政治思想・政治哲学

【図解・右翼・左翼とは】フランス革命から現代日本までわかりやすく解説

右翼左翼をわかりやすく解説

「右翼(右派)」「左翼(左派)」とは、よく聞くわりにあいまいな理解しかされていない言葉です。

右翼(右派・保守)とは、伝統的・歴史的に作られてきた慣習、制度、思想、文化などについて、歴史の中で淘汰されてきたものだから価値があると考える立場のことです。

一方左翼(左派・革新)とは、過去の伝統より人間の理性の力を信じ、理性の力で描いた理想に向かって現実の社会を変革していこうと考える立場のことです。

右翼と左翼を区別するもっとも本質的な部分は、「人間の理性の力をどこまで信じるか」という点です。

しかし、実際には、以下のようなイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?

  • 右翼…天皇制支持、再軍備支持、9条改憲、伝統文化的教育、家父長的秩序、家族の重視、自己責任論的社会、街宣車、与党
  • 左翼…天皇制否定、平和主義、9条護憲、戦争責任の強調、リベラル・現代的な秩序、個人主義、人権教育、デモ、反原発、日教組、野党

「なんでこんなに多様な意味が、右翼・左翼という言葉で表現されるの?」「そもそも、なんで右と左に分けるの?」

政治に関心があれば、このような疑問を持つのは当然だと思います。

そこでこの記事では、

  • 右翼・左翼の違いや意味、具体的な立場
  • 右翼・左翼の語源
  • 右翼・左翼のフランス革命~現代までの歴史
  • 日本における右翼・左翼

などについて詳しく解説します。

知りたいところから読んでみてください。

この記事を読むことで、ニュースの理解や、政治や経済の本からの学びがもっと深まるようになるはずです。

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1章:右翼・左翼とは何か

もう一度確認しましょう。

右翼(右派・保守)とは、伝統的・歴史的に作られてきた慣習、制度、思想、文化などについて、歴史の中で淘汰されてきたものだから価値があると考える立場のことです。

一方左翼(左派・革新)とは、過去の伝統より人間の理性の力を信じ、理性の力で描いた理想に向かって現実の社会を変革していこうと考える立場のことです。

これはもっとも本質的な部分のまとめ方ですので、これだけで理解することは難しいと思います。

まず大事なのは、右翼(保守)と左翼(リベラル・革新)とは、特定の思想のテーマについての「対立軸」を前提にした区別だということです。

言葉の意味と対立軸から説明していきます。

1-1:右翼・左翼の違い

まずは言葉の意味から知っておきましょう。

右翼とは「保守主義」とも言いますが、何らかの政治的テーマについて「現状維持」「過去の方法を続ける」という姿勢を持つ立場です。

左翼とは「リベラル」「革新」などとも言い、何らかの政治的テーマについて「変革」「理想に少しでも近づく」という姿勢を持つ立場です。

実際の政治的な立場は右翼・左翼の2つだけではなく多様ですが、以下の図のように一つの軸の上のどこかに位置付けられます。

右翼左翼の対立軸

「そもそも対立軸って?」

と思われるかもしれませんが、これは政治的なテーマだと思ってください。特定のテーマ、問題について、変革を望むのが左翼、現状維持や伝統的な方法を重視するのが右翼、ということです。

1-2:右翼・左翼の語源はフランス革命にあり

では、なぜ右翼・左翼という言葉を使うのか。

それは、フランス革命時代、議会で右側に保守的勢力が、左側に革新的勢力が座ったからだと言われています。

もう少し詳しく言うと、

  • 議会の右側(右翼)…国王や貴族などの伝統的な勢力の権力を維持したい
  • 議会の左側(左翼)…国王の権力を削いで、国民の意思がより公正に政治に反映されるようにしたい

という立場が分かれたのです。

右翼が保守主義的、現状維持的で、左翼が革新的であったことが分かりますよね。

この時代、議会は大きく変動したのですが、議会の右翼が保守的勢力、議会の左翼が革新的勢力という区分自体は変わりませんでした。

そのため、これ以降の政治的対立について「右翼」「左翼」という区分が定着したのです。

※右翼・左翼の起源や歴史について、詳しくは2章で説明します。

1-3:右翼・左翼の具体的な政治的立ち位置

「では、なんで右翼・左翼のいろいろな意味が含まれるの?」

という疑問もあると思います。

それは、政治的なテーマが時代や国によって変わっていくためです。

フランス革命時代は、「国王の権力をどこまで維持するか?」というテーマだったのでシンプルでしたが、その後さまざまな政治的テーマが出てきました。

そのため、今では大雑把に紹介しても、以下のような対立軸と右翼・左翼の立場があると言えます。

日本のリベラルの立場1 日本のリベラルの立場4 日本のリベラルの立場2 日本のリベラルの立場3

また、政治学のテキストでは対立軸を複数重ねて、以下のように表現することもあります。このように区別すると分かりやすいですね。

政治的・経済的統制とリベラルの位置久米郁夫他『政治学』を参考に作成

右翼・左翼についてイメージはできましたか?

