社会思想

【ベンサムの功利主義とは】最大幸福からパノプティコンまでわかりやすく解説

ベンサムの功利主義とは

ジェレミー・ベンサム(Jeremy Bentham)の功利主義(utilitarianism)とは、

人間は快楽と苦痛を計算して行動する存在であることを前提に、社会全体の幸福量が最大になる(最大多数の最大幸福)ように法律を作るべきと考えた思想

のことです。

ベンサムの功利主義というと「個人の利己的な行動を肯定する思想」と考えられがちですが、実はそんな単純な思想ではありません。

それに、ベンサムの功利主義はその後の経済学や政治学に大きな影響を与えた、非常に重要な思想です。

そのため、これから政治や経済、社会思想を学ぶ方や、「社会の制度がどのように作られているのか」というカラクリが知りたい方は、絶対に知っておくことをおすすめします。

そこでこの記事では、

  • ベンサムの功利主義の特徴
  • 快楽主義、最大幸福原理などの概念について
  • ベンサムの功利主義、功利計算の本当の主張
  • 刑罰の考え方、パノプティコンについて

などについて詳しく解説します。

知的好奇心が刺激されるとても面白い議論なので、ぜひ興味があるところから読んでみてください。

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1章:ベンサムの功利主義とは

繰り返しになりますが、ジェレミー・ベンサム(Jeremy Bentham)の功利主義とは、

人間は快楽と苦痛を計算して行動する存在であることを前提に、社会全体の幸福量が最大になる(最大多数の最大幸福)ように法律を作るべきと考えた思想

のことです。

ベンサムの功利主義とは

ベンサム(ベンタムと発音されることもある)は、ロンドンで法律家の子として1747年に生まれ、12歳からオックスフォードで学び、18歳で修士号を取った天才です。非常に多くの著作を残しましたが、特に有名なのが『道徳および立法の諸原理序説』です。

この著作をもとに、ベンサムの功利主義の特徴から説明します。

1-1:ベンサムの功利主義の特徴

ベンサムの功利主義を端的に説明すると、

  • 人間の行動原理を「快楽」「苦痛」にあると考えた
  • いい行為は、快楽の総量を増大させる行為であり、悪い行為は快楽の総量を減らす行為である
  • 人間の快楽量は計算できるとし、社会の快楽の総量が最大になるように行動することが道徳的にいいことである
  • したがって、社会の快楽の総量が増えるように法律を作るべきである

というものです。

中心的な考え方は簡単ですが、これだけを読むと冒頭でも指摘したように、「人間の利己的な行動を肯定する思想」と思われがちです。

これは正しくない把握なので、もう少し具体的に説明します。

1-2:道徳論と立法論

ベンサムの功利主義は、以下の2つの思想で構成されています。

1-2-1:道徳論と快楽主義

ベンサムは、当時一般的に考えられていた道徳論を批判し、独自の「快楽主義」に基づいた道徳論を考えました。

当時の一般的な道徳論とは、「自然法思想」や「共感・反感」のように、主観的で計測不能なものを根拠にして物事の善悪や正・不正を区別していました。

ベンサムは、このような道徳論は「何も客観的なものに基づいていない」と批判し、道徳について以下のように説きました。

「自然は人類を苦痛と快楽という、二人の主催者の支配のもとにおいてきた。われわれが何をしなければならないかということを指示し、またわれわれが何をするであろうかということを決定するのは、ただ苦痛と快楽だけである。」

(引用『道徳および立法の諸原理序説』p.81)

これがベンサムの快楽主義です。

快楽主義というのは、たとえば、一見自ら苦痛を求めているように見える「受験勉強」でも、その先にある「合格」という快楽を目指しての行為であるとか、肉体的な強い苦痛がある「マラソン」に愛好者が多いのは、完走したときに大きな快楽があるからである、という考えです。

人間のすべての行動原理が快楽と苦痛に基づいているというのは、多くの人にとって反感がある考えだと思いますが、現実を見ると結局そうなっているのだ、というのがベンサムの思想です。

