社会思想

【アファーマティブ・アクションとは】具体例から反対意見までわかりやすく解説

アファーマティブ・アクションとは

アファーマティブ・アクション(affirmative action)とは、過去の不正義から生じた状況を改善するために採られる積極的な措置です1たとえば、賀川 真理 2005『カリフォルニア政治と「マイノリティ」―住民提案に見られる多民族社会の現状』不磨書房や、中村(2005)「教育と『人種』−再隔離とアファーマティブ・アクション−」『アメリカニズムと「人種」』川島正樹(編)pp.222-249名古屋大学出版会など

そして、現代では賛否両論のある措置となっています。それは「先祖の罪を誰が払うべきか」という根本的な問題があるからです。

「戦争責任」や「植民地主義」がいまだに問題となる今日の日本社会で、アファーマティブ・アクションをめぐる問題は自分たちに関係がない問題ではないのです。

この記事では、

  • アファーマティブ・アクションの定義・意味
  • アファーマティブ・アクションの具体的な例
  • アファーマティブ・アクションは逆差別なのか?

といった点を解説します。

興味がある所から読んでみてください。

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1章:アファーマティブ・アクションとはなにか?

1章では、アファーマティブ・アクションを概説します。アファーマティブ・アクションの展望に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: アファーマティブ・アクションの焦点

まず、冒頭の定義を確認しますが、アファーマティブ・アクションとは、

過去の不正義から生じた状況を改善するために採られる積極的な措置

です。

欧米では「affirmative action(肯定的措置)」や「positive discrimination(肯定的差別)」といわれます。

日本語では「肯定的措置」や「積極的是正措置」といった訳語があります。また男女格差解消の文脈では、「ポジティブ・アクション」といわれたりもします。

さて、アファーマティブ・アクションの焦点とは、現代社会における差別を問題視しているのではなく、過去におきた不正義が生み出したマイノリティ集団の問題を積極的に是正しようとすることです。

アファーマティブ・アクションの焦点を理解するために、アメリカにおけるアファーマティブ・アクションの事例を詳しくみていきましょう。周知のように、アメリカにおける歴史的な不正義とは、以下のようなものがありました。

  • 黒人の奴隷制度
  • エスニシティ・マイノリティに対するさまざまな人種主義的制度
  • 先住民に対する虐殺・搾取
  • 女性に対する社会経済的な差別

特に、アメリカの人種主義は国家建設に内在した問題でもありますから、詳しく知っておくとアファーマティブ・アクションの理解が深まります。→人種主義の記事へとぶ

重要な点ですので繰り返しますが、アファーマティブ・アクションの目的は今日のアメリカ社会における不正義に対してではなく、過去の人種的・性的不正義に対して積極的措置を用いるものです。

それによって、人種的・性的マイノリティが抱える社会経済的格差を是正することを目的としています。



1-2: アファーマティブ・アクションが成立した歴史的な文脈

アファーマティブ・アクションは公民権運動(Civil Rights Movement)の結果として、1965年にジョンソン大統領が行政命令11246号を発布したものです。

ジョンソン大統領は、アメリカ社会における黒人に対する差別をやめるだけでは効果がないと考えており3公民権法の制定など、より多くのマイノリティを優遇的に雇用する必要があると信じていました。

1-2-1: 雇用におけるアファーマティブ・アクション

そして、当初はエスニシティ・マイノリティの雇用面に重点が置かれた措置として始まります。企業が連邦政府と一定金額以上の契約を結ぶとき、マイノリティの雇用の確保が条件とされたのです。