2章では、右翼・左翼という概念の起源や変遷を詳しく説明します。

1章をまとめます。

1章のまとめ
  • 右翼とは、歴史的・伝統的に作られてきたものを重視する立場
  • 左翼とは、理性の力を重視し、理想の実現を重視する立場
  • 右翼・左翼の具体的な立場は、政治的テーマによって異なる

右翼・左翼の歴史をこれから説明しますが、以下の本でも詳しく説明されています。ぜひ読んでみてください。

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2章:歴史から理解する右翼・左翼

右翼・左翼について理解するためには、その時代、その国の政治的テーマが何だったのか?を押さえておくことが大事です。

これから紹介する歴史をまとめると、

  • フランス革命…王権をどこまで認めるのか?民主主義をどこまで進めるのか?
  • 19世紀の世界…経済格差をどこまで是正するか?
  • 20世紀の世界…独立か、宗主国への従属か
  • 戦前日本…民主主義をどこまで進めるのか?
  • 戦後日本…対米従属・改憲か中立・護憲・平和主義か?

という対立がありました。

それでは詳しく説明します。

右翼左翼は民主主義という政治体制とともに学ぶべきです。民主主義については、次の記事で詳しく解説しています。

【民主主義とは】基礎知識・歴史・重要用語をわかりやすく解説

2-1:フランス革命 ・右翼(王権保守)と左翼(革新)の誕生

1章では、フランス革命時の「王権をどこまで認めるのか?」という対立から右翼・左翼が生まれたと説明しました。

実際には、この時代の10年ほどの間に議会は激動し、政治的テーマも大きく変わります。

※フランス革命について詳しくは以下の本で学ぶことができます。

2-1-1:当時のフランスの時代背景

この時代の右翼・左翼を理解するためには、当時の時代状況を知っておく必要があります。

簡単にまとめると、

  • 当時のフランスは絶対王政(アンシャンレジーム)の時代で、国王が最大の権力を握っていた
  • それに対して貴族や資本家、平民は反発し、それぞれの意見を王に進言する「三部会」の召集を要求
  • 貴族、聖職者、平民のそれぞれの身分の代表者が集まって政治決定をする、「国民議会(制憲議会)」が生まれる

という背景がありました。

つまり、王権を制限するために国民が結集したのです。

こうして生まれた国民議会で検討されたのが、「王の権力をどこまで認めるのか?」というテーマでした。

2-1-2:国王・貴族・聖職者の権力を制限

まず国民議会で決められたのは、以下のことです。

  1. 貴族や聖職者が持つ特権の廃止
    課税の免除や年金などの封建的な特権を廃止
  2. フランス人権宣言
    全人類の自由と平等、所有権、人民主権などを決めた
  3. 国王の権力について
    国王の議会における拒否権を認めるかどうかの検討
  4. 議会を一院制にするか二院制にするか
    一院制とは身分を否定し、貴族、聖職者、平民の皆が平等な国民代表になること、二院制は貴族と聖職者の身分と平民を分けること

右翼・左翼が分かれるきっかけになったのは、この3つ目と4つ目です。

国王が議会で拒否権を持つということは、政治決定を国王が左右できる、つまり国王の権力を部分的に認めるということです。

また、二院制を認めるということは、貴族・聖職者の特権を存続させることになります。

このテーマについて、

  • 右翼(保守)…王の拒否権を認め、二院制にするべき
  • 左翼(リベラル・革新)…王の拒否権を認めず、一院制にすべき

と対立しました。

さらに細かく分けると、以下のように意見が分かれたのです

フランス革命(国民議会)の右翼・左翼

そして、議会の右側(右翼)に保守派、左側(左翼)に革新派が座ったということです。

このテーマは結局1791年の憲法制定時に、

  • 王の拒否権→議会決議を2~6年停止できる(保守派、革新派の中間的な結論)
  • 議会→一院制にする(革新派の勝利)

