人種差別に関して学ぶ場合、①個別の事例→②当該社会における人種差別の構造→③学術的な議論、と進むことをおすすめします。
なぜならば、人種に関する学術的な議論は膨大な蓄積のある分野である上に、さまざまな理論を用いて議論されるため、極めて抽象的で初学者には理解しにくいからです。
そこで、この記事では人種差別を学べる本を以下の分類から紹介します。
- 初学者編・・・人種差別の全体像をつかめる本、個別の事例を学べる本
- 中級者編・・・当該社会における人種差別の構造を学べる本
- 上級者編・・・人種に関する学術的な議論
あなたのレベルに合うところから、ぜひ読んでみてください。
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1章:人種差別を学ぶためのおすすめ本:初学者編
まずは、人種差別の全体像や個別の事例を学べる本を紹介します。前提知識がなくても読めますので、人種差別に関心のある方全般におすすめです。
①『人種差別の世界史-白人性とはなにか-』
さまざまな社会における人種差別を学ぶ前に大事なのは、「そもそも、人種差別はどのように形成されたのか?」という歴史的な疑問に答えることです。
そこでおすすめなのは、藤川隆男(著)の『人種差別の世界史-白人性とはなにか-』(刀水書房)です。
この本ではエビちゃんからマライア・キャリーまで登場し、初学者に向けて、世界における人種差別の歴史をわかりやすく解説しています。
『人種差別の世界史-白人性とはなにか-』を通読することで、
- 「白人」や「黒人」といった人種カテゴリーは身体的な特徴によって決定される分類ではないこと
- むしろ、極めて文化・社会的に決定されるカテゴリーであること
を学ぶことができます。
加えて言えば、この本は「日本人には人種差別なんて関係ない!」と考える方の視点を揺さぶる内容となっています。
なぜならば、人種が皮膚の色の問題ではなく恣意的に生産されるカテゴリーならば、そのような差別の構造を生み出すカテゴリーが日本社会に存在することを示しているからです。
このように説明すると難しく感じるかもしれませんが、「です・ます調」の平明な文章で書かれていますので、ぜひ読んでみてください。人種差別に関するある方にとって、損のない書物です。
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少し古いですが、世界における人種差別を概説した書物としては『人種差別』(文庫クセジュ)がおすすめです。
また、人種に関連する記事も、ぜひ参照してみてください。
②『アメリカ黒人の歴史』
人種差別の事例として、アメリカ合衆国における黒人の事例を学ぶことは大事です。
それは、黒人に対する人種差別がナチスのニュルンベルク法の制定に大きく影響を与えていたからです。つまり、世界史的な観点でも、アメリカ黒人に対する人種差別は避けて通れないのです。
アメリカ黒人の歴史を学ぶ上で有益なのは、本田創造(著)の『アメリカ黒人の歴史 新版』(岩波新書)です。
目次
- プロローグ-アメリカ黒人とは
- 1. 植民地時代の奴隷制度
- 2. 独立革命
- 3. 南部の綿花王国
- 4. 奴隷制度廃止運動
- 5. 南北戦争
- 6. 南部の再建と黒人差別制度
- 7. 近代黒人解放運動
- 8. 公民権運動の開幕
- 9. 黒人革命
- 10. アメリカ黒人の現在
目次をみてわかるように、アメリカにおける黒人の経験を概観しており、21世紀まで永続する黒人差別の土壌がいかに形成されたのかを学ぶことができます。
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そして、『ヒトラーのモデルはアメリカだった――法システムによる「純血の追求」』において、自由の国を自称するアメリカ合衆国がナチスのモデルであったという衝撃の事実が示されています。
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ナチス下における人種差別に関心のある方にも有益ですので、ぜひ読んでみてください。
この書物を読み進めるための予備知識として、次のような記事があります。
加えて、黒人の歴史を学ぶ際、他のマイノリティ集団(ラティーノ、アジア系、先住民など)との関係を射程に入れながら、多面的に学ぶとアメリカ社会への理解より深まります。以下の書物は、面白かったのでぜひ参考してください。
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2章:人種差別を学ぶためのおすすめ本:中級者編
人種差別の全体像や個別の事例を学んだら、次は人種差別を生み出す社会構造を学ぶべきです。今でもとても役にたったと思う書物を紹介していきます。
③『日系アメリカ移民 二つの帝国のはざまで――忘れられた記憶 1868-1945』
東栄一郎(著)の『日系アメリカ移民 二つの帝国のはざまで――忘れられた記憶 1868-1945』は、第一世代や第二世代の日系移民の歴史を、一次資料から丁寧に描き出しています。