たとえば、従業員の全員が白人の場合は、地域に応じた一定数のマイノリティを雇わなければならないといった措置がされます。

1-2-2: 教育におけるアファーマティブ・アクション

1971年になると、アファーマティブ・アクションは高等教育にも適用されることが決定されます。

1960年代後半にアメリカの主要都市で人種暴動が拡大したことを受けて、ニクソン大統領は都市部におけるマイノリティの教育と雇用の確保が不可欠と考えたためです。

1-3: アファーマティブ・アクションの具体的な例

実際、アファーマティブ・アクションによって、マイノリティの雇用と教育機会は拡大しました。

雇用におけるアファーマティブ・アクション

  • 仕事の給与、昇進、二次的な利益における不平等の是正
  • 女性を含めたマイノリティ労働者の雇用・昇進
  • 訴訟や社会的な圧力をかわすため、民官問わずにアファーマティブ・アクションを積極的に導入

教育におけるアファーマティブ・アクション

  • 州立大学だけでなく、私立大学までも地域の割合を反映させてマイノリティを受け入れる
  • 将来のアメリカ社会を担う人材の育成が促進される

このように、アファーマティブ・アクションの賛成派は女性やマイノリティに対して長年おこなわれてきた差別を打破するため、平等な機会を与えることが重要であると考えます。

たとえば、全米黒人地位向上団体はアファーマティブ・アクションを支持する団体です。

この団体は、アメリカ社会による数世紀にわたる黒人の奴隷化、仕事や公共住宅、教育、政治参加への拒否といった差別の歴史を救済する唯一の方法は、ある程度強制的に平等な機会を与えることであると考えています。

「先祖の罪を誰が払うべきか?」は重要な問題です。この点をマイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう ──いまを生き延びるための哲学』は取り上げているので、ぜひ参照することをおすすめします。

1-4: アファーマティブ・アクションは逆差別?

その一方で、アファーマティブ・アクションに反対の立場をとる人びとがいます。現在のところ、この措置に反対の立場をとる人びとのほうも多くいます。

反対する人はアファーマティブ・アクションを「逆差別(reverse discrimination)」である、と批判します。それはアファーマティブ・アクションの制度の特徴にあります。

アファーマティブ・アクションでは、

  • 必然的に人種や性別といった集団的な分類がされる
  • 女性やマイノリティを優遇するため、個人の能力は考慮しない

といった特徴があります。

その結果、「ある白人はマイノリティよりも能力があるにもかかわらず、採用されないという逆差別がおきる」、「機会の均等ではなく、結果の平等の押しつけだ」と主張がされます。

加えて、アファーマティブ・アクションに反対する人には次のような意見もあります4サンノゼ州立大学のスティール教授など

  • この措置はマイノリティの手助けではなく、優遇を受けるマイノリティは劣った存在であることを暗示する
  • その結果、アファーマティブ・アクションは差別に対する保護にならないばかりか、差別を助長する



1-4-1: アファーマティブ・アクションは憲法違反?

アファーマティブ・アクションの導入以来、過去の差別に由来する現状を是正しようとしてきました。しかしアファーマティブ・アクションは合衆国憲法第14条に違反するとして全米で起訴が起きます。

合衆国憲法第14条5ジムクロウ体制が確立するまでの議論は、例えば、貴堂 嘉之 2005「未完の革命と『アメリカ人』の境界−南北戦争の戦後50年論−」『アメリカニズムと「人種」』川島正樹(編)pp.113-139名古屋大学出版会。

  • 南北戦争後の再建期(Reconstruction)に奴隷解放を目的に制定されたもの
  • 黒人の市民権と機会の平等を保障したもの

合衆国憲法で保護される個人の機会の平等に訴えて、アファーマティブ・アクションは逆差別である、という主張がされました。

1-4-2: バッキ判決とミシガン大学

ここではバッキ判決とミシガン大学における事例から、アファーマティブ・アクションに対する反対意見を紹介します。

1978年のバッキ判決
  • 原告と被告:カリフォルニア大学デーヴィス校に志願して不合格になった白人男性のバッキが、大学側に起こした訴訟
  • 訴訟理由:デーヴィス校が採用する入学制度(アファーマティブ・アクション)は合衆国憲法第14条違反と訴える
  • 結果:最高裁は原告の訴えを認める
  • 理由:入学制度は人種に基づいた枠組みがあり、それは合衆国憲法第14条で保護される個人の機会の平等を無視しているため
1997年のミシガン大学
  • 原告と被告:グランツとハマカーが、ミシガン大学の入学制度めぐり起こした訴訟(人文・芸術科学の学部)
  • 訴訟理由:ミシガン大学の学部は人種に重点をおいており、マイノリティには入学の機会が多く与えられてるという不平等がある
  • 結果:最高裁は原告の訴えを認める
  • 理由:教育上の利益を達成するために人種は数ある要素のうちの一つだが、入学制度に人種的な割り当てを導入してはならないとされたため

