あなたは、社会自由主義(Social Liberalism)がどのような立場の政治思想なのかご存知ですか?
社会自由主義とは、古典的自由主義を批判し、個人の自由や権利を実現するために、政府の役割を積極的に認める政治思想のことです。
ニューリベラリズム(新しい自由主義/新自由主義)と言われることもありますが、「社会民主主義」とは若干異なる立場です。
注意して頂きたいのが、日本では一般的に「リベラル」と言われる立場が「社会自由主義」とほぼ一致するため、社会自由主義という言葉があまり使われないのに対し、海外では積極的に使われるということです。
そのため、しばしば混乱を招きがちな概念でもあります。
そこでこの記事では、
- 社会自由主義の意味や特徴
- 社会自由主義と社会民主主義の違い
- 社会自由主義の歴史
- 社会自由主義への批判
などについて詳しく解説します。
社会自由主義を理解することは、世の中にある複雑で多様な政治的立場を理解することに繋がります。
ますます多様化する世界を理解するためにも、ぜひ読みたいところから読んでみてください。
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1章:社会自由主義とは?
もう一度確認しましょう。
社会自由主義とは、古典的自由主義を批判し、個人の自由や権利を実現するために、政府の役割を積極的に認める政治思想のことです。
そもそも、古典的自由主義とは、
- 個人の自由や権利(生存権、所有権、職業選択、婚姻など)を政府が抑圧しないこと、保護することを重視する立場
- 個人の自由を守るために、国家はできるだけ市場(経済活動)に介入しない「小さな政府」を重視する立場
というものです。
古典的自由主義は18世紀から発展してきた思想ですが、政府の役割が明確化され、社会が発展し多様化する中で「これまでの思想では、守られない権利もあるよね」という考えが育つようになりました。
むしろ逆に、古典的自由主義という思想によって、格差や差別を容認することになっているのではないか。このような問題意識から生まれてきたのが社会自由主義的な立場です。
もう少し詳しく説明します。
1-1:社会自由主義の特徴
社会自由主義は、古典的自由主義が構想する自由放任的な秩序では、人々の権利が守られないと考えます。
具体的には、以下のような立場を取ります。
「いわゆるリベラルってことでしょ?」と思われた方は正解です。
日本やアメリカでは、上記のような立場は一般的に「リベラル」と言われます。
しかし、「リベラル」が本来意味するのは「自由主義(リベラリズム)」であり、非常に広い意味を持つ言葉です(古典的自由主義もリベラリズムの一つです)。
そのため、主に欧州などでは、古典的自由主義と区別するために「社会自由主義」という言葉が使われるのです。
一般化すれば、
人々の自由な活動を重視し、権力によって人々の自由な活動が阻害される場合に、政府の介入によって自由を守り、公正な社会を実現しようとする
のが社会自由主義の立場です。
「現代社会をより平等・公正な社会にしていこう」「そのために、積極的に政府の役割を認めよう」ということですね。
1-2:社会自由主義と社会民主主義の違い
以上の説明を読んで「社会民主主義と同じ立場だよね?」と思われた方もいるかもしれません。
しかし、社会自由主義と社会民主主義(Social democracy)は微妙に異なる立場です。
一度言葉を分けて考えて見てください。
社会「自由主義」と社会「民主主義」です。それぞれ、「自由」を軸にした思想と、「民主主義」を軸にした思想であることが分かります。
もう少し詳しく説明します。
社会民主主義とは、そもそも世界での社会主義の登場に、自由主義の立場から対抗しようとした政治的立場です。そのため、階級の存在を前提にしつつも、社会主義のような「革命による社会秩序の変革」ではなく、「議会制民主主義による社会秩序の変革」を目指す思想です。
社会主義 | 社会民主主義 | 社会自由主義 | |
体制 | 社会主義体制 | 議会制民主主義 | 議会制民主主義 |
立場 | 階級の存在を前提に、社会主義的に是正する(革命) | 階級の存在を前提に、民主主義的に是正する | 社会の平等、公正を積極的に進める |
政策 | 労働者による階級闘争、革命 | 「大きな政府」による富の再分配 | 「大きな政府」による権利の保護 |
社会民主主義と社会自由主義の違いは、以下のように政策の対立軸の違いと言えます。
