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【岩波新書のおすすめ本34選+α】ジャンル別にとことん厳選して紹介

岩波新書のおすすめ本

学術系の分野の入門書として、テーマの専門性や内容の信頼性から岩波新書は非常におすすめです。

しかし岩波新書は1938年の創刊から80年以上が経過し、現在でも毎年多数の著作が刊行されておりますので、読みたい本を選ぶのも大変だと思います。

そこでここでは、私がこれまでに読んできた数十冊の岩波新書の中から、

  • 歴史系
  • 政治系
  • 経済系
  • 文化・社会系
  • 哲学系
  • アメリカ史系

ジャンル別に厳選して紹介します。

関心のあるところから読んでみてください。

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1章:【歴史系】岩波新書のおすすめ本

それでは、まずは岩波新書の歴史系のおすすめ本から紹介します。

①三谷太一郎『日本の近代とは何であったか』

日本の「近代」について理解することは、日本の現在を理解する上でとても大事です。

『日本の近代とは何であったか』は、日本の政党政治、資本主義、植民地主義、天皇制がどのように形成されてきたかを解説したものです。

これら4つの論点の説明が非常に分かりやすく、日本の「近代」がどのように形成されたのか理解できます。また、これらの論点のベースにある、日本がモデルにしたヨーロッパ近代について理解することもできます。

日本の政治、経済を理解する上で必読書です。

②網野善彦『日本社会の歴史』上・中・下

日本の歴史を通史として理解する上で、網野善彦の『日本社会の歴史』の上・中・下の三冊は非常にいい本です。

網野善彦は、日本史の教科書的な既存の歴史の描き方とは異なる歴史学の論者として有名です。つまり、権力者側から見た政治史を描かず経済史・社会史を中心に描く。「士農工商」を固定的に捉えず、多様な人々の存在を描く。といった特徴があります。

そのため、中高生のころ学んだ日本史がつまらなかった人でも、面白く日本史を学べると思います。

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謎が多い古代史については、こちらの岩波新書もおすすめです。

村井康彦『出雲と大和――古代国家の原像をたずねて』

③末木文美士『日本思想史』

日本の歴史の展開と共に、日本の思想も時代によって大きく変化してきました。

しかし、日本の思想の展開は、西洋哲学史のように通史的に解説されることが少ないため、どのように展開して現在に至るのかよく知らない方も多いのではないでしょうか。

この末木文美士『日本思想史』では、王権の思想(政治思想)と神仏の思想(宗教思想)、そしてそれらの間で展開した文学、学問、芸道等の思想が整理され、解説されています。

特に、日本史全体に通底する構造が提示されるため、それを頭に入れておくと日本の思想史全体を頭に入れることができるでしょう。

中学レベルに日本史が分かっていれば、難なく読める内容です。

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④山本太郎『感染症と文明』

近年、新型コロナウイルスの流行で社会に大きな影響が発生し、これから社会がどうなるのか不安な方も多いかもしれません。

そんな方は、これまでに流行した過去の感染症がどのように社会に影響したのか、人類がどのように感染症と対峙してきたのか、歴史から学ぶことをおすすめします。

山本太郎『感染症と文明』は、古代からのさまざまな感染症と人類の歴史を描いているのですが、重要なのは感染症の「撲滅」より感染症との「共生」を提起している点です。

教養書ですので、前提知識なしでも問題なく読めます。ぜひ読んでみてください。

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中世におけるペストの大流行と社会への影響については、村上陽一郎の『ペスト大流行』が名著です。これも岩波新書から出版されています。