というように、折衷的な結論になりました。とはいえ、王権と貴族・聖職者の権力をある程度制限することに成功しました。

2-1-3:国民議会以降の右翼・左翼の変動

しかし、話はこれだけでは終わりません。

国民議会以降も、フランスの議会では新たなテーマが持ち上がり、そのたびに右翼・左翼が入れ替わっていったのです。

■国民議会(制憲議会)後の立法議会

国民議会後の立法議会では、さらなる民主主義が政治テーマになりました。

  • 右翼(保守派=王党派など)が逮捕や引退によって消え、一部の富裕層のみを有権者として認めた人々が新たに「右翼(保守)」となる(フイヤン派
  • 左翼(革新)には、さらなる民主主義を主張する人々が座る(ジャコバン・クラブ
フランス革命(立憲議会)の右翼・左翼

■立法議会後の国民公会

立法議会後の国民公会では、民主主義だけでなく経済格差の是正が新たな政治テーマになりました。

  • 1972年に、男子普通選挙によって選ばれた議員によって国民公会が開かれる
  • フイヤン派は勢いを失い、議会には自由主義、民主主義、普通選挙を求める「民主派」のみとなる
  • 右翼(保守)には、自由市場を支持するジロンド派、左翼(革新)には、格差是正・社会民主主義を支持する山岳派(モンターニュ派)が座る
  • 中道はどっちつかずの平原派と言われた
フランス革命(国民公会)の右翼・左翼

■山岳派の独裁

  • 1793年、山岳派(モンターニュ派)は独裁政治をはじめ、過激な左派的政治を行う
  • 左翼は山岳派、右翼はかつての中道である平原派が残るのみで、ジロンド派は消えた
山岳派独裁時代の右翼・左翼

■山岳派失脚後

  • 山岳派のリーダーロベスピエールは自滅的な行動をし、国民公会の議員によって倒された
  • その後は、平原派とジロンド派の残りによって議会が支配され、右翼がジロンド派、左翼が平原派となった
  • さらに、山岳派以上に革新的主張(共産主義)を主張した、バブーフ派といわれる人々も生まれた
山岳派失脚後の右翼・左翼

以上を整理すると、フランス革命は「民主主義」や「格差是正(社会民主主義)」に向かってひたすら左傾化し、山岳派失脚で部分的に揺り戻された出来事だった、と言えます。

いずれにしろ、このころ生まれた右翼(保守)・左翼(革新)という区別が、この後普遍的に使われるようになり、定着していったのです。

2-2:マルクス主義の時代

フランス革命以降、世界では徐々に民主主義が普遍的に浸透していきました。

しかし一方で、産業革命によって巨利をむさぼる資本家と、奴隷のように使われる労働者という経済的な階級が生まれました。

そこで、新たな政治的テーマとなったのが格差の是正、それもイデオロギーとしての社会主義・共産主義です。

しかし、これもいきなりイデオロギーが誕生したわけではありません。

これも右翼・左翼という点から説明します。

※マルクスの思想について、詳しくは以下の本をおすすめします。

2-2-1:ヘーゲル左派に影響を受けたマルクス

マルクスは、ヘーゲルから強く影響を受けて自らの思想体系を打ち立てました。

ヘーゲルの国家、自由に対する思想は、

  • 公共的な利益に向かって他人と一緒に貢献していくことが、真の自由で、他人を侵害するような自分勝手な行動は自由ではない
  • 真の自由は立憲王政国家(国王はいるが憲法で制限されている)で実現できる(自分の出身国プロイセンを理想化した)

という特徴があります。

この国家に対する理想について、ヘーゲルの死後に右派と左派が分裂しました。

  • 右派(老ヘーゲル派)…プロイセンの政府を肯定する体制派
  • 左派(青年ヘーゲル派)…プロイセンは理想に遠いため、さらなる理想を求めた反体制派

マルクスもヘーゲル左派で、さらなる理想の国家を夢見ました。

そしてヘーゲル的な理想を受け継ぎ、資本を社会が共有し、個人が自分のために働くことが直接に社会のためになるような国家を構想します。

それが共産主義です。

2-2-2:一時的な自由の否定:プロレタリア独裁

マルクスが理想をして描いた共産主義は、当時の資本家と労働者に階級が分かれていた社会とはかけ離れたものでした。

そのため、共産国家を打ち立てるためには、資本家から資本を取り上げ共有する体制を作ることができる強大な権力が必要です。

つまり、自由・平等な社会を実現するために、一時的に自由を否定する体制「プロレタリア独裁」を必要としたのです。

プロレタリア独裁とは、労働者階級が権力を独占する体制のこと

マルクスの考えでは、プロレタリア独裁は、真の自由を実現する(=共産主義体制を実現する)ための一時的なもので、必要な「痛み」です。「痛み」を乗り越えれば、理想の共産国家が実現すると考えられました。

