社会思想

【人種とはなにか】分類の歴史・生物学の研究からその意味を解説

人種とはなにか

「人種(race)」とは、身体形質的な差異から人類を分類する概念として歴史的に使用されてきたものです。しかし、遺伝学の成果から「人種」というカテゴリーの存在は否定されています。そのため、私たちが今日「人種」というとき、それは社会的に構築されたカテゴリーを意味します。

重要なので繰り返しますが、「人種」は生物学的分類のカテゴリーとして無意味であるといます。つまり、この用語を使用する生物学的な正当性は存在しないといわれています。

にもかかわらず、人種という考えは日常的な理解や言語から消滅していません。それは社会歴史的に構築された「人種」がいまだに影響力をもつからです。

一番危険なのは非科学的であるという理由で人種という考えが否定すれば、人種により不利益を被っている人びとは、抵抗の土台となるカテゴリーをも失う可能性があることです。

そこで、この記事では、

  • 人種分類の歴史
  • 人種と生物学の研究
  • 人種の意味

をそれぞれを順番に解説します。

好きな箇所から読んで構いません。この記事が21世紀における人種を学ぶきっかになれば幸いです。

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1章:人種の分類の歴史

まずは、人種分類の歴史を簡潔に解説します。膨大な研究の蓄積がある人種論を全て網羅することができませんので、人種分類の急所となる研究を紹介していきます。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 人種分類の歴史

さっそく、異なる時代に生きた論者による人種分類をみていきましょう。

1-1-1: ベルニエの分類

まず人種分類の先駆けとして、フランス人医師のベルニエがいます。1684年に提唱されたベルニエの人種分類は以下のような特徴がありました2竹沢 泰子 (編集)『人種概念の普遍性を問う―西洋的パラダイムを超えて』人文書院

  • 国や地域によって世界を分類してきたそれ以前の地理学的方法ではなく、旅行という彼自身の体験から4または5つの人種分類を提唱した
  • 人種分類は顔立ちや体型に基づくもので、その基準となるものは旅行を通して獲得された彼の世界観である

ベルニエの分類は旅行体験をもとにしているという点で、大航海時代の産物といえます。

1-1-2: リンネの分類

近代科学の父の一人であるリンネは、動物界におけるヒトを「変異」として分類をしています3竹沢 泰子 (編集)『人種概念の普遍性を問う―西洋的パラダイムを超えて』人文書院

リンネの分類

  • 白人ヨーロッパ人…皮膚が白い、活気にあふれる、想像力に富む
  • 赤色アメリカ人…赤っぽい、粘り強い
  • 暗色アジア人…皮膚が黄色で、憂鬱な気質、柔軟性に欠ける
  • 黒色アフリカ人…ずるい、怠惰、無頓着な気質

リンネの分類にはいくつか重要な点があります。

  1. 皮膚の色が弁別基準になること
  2. 四体液の配合具合が気質と体質を決定するという生理学の伝統を踏襲していること

現代からみれば、人種の区別とその特徴を決定する要素に驚きを隠せませんね。しかし当時の時代の人びとを非難することではなく、彼の考えを彼の視点から理解することが大事です。

1-1-3: ビュフォンの分類

続いて、博物学の代表的な人物として、ビュフォンの6分類があります4竹沢 泰子 (編集)『人種概念の普遍性を問う―西洋的パラダイムを超えて』人文書院

ビュフォンの分類

  • 分類は「ラップ人(極北人)」「タルタル人」「南アジア人」「ヨーロッパ人」「エチオピア人」「アメリカ人」の6変異
  • タルタル人は広くアジア人を指し、日本でも広く知られた用語である
  • ヨーロッパ人を原型とした人類が他の地域に移動しながら、環境や生活習慣の影響を受けることで、変異が生じたと考えた

ビュフォンがヨーロッパ人を原型とする一つの種と考えたのは、エデンの東にパリが位置するからです。ここでも当時の時代の人びとの世界観が反映されています。



1-2: ブルーメンバッハによる人種分類

これまでいくつかの論者の人種分類を紹介しましたが、「コーカソイド」や「モンゴロイド」の用語を生み出したブルーメンバッハの人種分類はとても有名です。

1-2-1: 人種の5変異

ブルーメンバッハは頭蓋学の祖で、収集した頭蓋骨から以前の哲学的推論を実証的な研究へと発展させました。

ブルーメンバッハの人種分類と特徴は以下のとおりです。

  • 分類は「コーカシア」「モンゴリア」「エチオピア」「アメリカーナ」「マレー」の5変異
  • それぞれの皮膚の色を「白人」「黄色」「黒色」「銅色」「黄褐色」と特徴づける
  • 「白人人種」や「黄色人種」という「色」における区別の基礎となった分類方法