- 社会民主主義は、社会主義との間での「階級社会での政治体制」を軸にした立場
- 社会自由主義は、古典的自由主義との間での「政府による権利の保護」を軸にした立場
とは言え、実際の政治的立場としては、社会自由主義と社会民主主義は一致する所が多いです。
なぜなら、社会民主主義も政府の役割を積極的に認め、富の再分配や公共事業による雇用の創出など、国民の平等・公正をよる推し進める政策を支持するからです。
これは、社会的な平等・公正を重視する社会自由主義と非常に近しい政策です。
そのため、戦後の多くの西側先進国の政党は、社会民主主義・社会自由主義的立場の政党が政策運営をしてきた歴史があります。
そもそも、民主主義とはなんだ?と思う方は次の記事を参照ください。民主主義について詳しく解説しています。
1-3:社会自由主義の政党
社会自由主義は、政治的な立場としては、中道もしくは中道左派と言われる立場です。
つまり、右派と左派の中間か、もしくは中間よりもリベラル(左派寄り)ということです。
代表的なものをあげれば、
- 日本・・・自由党、国民民主党
- アメリカ・・・民主党
- イギリス・・・自由民主党
などです。
これから詳しく解説しますが、多くの国で社会自由主義的な政治が行われたのは、戦後から1980年代ごろまでです。
これは社会民主主義的な意味での「大きな国家」路線と重なる時代ですが、なぜその時代にそのような政治が行われたのか、なぜ1980年代以降下火になったのか、これから説明します。
いったんここまでをまとめます。
- 社会自由主義は、平等で公正な社会の実現のために政府の役割を積極的に認める立場
- 戦後の西側先進国では、社会自由主義的な政策が重視された
- 社会自由主義は社会民主主義とは異なる概念だが、政治的立場としてはともに中道・中道左派になる
2章:社会自由主義の歴史
社会自由主義的な社会的平等・公正を重視する政策は、特に戦後から80年代ごろまで行われました。
それは特にアメリカにおいて顕著です。
ここでは、社会自由主義的な政策が実際にはどのように行われてきたのか学んでみてください。
2-1:戦後アメリカでの社会自由主義的政策
アメリカでは、1960年代頃から社会自由主義的な政策が行われました。
2-1-1:アメリカのニューリベラリズム
アメリカでは、1930年代からルーズベルト大統領による、世界恐慌から立ち直るための「大きな政府」的な政策が行われました。
もともとアメリカは国家ができるだけ市場や個人の活動に介入しない、古典的自由主義的な秩序を持っていたのですが、1930年代に「国家が市場に介入して、公正な社会を作る」というニューリベラリズム(新しい自由主義)が登場したのです。
1930年代以降、
- 公共事業による雇用の創出
- 社会保障サービスの重視
など経済的側面での「大きな政府」的な公正な政策が行われたのですが、1950年代に入るとさらに「リベラル」な政策が行われました。
2-1-2:アメリカの社会自由主義的政策
1950年代以降に行われたのは、
- 公民権運動:黒人を中心としたマイノリティが、権利の保障を求めた運動
- メディケア:高齢者の医療補助
- ヘッドスタート:低所得者の幼児の就学補助
- フードスタンプ:低所謄写の食費補助
- 連邦奨学金、給付奨学金制度
- ウーマンリブ:女性の権利保護運動
などの政策です。
ジョンソン大統領の「偉大な社会(Great Sciety)」政策が有名です。
こうした社会的公正を重視する社会自由主義的政策は、1960年代に隆盛を極めました。
簡単に言うと「弱者に優しい政策」が行われたわけです。
ただし、アメリカは自由主義的立場から成立した国家であるため、上記の政策をあえて社会自由主義と言うことはあまりありません。アメリカでは単にリベラル、もしくはニューリベラリズムと言われることが多いです。
※アメリカのリベラルな政策について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
2-2:社会自由主義の思想的基盤
社会自由主義は政治的な立場ですが、それを思想的に支えたのがリベラリズムでした。
その代表者がロールズ(John Bordley Rawls)です。
ロールズは、戦後のアメリカ社会を見て、
- アメリカの自由主義は、社会的・経済的な不平等・不公正を前提にしていて、結果的に一部の人々に犠牲を強いることになっている
- 社会は最初から、不平等・不公正のないものとして設計されるべき
