政治思想・政治哲学

【多数者の専制とは】現代に通じる民主主義の議論をわかりやすく解説

多数者の専制とは
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多数者の専制(the tyranny of the majority)とは、間接民主主義の仕組みでは多数派の意見によって政治的意思決定が行われ、少数派の意見が通らなくなるというJ・S・ミルによる主張のことです。

あなたも、多数決で何かを決めようとして自分の意見が通らず、もどかしい思いをしたことがあるのではないでしょうか。

日本を含む民主主義国家にとって、議員を通して政治的主張をする間接民主制は不可欠ですが、一方で少数の意見が殺されたり多数派から支持を得やすい主張しか意見が通らない、という問題点も抱えています。

これを明確に指摘し、その改善策を提示したのがJ・S・ミルです。

この記事では、

  • 多数者の専制の意味や問題背景、議論
  • 民主主義のもとで少数派の意見を取り入れるために必要なこと

などを詳しく説明します。

関心のあるところから読んでみてください。

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1章:多数者の専制とは

1章では、多数者の専制という言葉の簡単な解説と、このような概念を作り出すにいたったJ・S・ミルの問題意識や思想について説明します。

ミルの思想や問題意識から知ることで、多数者の専制をめぐる議論についてより深く理解することができます。

民主主義と多数の専制

1-1:多数者の専制の意味

繰り返しになりますが、多数者の専制とは、民主主義の仕組みでは多数派の意見によって政治的意思決定が行われ、少数派の意見が通らなくなるというJ・S・ミルによる主張のことです。

そもそも、民主主義とはどのような制度でしょうか?それは、社会の成員(メンバー)の皆が主権を持ち、自分たちで社会の決め事(法律や政策)を決定していく仕組みのことです。

民主主義の実際の形態としては、直接民主制と間接民主制があります。

  • 直接民主制:市民が政治に直接参加する形態
  • 間接民主制:代理人(議員)を市民が選挙によって選び、代理人が市民の声を代弁し、市民は間接的に政治に参加する形態

膨大な人口を抱える現代の多くの国家では、直接民主制を取り入れるのは困難です(もちろん、重要な問題については国民投票が行われることはあるのですが)。そのため、間接民主制を取り入れざるを得ないのですが、間接民主制ではどうしても多数派の意見によって政治的な決定が行われやすいという問題があります。

この問題を、19世紀に活躍した哲学者、経済学者であるJ・S・ミル(John Stuart Mill/1806-1873)は「多数者の専制」と言って批判したのです。

J・S・ミルJ・s・ミル



民主主義について、詳しくは以下の記事で図解しています。

【民主主義とは】基礎知識・歴史・重要用語をわかりやすく解説

1-2:ミルが持った問題意識と時代背景

ミルがこのような主張をしたのは、当時の社会や学問の世界において「公平な社会を実現すること」が問題となっていたからです。

1-2-1:ミル以前の思想

そもそも、ミル以前の時代の哲学や社会思想の中では、ホッブズ、ロック、ルソーらのように「なぜ個人の自由は認められなければならないのか」「個人の自由とはそもそも何か」といったことが問題とされていました。

【ホッブズ、ロック、ルソーらの社会契約思想】について
→詳しくはこちら

なぜなら、ロックやルソーらの時代は、絶対王政によって個人の自由が制限された時代で、権力による支配を打ち破って個人の自由を実現することが最大の課題とされたからです。

それに対し、ミルの時代はそれらの個人的自由はある程度保証されることが前提とされるようになっていました。そのため、個人的自由を前提とした上で、より公平で、より人々が幸福でいられるような社会を実現することが新たな課題となったのです。

1-2-2:自由と法の支配の重要性

「自由をいかにして実現するか」ということをミルが問題としたのは、自由を実現する革命として行われたフランス革命が、革命の名のもとに、自分たちと異なる思想を持つ人々を断罪、排斥していたためです。

ミルはイギリスの哲学者ですが、イギリスの伝統的思想から考えると以下のように考えられるのです。

  • 断罪するかどうか決めるのは、特定の個人や集団の思想ではなく、コモン・ロー(理性の法)にもとづいた判断であるべき
  • フランス革命は「進歩」を掲げるあまり過去の歴史、伝統、慣習を否定し、結果的に異なる思想を持つ人々の自由を侵害した

もちろん、旧態依然とした社会構造や権力は破壊して、より良い社会を実現するべきであるのは間違いありません。しかし、それがコモン・ロー(つまり、伝統的に積み重なってきた法の理念、伝統)に反するものであれば、誰かの自由を侵害して、結果的にリベラリズム(自由主義)が実現できない。