2-2-3:プロレタリア独裁の失敗

しかし実際には、プロレタリア独裁は短期間では終わらず、ソ連や中国をはじめとする社会主義国のように、長期の独裁が行われます。

しかも、国民は独裁政権によって自由が奪われ、マルクスの理想は現実にはなりませんでした。

「なぜ共産主義が『左翼』扱いされたの?」

という疑問があると思います。現在でも共産党は左翼ですよね。

それは、共産主義がもともと「経済的平等の達成」という政治テーマに対して、革新派だったからです。

つまり、経済は市場に任せよう、結果として格差ができるのは仕方ないとする市場主義・自由主義に対して、格差をなくして平等な社会を理想として描き、実現しようとしたのが共産主義だったからです。

しかし、実際の共産主義・社会主義は、独裁政権となり国民の自由を奪いました。

そのため、本来の「右翼」「左翼」の言葉の意味から考えれば、「左翼」とは言えないものになったのが現実です。

共産主義の歴史について、以下の本が詳しいのでおすすめです。

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2-3:右翼(民族主義)・左翼(国際主義)の時代

19世紀から20世紀にかけて、新たな政治的対立軸が生まれ、新たな右翼・左翼の立場が生まれました。

それが、ナショナリズム(民族主義)VSインターナショナリズム(国際主義)という対立軸です。

2-3-1:左翼としてのナショナリズムの誕生

先ほどフランス革命について触れましたが、フランス革命ではもう一つ、右翼・左翼の思想上重要な出来事がありました。

それが、ナショナリズムの誕生です。

ナショナリズムとは、近代的な国民国家が生まれる過程で、国民に生まれた「一体感」「我々意識」のことです。

私たち現代人にとっては当たり前のものですが、ナショナリズムは近代以前(日本なら江戸時代など)にはないものでした。そのナショナリズムが生まれたのが、フランス革命だったのです。

そして、ナショナリズムは「民族主義」とも言われるように、現代では「右翼」的な思想として語られることが多いです。

※ナショナリズムについて、詳しくは以下の記事で解説しています。

【ナショナリズム・国民国家とは】成立過程から問題までわかりやすく解説

しかし、フランス革命の当時、ナショナリズムは「左翼」的な立場でした。

■ナショナリズムは封建的秩序に対抗する思想として生まれた

フランス革命前、フランスを含むヨーロッパは、

  • 最高の権力としてローマカトリック教会が支配
  • 国王たちは相互に婚姻関係を持っていて、階級として繋がっていた
  • 国民を直接支配していたのは、その土地の領主や聖職者

という社会でした。これが封建社会です。

フランス革命は、この国王、貴族、聖職者たちの権力を国民の手に奪おうとした革命でした。

そこで必要とされたのが、「自由・平等・友愛」という理念です。

この「友愛」とは、国民同士の愛国心のような繋がり意識のことです。

これがナショナリズムの原点であり、

「私たちの国として、私たちの力で自由、平等を手にしよう」

と謳われたのです。

つまり、封建的秩序を維持する右翼(保守主義)に対抗する理念が、ナショナリズムという左翼(革新)の思想だったということです。

ナショナリズムは、その後、ナポレオンがヨーロッパを征服しようとする過程で、ナポレオンへの対抗としてヨーロッパ各国でも生まれ普遍的になりました。

※ナショナリズムについて、以下の本が分かりやすいのでおすすめです。

2-3-2:ナショナリズムの右翼への移行

こうして生まれた左翼としてのナショナリズムは、共産主義の誕生から右翼に移行します。

■共産主義の勃興

まず、2-1で説明したように、フランス革命ではある程度の民主主義が認められ、議会の権力が強まりました。

つまり、自由主義・民主主義が実現し、それを進めてきた山岳派が「左翼」ではなくなったのです。

そこで生まれたのが、共産主義・社会主義を支持する勢力です。

フランス革命以降の右翼・左翼

■共産主義と国際主義の結びつき

この時代、巨利を独占する産業資本家と酷使される労働者たちに階級が分かれ、多くの労働者が苦しい生活を強いられていました。

そのため、労働者が団結して資本家から資本を奪い、労働者による権力の独占をする(プロレタリア革命)ことが目指されるようになったのです。

共産主義について少しでも知っている方は、共産主義組織が「第一インターナショナル」などと言われたことを知っているかもしれません。

この言葉の通り、労働者は国境を越えて団結すること、つまりインターナショナルな活動が目指されたため、共産主義運動はインターナショナリズム(国際主義)と結びつきました。

