社会思想

【エピステーメーとは】その意味からフーコーの議論をわかりやすく解説

エピステーメーとは
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エピステーメー(英:episteme, 仏:épistémè)とは、ギリシャ語で「知」や「認識」を意味する用語です。フーコーはこの用語を「ある時代と社会における知の枠組み」として用いました。

フーコーの議論は『言葉と物』(1966)で提示されたものです。やや乱暴な言い方が許されれば、この著作は西欧史において人間が世界をどう理解したのかという認識論を扱っており、フーコーを一躍有名にした代表的な研究の一つです。

その際に登場する概念が「エピステーメー」ですが、この概念は科学史における「パラダイム」という用語と混合されがちですので注意が必要です。

そこで、この記事では、

  • エピステーメーの意味
  • エピステーメーとパラダイムの違い
  • エピステーメーとフーコーの議論

をそれぞれ解説していきます。

あなたの関心に沿って読み進めてください。

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1章:エピステーメーとは

冒頭を繰り返しますが、

エピステーメーとは、「ある時代と社会における知の枠組み」を意味します。

しかしこの定義だけではとても説明が足りませんので、1章ではエピステーメーに関して詳しく解説していきます。

1-1: エピステーメーの意味

エピステーメーの意味を深く理解するためには、まず「物の秩序」がどのように認識されるのか理解するとわかりやすいです。

結論からいえば、物が秩序をもつものとして認識されるためには、その秩序を構成・確立する視点が必要です。そのような物の秩序に先立つ一つの知の枠組みが「エピステーメー」です。

  • 『言葉と物』は、もともと『物の秩序』というタイトルの予定だった
  • 事実、英語に翻訳されたタイトルは『物の秩序(The Order of Things)』となっている

たとえば、『言葉の物』の序章でフーコーは、中国の百科事典を提示しています。その百科事典において、「動物」を次のように分類しています。

  • a. 皇帝に属すもの
  • b. 芳香を放つもの
  • c. 飼い慣らされたもの
  • d. 乳呑み豚
  • e. 人魚
  • f. お話に出てくるもの
  • g. 放し飼いの犬
  • h. この分類自体に含まれるもの
  • i. 気違いのように騒ぐもの
  • j. 数えきれぬもの
  • k. 駱駝の毛の極細の筆で描かれたもの
  • l. その他
  • m. 今しがた壺をこわしたもの
  • n. 遠くから蝿のように見えるもの

近代的な分類基準に慣れていると、「この分類は崩壊してる!」と感じる方が多いと思います。

たとえば、「h. この分類自体に含まれるもの」は一段上にあるメタ分類基準であり、分類の意味自体を崩壊させるものだからです。

他にも「g. 放し飼いの犬」と「m. 今しがた壺を壊したもの」はお互い重複する可能性があり、分類という方法に適していません。

そういった意味で、この分類からわかるのは、

  • さまざまな物はそれ自体に秩序があるわけではない
  • むしろ、それを分類するまなざしが先行的に必要である
  • そのようなまなざしは文化的な背景や時代によって異なる

といった点です。

つまり、秩序とは物のなかに法則を与えられているもので、物の秩序を認識するにはそれに先立った知の枠組みが必要なのです。そのような知の枠組みをフーコーは「エピステーメー」と呼びました。

『言葉と物』とは中世以来に存在した3つのエピステーメーを考古学的に分析したものでした(*この点は2章で詳しく解説します)。



1-2: エピステーメーとパラダイムの違い

ここまでくると、

「それじゃパラダイムとエピステーメーはどんな違いがあるんだ?」

と考える方がいると思います。

そもそも、「パラダイム」という用語は、

  • 科学史におけるある時代や分野における支配的なものの見方
  • トーマス・クーンが『科学革命の構造』で提示した考え方

です。

たとえば、「構造主義は社会科学における支配的なパラダイム」であるといった言い方がされます。

その一方で「エピステーメー」は科学史に限定されたものというよりも、ある時代における学問的な「認識」や経験という「対象」がそのようなものとして現れる思考の可能性と制約している歴史的な条件を分析するものです。