どうでしょう?合衆国憲法で保護される個人の機会の平等は、アファーマティブ・アクションを覆す強力な権利だとわかると思います。

1-4-3: 共和党候補のドールによるアファーマティブ・アクションの否定

加えて、アファーマティブ・アクションは保守的な政治家から否定されています。1996年における共和党の大統領候補者であるボブ・ドールはこの措置に懐疑的な態度を示しました6Feagin, R. Joe 2014 Racist America: Roots, Current Realities, and Future Reparations. Routledge.

あるTV討論番組においてドールは、次のような主張をします。

  • 制度的な人種主義の廃止された後に誕生した白人が人種主義の「ツケ」を払うことはおかしい
  • アファーマティブ・アクションは黒人労働者に雇用機会を与えて、逆に白人労働者の仕事を「奪う」

ドールの主張は、アファーマティブ・アクションに反対する人の典型的な意見です。つまり、前世代が犯した過ちを償う責任は現代を生きる人々にはない、と主張しています。

一般的に、ドールのような主張は新保守主義的新自由主義的なものといわれます。それぞれの立場については以下の記事を参照ください。

→【ネオコン(新保守主義)とは】起源からトランプまでわかりやすく解説

→【新自由主義とは】定義・問題点・生まれた背景をわかりやすく解説



1-5: 日本におけるアファーマティブ・アクション

さて、日本におけるアファーマティブ・アクションの事例にも触れましょう。日本社会にもアメリカ社会と似た措置があり、似たような反対意見があります。

たとえば、日本における「アファーマティブ・アクション」には以下のようなものがあります。

  • 部落問題解消のための優遇措置
  • 女性の社会的地位向上のための優遇措置
  • マイノリティための優遇制度(アイヌ民族、沖縄、在日韓国・朝鮮人など)

そして、日本においてもアファーマティブ・アクションに反対するとき、個人の自由と平等が強調されます。

たとえば、日本が近代化する過程で抑圧をうけたアイヌ民族に対する補助金制度は、特権としてしばしば批判の対象になります。ある元市議会議員によると、「アイヌなどもういない」のにかかわらず、「同じ日本人を区別する」ことが補助金制度の問題であるといいます。

リベラリズムが広く共有される日本社会は、アメリカ社会と近い距離の問題を抱えることがわかると思います。

アファーマティブ・アクションを大まかに理解することはできましたか?アファーマティブ・アクションが否定される背景には、個人の機会の平等というリベラルな前提があります。この措置の本質な問題はまさにその点にあります。

つまり、アファーマティブ・アクションが提起する問題とは「個人の機会の平等が保護される世の中で、先祖の罪を誰が払うべきなのか?」というものです。

1章のまとめ
  • アファーマティブ・アクションとは、過去の不正義から生じた状況を改善するために採られる積極的な措置
  • 賛成派は女性やマイノリティに対して長年おこなわれてきた差別を打破するため、平等な機会を与えることが重要である
  • 反対派は、個人の自由と平等を前提に「逆差別」という主張をする

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2章:アファーマティブ・アクションの展望

さて、2章ではアファーマティブ・アクションに関する議論を深掘りしていきます。

2-1: アファーマティブ・アクションと個人の中立性

アファーマティブ・アクションに反対する人びとは優性的な立場です。その人たちが持ち出す主張は、状況的なものではなく原理的なものです。

歴史的不正義が生み出した是正措置に反対する人びとは、基本的以下のような考えが根底にあります。

  • 前世代が犯した過ちを償う責任は現代を生きる人々にないという立場
  • そもそも、現実的に謝罪すらできない
  • 謝罪とはある不正についてするもので、なんらかの責任を取ること
  • 自分がしなかったことに対して、なぜ謝罪をしなければならないのか