村上陽一郎『ペスト大流行: ヨーロッパ中世の崩壊』

⑤E・H・カー『歴史とは何か』

そもそも「歴史」とは、過去の事実の蓄積とその記録の営みですが、人間は過去の歴史を事実そのままにすべてを記録することはできません。

歴史学が人間の営みである以上、どうしても歴史を描く主体によって事実が選ばれ、特定の視点から描かれることになってしまいます。

事実に忠実でありたいのに、描き方は思惟的にならざるを得ないという歴史学の抱える問題は、「歴史修正主義」が問題になる現代でもとても重要な、本質的な問題です。

『歴史とは何か』は、20世紀を代表する歴史家であるE・H・カーが、こうした歴史の本質的な問題について語っている名著です。

歴史を本格的に学びたい方には必読書です。

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⑥魚住孝至『宮本武蔵―「兵法の道」を生きる

『宮本武蔵ー「兵法の道」を生きる』は、武蔵研究の第一人者魚住氏が宮本武蔵に関する昨今の研究成果を踏まえて書いた、武蔵の人生や思想を網羅的に解説した本です。

宮本武蔵は、いち剣豪でありながら、今でも著作『五輪書』が世界で読まれ、時代劇や漫画でも描かれる伝説的人物です。

しかし一方で、「出生地論争」にはじまり、「実は弱かった」「卑怯だった」「強さは伝説化されたもの」「二刀流ではなかった」「五輪書は偽書である」など様々な議論が巻き起こされてきた人物でもあります。

彼の存在自体が、歴史の難しさを象徴すると言っても過言ではありません。

しかしこの本によれば、実は過去に提起されてきた武蔵に関する議論の多くが、昨今の研究によって明らかになってきていることが分かります。

武蔵の本は多数ありますが、第一人者によって書かれたこの本が一番おすすめです。ぜひ読んでみてください。

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2章:【政治系】岩波新書のおすすめ本

岩波新書には、政治に関する名著も多数あります。これから、政治系のおすすめ本を紹介します。

①塩川伸明『民族とネイション』

近年、日本政府の政策が「保守的」と言われることがありますが、そもそも「保守的」とはどういうことでしょうか?多くの場合、ナショナリズム保守が結びつけられて語られることもありますが、日本のナショナリズムとはどういうものなのでしょうか?

『民族とネイション』は、こうしたナショナリズム、民族、エスニシティ、国民国家という現代のどこの国家も抱えているテーマを、非常に分かりやすく解説したものです。

政治学を学ぶなら非常に重要なテーマですし、学生じゃなくても、社会問題や国際社会のことを理解するのに、とても大事です。

ナショナリズムに関する本は非常にたくさんありますが、その1冊目として読んでみてください。

②中野晃一『右傾化する日本政治』

先ほども軽く触れましたが、日本政治は「右傾化している」と言われます。

右傾化とは、一般に「民族主義的」「軍事力強化」「天皇制重視」といった右派的な思想に政策や世論が変化するという意味です。さらに経済政策まで含めると、右傾化には「市場原理主義(新自由主義)」的という意味も入ってきます。

では、実際の所日本政治は過去と比べて「右傾化」しているのでしょうか?しているとしたらなぜでしょう?

こうした疑問に答えてくれているのが、『右傾化する日本政治』です。

蛇足ですが、政治的なテーマな著者の思想で偏りがあるため、自分と違う立場の人の本だと「読む気にもならない」という方もいるかもしれません。しかし、自分の思想を固定化しないためにも、広い立場の本を読んでみることをおすすめします。

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③吉次公介『日米安保体制史』

戦後日本政治の最も大きなテーマといっても過言ではないのが、「日米安保」です。戦後日本の「右派」「左派」の対立軸は、「日米安保体制に対する姿勢」で決められてきた側面が大きいからです。

つまり、日米安保体制に肯定的で軍事力をアメリカ依存しつつ、その中で経済的に発展しようと考えた右派(保守)と、日米安保体制を否定し、平和主義・護憲を掲げた左派(革新)です。

この対立軸は、世界的な規準でみた右派・左派とは違う日本特有のもので、それゆえに日本政治を分かりにくくしている側面もあります。

では、その前提となった日米安保体制はどのように形成されてきたのか。そんな疑問に答えてくれるのが『日米安保体制史』です。

これも政治学を学びたい人には避けられないテーマですので、この本を読んで自分の立場を改めて再考してみることをおすすめします。

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④石川真澄 『戦後政治史』

『戦後政治史』はその名の通り、日本の戦後政治を網羅的に解説した本です。

やや教科書的で、政治に興味がない人からすれば無味乾燥かもしれません。しかし、政治に関する知識を網羅的に得たい、これまで得てきた知識をあらためて整理したいという人にはとてもいい本です。

戦後政治史を解説した本は多いですが、この本は繰り返し再版されており、内容は網羅的で信頼性も高いです。ぜひ手元に置いておいてください。

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⑤丸山真男『日本の思想』

日本の戦後を代表する政治学者と言えば丸山真男ですが、今政治学を学んでいるという学生には読んだことがある人は少ないかもしれません。

確かに、丸山真男が影響力を持った時代は過ぎており、その議論の多くは批判されてもいます。しかし、丸山真男が問題意識を持った、日本の政治の問題とは何か、日本の思想とは何なのかという本質的な疑問は現代でも色褪せません。