もともと英語で書かれた書物ですが、飯野 正子、長谷川 寿美、小澤 智子、飯野 朋美、脇 実千代の翻訳作業によって、幸運にも日本語で読むことができます。
著者の東が「日本語版刊行にあたって」で述べているように、
本書は移民の視点から彼らの行動の意味づけ(彼ら自身の人種主義も含む)を語り、そして彼らが持ち続けた折衷主義的感覚、つまりどちらの国民国家やその帝国主義を一方的に受け入れたり拒絶したりするのではなく、日本とアメリカのはざまに、第三の空間と物事の意味を作ろうとした移民の「苦悩」を伝えるもの
(東『日系アメリカ移民 二つの帝国のはざまで――忘れられた記憶 1868-1945』(明石書店, 8-9頁))
です。
そのなかで、アメリカ社会における人種差別(たとえば1924年の排日移民法など)がビビッドに描かれており、日系人が人種差別の対象となる歴史的な過程とその社会的な構造を学ぶことができます。
多くの日本人にとって読みやすいと内容かと思いますので、ぜひ読んでみてください。その際、「日系人は単なる『日本人』ではないし、彼らのコミュニティも『日本』の延長ではない」(同書, 9頁)ことに細心の注意を払ってください。
日系人に関する議論で他にも参考になったのは、以下のような書物です。
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④『黒い皮膚・白い仮面』
フランツ・ファノンによる『黒い皮膚・白い仮面』では、人種差別的眼差しの内面化によって、支配関係が継続することが描き出されています。
具体的に、ファノンはフランス社会の人種差別的な眼差しを内面化する黒人と、それによって植民地的な支配関係が継続する過程を生々しく知らしめています。
あまりにも有名な言葉ですが、ファノンは押し付けられた人種差別的な眼差しを以下のように述べています。
「ほら、ニグロ!」。それは通りがかりに私を小突いた外的刺激だった。私はかすかにほほえんだ。
「ほら、ニグロ!」。それは事実だった。私はおもしろがった。
「ほら、ニグロ!」。輪は次第に狭まった。私はあけすけにおもしろがった。
「ママ、見て、ニグロだよ、ぼくこわい!」。こわい!こわい!この私が恐れられ始めたのだ。
(フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』(みすず書房, 131頁))
ファノンは、「ニグロはけものだ、ニグロは性悪だ、ニグロは悪賢い、ニグロは醜い」(同書, 134)というような黒人に対する差別的な眼差しが「私を真黒に焼く」(同書, 134)と述べています。
そして、ファノンに従うと、一度人種差別的な眼差しを内面化すると、「集団的無意識を同化してしまったニグロは、自分を観察した場合、己のうちにニグロに対する憎悪しか認めることができな」(同書, 203)くなるといいます。
つまり、フランス社会の人種差別的な眼差しを内面化した黒人は、自己自身を疎外してしまうのです。わかりやく言えば、このような「劣等コンプレックス」が生まれることで、黒人自身の内部で差別構造が永続するのです。
ファノンは『黒い皮膚・白い仮面』で、黒人自己の疎外からの解放を目指しています。その詳細な議論をここでは紹介できませんので、ぜひ原著を読んでみてください。
人種差別が構造化された社会における「白人の眼差し」がもつ意味を、よく理解できると思います。
3章:人種差別を学ぶためのおすすめ本:上級者編
さらに人種差別を深く理解するためには、学術的な議論に触れる必要があります。ここではおすすめの洋書を紹介していきます。
⑤『Are We All Postracial Yet?』
この書物は「われわれは本当にポスト人種社会に到達しているのか?」という疑問に答えるものです。
「ポスト人種社会」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、その特徴は難解ではありません。
ポスト人種社会の特徴
- 人種主義の歴史を乗り越えて、個人の努力と資質が社会的成功に最も重要な社会に到達したという考え
- つまり、人種的差異に関係なく社会的向上が平等に与えられている社会(具体的に、居住地域の選択、高等教育へのアクセス、雇用機会などが均等に配分されており、個人の社会的向上に人種的差異が意味をもたない社会)
- 歴史的な人種主義の負の遺産は時代とともに弱体化したと考えられるため、人種主義が存在するならば、それはある一個人による差別的な表現と認識される
タイトルからもわかるように、著者のデビッド・ゴールドバーグ(David Goldberg)はポスト人種社会に到達していないことを主張し、さまざまな社会から論証しています。
ここでは、その一部を紹介します。
- 一見、オバマ元大統領の就任は人種主義の歴史を乗り越えた社会に到達したようにみえるが、すべての社会経済的指標において有色人種が不利益を被っていること
- にもかかわらず、ポスト人種社会が主張される背景には、新自由主義(自己責任を強調する思想)と共鳴がある(→新自由主義に関して詳しくはこちら)
- 自己責任が強調されればされるほど、社会制度的な排除は「機会への公平性と個人主義」というレトリックの下に正当化される
