経営学

【株式会社制度とは】特徴・歴史から問題点までわかりやすく解説

株式会社制度とは、細分化された社員権である株式を有する株主から有限責任の範囲で資金を調達して、その株主から委任を受けた経営者が事業を行い、利益を株主に配当する会社形態です。*法律上の「社員」とは、株主といった組織の構成員に用いられるため、雇用関係にある従業員とは異なることに注意が必要です。

17世紀初頭に設立されたオランダ東インド会社から現代まで続く株式会社制度には、さまざまな特徴や歴史があります。

個別の歴史や価値観に強く依存するため、一枚岩的に語ることはできませんが、株式会社制度の全体像を理解するは必要です。

そこで、この記事では、

  • 株式会社制度の特徴・意義
  • 株式会社制度の歴史
  • 株式会社制度の問題点

などをそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:株式会社制度とは

1章では株式会社制度を概説します。歴史・問題点などに関心のある方は、2章以降から読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:株式会社制度の意味

冒頭の確認となりますが、株式会社制度とは、

細分化された社員権である株式を有する株主から有限責任の範囲で資金を調達して、その株主から委任を受けた経営者が事業を行い、利益を株主に配当する会社形態

です。

そもそも、会社制度とは、共同により資本・労力を結合することで、危険の分散を図るために発達した制度です。そして、共同目的をもつ複数人の集合体が、法人格を持つことで権利義務の主体となり、構成員への利益分配を目的としています2「会社」『百科事典マイペディア』(株式会社平凡社)

会社制度が一般的に広まったのは、イギリスで起きた産業革命以後と言われていますが、企業自体は古くから存在していました。日本には西暦578年に聖徳太子の命を受け創業したと言われる「金剛組」が世界最古の企業として、いまなお現存しています3金剛組のHP(https://www.kongogumi.co.jp/index.html最終閲覧日2020年8月15日)、現在では高松建設系のグループの孫会社となっています。

当時の一般的な企業体とは、ごく限られた数の資本家によって所有・経営され、事業規模も概ね所有者の財産に見合った小規模なものがほとんどでした。

しかし、技術の進歩とともに産業構造が高度化し、より多くの資本集積の必要性が高まるにつれて、不特定多数の人物によって所有される株式会社制度が世界中で求められるようになっていったのです。



1-2:株式会社制度の仕組み・特徴

現在、日本で設立することのできる会社形態は、

  • 合名会社
  • 合資会社
  • 合同会社
  • 株式会社

の4つです4今でも古い会社に見られる「有限会社」は、2006年の法改正によって新設できなくなりました。

創業者はそれぞれの特徴を踏まえたうえで、会社形態の選択をおこないます。ちなみに、営利目的の組織であっても「個人事業主」や「組合」は会社形態には属せず、その特徴も大きく異なります。

4つの会社形態の違いには、所有における責任範囲の違いがあります。

所有における責任範囲には、その責任が出資者に「直接」的に及ぶのか、「間接」的に及ぶのかと、そして「無限」に及ぶのか、「有限」に及ぶのかの4つに区分されます。それぞれの会社形態の区分と特徴は、図1の通りです。

会社形態の責任範囲と特徴の違い(図1「会社形態の責任範囲と特徴の違い」筆者作成)

それぞれの特徴を簡潔にみていきましょう。

合名会社・合資会社

  • これらの会社に出資する直接無限責任社員は、会社が倒産した時に自らの出資金を超えて、負債等に対して自己の財産の弁済をあてなければならない社員である
  • しかし、その分、業務執行については大きな権限を有する社員となる
  • 一般的に出資者は、経営者あるいは業務執行役を兼ねることがほとんどであり、業務執行に関するあらゆる権限をもつ
  • なぜなら、自らの責任が出資金を超えて問われる可能性がある以上、その運営を誰かに任せてしまっては大きな負債を負うリスクがあるからである

合同会社・株式会社

  • これらの出資する間接有限責任社員は、会社が倒産した時も自らの出資金を超えた責任を問われることはなく、負債等に対する弁済の義務もない
  • その分、業務執行については限定された権限をもつ社員となる

また、合同会社や株式会社の出資者は直接的に経営業務に関わることは少なく、間接的に業務執行をチェックする権限や仕組みを多くもちます。具体的に、株式会社の株主がもつ業務執行に関わる権利(共益権)には、次のようなものがあります5株主の権利は「共益権」と「自益権」に分類される。「共益権」は会社の意思決定に参加する権利であり、「自益権」は社員であることで金銭的利益を請求する権利を示す。

株主総会における議決権

  • 株主総会とは、株式会社における最高意思決定機関であり、株主を構成員とし、 株式会社の基本的な方針や重要な事項を決定する
  • 株主は基本的に保有する株式の総数に応じて議決権が与えられており、重要な議題に対して議決権を行使する

取締役の行為差止請求権

  • 取締役とは、すべての株式会社に必ず置かなければならない機関であり、対内的に会社の業務執行を行い、対外的に会社を代表する
  • 取締役には、株主より期待された役割を全うするうえでの善良なる管理者の注意義務があり、株主やその他役員に対して損失を与えうる背任行為に対しては相応の責任を負わなければなりならない
  • そして、株主にはこのような取締役の背任行為をあらかじめ差し止める権利を有する