民族主義と国際主義の時代の右翼・左翼

■右翼としてのナショナリズムの誕生

旧来の右翼は、中世封建的な秩序を支持する思想を持っていましたが、自由主義・民主主義が実現していく中で、旧来の保守主義は現実的な立場ではなくなりました。

そこで、保守的勢力は、新たに、過去の歴史や宗教、文化などの価値を重視する立場として、ナショナリズムを支持するようになります。さらに、ナショナリズムは国家間の戦争の時代に入り、より右翼の思想になっていきました。

国民国家が誕生してから、ヨーロッパの国家は帝国主義的な活動をするようになりました。

帝国主義とは、後進国を植民地支配し、資源や奴隷を集めて宗主国が利益を総取りする思想、体制。

強大な力を持つようになった資本家が国家を動かし、植民地を広げるようになったわけです。

そして資本家同士の争いは国家間の争いに繋がりました。

国家同士で戦争することになれば、「民族として一体になって立ち向かおう」というナショナリズムが高揚するきっかけになります。

こうして世界は第一次世界大戦に突入し、ヨーロッパ社会においてはナショナリズム・帝国主義優位の時代が来たのです。

結果的に、インターナショナルな労働者の団結でプロレタリア革命を起こすことは失敗に終わりました。

2-3-3:民族独立の時代の右翼・左翼

とはいえ、みなさんもご存じの通り第二次世界大戦後の世界は、共産主義・社会主義を信奉する東側と、自由主義を掲げる西側とに分裂し、冷戦秩序に支配されました。

ここで新たに生まれたのが「南北問題」です。

つまり、植民地支配によって政治的・経済的に先進国に隷属させられていた「南」後進国たちが、支配者である「北」の先進国に対して独立を要求するようになったのです。

これらの国家の政治テーマは「宗主国からの独立」です。

そのため、

  • 右翼(保守)…宗主国への従属
  • 左翼(革新)…宗主国から独立し、自民族による国家を樹立すること

というように右翼・左翼が分かれました。

ここで、独立派の左翼たちは、国内の宗主国の支配者たちを追い出し、自分たちで政権を樹立する必要があります。

そのため、国民を「自分たちの国を作る」という目標に向かわせるために、民族主義(ナショナリズム)が利用されました。

つまり、労働者階級VS資本家階級という対立で右翼の思想だったナショナリズムは、「南」の国家の独立時には「左翼」の思想になったのです。

ここでも、政治テーマによって右翼・左翼の入れ替わりが起こっていることが分かると思います。

南北問題時の右翼・左翼

■独立のための共産主義思想の利用

さらに、独立を目指した一部の国家は、冷戦下で共産主義のイデオロギーを利用しました。

それは、宗主国という資本家に対して、経済的に隷属させられていた労働者的ポジションの国家が独立する、つまり国家レベルのプロレタリア革命を目指したからです。

資本家(宗主国)の支配を脱し、自民族による、支配されない、平等な国家を作る。このようなビジョンを描いたわけです。

このような国家は、ソ連や中国などの共産主義国家から支援を受けることもできました。

このような国家にとっては、ナショナリズムも共産主義も、「左翼」思想になったのです。

2-4:現代日本の右翼と左翼

冷戦終結後は、旧来の右翼・左翼の対立軸がなくなり、「イデオロギー対立の時代は終わった」「右翼・左翼で立場を分けられなくなった」と言われることが多いです。

とは言え、いまだに右翼・左翼や保守・革新という言葉はよく聞きく言葉でもあると思います。

そこで最後に、日本の右翼・左翼について簡単に説明します。

2-4-1:戦後日本の右翼・左翼の対立

戦後日本は、「平和主義」「非武装中立」という理念を持って出発したのに、すぐに日米安保条約を締結し、アメリカに従属して再軍備に向かった、というねじれがありました。

そのため、戦後日本の右翼・左翼の対立は、

  • 右翼(保守)…対米従属、9条改憲、再軍備
  • 左翼(革新)…対米中立、9条護憲、平和主義

という構造になりました。

政治テーマが「平和、再軍備」という日米安保を軸にしたものになったために生まれた構造です。

また、経済的には国内の経済格差の改善が必要とされたことから、

  • 右翼(保守)…資本主義体制を支持
  • 左翼(革新)…共産主義・社会主義体制を支持

という対立も生まれました。しかし、この対立は日本の場合、保守政権が左寄りの政策(大きな政府、福祉国家、社会民主主義)を実践したため、左翼の説得力は弱く影響力を持つことはありませんでした。