ブルーメンバッハは人種に明確な境界線を引くことはできなく、あくまでも「変異」であると主張したことは大事です。

「コーカソイド」や「モンゴロイド」を命名したのは、たしかにブルーメンバッハです。しかし、この分類を生物学的な実体として扱ったのは、彼に続いた後の研究者なのです。

1-2-2: 日本への影響

さて、ブルーメンバッハの分類は蘭学者や宣教師をとおして、幕末までに日本に到達しました。たとえば、次のような書籍において、ブルーメンバッハの分類が紹介されています。

  • 内田正雄は『輿地誌略』(1870)において「莫古種(モンゴリアン)」「高加策種(コーケシエン)」「以日阿伯啞種(エチオピア)」「巫来種(マレー)」「亜米理加種(アメリカン)」というブルーメンバッハの5変異を提示
  • 『百科全書 人種篇』(1886)でもブルーメンバッハの5変異が紹介される

ここに、日本における人種学の始まりをみることができるでしょう。

1-2-3: アメリカへの影響

ブルーメンバッハの影響力は、アメリカにおいても同様でした。それは次のような事例から推測することができます。

  • 19世紀から20世紀への転換期に出版された『ウェブスター辞典』では「コーカシアン」や「モンゴロイド」の命名者として、ブルーメンバッハが紹介されている
  • 他にも、移民政策に影響力をもった移民委員会の報告書である『人種・民族辞典』で、形質に基づくブルーメンバッハの5分類が紹介されている

上述した内容からブルーメンバッハのグローバルな影響力を推測できると思います。

1-3: 「コーカソイド」「モンゴロイド」「ネグロイド」

「コーカソイド」や「モンゴロイド」は日本社会で広く使われる用語です。事実、高校の教科書や事典にこれらの用語を発見することができます。

しかし、①「コーカソイド」は旧約聖書の「ノアの箱舟」に由来すること、②「モンゴロイド」は偏見の意味合いをもつことは広く知られているといえません。そこで、それぞれの用語を詳しくみていきましょう。

1-3-1: 「コーカソイド」の意味

まず、「コーカソイド」はユダヤ・キリスト教的世界観と密接に関連をもつ用語です。それは次のことを意味します。

「コーカソイド」の語源

  • 当時の研究者が関心を寄せていた、コーカサス山脈に由来する用語である
  • コーカサス山脈の南側(現在のトルコ領)にアララト山があり、そこは旧約聖書で「ノアの箱舟」が止まったとされる聖地である
  • アララト山のあるコーカサスは、人類=白人の発生地として考えられていた

ブルーメンバッハがヨーロッパの中心から遠く離れたコーカサス山で見つかった頭蓋骨をもとに、ヨーロッパ人を「コーカソイド」と命名したのは上記のような理由からでした。

ちなみに、ブルーメンバッハは5つの人種集団の関係を、次のように考えました。

  • コーカシア人はすべての原型である
  • モンゴリア人とエチオピア人はコーカシア人が二方向に分岐した種である
  • コーカシア人とモンゴリア人の間にアメリカ人、コーカシア人とエチオピア人の間にマレー人に位置づけた

加えて、ブルーメンバッハがコーカシア人は人類で「もっとも美しい頭型をもち、最良である」と考えていたことは有名です。

1-3-2: 「モンゴロイド」の意味

続いて、「モンゴロイド」です。アジアにおける一つの集団がアジア全体の人びとを指す用語として使用されることは、とても違和感のあることだと思います。

ブルーメンバッハがアジアの人びとを「モンゴロイド」と命名したのは、当時のヨーロッパにおいて、ジンギスカンといったモンゴルの軍事力が広く認知されていたからといわれます。

しかし、「モンゴロイド」には次のような差別的な意味が含意されました。

  • ジンギスカンの孫であるクビライ・カンの支配下にあった中国を訪れたマルコ=ポーロは、アジア人に対する偏見を示しており、モンゴルに対するヨーロッパ人の優越意識が根底にあった
  • 21番目染色体の異常によって発症するダウン症を指す言葉として、「モンゴロイド」が長らく使われてきた。ダウン症の症状と東アジアの人びとの特徴とが一致するとして、「モンゴロイド」が使用された
  • 「蒙古襞(もうこひだ)」と呼ばれるまぶたから目頭に広がる襞を、知的障害のしるしとして表記する本さえ存在した

