社会学

【エスノメソドロジーとは】具体例から会話分析までわかりやすく解説

エスノメソドロジーとは

エスノメソドロジー(ethnomethodology)とは、社会的事実が人びとのローカルな実践的な活動をとおしてどうように産出されるのか?を具体的な状況に即して解明することを意味します1山田「日常世界の意味秩序」『自己・他者・関係』世界思想社

シュッツの現象学的社会学に影響を受けたガーフィンケルが展開した思想で、社会学を学ぶ方は必ず理解しなければならない考えです。

エスノメソドロジーというものの見方は、社会学を越えて隣接分野で応用されており、社会科学全般を学ぶ方に大事なものとなっています。

そこで、この記事では、

  • エスノメソドロジーの意味
  • エスノメソドロジーの現象観と会話分析
  • エスノメソドロジーの研究史と今後の展望

をそれぞれ解説します。

あなたの興味関心がある箇所から、ぜひ読み進めてください。

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1章:エスノメソドロジーとはなにか?

1章では、エスノメソドロジーを概説します。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: エスノメソドロジーの意味

冒頭の定義を確認すると、エスノメソドロジーとは、

社会的事実が人びとのローカルな実践的な活動をとおしてどうように産出されるのか?を具体的な状況に即して解明すること

を意味します。

「エスノメソドロジー(ethnomethodology)」は社会学者のハロルド・ガーフィンケル(Harold Garfinkel 1917年ー2011年)が作り出した造語です。

「エスノメソドロジー」という用語を分解すると、以下の意味であることがわかります。

  • 「エスノ(ethno)」は「一般の人びと」や「民衆」を意味する言葉
  • 「メソッドロジー(methodology)」は「方法論」を意味する言葉

つまり、「エスノメソドロジー」は「人びとの方法論」と直訳することができます。しかし、直訳ではエスノメソドロジーの本来の意味が伝わりませんので、普通は「エスノメソドロジー」と呼ばれます。

先ほどの定義をより簡単にいうと、「社会的世界において、人びとが日常的に使う方法」を意味する言葉である、といえます。

ガーフィンケルはエスノメソドロジーを説明する際、次のような解釈定理(the rendering theorem)を用いました。これはさまざまな概説書でも用いられる図式です。ここでは、新陸人(編)の『新しい社会学のあゆみ』(2006)を参照し説明していきます。

ガーフィンケルによるエスノメソドロジーの解釈定理

{ } →( )

  • 左側の{ }は、活動の具体性を意味する。「いま、ここ」で生み出される自然で説明可能な秩序現象。それはある特定で個別の出来事
  • 真ん中の→は、社会学者の熟練された方法的手続きを意味する
  • 右側の( )は、方法的手続きをとおして構築された説明を意味する。それは「記号化された対象」と呼ばれる

ガーフィンケルはこの図式を用いて、通常の社会学とエスノメソドロジーを違いを説明します。

ガーフィンケルによると、

  • 通常の社会学が意味する社会とは、専門的な方法的手続き(→)をとおして構築される記号化された対象
  • エスノメソドロジーとは、{人びとの「いま、ここ」の具体的な営み}を説明するもの

といった違いがあります。



1-2: エスノメソドロジーの現象観

ガーフィンケルのエスノメソドロジーを理解するためには、エスノメソドロジーの「文脈依存性」「相互反映性」という現象観を知る必要があります。

1-2-1: エスノメソドロジーと文脈依存性

「文脈依存性」とは、「indexicality」の訳語で、ある文脈においてなされる表現や行為はそれだけ意味をなさず、不完全であることを意味する言葉です。

言い換えると、記述や説明で使われる言葉の意味はつねに文脈に左右されるということです。

1-2-2: エスノメソドロジーと相互反射性

「相互反映性」とは、「reflexivity」の訳語で、意味の不完全性は人びとに問題として認識されず、むしろ当然のものとして、常に修復されていくことを意味します。

その結果、ある社会のメンバーにとっては、自己の属する社会の内側からみた社会構造が常に繰り返し再生産されるように見えるのです。

たとえば、人びとはある言語コミュニティのメンバーとして世界の相互反映性を経験しています。表現や行為の意味を互いに認識し観察できるものとすることで、世界の相互反映性が当たり前のものとして経験されます。

