フィールドワーク(field work)とは、研究者自身が現地に赴き、インタビューや資料収集等の調査することを指します。
フィールドワークの定義を皆さんはすでにご存じかもしれませんが、フィールドワークは定義通りにいかない奥が深い調査方法です。
たとえば、「現地の何を理解したら、現地を理解したことになるのか?」という疑問にあなたは答えられますか?
いまやフィールドワークは研究者だけでなく、行政機関や一般企業の方々もおこないます。広く普及する調査方法だからこそ、しっかりと学ぶ必要があります。
この記事では、
- フィールドワークの定義・意味
- フィールドワークの対象と方法
などについて解説します。
興味のあるところから読んで構いませんので、読んでみてください。
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら
1章:フィールドワークとはなにか?
まず、フィールドワークの概要について理解したいという方は1章を読んでみてください。フィールドワークに関する学問的な議論に興味のある方は2章から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: フィールドワークの定義・意味
冒頭の定義を確認しますが、フィールドワークとは、
研究者自身が現地に赴き、インタビューや資料収集等の調査すること
を指します。
文字通り、「フィールド(field)でおこなう調査(work)」です。
フィールドワークには、
- 実際にフィールドワークを実施するフィールドワーカー(field worker)
- 現地の情報提供者であるインフォーマント(informant)
- 現地の人びとにおこなうインタビュー調査(interview)
- 現地での記録となるフィールドノート(field notes)
- 現地の人びととの間にある信頼関係を指すラポール(rapport)
といった重要なキーワードがあります。
では一体、どんな学問がフィールドワークを実施するのでしょうか?
1-2: フィールドワークの対象とやり方
フィールドワークを実施する学問は、多くあります。ぱっと思いつくだけでも、次のような学問があります。
- 文化人類学
- 社会学
- 政治学
- 博物学
- 地質学
- 動植物学
さらに冒頭でも言いましたが、いまや学問という枠を飛び出して、行政機関や一般企業もフィールドワークを実施します。
アカデミックの世界から一般に広く普及したフィールドワークですが、ここでは大きく人文社会科学と、自然科学におけるフィールドワークの対象とやり方を確認しましょう。
ちなみに、フィールドワークといえば文化人類学というぐらい、フィールドワークは文化人類学のアイデンティティの一部となっています。
文化人類学はフィールドワークに関する研究蓄積が多くありますので、その議論を2章で解説します。
1-2-1: 人文社会科学におけるフィールドワーク
人文社会科学におけるフィールドワークでは、基本的に以下のことが必要とされます。
- 現地の人びとの生活の営みを直接的に観察すること
- インタビュー(ときおりアンケート)調査を実施すること
- 現地の人びととラポールを形成すること
たとえば、文化人類学のフィールドワークは、その典型的な例です2太田 好信, 浜本 満 (編)『メイキング文化人類学』世界思想社を参照。
文化人類学の調査
- 現地の人びとの行動を直接的に観察してフィールドノートをつける
- インフォーマントが話してくれる内容を聞き取り調査する
- その社会で中心とされる人物にインタビュー調査をする
- アンケート調査は少なく、自発的な言葉から現地の人びとの意味を探る
- 現地でしか手に入らない資料の収集をする
このように、文化人類学などの人文社会科学のフィールドワークでは、ある民族・社会が対象となる場合がほとんどです。そのため、現地の人びとの生活を彼ら自身の視点から描こうとすることが重要です。
1-2-2: 自然科学におけるフィールドワーク
一方で自然科学におけるフィールドワークでは、基本的に以下のことがおこなわれます。
- 動植物の生態系の直接的な調査
- 地層の観察や鉱物採集など
自然科学の古典的な例は、博物学です。博物学は自然界の森羅万象に関するもので、動物学、植物学、地質学のすべてが守備範囲という学問です。
たとえば、社会思想に大きな影響をもたらしたチャールズ・ダーウィンは「博物学者」でした。彼は1831年のビーグル号の航海に「博物学者」として参加し、フィールドワークをしました。
ダーウィンの調査
- 気象観測
- 地質調査
- 鉱物標本の採集
- 動植物についての観察と標本採集
- 現地の人びとの生活を描写
より詳しくはぜひ『ビーグル号航海記』を読んでみてください。
いずれにせよ、自然界を研究する博物学にとって、フィールドワークが重要なのは当たり前の話かもしれません。
ちなみに、地理学ではフィールドワークという言葉ではなく「巡検」が使われる場合があります。意味はフィールドワークと同じです。このように、自然科学では基本的に自然物を対象にフィールドワークが実施されます。
1-2-3: 人文社会科学と自然科学におけるフィールドワークの共通点
一見異なった種類のフィールドワークですが、人文社会科学と自然科学のフィールドワークに共通点はあります。
たとえば、人文社会科学と自然科学では、次の項目で共通点があるといえるでしょう。
- 調査期間:日帰りから長期滞在
- 調査規模:個人から団体調査
- 調査資金:自費調査から政府機関による研究費支援