さらに、象徴天皇制を憲法に明記したことから、

  • 右翼(保守)…天皇制の支持、皇族の重視
  • 左翼(革新)…天皇制反対、皇族の特権廃止を主張

という対立も生まれました。

基本的に、戦後日本は保守政権による支配(55年体制)が続いたことから、対米従属、再軍備、皇族の重視といった思想が「体制側」になり、左翼の思想は「反体制」となりました。

そのため、一般的イメージとして「左翼はデモや批判ばかり」というイメージもできてしまった面があります。

2-4-2:冷戦後日本の右翼・左翼

冷戦後には、

  • 共産主義がイデオロギーとして支持されなくなる
  • 財政赤字拡大などから「大きな政府」的政策が見直され、新自由主義(ネオリベラリズム)が登場し、経済格差が広がった
  • 宗教やナショナリズムが再び高揚し、国家間や民族間で対立が生まれるようになった

といった新たな状況が生まれました。

そこで一つの対立軸で右翼・左翼と立場を整理することが難しくなり、新たな整理が試みられています。

日本の右翼、左翼について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

【日本のリベラル(左派)とは】政治的立場と戦前~現代の歴史を解説

このサイトでは、右翼・左翼も含むさまざまな政治的立場について、他にも詳しく解説しています。

ぜひ以下の記事もご覧ください。

■日本の右傾化について

【右傾化とは】55年体制から安倍政権までの変化をわかりやすく解説

■経済的右派である新自由主義

【新自由主義とは】定義・問題点・生まれた背景をわかりやすく解説

■経済的・政治的右派であるリバタリアニズム

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■資本主義体制内で経済的平等を目指す社会自由主義(経済的左派)

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■アメリカのリベラリズム(左派思想)を批判した共同体主義

【共同体主義(コミュニタリアニズム)とは】主な主張をわかりやすく解説

■世界で新たに力を持つ政治思想ポピュリズム

【ポピュリズムとは】定義・特徴・問題点や現代政治への影響力を解説

2章の内容をまとめます。

2章のまとめ
  • フランス革命前半…王、貴族、聖職者の権力を維持しようとしたのが右翼、権力を奪おうとしたのが左翼
  • フランス革命後半…富裕層の特権を認めるのが右翼、格差是正を訴えるのが左翼
  • マルクス主義…資本家の支配に対して、共産主義革命を訴えたのが左翼、現体制の維持のために旧来のナショナリズムを訴えたのが右翼
  • 冷戦下…宗主国からの独立を目指した国家内で、独立派のナショナリズムや共産主義が左翼、体制派が右翼
  • 戦後日本…日米安保支持、資本主義支持が右翼、日米安保反対、共産主義支持が左翼
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3章:右翼・左翼の学び方

右翼・左翼について理解を深めることができましたか?

右翼・左翼や、「右派」「左派」「保守」「革新」などは非常によくニュースや新聞に登場します。そのため、日本・世界にどのような立場があり、何が右翼・左翼とされているのか知っておくことは、ニュースを理解する上で必須です。

特に政治に関心があるなら、必ず学んでおく必要があります。

右翼・左翼についてさらに学びを深めたい場合は、以下の本をおすすめします。

おすすめ書籍

おすすめ度★★★浅羽通明『右翼と左翼』(幻冬舎新書)

この本は、初心者でも右翼と左翼について理解できるとてもいい本です。必ず学びになりますしすぐに読み終わるボリュームです。ぜひ読んでみてください。

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おすすめ度★★宇野重規『保守主義とは何か – 反フランス革命から現代日本まで』 (中公新書) 

右翼の思想でとされる保守主義について、歴史を詳しく振り返りながら解説する良著です。とても学びがあるので、特に保守や右派に良いイメージを持っていない人におすすめです。

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 右翼とは、伝統的価値観や制度、文化を重視する現状維持の立場
  • 左翼とは、理性の力を信じ現状を変革することを重視する立場
  • 右翼・左翼の区別はフランス革命の議会から生まれたが、その後普遍的な区別になった
  • 右翼・左翼の区別は、時代や国家によって変化し続けている

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