168頁とコンパクトな書物ですので、1週間もあれば読めるはずです。ぜひ挑戦してみてください。
⑥『Racial Formation in the United States』
端的にいえば、『Racial Formation in the United States』とはアメリカ史における人種の中心的な役割と、人種に対する社会学的なアプローチが示したものです。
なかでも面白い章は、エスニシティ論者の議論を考察した「Ethnicity」という章です。この章では、
- エスニシティ理論のモデルは、黒人や法によって排外されたアジア系、メキシコ系ではなく、19世紀後半のヨーロッパからの白人移民であること
- エスニシティ論者はこのモデルを黒人などの有色人種に適応し説明を試みたが、集団的権利を求める有色人種に対しては有効な理論ではなかったこと
- その結果、エスニシティ論者が、ネオコンとして個人の権利を擁護すること転じたこと
が議論されています。
この章を読めば、「人種」というカテゴリーを他のカテゴリーで説明すること(たとえば「エスニシティ」や「階級」)の困難さがよくわかります。
その他にも多くの人種論も登場しますので専門的な知識がないと読みにくいかもしれませんが、挑戦する価値のある本ですのでぜひ読んでみてください。
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⑦『The Fateful Triangle』
『The Fateful Triangle』では「人種」「エスニシティ」「国家」という言説によって形作られた3つの歴史的な形態が議論の対象となっています。
人種に関していえば、
- そもそも、言説が人間の実践と組織に意味を与え、世界に秩序立てるものとして理解しなければならないこと
- その上で、人種とは世界を有意義に分類し構成する意味の体系であること
- つまり、人種主義と戦うとはこの体系をいかに理解できるかに依存していること
を理解することが重要です。
これだけでも意味不明かもしれませんが、「ソシュールの構造言語学」や「マルクス主義の基本とその批判的読解」などの知識がないと読みにくいです。
それでもおすすめするのは、ホールがいうように、「人種が科学的に存在しないとされても、我々の視覚は嘘をつかないのはなぜか?視覚される表層的差異に基づき、人種に意味を見出さないことは可能なのか?」という疑問が極めて重要だからです。
「人種的差異が目に見えること」がもたらす社会的意味の連鎖を、彼の議論から学んでみてください。
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4章:人種差別を学ぶためのおすすめ本:番外編
しばしば、人種とスポーツとの関係は議論の対象となります。ここでは、新書を簡潔に紹介したいと思います。
『人種とスポーツ』
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「黒人の身体能力が先天的に優れている」という言説の脱構築を試みた新書です。
オリンピックの陸上男子100m決勝で、スタートラインに立った選手56人は、ここ30年すべて黒人である。陸上以外の競技でも、彼らの活躍は圧倒的に見える。だが、かつて彼らは劣った「人種」と規定され、スポーツの記録からは遠い所にあった。彼らは他の「人種」に比べ、本当に身体能力が優れているのか―。本書は、人種とスポーツの関係を歴史的に辿り、最新の科学的知見を交え、能力の先天性の問題について明らかにする。
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黒人のなかの「黒」という意味作用が学術的に検討されているわけではありませんが、新書としては十分な内容ですので、初学者の方はぜひ読んでみてください。
『サッカーと人種差別』
この書物は、サッカー界にはびこる人種差別の現実を生の声から示しています。
ここ20年、サッカーの本場ヨーロッパでは、どのような人種差別事件が起きてきたのか?サッカーは差別といかに闘ってきたのか?差別を受けた選手の足跡、差別と闘う団体の活動などを追いかけ、スタジアムと私たちの社会から差別をなくすためにはどうすればいいのかを考える。
(Amazonの紹介ページより)
こちらもやはり新書ですので、「社会構造とサッカーの結びつき」や「有色人種が対象になる歴史的過程」などに対して深く議論がされているわけではありません。
とはいえど、サッカーに関心ある方にぜひ読んでいただきたい良書です。
まとめ
あなたの関心にあう書物は見つかりましたか?
繰り返しますが、人種差別に関する研究は膨大な量があります。ですので、この記事で紹介された書物はあくまでも「きっかけ」として捉えて、あなたの学びを深めていってください。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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