- 事前調査:フィールドワークに先立って、必要な文献や資料を収集
1-3: フィールドワークのメリット
そして、フィールドワークのメリットは間違いなく、
「生の」データを直接的に観察し、収集できること
でしょう。
インターネットがこれ程発展した時代はありませんが、現地に行かなければ知るよしもない出来事は沢山あります。
たとえば、
- 珍しい動植物の観察
- 岩石標本の採集
- 現地の人びとの「声」の収集
- 現地の図書館にしかいない史料
はフィールドワークをとおしてでしか、手に入らないものです。
本に書かれている情報は、いつでも家で知ることができます。一方で、現地にある情報はその場限りの場合が多いです。
そのため、フィールドワークの本質は「その土地を研究するのではなく、その土地で研究すること」といえるでしょう。
人文社会科学と自然科学では対象とやり方が違いますので、皆さんの目的に沿ったやり方を推奨します。
フィールドワークを学ぶための参考記事は、以下のとおりです。ぜひ参照ください。
これまでの内容をまとめます。
- フィールドワークとは、研究者自身が現地に赴き、インタビューや資料収集等の調査すること
- フィールドワークと一言でいっても、人文・社会科学と自然科学の対象とやり方は異なる
- フィールドワークは現地の「生の」資料を獲得する絶好の機会
2章: フィールドワークと文化人類学
フィールドワークをしないと文化人類学者になれないといわれるほど、フィールドワークは文化人類学にとって重要な「方法」です(もはや「通過儀礼」に近い)。
では、文化人類学のフィールドワークにどんな特徴があるのでしょうか?
そもそも、文化人類学とはなんだ?と思う方は、次の記事を参照ください。
2-1: 文化人類学とフィールドワーク
そもそも、文化人類学とは自分とは異なった生活をする人びとに魅了されて、そこから何かを学ぼうとする学問です3太田 好信『ミーカガン 沖縄八重山地方における潜水漁民の眼から見た世界』櫂歌書房。
そのため、自分の社会を対象とする文化人類学者はきわめて少なく、多くは世界に存在する異なった社会を対象とします。人類学にとって、フィールドワークが必須な理由がここにあります。
そのような文化人類学のフィールドワークの特徴をまとめると、次の点になるでしょう。
- 一年〜二年間以上の長期滞在
- 現地語の習得(通訳なんてもってのほか)
- ラポールを形成がとても重要
- 調査の枠組みが事前に設定されていないことも多い
一言でいうと、文化人類学のフィールドワークの特徴は「現地での経験」が重視されることです。
「フィールドワークなのだから当たり前じゃないか」と考える方もいるかもしれませんが、少し考えると非常に複雑な特徴だということがわかります。
2-2: 参与観察を土台にしたフィールドワーク
経験的に現地を理解する上で重要なのは、「参与観察(participant observation)」という観察方法です。これは、文字通り、「参与しながら(例: 野球をしながら)」「観察すること(例: 野球を観察すること)」を意味します。
「参与観察」はいまや文化人類学だけでなく、他の人文社会科学系の学問でも使われる言葉なので聞いたことがあるかもしれません。
しかし、ここで驚かれる方が多いのではないでしょうか?そもそも「そんなこと出来るのか?」と。それは正しい疑問です。なぜならば、参与観察とは次のような問題を含むからです4太田 好信, 浜本 満 (編)『メイキング文化人類学』世界思想社を参照。
- 何をもって、私たちはその社会に参加したことになるのか?
- 社会に参加できたとして、何を理解したらその社会を理解したことになるのか?
- たとえば、現地の人びとが蟹を食べることを知って、それを知る前と比べて、その社会のどんなことを理解したといえるのか?
- そもそも呼ばれていないのに現地に赴いて、社会に参加して観察する、と一方的に宣言することは何を意味するのか?
これからフィールドワークを実施しようとする方にとって、考えてみる価値のある疑問だと思います。
人文社会科学であれ自然科学であれ、自分の目指すフィールドワークの姿を考える必要があることがわかると思います。
2-2: マリノフスキーのフィールドワーク
さて、参与観察という経験に基づくフィールドワークは、文化人類学者のマリノフスキーにより確立されたとされています。
マリノフスキー
- ニューギニアのトロブリアンド諸島でフィールドワークを実施した人物である
- クラ交易についての民族誌『西太平洋の遠洋航海者』(1922)を執筆した
- 文化人類学の強力な思想であった機能主義を提唱した
重要なのは、トロブリアンド諸島でのフィールドワークです。それはマリノフスキーが一人で現地社会に長期的に滞在し、現地語を介して具体的な研究したからです。
言い換えれば、マリノフスキーは文化人類学のアイデンティティを作り出したのです。
2-2-1: マリノフスキー以前のフィールドワーク
しかし実は、マリノフスキー以前にもフィールドワークは存在しました。先に述べたダーウィンの事例を思い出してください。
1831年のビーグル号航海に参加したダーウィンは、
- 気象観測
- 地質調査
- 鉱物標本の採集
- 動植物についての観察と標本採集
- 現地の人びとの生活を描写
といったフィールドワークを実施しました。
他にもあります。宣教師はどうでしょうか?宣教師は学者ではないですが、世界各地に住み着きながら、現地語を話して活動をしました(たとえば、遠藤周作の『沈黙』)。彼らの活動は間違なくフィールドワークです。
■ 文化人類学のフィールドワークの特徴とは?