取締役の選任権・解任権

  • 株主は取締役を選任する権利をもつ
  • また、株主より期待された役割を全うできないと判断された取締役に対して解任を請求し、議決権の多数決をもって可決することができる

株主代表訴訟提起権

取締役の背任行為等により株主および企業全体に損失が発生した場合には、株主自身が取締役を含む役員に対して損害賠償等を含めた訴訟を提起することができる

このように株主の業務執行に関する権利とは、取締役を含む経営陣を監視・監督するような権限を多く含んでいることがわかります。次項では、こうした株式会社の特徴を前提としたうえで、なぜ株式会社という制度がこれほど普及し、利用されているのかを解説します。



1-3:株式会社制度の意義

株式会社制度が作られたもっとも原始的な理由は、多額の資本を調達できるためと考えられています。これは近代経済学の開祖とも言われるアダム・スミスの著書『国富論』においても、株式会社制度の意義として指摘されています。

たとえば、経済学者の花崎正晴は次の文章を引用しています6花崎正晴(2014)『コーポレート ・ガバナンス』岩波出版 7頁

株主の大部分は、会社の業務の何事についても、理解できると主張することは、めったにないし、彼らのあいだで党派心がひろがりでもしないかぎり、会社の業務にみずから心を労したりすることなく、取締役が適当と考える半年ごともしくは毎年の配当を受け取ることに甘んじている。限られた金額を超えては煩労も危険も完全に免れることが、どうしても合名会社に自分の財産を賭けようとしない多くの人びとに、合資会社の投資家になりたいという気をおこさせるのである。したがってそのような会社は、通常、どの合名会社が誇れるよりも、はるかに大きな貯えを引きよせる。

ここでいう「合資会社の投資家」とは間接有限責任社員のことを指しており、現代の法律に照らし合わせると株式会社の社員の性質に近いものです。

つまり、アダム・スミスは、

  • リスクの大きい直接無限社員ではなく、過度のリスクを背負わず、資産を増やせる可能性のある合資会社の間接有限責任社員になりたい人が多い
  • そのような投資家が多数いるため、最終的に多額の資本を調達できること

を指摘しています。

※アダム・スミスの『国賓論』はこちら記事で詳細に解説しています。→【アダムスミスの『国富論』とは】重要概念のすべてを徹底解説

こうした理由に加えて、「社会的信用を高める効果があること」「節税効果があること」も株式会社制度が数多く用いられている理由であるとされています。これらのメリットは、個人事業主や組合では活用することができません。

社会的信用と高める効果があること

  • 法人格を得ることで会社法の制約下において、継続して事業を営めることを指す
  • 一般的に、個人事業主や組合は事業主や組合員が死亡などの理由によって不在となれば、事業は完全に停止してしまう
  • しかし、法人格のある会社であれば代表者は変わっても、ひとつの人格をもつ組織として継続した事業運営ができるため、取引先や銀行の信用も得やすくなる

節税効果があること

  • 法人税が適用されることで個人事業主にはない税制を受けられることを指す
  • 個人の場合は、最高で所得税と住民税の合計55%に加え、事業税の5%がかかるケースがありますが、法人の場合は最高でも41%の法人税しかかからない

このように、数多くのメリットが組み合わさることから、株式会社は現代で最もメジャーな会社形態となっています。

1章のまとめ
  • 株式会社制度とは、細分化された社員権である株式を有する株主から有限責任の範囲で資金を調達して、その株主から委任を受けた経営者が事業を行い、利益を株主に配当する会社形態である
  • 日本で設立することのできる会社形態は、「合名会社」「合資会社」「合同会社」「株式会社」の4つである
  • 株式会社制度が作られたもっとも原始的な理由は「多額の資本を調達できる」ためであり、現代では「社会的信用を高める効果があること」と「節税効果があること」といったメリットがある



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2章:株式会社制度の歴史

さて、2章では株式会社制度の歴史に簡潔に触れていきましょう。

2-1:株式会社制度の誕生

世界初の株式会社と考えられているのは、17世紀初頭に設立された「オランダ東インド会社(Dutch East India Company)」です。オランダ東インド株式会社はアジアを拠点とする貿易会社であり、ヨーロッパへの香辛料貿易をほぼ独占し、莫大な力をもちました。

※詳しい説明は「オランダ東インド株式会社」を参照してください。→【オランダ東インド会社とは】設立から解散の歴史をわかりやすく解説

その後、18世記後半にイギリスで始まった産業革命により、革新的なテクノロジーが民間レベルで活用できるようになります。その結果、多額の資本を必要とする大規模な工場や施設を建設するための資金需要が高まり、株式会社制度は大きな広がりを見せました。