アジアの人びとを指す「モンゴロイド」は、決して中立的な用語でないことがわかったと思います。

1-3-3: 「ネグロイド」の意味

最後に「ネグロイド」ですが、ブルーメンバッハはこの言葉を用いていません。上述したように、彼はアフリカの人びとを指す言葉として「エチオピア」を使用しています。

では、「ネグロイド」とは何を指すのでしょうか?「ネグロイド」はラテン語の「niger」から派生した言葉で「黒」を意味します。つまり、黒人を指す言葉です。

しかし、そのような生物学的な実体は存在しません。なぜならば、

  • 濃い皮膚をつくるメラニン色素は紫外線を妨げる働きをもつものであり、アフリカ人、南アジア人、アボリジニ、フィジー人などに含まれる
  • しかしそれぞれの集団は遺伝学的に、極めて距離のある存在である。たとえば、フィジー人はアフリカ人より東アジアの人びとに近い
  • つまり、「ネグロイド」のように皮膚の色の濃さによって、一括りにできる集団などいない

どうでしょう?それぞれの意味を理解することができたでしょうか?いったんこれまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • さまざまな論者による分類があるが、「コーカソイド」や「モンゴロイド」の用語を生み出したブルーメンバッハの人種分類が世界的に影響力をもった
  • ①「コーカソイド」は旧約聖書の「ノアの箱舟」に由来すること、②「モンゴロイド」は偏見の意味合いをもつこと、③遺伝学的に「ネグロイド」に対応する集団はいない

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2章:人種と生物学

さて、1章で説明してきた人種分類は「科学的」用語として評価を得ると、人種主義ナショナリズムとして世界中に広まりました。

ここでは「生物学的な人種が引き起こした悲惨な歴史」と「生物学的な人種が否定する遺伝学の発展」を解説します。

2-1: 生物学的な人種の歴史

周知の事実ですので、西洋の人種観が引き起こした悲惨な歴史は簡潔に解説します。知っての通り、白人をもっとも優越した人種とし他の人種を劣等とみなす人種観は、次のような歴史を生み出しました。

  • 植民地支配や奴隷制を正当化するイデオロギーとなる
  • ナチスのようなジェノサイドを生み出す要因の一つになる
  • マイノリティ集団の抑圧、排斥、断種、虐殺を導く

この歴史の背景にあったのは西洋中心的な価値観です。具体的に、それは皮膚色を他者との弁別的な基準とすることやヨーロッパ人の頭蓋骨を基本形とみなすことです。

これらの基準に基づき、人種間の差異と優劣は「科学的」な根拠をもつものとして、地位を確立していったのです。そのような特殊な人種観が生み出した歴史は、二度と繰り返してはならない出来事として学ぶべきものです。



2-2: 生物学的な人種の否定と遺伝学の発展

上述してきた生物学的な人種は、遺伝学の発展により現代ではその存在が否定されています。国際的には、人種が生物学的に有効な概念ではないという見解が通説です5竹沢 泰子 (編集)『人種概念の普遍性を問う―西洋的パラダイムを超えて』人文書院

遺伝学の研究成果とその発展を解説していきます。

2-2-1: ヒトゲノム配列の解読

2003年、ヒトゲノム配列の解読が終了すると、人種概念に大きな影響を与えました。そもそも、「ゲノム」と「ヒトゲノム」とは以下のようなものです。

  • ゲノム…アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)から構成される4種類の塩基が鎖状につながったDNAの一セット
  • ヒトゲノム…30億塩基対からなるヒトDNAのすべての塩基配列

ヒトゲノム配列の解読結果によると、地球上のいかなる人間も99.9%DNAの塩基配列において同一であるということでした。0.1%の差異は個体差であり、集団間の差異は限りになく0に近いといいます。

つまり、外見上がいかに異なっていても、遺伝学的にいえば、人類は同一性が極めて高いのです。

2-2-2: 生物学的人種の転換期

ヒトゲノム配列の解読に先立って、生物学的な人種は次第に否定されていきました。まず上で指摘したように、18世紀の博物学や人種学は皮膚の色や頭蓋骨という可視的な形質的差異を弁別基準としてきました。

しかし、この人種分類と有効性は次のような論者によって否定されます。

  • 1900年、メンデルの遺伝法則の再発見によって開始される遺伝学の論者(人類進化の歴史が塗り替えられる)
  • 社会進化論や優生学が支配的だった20世紀前半、文化人類学の父であるボアズやその弟子であるモンタギューは、学会で嘲笑されながらも、人種の恣意性を指摘