1-2-2:立法論と最大多数の最大幸福

「快楽主義」と密接に結びついているのが、「最大多数の最大幸福」という思想です。

そもそも、ベンサムの功利主義は、「道徳論で人間の行動原理を説明する」という抽象的な話をすることが目的ではありません。

その先に、具体的にどんな法律を作れば社会の幸福が最大になるのか?という実社会と結びついた目的があるのです。

■最大多数の最大幸福とは

最大多数の最大幸福というのは、社会を構成するメンバーの幸福の総量を計算し、その総量が最大になるような仕組みが、もっとも優れた仕組みである、という考え方です。

具体的に考えましょう。

たとえば、国家における税制を考えてみてください。

国家のメンバーは5人で、うち4人は貧乏人、1人はお金持ちです。

この状況で、お金持ちが100万円ずつ貧乏人にお金を渡すと、貧乏人の幸福度が5→10になり、お金持ちの幸福度は10→5になるとしましょう。

すると、社会全体の幸福量は、

お金を配る前:10+(5×4)=30

お金を配った後:5+(10×4)=45

と、お金を配った後の方が大きくなっています。

この場合、このような税制を作ることでお金を配分することが、「最大多数の最大幸福」になるため、正当化されることになります。

■功利主義の結果主義

上記の例の場合、旧来の道徳論で言うと、お金持ちが「貧乏な人たちが幸せに生きられるようにお金を配分しよう」と考えていれば、それが道徳的に正しいと考えられました。

しかし、ベンサムの功利主義ではその人の心情は関係ありません。

ベンサムの功利主義では、心情に関係なく、結果的に幸福の総量が増大していれば道徳的に正しいのです。

たとえ、お金持ちが「お金を配れば自分が称賛されるだろう」とよこしまな考えを持っていたとしても、結果的に幸福量が増大していれば、それは道徳的に正しい行為なのです(結果主義)。

つまりは、ベンサムの功利主義では、人々が功利的に行動することを前提に、功利的に行動しても社会で「最大多数の最大幸福」が実現できるのが良いのだ。そのような立法をすべきなのだ、と考えられたのです。

1-3:ベンサムの功利主義は利己的行動を抑制する思想

ベンサムの功利主義について知識を持つと「結局、人間の利己的な行動を肯定する思想なんでしょう?」と思う方もいるかもしれません。

しかし、実は逆なのです。

もう一度先ほどの例を思い出してください。

あの具体例では、金持ちはお金を配らずに自分でそのまま持っていた方が自分の幸福度を高く維持できます。

しかし、ベンサム的な功利主義の考え方では、それでは「最大多数の最大幸福」が実現できていないため、社会の幸福度の総量が最大になるように配るべき、とするのです。

つまり、金持ちは利己的な欲求を抑えて、最大幸福のためにお金を差し出すという道徳的な行動をとらなければならないのです。

1-4:ベンサムの功利主義は功利計算できることが前提

ベンサムの功利主義は、ここまで説明したように「快楽主義」「最大多数の最大幸福」という概念が中心にあります。

もうお分かりだと思いますが、ベンサム的な功利主義を実現するためには、「快楽」「苦痛」を計算し、人ぞれぞれ違うはずの「快楽」「苦痛」を足し引きしなければなりません。

そのため、ベンサムは『諸原理』でいかにして功利計算を行うのか、ということについて非常に詳細に解説しています。

具体的に知りたい場合は、ぜひ『諸原理』を読んでみてください。

ここまでをまとめます。

1章のまとめ
  • ベンサムの功利主義では、人間の行動基準は快楽と苦痛であると考えられる(快楽主義)
  • 快楽主義の前提に立ちつつ、社会の幸福の総量を最大化させることが道徳的に正しく、そうなる立法をすべきと考えたのが「最大多数の最大幸福」
  • ベンサムは、道徳を主観的な基準や心情からではなく、幸福の総量の増減という結果から考えた(結果主義)

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2章:ベンサムの刑罰論とパノプティコン

ベンサムが功利主義の思想を詳しく論じたのは、最大幸福を実社会で実現するための立法の在り方について論じるためです。

そのため、ベンサムは実際の刑罰の制度についても論じています。

そこで出てくるのが「パノプティコン」です。

2-1:功利主義の刑罰論

そもそも、罪を犯した人への罰(刑罰)はなぜ正当化できるのでしょうか?