エスノメソドロジーにとって大事なのは、エスノメソドロジーという記述や説明の実践も現象の外部にいないという点です。つまり、エスノメソドロジーという実践は{人びとの「いま、ここ」の具体的な営み}の一部となるのです。



1-3: エスノメソドロジーの具体例:{社会} と(社会)の違い

では一体、{社会} と(社会)の違いは何なのでしょうか?ここでは、診療というある場面を事例として考えていきます。

診療のある場面

  • 医者は患者の状況を把握することから、病状を判断して診断を下す
  • 患者は医者に自らの状態を可能な限り説明して、専門的な判断を仰ぐ
  • つまり、医者と患者が具体的な会話をとおして相互行為を作り出している

このような場面で、もし医者が患者に対して威厳を保ち包容するように診断をしたらどうなるでしょうか?この説明の仕方の違いが、そのまま{社会} と(社会)の違いになります。

具体的に、{社会} と(社会)の違いとは、

  • (社会)・・・医者と患者の関係を「パターナリズム」と説明。それは{医者ー患者の診療場面}の具体的な営みを外部から説明しようとする通常の社会学のあり方
  • {社会}・・・「パターナリズム」という言葉で説明はしない。ある{診療場面}において、どのように医者と患者が相互行為をおこなっているのかを調べる。そして、「イニシアチブの独占」や「情緒の抑制」などの「方法」によって会話という相互行為がおこなわれると説明する

といった違いがあります。

つまり、エスノメソドロジーは{診療場面}という社会の当事者が作り上げる秩序のあり方を、「方法」という視点から記述して、その論理を明らかにしようするものなのです。

1-3-1: エスノメソドロジーと陪審員の事例

ここで「エスノメソドロジー」という言葉が初めて使われた陪審員の審議過程の事例に触れましょう。

私たちは、普通、陪審員が定められた法から合理的に判断を下すと考えています。しかし、「いま、ここ」の{陪審員の審議過程}を観察すると、異なった事実が浮かび上がります。

陪審員の審議過程は、

  • 陪審員はその都度の状況に即して反応する(その場の議論や偶発的な流れに左右される)
  • 結論はしばしば法律の合理性と無関係
  • 陪審員自身は合理的に選択したと自覚する
  • 審議過程の正当性は、事後の視点から再構成された

ということがわかりました。

このように、社会的事実が人びとのローカルな実践的な活動をとおしてどうように産出されるのか?を明らかにするエスノメソドロジーは「いま、ここ」で生産される秩序を考察するために生まれたのです。



1-4: エスノメソドロジーの会話分析

さて、エスノメソドロジーで最も発展している分野は「会話分析(conversation analysis)」です。会話分析とは、会話することに内在する半ば意識的・半ば無意識的なルールを解明するものです。

会話分析を専門とするサックス、シェグロフ、ジェファーソンなどによって、次々に成果が生み出されてきました。たとえば、会話分析には、以下のようなものがあります。

  • 順番取りシステム(turn taking system)・・・発話の交替や順番が調整されるルールの解明
  • 隣接対(the adjacency pair)・・・隣接する二人の会話がパターン化していること。問いに対する応答が典型(ex: A「おはよう」B「はい、おはよう」)

この他にも、会話分析は、

  • 会話の開始
  • 会話の集結
  • 会話で人物に言及する際の選好
  • 会話におけるエラーの修復
  • トピックやトークの認知や組織化
  • ボディランゲージなどの非言語動作の会話における機能
  • お世辞や悪口の分析

などといった研究がされてきました。

さまざまな分野で成果を挙げたエスノメソドロジーというものの見方を理解するためには、ガーフィンケルの『エスノメソドロジー』にあたるのが一番です。ぜひ読んでみてください。

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いったんこれまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • エスノメソドロジーとは、社会的事実が人びとのローカルな実践的な活動をとおしてどうように産出されるのか?を具体的な状況に即して解明すること
  • エスノメソドロジーの現象観は「文脈依存性」と「相互反映性」
  • エスノメソドロジーは{いま、ここ}という社会の当事者が作り上げる秩序のあり方を、「方法」という視点から記述して、その論理を明らかにしようするもの
  • エスノメソドロジーで最も発展している分野は「会話分析」
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2章:エスノメソドロジーの研究史と今後の展望

