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心理学

【共同体感覚とは】アドラーの議論や批判をわかりやすく解説

共同体感覚とは

共同体感覚(英語:social interest, 独語:Gemeinschaftsgefuel)とは、「人間は皆互いを支え合う仲間である」という感覚を意味します。

共同体感覚は、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)によって創始された「個人心理学」のキー・コンセプトです。

アドラーは、「人間は同じ共同体で生きる仲間であり、支え合って生きていること」が個人心理学を構成する重要な要素であることを示しました。

では一体、共同体感覚は、私たちの生活や人生そのものにどのような影響を与えているのでしょうか?

そこで、この記事では、

  • 共同体感覚とアドラー
  • 共同体感覚の構成要素と育成
  • 共同体感覚に対する批判

をそれぞれ解説していきます。

関心のある所から読んでみてください。

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1章:共同体感覚とは

1章では共同体感覚を「アドラーの議論」「構成要素」「育成」から概観します。2章では共同体感覚に対する批判を紹介しますので、あなたの関心に合わせて読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 共同体感覚とアドラー

そもそも、アドラーの個人心理学における「共同体」とはなにを指すのでしょうか?結論からいえば、共同体とは「人と人が関わり合う場所」です。具体的に、共同体には以下のようなものがあります。

  • 友人同士の小さなグループから、地域や国といったもの
  • 究極的には、あなたの生きている世界そのものが1つの共同体である

つまり、アドラーは人間が社会的存在であり、孤独に生きることはできないと考えました。そして、このような世界に属する感覚を、アドラーは「共同体感覚」といいました2*しばしば、アドラーは共同体感覚を「他者への関心」という言葉に言い換えてる

では、アドラーはなぜ共同体感覚が人間に必要なものと考えたのでしょうか?それは、非現実的な共同体の実現を目指そうとすることが人間を成長させる、とアドラーが考えたためです。

上述した小さな共同体(家族や、友人同士のグループ)において、共同体の他者を「仲間」と見なすことは難しくないでしょう。しかし、共同体の規模が大きくなるに従って(地域、国など)共同体に属する他者を皆「仲間」と感じるのは困難となります。

アドラー研究者の岸見一郎によれば、

アドラーは共同体の限界を定めておらず、最大の共同体は「宇宙」である

と考えていました3たとえば、岸見の『アドラーをじっくり読む』(中央公論新社),『アドラー人生を生き抜く心理学』(NHK出版)など

岸見の主張から、宇宙規模の共同体において、他者を全員「仲間」と感じるのは非現実的な見方ということをアドラー自身も認めていたことがわかります。

それにもかかわらず、アドラーが共同体感覚を必要としたのは、理想的な共同体を目指そうとする意思こそが、人間をより良い未来に導く原動力となると考えてたためです。

たとえば、帰属する共同体から安心感を得ている場合、その共同体に留まるべきではありません。外へと働きかけ、自分から積極的に世界を広げていくことが人間を成長させるために重要です。

このようにして、多様な人々との「共同体感覚」を獲得することが、最終的に人間の幸福感の増幅へと繋がる、とアドラーは考えました。

人間は共同体感覚を得ると、自分の帰属を認識し安心して過ごすことができるようになります。この安心感のことを、アドラーは「幸福感」と呼んでいます。



1-2: 共同体感覚の構成要素

では、共同体感覚を得るためには何が必要なのでしょうか?アドラーは、共同体感覚を得るために「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」が必要だと主張しています。それぞれ解説していきます4たとえば、岸見『アドラーをじっくり読む』(中央公論新社),『アドラー人生を生き抜く心理学』(NHK出版)など

1-2-1: 自己受容

自己受容とは、

自分の良い点も悪い点も受け入れて、「自分は価値ある存在だ」と認識できるようになること

です。

自己受容では、自分自身のもつポジティブな面とネガティブな面の両方を無条件で受け入れることが重要とされています。つまり、苦手なものを「自分」として認識できるようになると、それが自分自身を信頼できることに繋がるということです。

アドラーは、自己受容に関して「自分に価値があると思える時にだけ、(対人関係に踏み込む)勇気を持てる」と述べています。つまり、自分への信頼は安心感へと繋がり、それが共同体感覚を得るためのきっかけとなります。

1-2-2: 他者信頼

他者信頼とは、

他者を無条件で信頼し、受け入れること

です。

前述のように、アドラーの個人心理学では、他者を「同じ共同体で暮らす仲間」として捉えます。信頼に対しての見返りを求めずに他者を受け入れる姿勢は、他者からの信頼を獲得することに繋がります。

そして、他者からの信頼を得ると、自分が共同体にとって価値ある存在であるという感覚を満たすことができ、より一層自分自身を認めることができるようになるとされています。

1-2-3: 他者貢献

他者貢献とは、

他者や共同体に積極的に貢献すること

です。

共同体に貢献的行動を取ることによって、自分が他者に必要とされていることを実感することができます。他者貢献は、あくまで「貢献(共同体のために行動を起こすこと)」を目的としたものです。

つまり、他者から見返りを得ることや、褒められることを求めて行うものではありません。

むしろ、「他者は共同体の仲間である。他者は仲間であるから、私が困ったときに助けてくれるだろう。だから私は、他者が困っているときに積極的に助けになりたい」といった相互扶助の関係を意味します。

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1-3: 共同体感覚の育成

それでは、共同体感覚を育成するには実際にどのような行動を取ることが必要なのでしょうか?