なぜ丸山の思想が影響力を持ったのか、どういう議論をしたのか、戦後どのような立場を取り支持されたのか、なぜこれほど読まれる名著となったのか。政治学を学ぶ方なら読んで知っておくことをおすすめします。

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3章:【経済系】岩波新書のおすすめ本

次に、岩波新書の経済系のおすすめ本を紹介します。

①山家 悠紀夫『日本経済30年史』

経済を理解するには、まず「歴史」を知っておくことが大事です。

経済学という理論を学ぶ前に、実体の経済がどのように展開したのか「事実」を把握しておくことが、正しい理解のベースとなるからです。

そんな経済の、平成30年間の歴史を整理したのが『日本経済30年史』です。

平成と言えば、バブル経済からその崩壊(90年代初頭)、小泉政権による経済改革(2000年代初頭)、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、その後のアベノミクス等、経済的にも大きな変動がありました。

また、バブル崩壊以降の時代は「失われた20年(30年)」とも言われ、若者世代は豊かな時代を知らない、とすら言われます。

こんな平成経済の低迷をこれから抜け出すことができるのか。抜け出すにはどうしたら良いのか。こういったことを考える上で、30年間の経済史が整理されたこの本はとてもいいです。

経済に詳しくなくても読める内容ですので、ぜひ読んでみてください。

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②服部茂幸『新自由主義の帰結』

戦後多くの西側先進国で、経済成長の果実を国民に広く分配する「福祉国家」的な政策が行われました。しかし、経済成長の停滞や財政赤字の累積といった背景から、1980年代ごろから行われるのが「新自由主義」的政策です。

新自由主義は、構造改革、民営化、市場原理主義、福祉削減といった政策を特徴とした思想です。

結果として格差拡大を招いたことから「反・新自由主義」的思想も根強く、右派・左派といった立場に関係なく、批判されることが多いです。

しかし、新自由主義をめぐる議論には、

  • 「新自由主義」の意味が論者による所があり多義的
  • 新自由主義を否定するとしても、低成長や財政赤字等、根本的な問題を解決しなければならない
  • 新自由主義は、犠牲となる低所得者や若年層の人からも支持される傾向がある

といった問題もあります。

前置きが長くなりましたが、『新自由主義の帰結』は、新自由主義とはそもそもどのようなもので、経済にどのような結果をもたらしたのか初心者にも分かりやすく解説されています。

この本を入門書として、よりレベルの高い本にも挑戦してみてください。

③湯本雅士『金融政策入門』

現在、日本の経済政策で非常に重きを置かれているのが金融政策です。

特に、景気のアップダウンを操作するために使われることが多いです。リーマンショック(2008年)時や、2020年のコロナショック時にも各国の中央銀行が「介入」していることをニュースで見知った人も多いと思います。

しかし、金融政策は独特の仕組み・メカニズムを持っているため、直感的に理解しがたく、仕組みを知らないと何が行われているのか理解できないはずです。

『金融政策入門』は、そんな金融政策の仕組みを初心者向けに分かりやすく解説した本です。金融政策の仕組みを理解すれば、ニュースの理解が格段に上がります。

ぜひ読んでみてください。

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また、『日本のマクロ経済政策』も岩波新書の経済政策入門書として優れています。

熊倉正修『日本のマクロ経済政策: 未熟な民主政治の帰結』

宮崎勇田谷禎三『世界経済図説 第四版』

普段、ニュースを見ていても経済の情報は断片的で、世界で何が起こっているのか大づかみに理解しにくいという方は多いと思いのではないでしょうか。

『世界経済図説』は、世界経済の現状について解説された岩波新書の名著の1つで、数年おきに新版となって出版されています。この「第4版」は2020年に出版されたもので、最新の経済の情報、世界の情勢が盛り込まれています。

データを参照するためのものとしても、教科書的な使い方もできると思います。手元に置いておくと便利です。

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日本版の『日本経済図説 第四版』もあるので、あわせてご参照ください。

宮崎 勇本庄 真『日本経済図説 第四版』

⑤三木義一『日本の税金 第3版』

日本人として日本で暮らす以上、所得税、住民税、消費税等の納税義務があります。

しかし、実際の所いくらのお金を支払っているのか、どのような仕組みになっているのか知らない方も多いと思います。

たとえば、所得税の仕組みである「累進課税制度」と「超過累進課税制度」の違いや「給与」と「課税所得」の違い等、理解してますでしょうか。

また「なんで自分で稼いだお金を国に取られなければいけないのか」と疑問に思っていませんか?