そのなかでも、グローバル規模のインパクトがあったのは1950年にユネスコから発表された「人種に関する声明」です。

ユネスコの「人種に関する声明」では、

  • すべての人種の知能は同等であること
  • 混血による退化は、生物学的に無根拠であること
  • 国籍や宗教にもとづく集団と人種は無関係であること

が謳われています。

主な起草案であるモンタギューは、人種優越の理論をはっきりと否定すると同時に「人種は社会的に作られた神話である」ことを強調しました。

2-2-3: 遺伝学の成果

1950年代から1960年代になると、技術面において遺伝子解析が発展をします。たとえば、リヴィングストーンの研究では、以下のような指摘がされました。

  • 黒人の人種的遺伝病とされた鎌状赤血球貧血が、アフリカだけでなく、南ヨーロッパや西アジアなどの地域にも分布することを指摘した
  • むしろ、鎌状赤血球貧血は熱帯性やマラリアと関連することを明らかにした
  • ヒトが変異の連続性であることを実証し、人種ではなく、クラインという概念を提示した

そして遺伝学の発展により明らかになったのは、集団内の多様性が集団間の多様性より大きいことです。対象や方法論はそれぞれ異なりますが、結果はほとんど一致しています。

たとえば、レウォンティンの研究では、以下の点がわかっています。

  • アフリカ人、ヨーロッパ人、アジア人などの大集団間による差異は、人類の多様性のうちの6.3%に過ぎない
  • そして、大集団間における集団間の差異(アジア人における「中国人」と「日本人」)は8.3%である
  • 残りの85.4%は同一集団内の(日本人同士の)差異である

このような研究成果は、人種概念に生物学的な根拠がないことを裏付けるものとなっています。

これまで議論をより詳しく知りたい場合は、竹沢泰子(編)の『人種概念の普遍性を問う』を読んでみてください。非常にわかりやすく「人種論」がまとめられています。

2章のまとめ
  • 地球上のいかなる人間も99.9%DNAの塩基配列において同一である
  • 人類学者のモンタギューは、人種優越の理論をはっきりと否定すると同時に「人種は社会的に作られた神話である」と主張した
  • 集団内の多様性が集団間の多様性より大きい

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3章:人種の意味

これまでの「科学的」な人種概念が無根拠であることを解説しましたが、それは「社会的」に構築された人種が無意味であるということではないです。

結論からいえば、永続する人種主義に異議申し立てをするとき、抵抗の土台になるのは人種概念なのです。

3-1: 社会的に構築された人種

再度振り返ると、「人種」という用語に対応する生物学的な実体はなく、そのため、この用語を使用する生物学的な正当性は存在しないと考えられています。そのため、「人種」が使用されるとき、それは社会的に構築された「人種」という概念を指します。

では、どのように「人種」は構築されたか?アメリカにおける奴隷制度から解説します。

3-1-1: アメリカの奴隷制

アメリカにおいて奴隷制度は、大まかに次のような過程で形成されました。

  1. イギリス植民地化の17世紀の北アメリカ大陸、皮膚の色ゆえに黒人は市民的または社会的な障害に出逢うことはなかった
  2. しかし17世紀末になると、アフリカから直接連行される人々の数が増加
  3. これらのアフリカ人は新世界で必要とされる農業技術を身につけていた(熱帯の土壌での農業についての知識、金属細工、木材加工、カゴ作り、革細工、家屋の建築、陶器の製造といった農夫がそなえる技術)
  4. これらのアフリカ人は労働者として奉仕されるにはもっとも望ましい存在と考えられ、貪欲さに駆り立てられたプランテーションのオーナーが彼らを奴隷化
  5. 当初、大勢のアフリカ人を奴隷にするために正当化された根拠として、彼らが異教徒であることが利用された
  6. しかし18世紀の初めまでに身体的特徴、特に皮膚の色が自由・非自由と結びつけて考えられるようになる
  7. 18世紀末に奴隷反対運動が勢いをもつと、黒人とその子孫を奴隷化する新たな根拠が必要となる
  8. そこで黒人、インディアン、白人といった別々の集団が不平等であるのは自然なことであるという「科学的」な人種概念が登場する

社会学者のスメドリーはアメリカ合衆国における、このような人種イデオロギーの基本的な構成要素として次の五つ提示しています6竹沢泰子(編)『人種概念の普遍性を問う』人文書院