その後、19世紀になると、ヨーロッパ諸国のみならず、南北戦争が終結し急速に工業化が進んだアメリカでも株式会社制度は普及し、一般的な会社制度として定着しました。

2-2:株式会社制度と日本

日本において、現在の株式会社制度の法的根拠となる「会社法」は2005年に成立した比較的新しい法律です。

もちろん、その前から株式会社制度は存在していました。「会社法」以前はその前身となる「商法」によって法的根拠がなされており、「会社法」は現在のビジネスに合わせるために「商法」から切り離されるように制定されたものです。

商法の歴史

  • 日本の「商法」は明治時代にドイツの商法を参考に制定されたものである
  • その母法であるドイツの商法はフランス法やイギリス法など当時の欧州諸国の商法を 広く参照しながら草案を起草したと考えられている
  • このことから日本の「商法」ひいては「会社法」に至るまでヨーロッパ諸国を起源とする「大陸法」にルーツがあるといえる7法務省『ドイツ商法典 日本法との関係と日本法への影響』5-6頁

しかし、第二次世界大戦終結後においては、アメリカ合衆国の管理下のもと「商法」にも英米法的な制度を数多く導入されます。その結果、現在の「会社法」も英米法的(主にアメリカ)な流れを強く汲んだものとなりました。

2章のまとめ
  • 世界初の株式会社と考えられているのは、17世紀初頭に設立されたオランダ東インド会社である
  • 日本において、株式会社制度の法的根拠である「会社法」は、英米法的(主にアメリカ)な流れを強く汲んだものである
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3章:株式会社制度の問題

株式会社制度でもっとも議論となるのが「所有と経営の分離」にともなう主権問題です。

端的にいえば、所有と経営の分離とは、

会社の所有者と経営者が別になっており、経営に関する意思決定に所有者は間接的に関わる仕組みのこと

です。

「所有と経営の分離」は間接有限責任社員が存在する会社形態で起こる特有の現象です。所有も経営が一致し、さらにその全ての責任までもが社員に帰属する個人事業主や合名会社では、ふつう議論にならない問題です。

そのため、冒頭でも述べたように、株主という社員権をもつ人々の特性が関係してきます。

  • 株主とは細分化された社員権をもつ者であり、株主こそが会社の所有者であるというのが一般的な解釈として考えられている
  • しかし株式会社制度において、株主が必ずしも経営に関わる業務の意思決定に参加しているわけではなく、むしろ配当といった金銭的な報酬のみを期待している株主が大多数を占めている
  • このような状況では、会社の主な意思決定をおこなう経営者が実質的な主権を保有しているという仮説にも一定の納得性がある

さらに、経営学者の伊丹は企業の付加価値を効果的に生み出しているのは、株主でも経営者でもなく従業員であると指摘し、株主会社制度における従業員主権の可能性にも言及しています。

このように「株式会社は誰のものなのか」という議論は株式会社制度の根底に位置する問題です。しかし、その議論自体は各国の歴史や文化、価値観にも大きな影響を受けるため単純な結論を導けるものではありません。

また議論において、株主が主権者であるから、その他の関係者は権利を主張すべきではないといった極端な意見にも慎重にならなければなりません。

  • もし株主に経営業務に関わる権利がなければ、リスクを取ってまで会社に出資しようという人は減り、株式市場は機能しなくなるだろう
  • 逆に、経営者や従業員の権利を無視してしまえば経営業務自体が立ち行かなくなってしまう

ノーベル経済学賞も受賞したフランスの経済学者のジャン・ティロールは、議論が偏りやすい主権問題に対して、「ステークホルダー・ソサエティ」を提唱しています。

ステークホルダー・ソサエティとは、

株主以外の債権者や従業員、顧客、取引業者なども含めた企業を取り巻く利害関係者(ステークホルダー)の利益も考慮したもの

です。

そして、ステークホルダー・ソサエティを通して、社会全体の利益を最大化する重要性をティロールは指摘しています8花崎正晴(2014)『コーポレート ・ガバナンス』岩波出版 167-168頁

ステークホルダー・ソサエティの実装のためには、乗り越えるべき問題や課題は数多く存在しますが、従来の狭い企業観に修正を求めるその基本理念は、主権問題に対して重要な意義を有するものであると言えます。

4章:株式会社制度について学べるおすすめ本

株式会社制度に関する理解を深めることはできたでしょうか。最後に、株式会社制度を学ぶためのおすすめ本を紹介していきます。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 岩田規久男『そもそも株式会社とは』(ちくま新書)

経済学者である著者が株式会社の歴史や存在意義について、幅広く確かな理論をもとに解説した1冊です。株式会社についての全体像を知りたい方には、特におすすめです。

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オススメ度★★★ 花崎正晴『コーポレート ・ガバナンス』(岩波書店)

株式会社制度では避けては通れないコーポレート・ガバナンス問題についてまとめた1冊です。日本型コーポレート・ガバナンスについても詳しく書かれていますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 株式会社制度とは、細分化された社員権である株式を有する株主から有限責任の範囲で資金を調達して、その株主から委任を受けた経営者が事業を行い、利益を株主に配当する会社形態である
  • 日本において、株式会社制度の法的根拠である「会社法」は、英米法的(主にアメリカ)な流れを強く汲んだものである
  • ステークホルダー・ソサエティは、主権問題に対して重要な意義を有するものである

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