こうした税金に関する基本的な疑問を解決できるのが『日本の税金』です。これも数年おきに新しい版が出ますので、ぜひ読んでください。

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税金と合わせて年金や、雇用される場合に知っておくべき労働法についても、岩波新書に良い本がありますので、あわせて参照してみてください。

駒村 康平 『日本の年金』

水町 勇一郎『労働法入門』

4章:【文化・社会系】岩波新書のおすすめ本

続いて、岩波新書の文化・社会系のおすすめ本を紹介します。

①青木保『異文化理解』

グローバル時代において、異文化理解の必要性が叫ばれて久しいです。しかし、「実際、異文化理解とはどのような実践なのか?」と疑問ももっている方もいると思います。

そんな方にオススメなのは青木保の『異文化理解』です。この本では、

  • そもそも、文化と私たちとの関係とは?
  • 異文化と自文化の決定的な違いとは?
  • 異文化理解を促進する視点とは?

といった疑問に答えています。

「異文化理解」という用語がさまざまな場面で使われる今日、用語の意味は逆にわかりにくくなっている印象を受けます。そんなときは文化を専門としてきた文化人類学者の議論に触れてみてください。きっと、異文化理解のきっかけをつかめるはずです。

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②見田宗介『社会学入門』

社会学は多様な研究対象をもつため、社会学の本質とはなにか?を理解しにくい場合があります。そんなとき有効なのは、東京大学名誉教授である見田宗介の『社会学入門』です。

『社会学入門』では社会学の知識がもつ特徴(たとえば、「越境する知」(7頁)など)をまとめているだけでなく、コラムにおいて「社会」や「共同体」といった概念が説明されています。

研究者にとって新しい発見がある書物ではないかもしれませんが、初学者の第一歩としては大変有益なものでしょう。

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③池上嘉彦『記号論への正体』

記号論とは、人間が「ことば」を通しておこなう意味づけ行為を研究する分野です。とても簡単にいえば、「ことば」がもつ意味を真剣に考えたことに由来する学問領域です。

「人間はことばを通してのみ思考可能」ですから、ことばの役割を自明視せずに深く考える理由は多くあります。記号論はそのきっかけを与えてくれるとても刺激的な学問領域です。

『記号論への招待』では、

  • 言語が単なるコミュニケーションの手段ではないこと
  • 言語が意味作用をもって、現実を作り出していること
  • 私たちは言語の牢獄にいること

などを学ぶことができます。

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以下のような関連領域とともに、ぜひ学んでみてください。。

④本橋哲也『ポストコロニアニズム』

上でも説明したように、日本の「近代」について理解することは、日本の現在を理解する上でとても大事です。言い換えれば、植民地主義という近代の遺産は、私達の「現在」「過去」とさまざまな形で繋がっていることを思い出させてくれます。

たとえば、次の問題はどれもポストコロニアルな問題です。

  • 日本社会とアイヌ民族や琉球民族との問題
  • 日本社会と韓国社会との問題(徴用工訴訟問題など)

とてもセンシティブな問題ですので深入りすることは避けますが、ポストコロニアルは日本の近代を理解する上で欠かせない問題系となっています。

しかし、ポストコロニアル理論は極めて複雑で勉強には時間がかかります。そのため、全体像をつかむ教科書的な意味で、本橋哲也の『ポストコロニアリズム』を読んでみてはいかがでしょうか。

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⑤吉見俊哉『大学とは何か』

そんな歴史を経た日本の大学は現在、一般教養課程の軽視、文系の軽視・理系偏重、規制緩和による乱立、教育の質の低下等さまざまな問題を抱えています。

なぜこのような問題を抱えるようになったのでしょうか?