  1. 人種は排他的で特色のある個々の人間集団を意味する。一人の人間は一つの人種にしか属することしかできない
  2. 人種は本来、不平等なものである。白人が一番上、インディアンはかなり下、そして黒人が一番下の序列に置かれた
  3. 人種の外的な身体的特徴は行動上、知性上、道徳上、気質上の差異と因果関係があるとされた。そのため、それぞれの人種には他とは違った行動上の特徴があると仮定された
  4. 生物的身体的特徴と行動上の特徴は、どちらも遺伝による先天的なものと考えられた
  5. 人種間の差異は、神あるいは自然によって創造されたもので固定的なものと考えられた

17世紀から18世紀に形成されたこの人種イデオロギーが、南北戦争以降、アメリカの経済的、宗教的、政治的、社会的作用を支配しました。

この人種イデオロギーが有色人種の社会的上昇に制約を与え、白人に特権を与えた歴史の形成に寄与したことを押さえておきましょう。



3-2: 人種とエスニシティ

人種が社会的に構築されたことや、身体的な差異が「科学」の名のもと特定の集団の排外に利用されたことがきっかけで、第二次世界大戦後以降は「人種」という概念や用語そのものを解消する動きが出てきました。

それが「人種」を「エスニシティ」に代替するという動きです。しかし非科学的であるという理由で人種という考えが否定されるとき、大きな問題があります。

  • そもそも、エスニシティ理論は19世紀後半の東・西ヨーロッパからの白人「新移民」を対象とし、彼らがアメリカ合衆国の主流文化を獲得することによって同化する過程をモデルとしている
  • このエスニシティ理論は生物学的決定論としての人種に対抗するようなリベラル思想として機能し、エスニシティ論者は、文化人類学者と同様に、人種をエスニシティに代替する試みをした

エスニシティに関して詳しくは次の記事を参照ください。

→【エスニシティとはなにか】その定義や歴史をわかりやすく解説

しかし、人種をエスニシティに回収することには問題が存在します。それは、

  • 人種をエスニシティに回収することで、人種というカテゴリーに付随する奴隷制や虐殺などの歴史的不正義を無視してしまうこと
  • 1960年代以降、人種を担保に主流文化との差異を主張する有色人種の説明をエスニシティ論者はできなくなり、その結果、エスニシティ論者は集団的権利を主張する有色人種に対してネオコン的な立場を取っていく

という展開があるからです。

そのため、人種を他のカテゴリーに還元し説明することは有効な手段とはいえないのです。

最大の問題点は人種主義に起因する人種という概念をエスニシティに回収することで、人種という抵抗の土台を奪い、歴史的な不正義から生じる責任への主張が担保できなくなる危険性があることです。



3-3: 21世紀における人種

これまでの内容をまとめると、もっとも大事な点は、人種を用いてしか語ることのできない集団の存在を考えることです。

それは人種を生物学的に無意味な概念として扱うことで、歴史的な不正義から生じる責任への主張が担保できなくなる集団が存在するからです。

私たちは21世紀において、人種を抑圧構造に対する抵抗の拠点として認識する必要もあるのではないでしょうか。

3章のまとめ
  • 今日「人種」が使用されるとき、それは社会的に構築された「人種」という概念を指す
  • 人種主義に起因する人種という概念をエスニシティに回収することで、人種という抵抗の土台を奪い、歴史的な不正義から生じる責任への主張が担保できなくなる危険性がある
  • 永続する人種主義に異議申し立てをするとき、抵抗の土台になるのは人種概念

4章:人種の学び方

人種について理解を深めることはできましたか?

人種論は膨大な研究蓄積がある分野です。そのため、まずは人種論で議論されてきた内容を大まかに理解することが大事です。これから紹介する書籍はあなたの学びに助けるものです。

おすすめ書籍

竹沢泰子(編)『人種概念の普遍性を問う』(人文書院 )

竹沢泰子を代表とする論者が人種概念を、徹底的に議論しています。この記事でも多くを参照しています。さらに詳しい議論を知りたい方に非常におすすめです。

川島 浩平 竹沢 泰子(編)『人種神話を解体する3 「血」の政治学を越えて』(東京大学出版会)

現代日本社会における人種問題と、世界の人種問題が議論されています。これからの人種概念を考える上で参考になります。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • さまざまな論者による分類があるが、「コーカソイド」や「モンゴロイド」の用語を生み出したブルーメンバッハの人種分類が世界的に影響力をもった
  • 人類学者のモンタギューは、人種優越の理論をはっきりと否定すると同時に「人種は社会的に作られた神話である」と主張した
  • 永続する人種主義に異議申し立てをするとき、抵抗の土台になるのは人種概念である

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