ジェンダー論

【ラディカル・フェミニズムとは】背景・特徴・運動をわかりやすく解説

ラディカル・フェミニズムとは

ラディカル・フェミニズム(Radical feminism)とは、家父長制という男女の支配従属関係こそが、女性の抑圧の根源とするフェミニズムの一潮流のことです。

下記するように、ラディカル・フェミニズムは第二波フェミニズムに位置づけられる思想です。ラディカル・フェミニズムはその一部ですが、極めて重要な問題提起をしていますので、しっかり理解する必要があります。

そこで、この記事では、

  • ラディカル・フェミニズムの背景・特徴
  • ラディカル・フェミニズムの具体的な運動

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:ラディカル・フェミニズムとは

1960年代後半から70年代にかけて世界中を席巻した第二波フェミニズムを思想的に分類すると、以下の3つに分けることができます。(→第二波フェミニズムに関して詳しくはこちら

  • リベラル・フェミニズム
  • マルクス主義フェミニズム
  • ラディカル・フェミニズム

ここでは、「個人的なことは政治的なこと(The personal is politic)」をスローガンに、家父長制という重要な概念を生み出したラディカル・フェミニズムについて紹介していきます。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: ラディカル・フェミニズムの背景

ラディカル・フェミニズムが誕生した社会的な背景とは、どのようなものだったのでしょうか?端的にいえば、ラディカル・フェミニズムは、1960年代末の「政治の季節」に誕生しました。

  • アメリカでは1963年にベティ・フリーダンが『女性たちの神話』(邦題『新しい女性の創造』)を出版し、アメリカ郊外に住む裕福な高学歴主婦たちが、「得体のしれない悩み」を抱く姿を世に問うて、多くの女性たちの共感を集めた
  • 1963年は折しも公民権運動が最高潮に達した時期でもあった。「二級市民」としておとしめられてきた黒人の復権を目指すこの運動は、先住民や移民、そして女性など「二級市民」的地位に置かれてきた集団のアイデンティティを呼び起こした
  • さらに、1960年代後半には学生運動、ベトナム反戦運動なども加わり、「ブラック・パワー」、「スチューデント・パワー」など、「新しい社会運動」とも呼ばれる潮流が日本を含む先進諸国で沸き起こる
  • ロックやヒッピーなど支配的文化に対抗するカウンター・カルチャーを生み出しながら、社会全体を大きく揺るがした

このような流れのなかで、新左翼運動が誕生しました。伝統的なマルクス主義が「存在が意識を決定する」と経済決定論を主張したのに対し、新左翼運動は社会の変革のためには意識や文化の変革こそが重要であると主張しました。そして、生まれたのが第二波フェミニズムです。

しかし、変革を求めて立ち上がったはずなのに、新左翼運動の中にあったのは従来どおりの性差別にすぎなかった――「平等を求める主体は男であって、女には男と同じ主体性を認めず、補助的かつ性的役割を押し付けられ蔑視されてきたのだ」という衝撃の事実に気づいた女性たちは、つぎつぎに独自の女性運動を組織し、告発をはじめました2落合恵美子 1994=2004『21世紀家族へ――家族の戦後体制の見かた・超えかた』有斐閣 120−2頁; ヒラータ,ヘレナ他編,志賀亮一・杉村和子監訳 2000=2002『読む事典・女性学』藤原書店,322−3頁; 伊田久美子 1997「ラディカル・フェミニズム」江原由美子・金井淑子編『ワードマップ フェミニズム』新曜社 20頁

そして、ニューヨークの女性グループによってはじめて先駆的なラディカル・フェミニズムが生まれます。彼女たちは女性たち自身が身体と生活を支配しなければならないと訴えました3ハム、マギー 1997『フェミニズム理論辞典』明石書店 265頁

こうして、ラディカル・フェミニズムは新左翼の影響を受けつつも、家父長制の概念を取り入れ、さらに革命的な社会理論であると主張していくことになります。



1-2: ラディカル・フェミニズムの特徴

では、ラディカル・フェミニズムの主張的な特徴は何だったのでしょうか?それを知るためには、ひと足先に生まれたリベラル・フェミニズムの訴えをもう一度振り返る必要があります。