それは、これまでの大学の歴史をたどることで見えてくるものです。

吉見俊哉『大学とは何か』では、大学の歴史から、日本の大学の変化、現在の大学が抱える問題まで詳しく書かれています。

「大学教育に疑問を持っている」「大学の未来を考えたい」という方はぜひ読んでみてください。大学生でも、自分がいる大学がどのように形成されてきたのか知ることで、大学に対する見方が変わるかもしれません。

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5章:【哲学系】岩波新書のおすすめ本

次に、岩波新書の哲学系のおすすめ本を紹介します。

①熊野純彦『西洋哲学史』

哲学の歴史は人間の思考の歴史といっても過言ではないかもしれません。しかし、哲学史をその起源から現代まで時系列で学ぶには、骨を折る読書作業が必要です。特に、原著にあたるとなると、研究者でない限り、難しいのかもしれません。

そこで、オススメなのは熊野純彦の『西洋哲学史』の2冊です。この2冊ではメジャー・マイナーな哲学者が登場するため、初学者にはそれだけで大変かもしれません。しかし、大まかではありますが、「哲学史の流れを把握できる」といった点で極めて有益な書物です。

加えていえば、著者の熊野が指摘するように、

  • 追体験可能なかたちで、哲学者の思考が語られること
  • 思考の結果といよりも、思考の道筋を提示すること
  • 哲学者のテクストを引用すること

が特徴にあります。(熊野『西洋哲学史―古代から中世へ』(ⅱ-ⅲ頁)を参照)

これら2冊を通して読むことで、「誰が誰に影響を受けた」や「この議論は誰の系統にある」といった哲学の基層を学べることができるでしょう。この2冊を読んでみて、その後、関心のある議論に焦点化していくと勉強しやすいと思います。

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②三島憲一『ニーチェ』

こちらは少し古い本(1987年刊行)ですが、ニーチェの思想的特徴を時代背景とともにまとめた本です。

ニーチェの解説本は難しくなる傾向があり、「これなら原書を読んだ方が良い」と思わせるものが多いです。そこで、原著を読んでみるものの、議論の路頭に迷い、読解を諦めてしまうという方がいると思います。

そんな時にオススメなのは、三島憲一の『ニーチェ』です。読みにくいと感じる方もいるかもしれませんが、基本的には平明な用語で、ニーチェの鍵となる概念や著作をわかりやすくまとめています。時に、『悲劇の誕生』の説明に多くを費やしていることが特徴です。

また、三島憲一は丁寧に史的・文化的背景からニーチェの道案内をしてくれるので、路頭に迷うことはないと思います。少し古い本かもしれませんが、現在でも読まれるべき質をもった新書であることは間違いありません。

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③慎改康之『ミシェル・フーコー』

現在、人文社会科学を学ぶ上で、フーコーの議論を避けて通れる方はほとんどいないのではないでしょうか。

このサイトで解説した「エピステーメー」「パノプティコン」「言説」「生権力」はフーコーの議論のほんの一部に過ぎず、本来であれば体系的にフーコーを学ぶべきです。

そこで、オススメなのは以下のように時系列でフーコーの思考をまとめた、慎改康之の『ミシェル・フーコー』です。

  • 60年代…フーコーの考古学的探究。『狂気の歴史』(第1章)『臨床医学の誕生』(第2章)『言葉と物』(第3章)『知の考古学』(第4章)に焦点を当てながら解説
  • 70年代…フーコーの権力論。『監獄の誕生』(第5章)と『性の歴史』(第6章)から解説
  • 80年代…フーコーの新たな研究領域を、性に関する研究やコレージュ・ド・フランス講義記録から解説

フーコー入門書は多くありますが、このように、時代に沿って思考の変化を追っていたものは少ないです。そのため、初めてフーコーを読むという方には、大変おすすめできる書物です。

個別のテーマに関心のある方には、以下の記事で詳しく入門書を紹介しています。→【フーコーのおすすめ入門書4選】新書や関連本をランキングで紹介

④柿木伸之『ヴァルター・ベンヤミン』

フランクフルト学派の代表的な論者の一人である、ヴァルター・ベンヤミンを取り扱った書物です。ベンヤミンの議論は思想系の書物で頻繁に参照されますが、「実際、ベンヤミンは何を言ったんだ?」と思っている方も多くいるのではないでしょうか。

たしかに、ベンヤミンの思考は極めて多面的で捉えにくいです。たとえば、以下の人物にとって、ベンヤミンのイメージは異なっています。

  • アドルノにとっては、芸術論の対話相手
  • アーレントにとっては、カフカより困難な状況で文芸批評をした文人
  • ショーレムによっては、ユダヤ神秘主義の思想家

