カラーブラインド(color blind)とは、人種的な差異を認識しないこと、つまり人種的な偏見がないことを指します。
定義からわかるように、カラーブラインドはリベラルな考え方です。しかし、カラーブラインドが一般的な態度となるとき、そこに潜む落とし穴に気づきにくくなります。
言い換えると、「人種なんて関係ない。人間はみんな一緒なんだ」という主張が、実はある集団の抵抗を阻害する場合があるのです。
この記事では、
- カラーブラインドの定義・意味
- カラーブラインドの実態
- カラーブラインドと人種主義
を順番に解説します。
興味のある箇所から、是非読んでみてください。
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1章:カラーブラインドとはなにか?
1章では、カラーブラインドを概説します。カラーブラインドの落とし穴に関心のある方は、2章から読んでみてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: カラーブラインドの定義・意味
そもそも、私たちが「人種(race)」と呼ぶものは生物学的に存在していません。地球上のいかなる人間も99.9%DNAの塩基配列レベルで同一、ということが遺伝学の研究から判明しています2たとえば、竹沢 泰子 (編集)『人種概念の普遍性を問う―西洋的パラダイムを超えて』人文書院。
そのため、人種を認識しないというカラーブラインドの主張は科学的に正しい主張なのです。たとえば、アメリカ社会では人種を語ることそれ自体が「マナー違反」であるという考えがあります。それは人種的差異を認識しないカラーブラインド的な考え方といえます。
ヨーロッパ諸国も同様です。第二次世界大戦以降、人びとの帰属や境界線は「人種」から「エスニシティ」という言葉で説明されるようになりました。
そのため、西欧社会において人種を語ることは礼儀の良い振る舞いではなく、人種を認識すること自体が人種主義者のサインとなるのです。
1-2: アメリカにおけるカラーブラインドの実態
実際のところ、カラーブラインドはどの程度アメリカ社会に浸透している考え方なのでしょうか?ここでは二つの事例を紹介します。
1-2-1: MTVの調査
2014年にMTVは2000年代に成人する世代(ミレニアル世代)の人種的偏見に関する調査をおこなっています。その調査は人種主義を乗り超えた平等な社会という考えを示しています3MTV 2014 Bias Survey Summary.。
MTVの調査は、以下のように要約されています。
- 72%の回答者は自らの世代は以前の世代に比べて平等な社会である
- 回答者の89%が個人は人種的差異に関係なく平等に扱われるべきである
- 62%の回答者(58%の有色人種、64%の白人)は黒人の大統領は人種的マイノリティにも白人と同等の機会があることを証明する存在と考えている
- 回答者の67%は黒人大統領の存在は人種が社会的成功への障害ではないことを証明すると回答
- 73%は人種自体を考慮しないことが社会を進歩させると考えている
このように、ミレニアル世代において、カラーブラインドが浸透していることがわかると思います。言い換えると、カラーブラインド社会とは人種を語りにくくさせる社会であるといえるでしょう。
事実、MTVの調査では回答者の37%(有色人種46%、白人30%)のみが人種を語る家族で育ったと回答しています。
1-2-2: カラーブラインド社会で「人種カードを切る」?
想像しづらいかもしれませんが、アメリカ社会は多様な移民と先住民で構成されるリベラルな社会です。そのような社会で人種は禁句的な扱いを受けるときがあります4Rohrer, Judy 2010 Haoles in Hawaii. University of Hawaii Press.。
たとえば、アメリカの政治番組や報道をみていると、「人種カードを切る」といった言葉が使われます。「人種カードを切る」とは有色人種が自らの人種をあえて問題化することで、それによって自らの利益になるように議論を進めることを意味します。
白人からみれば、いわば「人種という反則技を使った!」と捉えられるのです。それは多様な移民と先住民で構成されるリベラルな社会だから起きる出来事です。
そしてあなたもお気づきかと思いますが、「人種カードを切る」という主張がされる背景には人種を語るべきでないというカラーブラインドの前提があります。
このように、カラーブラインド社会とは人種を抹消して人種自体を認識しない社会なのです。
- カラーブラインドとは、人種的な差異を認識しないこと、つまり人種的な偏見がないことである
- カラーブラインド社会とは、人種を語りにくくさせる社会である
- アメリカ社会でカラーブラインドは広く共有される考え方である
2章:カラーブラインドと人種主義
さて、一見リベラルなカラーブラインドですが、冒頭で述べたように落とし穴が指摘されています5たとえば、Michael Omi, Racial Formation in the United States, Routledge 。2章ではその点を初回していきます。
2-1: カラーブラインドによる人種主義の永続
カラーブラインドの最大の落とし穴は、人種を抹消しようとする姿勢です。それはカラーブラインド社会が人種を抹消しようとすればするほど、人種が引き起こす排除や不均衡の経験を語れなくなるからです。
冒頭で述べましたが、人種は科学的に存在していません。しかしそれは社会的に存在していないことを意味しません。