エスノメソドロジーを深く理解するためには、エスノメソドロジーという見方が誕生した歴史的文脈を知るべきです。

どんな理論もその理論が立ち現れる文脈があります。その文脈を理解しないでいると、いつまでも理論を自分のものとして使うことができません。エスノメソドロジーの場合は、ガーフィンケルが理論を練り上げた1970年代の社会的文脈が大事です。

2-1: エスノメソドロジーと現象学的社会学

結論からいうと、1970年代の社会学はパラダイムの混迷期にありました。

1970年代は、公民権運動に代表される社会運動が活発な時代でした。当時の社会学はこの動乱の時代をどう把握するのか?という問いに対して、有効な理論がありませんでした。

たとえば、タルコット・パーソンズ(Talcott Parsons 1902-1979)が提示した構造−機能主義では当時の社会変容を把握・分析できないという大きな壁につきあたっていました。

「社会学は一体なにを対象とする研究なのか?」という根本的な問いを含めて、新たな研究対象の模索がされます。その新たな研究対象の模索の一つとして「現象それ自体へ」という現象学的社会学がありました。

2-1-1: 現象学的社会学とガーフィンケル

現象学的社会学では、それまでの社会学が問うことなかった日常生活の構成や営みを新たな社会学として取り入れるべきという志向がありました。

そこで、従来の社会学では対象とならなかった対象を研究するものとして登場したのがエスノメソドロジーでした。

上記したガーフィンケルの『エスノメソドロジー』はその象徴的な研究です。当時、エスノメソドロジーを学んだ人は、日常における人びと実践を学ぶ理由を次のような理論や文献に求めました。

  • アルフレッド・シュッツ(Alfred Schütz 1899年ー1960年)の現象学的社会学と日常生活世界論
  • トーマス・ルックマン(Thomas Luckmann 1927年ー2016年)の『現実の社会的構成』

そして、人びとの日常から支配的な社会を問い直し、それをいかに批判・変革できるのかといった姿勢を基本とながら、エスノメソドロジーは理解されたのです。

シュッツの現象学とルックマンの『現実の社会的構成』はエスノメソドロジーを学びたい方は避けて通れないですので、この機会に勉強することをオススメします。

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2-2: エスノメソドロジーと研究分野

さて、社会学という学問に歴史をもつエスノメソドロジーですが、現在では多くの学問分野の研究者がこの研究方法を援用しています。

たとえば、エスノメソドロジーは、

  • 法律学
  • 人類学
  • 教育学
  • 心理学
  • 言語学
  • 認知科学
  • 教育工学
  • 情報科学

といった分野で使われています。

特に、急速に発展するテクノロジーと人間の関わりを理解するために、エスノメソドロジーという方法は大変貢献しています。

たとえば、「人びとがテクノロジーを用いてどうように協同作業をするのか?」という問題を会話のやりとりや身体動作から考察することは、まさにエスノメソドロジーの例証しうる出来事です。

{人びとの具体的な活動}がますますテクノロジーと切り離せなくなっている現在、エスノメソドロジーは新たな展開を見せているといえるでしょう。

これまでの内容をまとめます。

2章のまとめ
  • 1970年代の社会学はパラダイムの混迷期であり、従来の社会学では対象とならなかった対象を研究するものとして登場したのがエスノメソドロジー
  • エスノメソドロジーという見方を多くの学問分野の研究者が援用
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3章:エスノメソドロジーを学ぶための書籍

エスノメソドロジーに関する理解を深めることはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。

おすすめ書籍

デイヴィッド・フランシス、スティーヴン・へスター 『エスノメソドロジーへの招待―言語・社会・相互行為』(ナカニシヤ出版)

この本はエスノメソドロジーの解説本です。さまざまな事例とともにエスノメソドロジーの見方が紹介されます。繰り返し読みたい初学者にうってつけの本。

大澤真幸『社会学史』(講談社現代新書) 

現象学的社会学からガーフィンケルまでの流れを知りたい方にオススメ。社会学の成り立ちから現代社会学の現状まで、解説されているので、包括的に学ぶことができます。

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • エスノメソドロジーとは、社会的事実が人びとのローカルな実践的な活動をとおしてどうように産出されるのか?を具体的な状況に即して解明すること
  • エスノメソドロジーは{いま、ここ}という社会の当事者が作り上げる秩序のあり方を、「方法」という視点から記述して、その論理を明らかにしようする
  • 1970年代の社会学はパラダイムの混迷期であり、従来の社会学では対象とならなかった対象を研究するものとして登場したのがエスノメソドロジー

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