結論からいえば、共同体感覚を育成するためには「貢献感」をもって行動することが大切だとされています。

貢献感とは、

自分自身が「共同体にとって有益な行動をしている時」に得られる感覚のこと

です。

たとえば、共同体にとって良い事をしているとき、私たちは「自分は人の役に立てている」と感じることができるでしょう。すると、「他者の役に立つ自分自身には価値がある」と感じられるようになります(自己受容)。

貢献的な行動をとるとき、他者信頼が前提にあります。それは危害が加えられる可能性を考慮にいれた場合、貢献的行動をすることが極めて難しくなるからです。そのため、個人心理学的にいえば、無条件に他者を信頼しなければならなりません。

自分から世界に働きかける「他者信頼」は勇気の要ることかもしれませんが、勇気を持って他者との関係の中に飛び込み、貢献感を持って行動することが大切です。

なぜならば、そのような貢献的行動の結果として幸福感を得られるからです。この貢献感による行動の推奨は、「未来は変化させることができる」という個人心理学のメッセージでもあります。

1章のまとめ
  • 共同体感覚とは、「人間は皆互いを支え合う仲間である」という感覚を意味する
  • 共同体感覚は、非現実的な共同体の実現を目指そうとすることが人間を成長させるために必要である
  • 共同体感覚を得るために「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」が必要である
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2章:共同体感覚への批判

1章で解説してきた共同体感覚に対して、いくつか批判があったのも事実です。ここでは、共同体感覚に対する批判を紹介していきます。

2-1: 共同体感覚への強要

前述のように、共同体感覚を育成する上で「貢献感をもって行動する」ことが重要です。

しかし、あなたが共同体感覚を得るために行動を起こす場合と違い、他者に貢献感をもって行動するように強要することはどうでしょうか?

上述した岸見が主張するように、この場合は「共同体に属する者に、共同体への奉仕を強要している」ことになります5岸見『アドラー人生を生き抜く心理学』(NHK出版, 201頁

本来、共同体に属する者は、

  • 上下関係の無い仲間である
  • 貢献感はあくまでも個人がもつものであり、誰かからもつようにいわれてものではない

です。

言い換えれば、他者に「自分たちの共同体(グループ)のために行動するように」と強要することは、強要している人自身が他者を「仲間」として受け入れていないともいえます。

注意するべきは、

「共同体の仲間同士は対等な関係性である」「貢献感は、個人がもつものである」という個人心理学の特徴が、「他者を支配(強要)したい」と考えに転用されること

です。

貢献感の他者に求める際は、慎重にバランスを見極める必要があります。



2-2: 共同体感覚の科学性に対する批判

そもそも、アドラーは個人心理学を「価値の心理学」と定義し、それは「共同体感覚を育成して、幸福感を得る」という目的の元に成り立つ心理学であるとしました。

しかし、個人心理学の中枢ともいえる共同体感覚が「個人の価値観」に重点を置くことについて、当時の精神科医たちは「価値観に基づく考えは科学ではない」と批判しました。

より簡単にいえば、個人心理学は科学ではなく、哲学思想に近いものとして捉えられたのです。

加えて、個人心理学は「目的論」を採用しているのに対し、当時の精神医学界で主流であったジグムント・フロイトの精神分析学は「原因論」を採用していたという時代背景もあります。

現代において、個人心理学は「未来をより良くするため」に思考する心理学として多くの人に周知されるようになっていますが、アドラーが発表した当時、個人心理学は上述の理由から現代ほど支持された議論ではありませんでした。

2章のまとめ
  • 批判①:共同体に属する者に、共同体への奉仕を強要している
  • 批判②:個人心理学は科学ではなく、哲学思想に近いものである

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3章:共同体感覚のおすすめ本

共同体感覚について理解を深めることはできましたか?

より詳しくはこれから紹介する本を参考して、あなたの理解を深めていってください。

おすすめ本

岸見一郎『アドラー 人生を生き抜く心理学』(NHKブックス)

日本の個人心理学研究の第一人者である岸見一郎氏の著書です。共同体感覚をはじめとした、個人心理学の基本的な特徴についてわかりやすく解説されています。

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岸見一郎『アドラーをじっくり読む』(中央公論新社)

共同体感覚がなぜ生まれたのか?という点について、アドラーの生い立ちや思想から理解することができます。共同体感覚についての知見をより深めたいという方におすすめです。

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岩井 俊憲『マンガでやさしくわかるアドラー心理学 人間関係編』(日本能率協会マネジメントセンター)

個人心理学の中でも共同体感覚が基盤となった「対人関係」に焦点を絞った内容になっています。マンガやイラストで分かりやすく紹介されているため、初学者の方におすすめです。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 共同体感覚とは、「人間は皆互いを支え合う仲間である」という感覚を意味する
  • 共同体感覚は、非現実的な共同体の実現を目指そうとすることが人間を成長させるために必要である
  • 共同体感覚を得るために「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」が必要である

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