第二波フェミニズムの潮流の中で最初に力を持ったのは、ベティ・フリーダンらによるリベラル・フェミニズムでした。簡単にいえば、リベラル・フェミニズムは以下のような主張をしました。

「メインストリームへの参加によって社会変化を!」という1966年に設立された全米女性機構(NOW)の当初の運動方針に見られるように、ひとまず資本主義体制の枠内でがんばって、男性と平等な法的権利を得て経済的自立を果たすことで女性解放が実現する

※リベラル・フェミニズムに関して詳しくはこちら→【リベラル・フェミニズムとは】特徴・運動・批判からわかりやすく解説

それに対して、女性への抑圧は単に経済的なものではなくて心理的・文化的なものであり、「男らしさ」「女らしさ」という性役割こそがすべての抑圧の根源であるという批判がラディカル・フェミニストたちから寄せられます4ハム、マギー 同上 265頁

1970年、ケイト・ミレットの『性の政治学』によってはじめて理論的基盤が与えられたラディカル・フェミニズムは、「個人的なことは政治的なこと」をスローガンに、それまで私的なものとみなされてきた家族や恋愛などの人間関係を問題化し、「政治的」と呼ばれる領域を大幅に広げていきます。

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具体的には、セクシュアリティや社会化、意識と文化に関心を寄せながら、男女を不平等に区分する男性支配の制度を「家父長制」と名付けます。そして、その家父長制こそが、女性の抑圧の根源であると批判しました。

その一方で、ラディカル・フェミニズムが基礎を置く性支配一元論は、「性差別偏重、イデオロギー偏重」であると批判したマルクス主義フェミニズムが登場します。マルクス主義フェミニズムは、階級と性の支配のむすびつきを重視し、資本主義社会における女性という集団の性階級を問題化しました。

※マルクス主義フェミニズムにに関して詳しくはこちら→【マルクス主義フェミニズムとは】特徴から批判までわかりやすく解説

以上のように、既存の政治制度あるいは思想体系を受け入れたリベラル・フェミニズムやマルクス主義フェミニズムとは異なり、ラディカル・フェミニズムの主張の特徴は、家父長制という新たな概念を立ち上げ、「政治的」と呼ばれる領域を再定義し、押し広げたことにあります。

1章のまとめ
  • ラディカル・フェミニズムは、1960年代末の「政治の季節」に誕生
  • 新左翼運動の内部で、補助的・性的役割を押し付けられた女性たちの気付きからはじまった
  • ラディカル・フェミニズムは、家父長制という概念を立ち上げ、政治的な領域を押し広げた
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2章:ラディカル・フェミニズムの具体的な運動

さて、2章では、ラディカル・フェミニズムの具体的な思想や批判についてより詳しく見ていきます。

2-1: アメリカ〜ケイト・ミレット『性の政治学』

ここでは、ラディカル・フェミニズムのバイブルとも呼ばれるケイト・ミレットの『性の政治学』(1970)について紹介したいと思います。一体、どのような主張だったのでしょうか?

本書はケイト・ミレットの博士論文を書籍化したもので、雨後の筍のように主張が生まれ混沌とした状況にあった第二波フェミニズムに、はじめて理論的根拠を提供した1冊でした5ミレット・ケイト 1970=1985『性の政治学』ドメス出版 624頁

ちなみに、日本語版の序文にもありますが、大学への就職活動がうまく行かなかったミレットは1961年から2年間日本に滞在しています。そこで外国人として見た、日本の女性たちの不遇の状況が本書の執筆の原動力のひとつになったと述懐しています。

では、本題に入りましょう。『性の政治学』の理論的意義は、以下の二つにあります。

  1. 政治という概念を個人的なことに拡張したこと
  2. 家父長制に定義を与えたこと

まず、①について見ていきましょう。ミレットは、政治を、従来のように会議や党派などと狭くとらえず、「権力構造諸関係、すなわち一群の人間が他の一群の人間に支配される仕組みをさすもの」6ミレット 同上 69頁と定義しました。