と考えて、古典的自由主義やそれを支える古典的功利主義の思想を批判しました。
そして、『正義論』において、公正な社会を作る上で満たすべき原理・条件を示し、その後の政治哲学に大きな影響を与えました。
ロールズの正義論は、アメリカのリベラリズムを支える思想であり、それは社会的な平等・公正をより広く推し進める思想です。
そのため、社会自由主義的な運動を支える思想であったと言えるのです。
正義論について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
2-3:社会自由主義への批判
とは言え、社会自由主義は、その後さまざまな批判を受けるようになりました。
たとえばアメリカでは、
- 保守派からの批判
60年代のジョンソン的なリベラルな政策は、弱者を優遇しすぎで「リベラルの行きすぎ」である - リバタリアンからの批判
国家の役割は本来最小限しか認められないものであり、国家が介入することで不平等・不公正が生まれる
などの批判がなされました。
※リバタリアニズムについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
また、多くの国では戦後の社会自由主義&社会民主主義的な、「大きな政府」的な政策によって財政赤字が拡大し、
- 国民の税負担の増加
- 社会保障サービスの支出の増大
- 経済成長の停滞
などの原因となっていると言われるようになりました。
そこで、アメリカ、イギリス、日本などの先進国は1980年代以降、「小さな政府」「民営化」「構造改革」を目指す新自由主義的政策に転換します。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
現在でも、もちろん社会自由主義・リベラルな思想は残っていますし、政治的に主張されることも多いです。
しかし、多くの先進国では、弱者のための政策に熱心になれるほどの財政的な余裕はなく、また政治全体が「右傾化」している傾向もあり、以前ほどの強い政治的立場ではなくなっているのが現状なのです。
多くの国で見られる右傾化現象について、詳しくは以下の記事に書いています。
- 社会自由主義は、多くの先進国で戦後の政策として重視された
- 1980年代ごろから、財政赤字の拡大、増税、リベラルの行きすぎが批判されるようになり、「小さな政府」に転換し、社会自由主義は下火になった
3章:社会自由主義の学び方
社会自由主義について理解することはできましたか?
社会自由主義は、リベラリズムの一種ですが、リベラルという思想は本来、保守・右派の対抗概念に収めて良いものではありません。
社会自由主義は確かに古典的自由主義の対抗概念としての側面はあります。しかし、日本的な「リベラル」という言い方で、リベラリズムの概念を「左派」「護憲派」「公正を重視」などという枠にはめてしまうのは、リベラルが持つ本質を見失うことになりかねません。
そこで、これから紹介する書籍から、社会自由主義を含むリベラリズムについて、より本質的な面から学ぶことをおすすめします。
それは社会思想や政治を理解するキーにもなりますし、あなたの価値観を変えることにも繋がるのです。
オススメ度★★★仲正昌樹『集中講義!アメリカ現代思想-リベラリズムの冒険』(NHK出版)
アメリカのリベラリズムや社会自由主義的な政策について詳しく書かれた本です。これを読めば、リベラルな思想について網羅的に理解できます。
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オススメ度★★中村隆文『リベラリズムの系譜学』(みすず書房)
リベラリズムについてより詳しく、本質的に解説された本です。初学者には少し難しいかもしれませんが、最初から読み進めていけば必ず理解できるはずです。
社会自由主義は政治的立場ですので、現実の政治から学ぶことも可能です。実際に現在はどのような立場から政治が行われているのか捉えるために、ぜひ新聞や雑誌から情報収集してください。
まとめ
この記事の内容をまとめます。
- 社会自由主義は、人々の自由の権利を守り平等・公正な社会を作るために、政府の役割を積極的に認める立場
- 社会自由主義は、社会民主主義と異なり、あくまで自由の実現のための政府の必要性を論じる
- 社会自由主義は、戦後多くの国家が実践したが、右傾化が進む現在では「リベラル」として思想として矮小化されつつある
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