加えて、日本におけるベンヤミンの受容のされ方を考えると、さらに多様なベンヤミン像が浮かんできます。そうなると、ベンヤミンが「何をどう言ったのか」を捉えることは大変難しくなります。

しかし、柿木伸之『ヴァルター・ベンヤミン』では、シンプルかつ丁寧にベンヤミンの足跡を辿っています。ベンヤミンの思想に慣れていなければ、読みにくい箇所があるかもしれませんが、新書サイズでは十分な質だと思います。

特に、クレーの「新しい天使」に関する考察は頻繁に参照される概念ですので、この本から全体像を理解しておくと、多くの場面で役に立つでしょう。

⑤サルトル『ユダヤ人』

サルトルの『ユダヤ人』は、フランス社会における反ユダヤ主義の考察に特徴づけられる本です。特に、サルトルがユダヤ人迫害の原因を加害者側にあったこと指摘する過程は重要です。

しかし、この本がさらに面白いのは、サルトルが指摘した問題が日本社会におけるさまざまな問題と近い距離にあるからです。たとえば、サルトルが「ユダヤ人がいなかったら、反ユダヤ人主義者は、それに代わるものを作り上げただろう」いうとき、日本社会におけるアウトサイダーと呼ばれる人々がどうのように誕生するのかを考えてみてもいいかもしれません。

このように、多様な読みに開けているという意味でも、哲学系の新書を読みたい方にぜひ触れて貰いたい本です。

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6章:【アメリカ史系】岩波新書のおすすめ本

次に、岩波新書のアメリカ史系のおすすめ本を紹介します。

①富永茂樹『トクヴィル 現代へのまなざし』

アメリカ社会に関する古典的な考察として、トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』(1835)があります。21世紀の現在でも、多様な学問領域で参照され、アメリカ史に関心のある方には必ず読んでいただきたい本です。

しかし、この著作はとても長いことが特徴で、大学院生や研究者ではない限り、読破することが困難です。そのような障碍を乗り越える新書として、富永茂樹の『トクヴィル 現代へのまなざし』があります。

この本を読むことで、トクヴィルの「平等に関する考察」「アンシャンレジーム前後における社会の継続性」などの議論を理解することができます。特に、フランス社会とアメリカ社会の比較は非常に刺激的です。

原著を読みたいけど、シンプルに19世紀のフランス人から見たアメリカ社会に触れてみたいという方にはうってつけの本です。

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②本田創造『アメリカ黒人の歴史 新版』

アメリカ史を語る上で、黒人の視点に立った歴史を避けて通ることはできません。それは奴隷制からオバマ大統領の誕生まで、黒人であることが社会的に大きな意味をもったからです。

『アメリカ黒人の歴史 新版』では学術的な議論がされるわけではありませんが、個別の出来事を(特に、公民権運動を)わかりやすく、世界史的な教養として説明しています。

アメリカ黒人が辿った歴史の全体像を把握することを通して、たとえば、「ワンドロップ・ルール」「ジムクロウ法」などの人種主義の議論を理解することができます。

加えて、「そもそも、人種とは何だったのか?」という本質的な疑問は、有色人種の歴史を踏まえることで到達できる内容です。

学術的な議論を基本的な知識となりますので、ぜひ読んでみてください。

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③鎌田遵『ネイティブ・アメリカン: 先住民社会の現在』

そして、アメリカは「移民の国」としばしば形容されますが、このように形容した瞬間にネイティブ・アメリカンの存在は無視されています。

コロンブスによる新大陸の「発見」以来、先祖から受け継いだ土地を奪われて、現在では連邦政府から「与えられた」居留地で暮らすネイティブ・アメリカンに、光が当たることは少ないです。

そんなとき、鎌田の『ネイティブ・アメリカン』では、

に焦点を当てながら、解説しています。

当然、この1冊でネイティブ・アメリカンの全てを理解できるわけではありませんが、ネイティブ・アメリカンの立場からみたアメリカ史を学ぶには十分な質をもった新書です。

まとめ

読みたい本は見つかりましたか?

岩波新書には、他にも多数の名著がありますので、ぜひこの記事を参考にしつついろんな本にチャレンジしてみてください。

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