このような思想を持っていたのです。

こうした背景から、真の自由を実現するためにはどうすれば良いのか?ということがミルの課題となりました。

ミルの思想について、以下の記事では広く解説していますのでぜひ合わせて読んでみてください。

【JSミルの思想と哲学】功利主義、経済学、政治学の要点をわかりやすく解説

ミルの問題背景が理解できたでしょうか?2章では、多数者の専制に関するミルの議論を詳しく説明していきます。

1章のまとめ
  • 多数者の専制とは、民主主義の社会では多数派の意見が支持を得られやすく、少数派の意見が犠牲になること
  • ミルの思想は、より自由で公平な社会を実現するにはどうしたら良いか?という課題に対する答えである
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2章:J・S・ミルの多数者の専制の議論

1章で多数者の専制の意味を説明しましたが、

「多数派が政治を支配することの何が問題なの?」と思われた方もいるかもしれません。

これは、もちろん公平性の問題(同じ社会の成員なのに、少数派だけが犠牲になるのは公平ではない)でもあります。しかし、ミルはそれだけではなく、少数派を尊重することが社会全体のためにもなるのだ、という主張をしました。

まずは、多数者の専制の問題点と少数派を尊重すべき理由から説明します。

2-1:多数者の専制の問題点

多数者の専制による弊害には、まず少数派の犠牲という公平性の問題があることに触れました。しかし、ミルが主張したのは公平性よりも、以下の2つの問題です。

  1. 多様な個性や少数の天才の意見を潰してしまう
  2. 市民の「徳」を成長させない

順番に説明します。

2-1-1:個性や天才を潰す可能性

ミルの思想に特徴的なのが、社会には少数の天才が存在するため、彼らの意見を取り入れることが社会のためになると考えた点です。ミルは以下のように言っています。

天賦の才をもつ人々は、たしかに、きわめて少数であるし、また常に少数にとどまる傾向がある。しかし、その少数の天才を確保するために、彼らの成長しうるような土壌を残しておくことが必要である。

ミル『自由論』

民主主義という制度のメリットは、このような個々人が持つ才能を政治に取り入れることができるという点です。

個人的自由が抑圧されていた時代には、少数の天才の力を活用できる仕組みは少なかったですが、自由主義・民主主義の時代にはそれが活用できる。しかし、通常の民主主義では多数者の専制を許してしまう問題があるため、これを何とかしなければならない。

これがミルの考えです。

これは、「少数派は社会に役立つため、社会に取り入れる工夫をすべき」という主張であり、功利主義的な主張ではあります。それは、ミルが功利主義の思想を継承していたことが背景にあるでしょう。

功利主義とは、社会の幸福の総量を増大させるような選択こそが正しいと考える、哲学や倫理学における思想のことです。



2-1-2:市民の徳を成長させない可能性

ミルは、単なる自由主義・民主主義の社会では、市民の「徳」が成長しないことも危惧しました。

単に個人の活動が「自由」にされる(つまり自由放任な)社会では、どのようなことが起こるでしょうか?人々は自己の利益を追求し、経済格差を拡大させるかもしれませんし、政治的対立が激しくなる可能性もあります。また、間接民主制なら政治家に政治の仕事を丸投げし、人々は政治に無関心になっていくかもしれません。

実際、ミルも『代議制統治論』(1861年)にて、以下のような懸念をしています。

■イギリスにおける第2回選挙法改正に関する懸念

  • イギリスでは第2回選挙法改正(1867年)によって、商工業者と都市労働者にも選挙権が与えられた
  • 選挙権を持つ市民の拡大により、十分な教養を持たない人々が政治参加できるようになる
  • その結果、人口の多くを占める労働者が多数派となって身勝手な主張をしたり、自分たちの利益だけを考えた政策を実現しようとすることが危惧される

つまり、十分な「徳」を持たない人々が多数派となって専制する「多数者の専制」を現実問題として認識していたのです。

「労働者を馬鹿にしたエリート主義では?」と思われるかもしれませんが、ミルは人間が非合理的で利用されやすいことを認識していたのでしょう。

前置きが長くなりましたが、つまりミルは、

  • 単なる「自由」な社会では、「多数者の専制」をはじめとするさまざまな問題が発生する可能性がある
  • 単なる「自由」な社会では、市民の「徳」が向上される機会が十分にない

と考えたわけです。

逆に言えば、政治の仕組みは、社会のすべての人々の「徳」を向上させるようなものであることが望ましい。そうであれば、多数者の専制の問題は解消されると考えたのです。

どんな政治諸制度であれそれにかんする第一の問題は、その共同社会の諸構成員の道徳的および知的な、というよりもむしろ(もっと完全なベンサムの分類にしたがえば)道徳的・知的・活動的な、種々の望ましい資質を、それらの制度がどれだけ助長する傾向があるかということである。