すると、文化人類学より先行しておこなわれていた博物学や宣教師のフィールドワークと、文化人類学のフィールドワークは何が違うのでしょうか?
結論からいうと、文化人類学には「現地の人びとの視点」から社会を考える特徴があります。それは「宣教師」や「博物学」に欠けていた部分です。
具体例として、『ビーグル号航海記』におけるダーウィンの記述をみてきましょう。ダーウィンは「対自然」と「対人間」に対して描写をしています5太田 好信, 浜本 満 (編)『メイキング文化人類学』世界思想社を参照。
対自然:
- 「はなはだ妙な小鳥がいる」(南アフリカのティノコルスという鳥についての記述)
- 「極めて奇異な外観」(フォークランド諸島における石英岩についての記述)
対人間(フエゴ島民に関する記述):
- 「未開人は模倣能力に長けている」
- 「ボロ雑巾と交換に見事な魚やカニをくれる。つまり、物の価値をわかっていない」
ダーウィンの記述に特徴的なことは何でしょうか?それは対自然と対人間で視点の相違がないことです。
ダーウィンは、対自然を描くように対人間を描いています。鳥や岩は奇妙と言われても文句をいいませんが、対人間に対してするべき同じ描写をするべきなのでしょうか?
恐らく、答えはNOです。なぜならば、「現地の人びとの視点」に立脚するならば、次のような問いを発するはずだからです。
- なぜフエゴ島民は模倣したのか?
- モノの価値のシステムは西洋と先住民で異なるのはないか?
自分の視点が限定的であることを反省して、現地の人びとの視点から世界を見てみる。ダーウィンは、驚くほど現地の人びとの視点に無関心です。
ダーウィンは自然科学系の調査をしましたが、呼ばれていないのに現地に赴いている点で文化人類学と同じです。
フィールドワークに必要なのは、細かいテクニックではなく、現地の人びとの視点から世界をみようとする倫理観であること、を文化人類学の議論は教えてくれているのではないでしょうか。
これまでの内容をまとめます。
- 文化人類学のフィールドワークの特徴は「現地での経験」が重視されること
- フィールドワークや参与観察をよく考えると、定義ほど簡単ではない
- 自分の視点が限定的であることを反省して、現地の人びとの視点から世界を見ることが重要
3章:フィールドワークを学ぶための書籍リスト
最後に、フィールドワークを学ぶ書籍リストを紹介します。
フィールドワークには現地の人びとを尊重する倫理観が必要です。フィールドワークをおこなう方は、ぜひこれから紹介する書籍を読んでみてください。得るものが必ずあるはずです。
チャールズ・ダーウィン『ビーグル号航海記(上・下)』
22歳のダーウィンは、1831年の英国海軍ビーグル号による南アメリカ海岸の調査に無給の博物学者として同乗しました。ダーウィンは詳細なフィールドノートをつけています。ノートの付け方を学べて、オススメの一冊です。
ブロニスワフ・マリノフスキ 『西太平洋の遠洋航海者』(講談社学術文庫)
フィールドワークのあり方を序文で解説しています。読み物としてもおもしろいですので、強くおすすめします。
(2023/05/12 11:24:21時点 Amazon調べ-詳細)
太田好信・浜本満(編)『メイキング文化人類学』 (世界思想社)
文化人類学の歴史と未来を学べて、一石二鳥な本です。フィールドワークについても、博物学の歴史を比較しながら解説しています。この記事もこの本を参照しました。
(2024/10/14 16:52:19時点 Amazon調べ-詳細)
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。
また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
Amazonプライムは、1ヶ月無料で利用することができますので非常に有益です。学生なら6ヶ月無料です。
数百冊の書物に加えて、
- 「映画見放題」
- 「お急ぎ便の送料無料」
- 「書籍のポイント還元最大10%(学生の場合)」
などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。
まとめ
いかかでしたか?この記事の内容をまとめます。
- フィールドワークとは、研究者自身が現地に赴き、インタビューや資料収集等の調査すること
- フィールドワークと一言でいっても、人文・社会科学と自然科学の対象とやり方は異なる
- フィールドワークや参与観察をよく考えると、定義ほど簡単ではない
- 自分の視点が限定的であることを反省して、現地の人びとの視点から世界を見ることが重要
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら