記述する営みである
  • エスノグラフィーの特徴は「参与観察・フィールドワーク」「文脈理解」「自己の相対化」である

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2章:エスノグラフィーの書き方

さて、フィールドワークという経験的な調査から得られた資料をもとに、エスノグラフィーは作成されていきます。

ここで大事なのは、フィールドワーク(調査)とエスノグラフィー(書くこと)には大きなギャップがあることを認識することです。

たとえば、フィールドワークで得られた資料には、

  • 現地で起きたことを記録するフィールドノート
  • 数時間におよぶインタビュー調査のデータ
  • 数百枚におよぶ写真や動画等の映像データ
  • 図書館や博物館で集めたアーカイブ資料

があります。

このような記録の山を目の前にすると、どのように資料に向き合えばいいのかわからなくなります。

そこで、2章ではこれらの難点を乗り越えていくための要点や注意点を紹介していきます。

2-1: エスノグラフィーの作成における要点

エスノグラフィーの構成を考える際に、非常に役立つのは社会学者である箕浦康子の『フィールドワークの技法と実際』(1999)です。

この著作で箕浦はフィールドワークの必要スキルからエスノグラフィーの構成まで詳しく解説しています。そのなかで、エスノグラフィーをどう書き出すか迷ったとき、次の作業を提唱しています。

  1. 類似のリサーチ・クエッションを文章化して、類似の先行研究をみてみる
  2. フィールドワークをあり方を記述する(フィールド自体の記述、フィールドワークを実施した時期、研究方法等)
  3. フィールドワークの結果、明らかになった事実を列挙する。列挙した事実の根拠となるデータをフィールドノートから抜き出す
  4. フィールドワークから得られた事柄に考察・解釈を加える

これらの作業をする前段階として大事なのは、読者を想定することです。「学生向け」「研究者向け」「一般向け」なのかで書く内容は当然変わってきます。

つまり、エスノグラフィーは①あなた自身の目的に沿って読者を想定する、②書き出しに困ったときは上述の作業を参考にする、といった進め方が望ましいかもしれません。

箕浦康子の『フィールドワークの技法と実際』は、フィールドノートの取り方から解釈の方法まで詳しく解説されていますので、初学者には大変おすすめです。さらに詳しい内容を知りたい方は、ぜひ読んでみてください。

2-2: エスノグラフィーの注意点

さて、エスノグラフィーの作成に関して注意した点があります。それはエスノグラフィーという営みがもつ不均衡な関係性の問題です。

エスノグラフィーは一種のブームとして実社会でも広く活用されつつあります。しかし、異文化を記述する営みが1960年代から鋭い批判の対象となってきたことは、研究者以外で語られることは少ないのかもしれません。

エスノグラフィーに対する批判は、主に次の2つの波があります。

エスノグラフィー批判の2つの波

  1. 1960年代…国際的な脱植民地化に共鳴して、「調査する側/調査される側」の不平等な関係性に批判が加えられる(脱植民地化に関する一連の問題は→【ポストコロニアリズムとはなにか】の記事
  2. 1980年代…ジェームズ・クリフォードとジョージ・マーカス編による『文化を書く』が提示した一連の問題。
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ジェームズ・クリフォードとジョージ・マーカスによって提示された②の批判は、特に大事です、なぜならば、

  • フィールドを切り取る概念やそれを表現する語彙などの知識の回路は、すべてフィールドワーカーが握っていること
  • 発想、観察、分析、記述、理解などの知識の体系は、調査する側のパワーに依存している
  • エスノグラフィーは結局、科学ではなく、ある定式をもつ小説と変わりがない

といった文化表象に関する根本的な問題を提示したからでした。

そのため、『文化を書く』が文化人類学だけに止まらず、他者/他社会を対象とするすべての学問分野において強烈なインパクトを与えたことは不思議ではないでしょう。

エスノグラフィーを書いていきたいと考える方は、エスノグラフィーに加えられた批判をしっかり理解する必要があるでしょう。

2章のまとめ
  • フィールドワーク(調査)とエスノグラフィー(書くこと)には大きなギャップがある
  • エスノグラフィーという営みがもつ不均衡な関係性の問題がある

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3章:エスノグラフィーに関するオススメ本

エスノグラフィーについて理解を深めることができましたか?

エスノグラフィーは幅広い学問分野で使われるだけに、包括的に学ぶ必要があります。そこで入門書を中心にエスノグラフィーを本質を学んでみてはいかがでしょうか。

以下はオススメの文献です。

オススメ書籍

オススメ度★★★ 小田博志『エスノグラフィー入門 <現場>を質的研究する』(春秋社)

エスノグラフィーの基礎的な知識や実際のやり方を、学生やビジネスマン向けに書かれた本です。幅広い読者に開かれているため、入門書としては最適です。

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オススメ度★★★松田 素二/川田 牧人 (編)『エスノグラフィー・ガイドブック―現代世界を複眼でみる』(嵯峨野書院)

文化人類学という学問におけるエスノグラフィーをまとめています。さまざまな事例が紹介されているので、読んでいて非常に面白いです。この記事を書く際にも参照しています。

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最後に、書物を電子版で読むこともオススメします。

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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、気になる方はお試しください。

まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • エスノグラフィーとは、フィールドワークや参与観察といった経験的な調査をとおして、自分の慣れ親しんだ文化と異なる文化に生きる人びとの社会生活について記述する営みである
  • エスノグラフィーの特徴は「参与観察・フィールドワーク」「文脈理解」「自己の相対化」である
  • エスノグラフィーという営みがもつ不均衡な関係性の問題がある

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