簡単にいうと、「私たちは自分のしたことに罪を背負い、しなかったことには責任はない」という考え方です。「私の責任は私がしたものだけにある」という考え方には解放感がありますが、安直にその考えだけに陥ると危険です。もう少し掘り下げて考えてみましょう。

「私の責任は私がしたものだけにある」という考え方には、「自由で独立した個人である」「道徳的束縛から解放されて、みずからの目的をみずから選ぶことができる」という前提があります。

つまり、習慣や伝統から受け継がれた地位はなく、一人一人の自由な選択こそが私たちを拘束する責任の発生する源だという前提です。

だからこそ、人種や性別といった理由で大学への入学が許可されない場合、それは個人の権利の侵害だという議論に発展するのです。



2-2: アファーマティブ・アクションは個人の権利を侵害するのか?

アファーマティブ・アクションに反対する人は、本人の力の及ばない要素(人種、性別など)で判断されない権利があると考えています。しかし本当にそうでしょうか?

アファーマティブ・アクションで頻繁に問題となる大学の入学制度を考えてみてください。

  • アファーマティブ・アクションに反対する人は、人種や性別といった本人がコントロールできない要素で判断されるべきでないと考える
  • しかし一般的に大学の入学制度には、本人のコントロールできない要素が含まれる7出身地による割り当て制度、高い運動能力による入学制度など
  • すると、バッキ判決で主張されたような、学業面だけで入学許可を求める権利はそもそも存在しない
  • 重要なのは、大学が自らの使命を定義して、それに沿った選考方針を決めること

不合格になった学生は大学の選考方針に不満をもつかもしれませんが、大学側は不合格になった学生を劣った存在と言ってるわけではありません。ただ単にある大学の教育目的にとって人種や民族の多様性の確保が重要である、と言っているだけです。

そのため、ある大学の教育目的が人びとの権利を侵害しないかぎり、不公平な扱いを受けたとして訴える正当性はどこにもないのです。

2章のまとめ
  • アファーマティブ・アクションの反対派は人種や性別といった本人がコントロールできない要素で判断されるべきでないと考える
  • アファーマティブ・アクションをめぐる選考過程では、本人のコントロールできない要素が含まれる
  • アファーマティブ・アクションで、不公平な扱いを受けたとして訴える正当性はどこにもない

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3章:アファーマティブ・アクションについての学び方

どうでしょう?アファーマティブ・アクションを理解することはできましたか?

アファーマティブ・アクションは過去の不正義と向き合う措置といえます。しかしリベラリズムが広く行き渡る社会において、賛成派と反対派の意見が激しくぶつかりあっています。

初学者の方にオススメなのは、できるだけ中立的に学ぶことです。これから紹介する書籍や新聞、雑誌から賛成派と反対派の主張を広く学びことをおすすめします。

おすすめ書籍

マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)

アファーマティブ・アクションに関する論争を、政治哲学的に読み解いています。これから社会を考える上でも重要な本です。

賀川真理『カリフォルニア政治と「マイノリティ」』 (不磨書房)

カリフォルニア州におけるアファーマティブ・アクションを議論しています。実証的なデータが提示されているため、アファーマティブ・アクションの成果が非常にわかりやすく学べます。

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • アファーマティブ・アクションとは、過去の不正義から生じた状況を改善するために採られる積極的な措置
  • 賛成派は女性やマイノリティに対して長年おこなわれてきた差別を打破するため、平等な機会を与えることが重要である
  • アファーマティブ・アクションの反対派は人種や性別といった本人がコントロールできない要素で判断されるべきでないと考える
  • アファーマティブ・アクションで、不公平な扱いを受けたとして訴える正当性はどこにもない

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