そして、男女の間の相対的地位の本質を、以下のように言い切ります7ミレット 同上 71頁

マックス・ウェーバーがヘルシャフト Hershaftと定義した現象、すなわち支配と従属の関係の事例である

ミレットによれば、生まれながらにして有利な位置に置かれた男性が、不利な位置に置かれた女性を支配する仕組みこそが「性の政治」です。それは私たちが個人的に日々従う「男らしさ」や「女らしさ」という文化にまでイデオロギーとして深くいきわたり、男性に権力を握らせるシステムなのです。

さらに②について、このような「性の政治」が支配的な状況を生み出している元凶こそが家父長制であるとし、ミレットは家父長制を、年齢と性による二重の男性支配のシステム全体であると定義しました8ミレット 同上 72頁

このように、ミレットは女性に対する差別や抑圧を、個人的な現象ではなく、ある種のまとまりをもつ家父長制という政治的な権力システムとしてとらえました。これこそが「個人的なことは政治的である」という第二波フェミニズムのスローガンにつながっていくわけです。



2-2: 日本〜マルクス主義フェミニズムとの論争

続いて、日本の状況を見ていきます。ミレットの登場から20年後の1990年代前半、マルクス主義フェミニストの上野千鶴子とラディカル・フェミニストの江原由美子によって論争が交わされました。

第二波フェミニズムの記事でも詳しく紹介していますが、日本におけるラディカル・フェミニズムの流れを代表するのが70年代のウーマン・リブでした。そして、それ以降の流れが重要です。

  • 80年代「商業フェミニズム」の代表格とされた上野千鶴子が、1990年にマルクス主義フェミニズムの理論書である『家父長制と資本制』を出版する
  • マルクス主義フェミニズムこそもっともすぐれたフェミニズム理論であると主張する上野のこれらの理論活動によって、ウーマン・リブの感情的で非合理的なおしゃべりや愚痴は合理化され定着したのだという認識が広がった

その流れに正面から疑問を呈したのが、タイトルどおり『ラディカル・フェミニズム再興』(1991)を試みる江原由美子でした。

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まず、江原は性支配一元論を主張するラディカル・フェミニズム理論を以下の3点にまとめます。

  1. 女性解放は性支配の廃絶によってのみ可能
  2. 私生活領域にまで性支配が及ぶ
  3. 個人的なことは政治的であるという命題の定式化

そのうえで、ラディカル・フェミニズム理論の革新性を、以下のように突きます9江原由美子 1991『ラディカル・フェミニズム再興』勁草書房 49−50頁

(ラディカル・フェミニズムの)決定的な意義は、社会における権力作用の回路に対して、従来の社会理論とは決定的に異なる視角を呈示したことにある。そしてその理論は、個人的経験を政治的な文脈で読むという意味において、主体、主観性を社会の効果として位置づける理論を予感させており、従来のイデオロギー論、虚偽意識論を決定的に乗り越える理論だった

江原は、ラディカル・フェミニズムの「個人的なことは政治的である」という問題提起は、社会学における新しい社会理論の動向である「主体と社会構造という二元論を否定し、行為者による社会の構造化を理論の中心に据える」「ミクロ-マクロ理論」やエスノメソドロジー、フーコーの権力論の流れの中にはっきりと位置づけることができると述べ、その文脈の中でこそ理解できると強調します10江原 同上 50頁

※フーコーの権力論に関しては以下の記事を参考にしてください。

→【生権力とはなにか】その意味・フーコーの議論をわかりやすく解説

→【言説・ディスクールとは】意味からフーコーの議論までわかりやすく解説

つまり、江原は

  • 上野らのマルクス主義フェミニズムによる土台と上部構造という経済決定論を否定する
  • その上で、行為者と構造の間にある権力作用に着目する新しい社会理論の潮流の中に、ラディカル・フェミニズム理論を位置づけた

のです11江原 同上 57頁

これに対し上野からは、「(江原は)上部構造派」という批判を受けることになりました12落合 1992 「書評」『ソシオロジ』37 108頁

しかし、産業構造の変化や冷戦終結後のグローバル化にあって、固定的に「物質的基盤とは何か」を問えなくなった、ポストモダンの影響が強まる社会理論の特徴的な流れをくむととらえることができます。

以上のように日本におけるマルクス主義フェミニズムとラディカル・フェミニズムの論争は、新しい社会理論が浸透する全体的な流れの中で交わされました。



2-3: ラディカル・フェミニズムの運動

さて、「個人的なことは政治的である」をスローガンに、私的領域での性差別や抑圧を告発したラディカル・フェミニズムは、新しいスタイルの運動を生み出していきました。一体、どのようなものだったのでしょうか?