細かい議論を知りたい方は、まずトーマス・クーンの『科学革命の構造』を読んでみてください。手軽に知りたい方には次の解説本がおすすめです。

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いったんこれまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • エピステーメーとは、「ある時代と社会における知の枠組み」を意味する
  • 物が秩序をもつとして認識されるためには、その秩序を構成・確立する視点が必要であり、それがエピステーメーという知の枠組みである
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2章:エピステーメーとフーコー

さて先ほども述べたように、『言葉と物』とは中世以降の西洋に存在した3つのエピステーメーを考古学的に分析したものです。

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それは具体的に、次の3つのエピステーメーです。

3つのエピステーメーの様態
  1. 中世・ルネサンスにおける「類似」…世界の事物が類似関係によってお互いにつながっている
  2. 17世紀半ば以降の古典主義時代における「表象の分析」…目の前または精神の前に現れる像に「表象」を与えながら、同一性と相違性によって秩序づける
  3. 19世紀初頭からの近代における「人間」…人間における有限性がポジティブな意味をもって表象の外部から立ち現れる

『言葉と物』ではこれら3つエピステーメーの様態とエピステーメー間の切断について分析されています。それによって「ことば」と「もの」の関係、そしてその関係に対する人間の認識の変容に焦点が当てられることになります。

2-1: 16世紀ルネサンスにおける類似

まず、フーコーに従うと、中世という時代のエピステーメーの特徴は「類似」です。これは次のようなことを意味します。

類似の特徴

  • 中世にける人間と世界の関係は、「類似」という概念で説明される
  • 世界の諸物はすべて類似性のまなざしに基づいた秩序であった

たとえば、トリカブトの形態と眼の形が類似するために、トリカブトは眼の病気に効くと発想がされていました。今日からみると非科学的な思考が、中世では支配的な知の枠組みだったのです。

フーコーはこのような「類似」に関して、4つの形式を提示しています。

  1. 適合(convenientia)…世界の諸物間にある隣接的な類似関係。たとえば、成長作用における植物と動物の適合、感覚作用における動物と人間の適合
  2. 模倣(aemulatio)…物とイメージが現実性を帯びることによる類似関係。たとえば、明るさにおいて眼が太陽と月に、口は接吻により女神ウェヌスに
  3. 類比(analogie)…わずかな類比に基づいた類似関係。たとえば、星と天空の関係は草と大地の関係を表す
  4. 共感(sympathie)…すべての物を同一視する原理。たとえば、重いものは大地の重力に、向日葵は太陽の運行にという「共感」。この接近は同時に反感を生み出すため、物の自己同一性がうまれれる

ここで提示した細かい類似の形式を覚える必要はないと思います。むしろ重要なのは、

  • 自然の事物の間は、鏡の反射のように存在する模倣関係によって鎖のように結びついていること
  • そして、そのような類似関係は外部に見える徴(しるし)によって読み取られること
  • つまり、すべての物は秘密を明らかにする標識となり、人間はそれを解釈すればよいこと

という世界だったことを理解することです。

このように、中世のエピステーメーとは解釈学と記号学で解読すべき書物のような世界だったのです。



2-2: 17・18世紀の古典主義時代における表象

しかし、「類似」という中世の知の基準は古典主義時代にまでに「表象」に転換します。この転換の代表的な例として登場するのが、『ドン・キホーテ』です。

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ドン・キホーテは昔の騎士の物語、つまり中世のエピステーメーである「類似」によって世界を読み解こうとします。たとえば、彼は旅籠屋に城をみて、家畜の群れに軍隊をみるのです。

しかしフーコーによると、17世紀初頭はすでに「表象」の時代に移行しており、「類似」と外部の徴によって世界を読み取るドン・キホーテの振る舞いはもはや狂気の徴でしかなくなったのです。

ここでは「古典主義時代におけるエピステーメーの特徴」とその代表的な例である「3つの学問」を解説します。

2-2-1: 古典主義時代におけるエピステーメーの特徴

古典主義時代におけるエピステーメーでは「類似」の思考を批判され、「比較による相違」が重要になります。その象徴となるのが、近代哲学の祖であるデカルトです。

たとえば、デカルトは『精神指導の規則』において、

  • 人間精神の働きは、ほとんど比較によっておこなわれると指摘した
  • 特に、「数と量の比較」と「秩序の比較」を重要視した
  • 秩序の比較では、ある項から別の項へ、そして第三の項へと比較することで、連続的な系列をつくっていく
  • 理性によって認識できたものを連続的に結びつけることで、大きな秩序を形成しようとした

簡単にいえば、古典主義時代においては「比較」「分類」「演繹」「計算と分析」が知の基準となったのです。

それは目の前または精神の前に現れる像に「表象」を与えながら、同一性と相違性によって秩序づけるといったエピステーメーだったのです。

2-2-2: 3つの学問

フーコーが焦点を当てるのは、「人間の生命」「言語」「労働・生産」に関する3つの学問です。それらは次のような特徴があります。

  • 博物学(のちの生物学)自然の生物と生き物の人間としての学問。可視的な特徴に基づき、自然の事物に名前を与えて、同一性と相違性から分類する
  • 一般文法(のちの言語学)…人間の認識の発生に関する学問。「語がいかに表象に名を与えるのか。語はどのような順序で並べられているのか」が分析される
  • 富の学問(のちの経済学)富を交換可能性とするために貨幣を富の記号とする。この表象関係から貨幣の量と富の量を対応させるという秩序をつくる

重要なのはこれら3つ学問が物それ自体に関する学問ではなく(生命、労働、言語そのものの分析ではなく)、人間が物について抱くイメージである表象とそれを示す記号の学問だということです。



2-3: 近代における有限性

そして近代におけるエピステーメーは「人間」です。ここでは「博物学→生物学」「一般文法→言語学」「富の学問→経済学」への転換を説明します。

結論からいえば、近代のエピステーメーの転換で重要だった点は古典主義時代の思考とは表象の内部(表象に与えられたものを分析すること)で展開されたものが、「外」から秩序を課すものが出現したことです。

2-3-1: 博物学→生物学

まず中世における自然に関する記述と古典主義時代におけるそれを比べてみましょう。

  • 中世における類似…たとえば、蛇に関する記述では蛇の習性だけでなく、他の物との類似関係や蛇に関する伝説と一緒に語られていた(『蛇と龍の物語』)。つまり、物と記号の世界は類似によって結びついていた
  • 古典主義時代における表象…神話やおとぎ話を排除している(『四足獣の博物誌』)。つまり、物と記号による物語を排除して、表象されたものだけを忠実に記述した

このように古典主義時代における博物学では記号によって語られたことを記述するのではなく、物それ自体に着目し、その収集された物を中性的に記述することが大事なのです。

そして、すべての個体は同一性と相違性によって普遍的な表(タブロー)に配置されます。それぞれの個体はこの表における差異のなかで自己同一性を獲得するのです。

このように古典主義時代の博物学では表における配置によって個体が分類されることがわかると思います。

その一方で、近代の生物学では「生命」という概念の登場が重要な役割を担っています。

「生命」という概念は、

  • そもそも古典主義時代において「生物」は存在したが、「生命」という概念は存在しなかったものである
  • 古典主義時代において表の分類が崩壊して、生物が生命という脆い機能性をもった有限的存在であることが「発見」された
  • たとえば、ある動物の器官はそれまで同一性のまなざしで表面的な分類から分析されていたが(表における配置)、それは生命という身体内部の不可視の機能と考えられるようになった

端的にいえば、生物は有機体内部の法則によって存在することが見出されたのです。この瞬間に生物のなかに「時間性」と「歴史性」が導入されたのでした。そして、それが生物学の誕生の大きな役割を担っていたのです。

2-3-2: 一般文法→言語学

次に、一般文法から言語学への流れをみてましょう。ここでも「一つの内的な構造とそれ固有の歴史性」がエピステーメーの転換に重要となります。まず、ポイントを紹介します。

  • 古典主義時代における一般文法…言語は線条性というルールから同時に存在するものを一つの順序に置き換える特性がある。そして、「語がいかに表象に名を与えるのか。語はどのような順序で並べられているのか」が分析された
  • 近代における言語学…大規模な言語の比較分析がされると、語尾の同一性と語根の変化が注目された。それは「屈折」という語形変化で、「名詞」という指示能力に還元できない、言語の内的な構造が明らかになった

詳しく説明してきます。

古典主義時代における表象で重要なのは「名指す」こと、つまり「名詞」です。それは「名指す」ことはその表象を一般的な表(タブロー)のなかに配置することだからです。表象が的確で精密なことがこの時代は重要でした。

しかし、語尾の屈折(主に動詞の活用)が言語を比較する際に重要だとわかると(言語を比べると語根には大きな変化がある)、「名詞」よりも「動詞」が重要視されます。

その結果、表象における言語表現の分析よりも一つの内的な構造と歴史性をもつ言語体系が重視されるようになったのです。

2-3-3: 富の学問→経済学

最後に、富の学問は「労働・生産」という概念が登場することによって経済学へと転換します。それは「生命」という概念によって生物学が誕生することと似ています。

  • 古典主義時代における富の学問…重農主義などの視点では人間の欲望を想定し、市場における財の交換から価値が発生すると考える。つまり、貨幣を富の記号とする表象関係がある。
  • 近代における経済学…アダム・スミスやリカードが導入したのは、人間の一回の人生において身体を消耗させながらする「労働」という原理。これは「労働」が交換可能ではなく、絶対的な計量単位であることが見出されたことを意味する

→重農主義について詳しくはこちら

→アダム・スミスの重要概念について詳しくはこちら

→リカードについて詳しくはこちら

特に重要なのはリカードです。それは彼が価値の根源を労働者が提供する労働と、交換価値を形成する労働を区別したからです。これによって価値の形成と表象性を分離させたのです。

ここでいう「労働」は人間の生身の労働であり、人間の身体を消耗させるものを意味しますから、これによって、経済に時間と歴史が導入されることになったのです。

つまり、古典主義時代から近代への転換とは、

  • 表象を可能にする条件が、表象の外部から登場したこと
  • 表象空間の自律性は崩壊し、事物は自らの固有性を獲得したこと

が鍵となりました。

2-4: 人間の誕生と終焉

これまで見てきたように、古典主義時代のエピステーメーでは人間が表象し語るという特権的な地位を占めています。これは人間が表(タブロー)に存在しないことを意味します。

しかし、近代のエピステーメーの大きな特徴は、

  • 考古学的な変動による表(タブロー)が崩壊したことで、生身の人間が登場したこと
  • その人間は生命、言語、労働に支配された有限な存在であること

です。

そして、フーコーは近代に誕生した人間は生まれたばかりにもかかわらず、その終焉は近いといいます。それは当時のフランスで代表的であったレヴィ=ストロースの人類学でもソシュールの言語学でも「歴史的主体の解体」が宣言されていたからです。

その点に関しては次の記事における実存主義との論争で解説してます。ぜひ参照してください。

→【構造主義とは】その定義から実存主義との論争までわかりやすく解説

2章のまとめ
  • 中世という時代のエピステーメーの特徴は「類似」
  • 古典主義時代のエピステーメーは「表象」
  • 近代におけるエピステーメーは「人間」
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3章:エピステーメーを学べる本

どうでしょう?エピステーメーに関する理解は深まりましたか?

フーコーの議論はとても難解ですので、読者は骨をおる読解作業が求められます。ですのでまずは解説本にあたり、原著に挑戦するという形が一番かもしれません。

ここでは原著からオススメの入門書を紹介します。

オススメ書籍

オススメ度★★ミシェル・フーコー『言葉と物』(新潮社)

エピステーメーを知るには一番の本です。しかしこの記事からもわかる通り、とても難解な本です。繰り返し繰り返し読んで、理解する必要があります。

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オススメ度★★★ 慎改 康之『ミシェル・フーコー』(岩波新書) 

フーコーの主要な著作が簡潔に紹介されています。手元に一冊あると、フーコーに挑戦しやすくなるでしょう。この記事でも参照しています。

オススメ度★★ 中山元『フーコー入門』(ちくま新書)

有名なフーコーの入門書です。幅広くフーコーの著作をカバーしているため、初学者にはとてもおすすめです。前提知識なしで読むことも可能ですが、やはり難解な箇所は難解かもしれません。この記事でも参照しています。

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最後に、書物を電子版で読むこともオススメします。

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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、気になる方はお試しください。

まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • エピステーメーとは、「ある時代と社会における知の枠組み」を意味する
  • 物が秩序をもつとして認識されるためには、その秩序を構成・確立する視点が必要であり、それがエピステーメーという知の枠組みである
  • 中世のエピステーメーは「類似」、古典主義時代のエピステーメーは「表象」、近代におけるエピステーメーは「人間」とエピステーメーの切断がある
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