たとえば、人種は科学的にないにもかかわらず、黒人やラティーノといった有色人種は警察のハラスメントを受ける割合が白人と比べて非常に高いです。新聞社の調査によると、次のような結果がでています6Brooks, W Cornell 2014 “LAW ENFORCEMENT VS. BLACK AND BROWN AMERICANS” NY DAILY NEWS” http://www.nydailynews.com/opinion/law-enforcement-black-brown-americans-article-1.1893031。
- 約80万人が路上で警察から停止命令を受けて調査を受け、その90%は黒人とラティーノ
- 警察の暴力を経験した黒人は4.4%、ラティーノは2.3%である一方で、白人は1.2%
このような人種プロファイリング(racial profiling)の経験を、オバマ元大統領も述べています。少し長いですが、オバマ元大統領の言葉を引用しましょう7Obama, Brack 2013 Remarks by the President on Trayvon Martin.。
この国において、デパートに買い物に行った時、後をつけられた経験がないアフリカンアメリカンは少数である。これには私も含まれる。路上を横切る際、車のドアがロックされる音を聞いた経験のないアフリカンアメリカンは少数である。少なくとも上院議員になる以前まで、私はこの経験をした。エレベーターに乗り込むと、隣の女性がその場を出るまで財布を握りしめて息を殺すという経験がないアフリカンアメリカンは少数である。これは頻繁に起こる出来事である。
オバマ元大統領の言葉は、非武装の10代の黒人少年が自警団に殺害された事件に関して述べられたものです。
有色人種にとって、人種主義は過去の話ではなく日常にありふれたものです。にもかかわらず、カラーブラインドといった瞬間に人種から発生する不利益を語ることができなくなるのです。
2-2: カラーブラインドの拒否と人種の可視化
私たちがしなければならないのは、科学の成果をもとに人種を認識しないのではなく、人種を社会変革の土台と考えることです。
なぜならば、人種が社会おいていまだに重要なのはなぜか?という疑問に対して、以下のように答えることができるからです。
- 人種こそが社会排除の原因である
- 特定の人種集団にパワーや資源へのアクセスの不均衡がある
逆にいうと、特定の人種集団に課せられたパワーや資源へのアクセスの不均衡が消滅するとき、人種という概念はようやく消滅するべきなのです。
人種的な不均衡があるにもかかわらず、カラーブラインドは科学の名の下に人種を認識しようとしません。
つまり、カラーブラインドが問題となるのは人種という概念自体を否定することによって、人種を基盤とする運動の土台を奪うことです。
人種という概念には抑圧の歴史や社会排除の原因が付随しています。しかし、人種という抵抗の土台を奪われると、歴史的な不正義から生じる責任への主張が担保できなくなってしますのです。
2-3: カラーブラインドを乗り越えた21世紀の人種
私たちはカラーブラインドを乗り越えて、21世紀の人種をどのように考えればいいのでしょうか?私たちがするべきことは、人種という概念を用いてしか語ることのできない集団の存在を考えることではないでしょうか。
つまり、それは人種を生物学的に無意味な概念として扱うことで、歴史的な不正義から生じる責任への主張が担保できなくなるような集団を意識することでしょう。
そのように人種を捉えたとき、人種を見ないのではなく、人種は社会に対する抵抗の拠点として認識できるはずです。
- 人種とは生物学的実体ではなく、社会構造から排除された人びとを指す概念である
- 社会構造から排除される集団は日本社会にもいるはず8アイヌ民族、琉球、在日朝鮮・韓国人等
- 「みんな一緒の日本人だから仲良くしよう」という主張が本当に問題の解決になるのか、を真剣に考える必要がある
- カラーブラインド社会が人種を抹消しようとすればするほど、人種が引き起こす排除や不均衡の経験を語れなくなる
- 科学の成果をもとに人種を認識しないのではなく、人種を社会変革の土台と考えること
- 人種を見ないのではなく、人種は社会に対する抵抗の拠点として認識できる
3章:カラーブラインドの学び方
カラーブラインドについて理解を深めることができましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
藤川隆男 『人種差別の世界史』(刀水歴史全書)
エビちゃんからマライア・キャリーまで登場する人種主義の書物。世界における人種主義の歴史をわかりやすく解説しています。タイトルは真面目ですが、学術的な専門書ではありません。カラーブラインドを含めた人種主義全般を学ぶ方に、大変おすすめ。
太田好信(編) 『政治的アイデンティティの人類学』 (昭和堂)
アイデンティティと政治の関係を議論した書物です。カラーブラインドの落とし穴を学術的に理解できます。
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Omi. M and Winant. H Racial Formation in the United States (Routledge)
上級者向けですが、アメリカにおける人種編成を学ぶことができます。カラーブラインドの落とし穴を社会学的な視点から指摘しています。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- カラーブラインドとは、人種的な差異を認識しないこと、つまり人種的な偏見がないこと
- カラーブラインド社会が人種を抹消しようとすればするほど、人種が引き起こす排除や不均衡の経験を語れなくなる
- 人種を見ないのではなく、人種は社会に対する抵抗の拠点として認識する必要がある
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