世界で2番目に古いといわれる法典「ハムラビ法典」には、「目には目を歯には歯を」と記載されていることは有名です。

しかし、「やられたら同じだけ(応報主義)」というのは、少なくとも現代社会では認められていません。

功利主義の立場からは、刑罰を与えることが「社会の最大幸福に結ぶつく」のであれば、刑罰は正当化できると考えます。

つまり、刑罰を与えることで、

  • 犯罪が抑止され被害者が減る
  • 加害者が更生する

などがあるなら、刑罰は正当化されるのです。

この考え方からすると、「死刑」は正当化することが難しいです。

なぜなら、死刑すれば加害者の更生は望めませんし、近年「無敵の人」と言われるような、何も失うものがなく、「自分も死ぬから巻き添えに殺す」という殺人者に対しては、抑止どころか殺人の動機を与えてしまうからです。

また、被害者に対する賠償もできなくなります。

このような理由から、「最大幸福」を目指すのであれば死刑は認めにくいのです。

2-2:パノプティコンとは

「最大幸福」を実現するためには、加害者を更生させなければなりません。

そこでベンサムが構想したのが「パノプティコン」です。

パノプティコンとは、真ん中に監視塔があり、その周辺を監獄が囲っているような刑務所のことです。

このような場では、囚人は常に監視されながら行動するため、勤勉に働き、更生し、社会復帰するのだと考えたのです。

こうして更生した囚人が社会復帰することで、社会の幸福の総量が増大するというわけです。

2章のまとめ
  • ベンサムの功利主義の立場から考えると、社会の幸福の総量を増大させるような刑罰は正当化できる
  • そのため、死刑は正当化できない
  • 囚人の更生と社会復帰は社会の幸福を増大させるため、パノプティコンが構想された

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3章:ベンサムの功利主義への批判

ベンサムの功利主義は、欠点も持っています。

それは、社会全体の「最大幸福」を目指すために、個人の幸福については犠牲になりがちということです。

つまり、個人よりも社会のことを重視する傾向があるのです。

1章でお伝えした例でも、金持ちは結局お金を配って幸福度を下げています。少数の犠牲の上に多数の幸福を目指す、という結果を招いてしまう点にベンサムの功利主義は欠点があるのです。

この点はこれまでも多数の学者から批判されたことではあります。

しかし、ベンサムの大胆な理論は政治学や経済学など、社会科学の広い領域に大きな影響を与えたのも事実なのです。

4章:ベンサムの功利主義の学び方

ベンサムの功利主義について理解できましたか?

ベンサムの思想は、実は非常に多岐にわたり、しかも異常なほど詳細に体系化されています。そのため、その全てをここで伝えることは困難です。

そこで、ベンサムの功利主義についてもっと詳しく学びたいという場合は、これから紹介する書籍から学んでみることをおすすめします。

功利主義を学ぶことは、自らの道徳的な基準を考え直すきっかけにもなるはずです。

おすすめ書籍

オススメ度★★★フィリップ・スコフィールド『ベンサム-功利主義入門-』(慶應義塾大学出版会)

ベンサムの功利主義について、詳しく、分かりやすく解説された良著です。より掘りさげて学びたい方はぜひ読んでください。

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オススメ度★★児玉聡『功利主義入門―はじめての倫理学』(ちくま新書) 

ベンサムというより功利主義について網羅的に知りたい場合は、こちらが入門書として最適です。これを読んでから、さらに興味が出た功利主義や倫理学の書籍にあたっていくと良いと思います。

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • ベンサムの功利主義は、社会の幸福を最大化させる立法を考える前提として考えられた
  • ベンサム的には、社会の幸福の総量を増加させることが道徳的に良いことである(最大多数の最大幸福)
  • そのため、刑罰も最大幸福を実現できる場合は正当化できる

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