ミル『代議制統治論』

2-2:多数者の専制に陥らないための比例代表制

では、ミルの指摘した「多数者の専制」に陥らないためにはどうしたら良いのでしょうか?ミルは『代議制統治論』の中で以下のように提案しています。

  • 厳しく三権分立すること
    「議会」は「政府(つまり行政権力)」が行う政策について賛成、反対を示すのはOKだが、必要以上に行政に介入しないこと。また、行政権力のトップである首相を専門職とし、議会から独立して行政を行う。司法は独立性が大事であるため、「多数者の専制」に陥る可能性がある公選ではなく、非公選で選ぶ。
  • 「比例代表制」で選挙をすること
    少数派の意見を尊重できる「比例代表制」で選挙をする。

このように、制度を工夫することで多数者の専制に陥らないようにできると考えたのです。



■比例代表制とは

比例代表制とは、その選挙区で1番(場合によっては2番、3番以降も)の多数票を得ることができた政党が、得ることができた投票数に「比例」して議席を得ることができる制度です。

投票者は政党名もしくは議員の個人名で投票することができますが、獲得票数は政党ごとに集計されます。

日本の場合は、比例代表制でかつ「ドント式」と言われる方式が採用されています。

■ドント式とは

A党B党C党
600票400票200票
300票200票100票
200票133票67票

たとえば、選挙によってA党600票、B党400票、C党200票が獲得された場合を考えてみましょう。

その選挙区で3議席が配分される場合、上記のように獲得された票が1、2、3と割られていきます。そして、数字の大きい順に議席が配分されます。この場合は、A党が2議席、B党が1議席を得ることができたことになります。

■比例代表制のメリット

  • 死票が少なく、少数派の意見も尊重できる
  • 新政党が生まれやすい

■比例代表制のデメリット

  • 小党が乱立して議会での意思決定が難しくなりやすい
  • 議会の運営のために連立政権となることが多い
  • 政党幹部の権力が強くなりがち

ミルは、『代表の手続き』(1857年)という著作で「単記移譲式」という比例代表制の制度の一つを主張しています。比例代表制を採用することで、少数派を含む多様な有権者の意見を議会に反映できるため、小選挙区制を支持しているのです。

2-3:複雑化する社会で「多数者の専制」を乗り越える工夫

ミルの時代、すでに社会は複雑化し政治問題が多様化していました。

政治問題が少ない社会なら、小選挙区制のように二大政党が生まれやすい仕組みの方が円滑に意思決定できる分優れているかもしれません。しかし、政治問題が多様化した社会では、少数派の意見もすくいとって解決していかなければ、政治の場に不満を持つ人々が増え、国内情勢は不安定化するでしょう。

また、「少数派の意見も政治に反映される」という認識が国民に生まれれば、政治参加する意識が増強され「徳」が成長するきっかけになります。

ミルが、イギリスにおける第2回選挙法改正による有権者の拡大(労働者が有権者になる)ことを現実問題として認識していたことは、先にも触れたとおりです。

ミルの主張を読む限り、「労働者は無知」という前提に立ったエリート主義というよりも、労働者の中からも「優れた個性や才能」「優れた意見」をすくいとることが目指されています。その結果、少数派を尊重できる比例代表制が支持されたのではないかと思われます。

現代は、ますます社会が複雑になり政治問題が多様化しています。また、若者を中心に政治への関心が薄れ投票率も低迷したままです。ミルの議論は、現代の日本の政治を考える上でも意義のあるものではないでしょうか。

2章のまとめ
  • ミルが選挙法改正から「多数者の専制」を危惧したのは、多数派によって意思決定がなされた結果、少数派の個性や才能が活かされなくなること
  • ミルは、比例代表制の採用によって少数派の意見も政治に反映し、多数者の専制を防ぐことができると考えた
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3章:多数者の専制に関連する議論を学べるオススメ本

多数者の専制について理解を深めることができましたか?

多数者の専制は、リベラリズム(自由主義)と民主主義に関わるもので、政治哲学・政治学における重要な議論の一つです。

そこで、このような議論をより深く理解したい場合は、これから紹介する本を読んでみることをおすすめします。

オススメ書籍

オススメ度★★★J・S・ミル『代議制統治論』(岩波書店)

ミルが「多数者の専制」などについて論じた本です。少し難しい文章ですが、ミルの思想について理解するためには必読です。

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この本は、「自由」と「民主主義」をめぐるリベラリズムのさまざまな議論についてとても分かりやすくまとめられた本です。ミルの議論を含め大きな流れの中でさまざまな議論が解説されているので、とても分かりやすく勉強になります。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 多数者の専制とは、単なる間接民主主義では多数派の意見が通りやすくなり、少数派の意見が犠牲になることを危惧したミルの思想
  • 多数者の専制を乗り越える工夫として、ミルは比例代表制を支持した
  • 少数派の意見を尊重することは、個人が持つ個性や才能、卓越した意見を社会で活かしていくべきというミルの思想が背景にあった

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