アメリカの代表的なラディカル・フェミニストであり生物学的家族に焦点を当てたシュラミス・ファイアーストーンは「ラディカル・ウィメン」につづいて「レッドストッキングズ」を結成し、コンシャスネスレイジング(意識変革運動)を展開しました。

  • コンシャスネスレイジングとは、少人数の女性たちが集まり自らの個人的な経験を語り合いながら、孤独を克服し女性同士の連帯(シスターフッド)を目指す草の根のディスカッショングループであった
  • この女性を中心にした分離主義的な運動スタイルのうち、もっともラディカルなものはレズビアン・フェミニズムであり、ほかにもフェミニストカウンセリングやリプロダクティブヘルス・ライツや女性に対する暴力への取り組みに発展していった

その一方で、80年代以降は人種や民族、階級の観点から、90年代にはセクシュアリティの観点から、女性間の差異を消去するとして分離主義は本質主義批判にさらされることになります13伊田 同上 30頁

この本質主義批判については、カラーブラインドの記事にも詳しいですが、マイノリティのカウンターアイデンティティを考えるうえで重要な議論だということができます。

※本質主義やカラーブラインドの記事は、以下から飛べます。

→【本質主義とは】意味から構築主義による批判までわかりやすく解説

→【カラーブラインドとは】定義からアメリカでの実態までわかりやすく解説

本来、フェミニズムは女性という性別カテゴリーから離脱し、性の平等を求める人々と共闘すべきなのかもしれません。

しかし、現状、女性はその性別カテゴリーによって言葉を奪われてしまってきた以上、すべての女性が自分の言葉を取り戻すまで、フェミニズムは女性から離脱すべきではないという江原の主張にも妥当性があります14江原 同上 105頁

とはいえ、女性間の差異も消去することはできないこともまた事実です。この交差性についての問題は、ひきつづき考えていきべきものとして残っています。

2章のまとめ
  • ケイト・ミレットは『性の政治学』で、女性に対する差別や抑圧を、個人的な現象ではなく、家父長制という政治的な権力システムとしてとらえた
  • 90年代日本ではマルクス主義フェミニズムとラディカル・フェミニズムの間で論争が起こった
  • ラディカル・フェミニズムはコンシャスネスレイジングという新しいスタイルの運動を生み出した
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3章:ラディカル・フェミニズムを学ぶためのおすすめ本

ラディカル・フェミニズムに関して理解は深まりましたか?以下ではさらに理解を深めるための書物を紹介します。

おすすめ書籍

オススメ度★★★  Kate Millet SEXUAL POLITICS, University of Illinois Press(日本語は1985 藤枝澪子ほか訳『性の政治学』ドメス出版).

ラディカル・フェミニズムに理論的基盤を与えたバイブルとも称される一冊です。文芸批評と文化批評を織り交ぜながら、家父長制に鋭く切り込んでいます。日本語版への序文は必読です。

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オススメ度★★★ 江原由美子『ラディカル・フェミニズム再興』(勁草書房)

1990年、彗星のように登場したマルクス主義フェミニズムによって、過去のものとみなされたラディカル・フェミニズムに理論的な息を吹き込む意欲的な論考集です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • ラディカル・フェミニズムは、1960年代末の新左翼運動の内部で、補助的・性的役割を押し付けられた女性たちの気付きからはじまった
  • ケイト・ミレットは『性の政治学』で、女性に対する差別や抑圧を、個人的な現象ではなく、家父長制という政治的な権力システムとしてとらえた
  • ラディカル・フェミニズムはコンシャスネスレイジングという新しいスタイルの運動を生み出した

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