社会思想

【社会契約説とは】ホッブズ・ロック・ルソーの違いからわかりやすく解説

社会契約説をわかりやすく解説

社会契約説・社会契約論(social contract)とは、政府は人々の同意(契約)によって設立されたものであり、政府の役割は人々の権利の保護にあると考える思想のことです。

17世紀以降の西欧から生まれた思想ですが、社会契約説(社会契約論)は現代社会の成り立ちから現在の政治学の議論まで、とても強い影響を与えています。

もし当時、このような思想が生まれていなければ、私たちが暮らすこの世界は違う形だったかもしれません。

社会契約説について学ぶことは、現代社会の成り立ち社会科学について深く学ぶためには、避けられない思想なのです。

そこでこの記事では、

  • 社会契約説の定義や意味、影響力
  • 当時の思想家が考えたそれぞれの社会契約説の違い
  • 社会契約説について学べる書籍

などについて詳しく解説します。

気になるところから読んで、ポイントを覚えてください。

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1章:社会契約説とはどういうもの?

社会契約説についてよく理解できていないという場合、まずは1章で社会契約説の一般的な意味を押さえ、2章の「違い」へ進むことをオススメします。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:社会契約説の定義と意味

冒頭の繰り返しになりますが、

社会契約説とは、政府は人々の同意(契約)によって設立されたものであり、政府の役割は人々の権利の保護にあると考える思想

のことです。

グロティウスがその前提となる思想を生み、それからホッブズ、ロック、ルソーによって発展させられました。

さらに、20世紀に入っても、政治哲学の分野などで、ジョンロールズやロバートノージック社会契約説を議論しています。

社会契約説の意味や生まれた理由を考えるためには、当時の社会背景について知っておく必要があります。

1-2:社会契約説は王権神授説への批判として生まれた

当時、ヨーロッパ社会では「王権神授説」がメジャーな思想でした。

【王権神授説とは】

支配者による国家の支配を、「王の権力は神から与えられたものだから正しいものなのだ」と考える思想。つまり、支配者に都合の良い思想。

こうした思想がメジャーだと、大衆は国家権力から抑圧されても、それは「しょうがないこと」と考えられてしまいますよね。

そこで一部の思想家によって、「人々の立場が平等・対等な状態から、『政府を作ること』に人々が合意したことで、政府(国家権力)が生まれたのではないか」と考えられるようになったのです。

ちなみに、王権神授説的のように、神話の世界に支配者の正当性を求める思想は世界中にあります。日本でも『日本書紀』『古事記』で書かれた日本の建国神話は、天皇の支配の正当性を根拠付けるための、一種の王権神授説的思想であったと言えます。



1-3:社会契約は「自然状態」における契約

こうした王権神授説の批判として社会契約説が登場したのですが、

「そもそも、『社会契約』がよく分からない」

という方も多いと思います。

1-3-1:自然状態では人間の本性がむき出しになる

まず、社会契約説を考えたホッブズやロックは、国家がまだ存在しない人間社会の出発点を想定します。

その社会では、人々がみな自由で平等な立場で何からも支配・コントロールされていません。

人々はいくらでも自由に行動できるため、そこでは人々は自分の本性をさらけ出すことになります。社会契約説では、この状態のことを「自然状態」と言います。社会契約説の自然状態

この「人間本性がむき出しになる」社会では、社会はどうなっていくのか?を真剣に検討したのが社会契約説です。

1-3-2:自然状態では国家(政府)が作られる

さて、人間本性がむき出しになる自然状態の社会では、社会は「戦争状態」に陥るとホッブズとロックは考えました。

その戦争状態を治めるために、人々は「社会契約」を結んで、国家(政府)を作ったのだというのが社会契約説の考え方です。

つまり、社会契約説は人類社会の出発点を考古学や人類学のような立場で研究したものではなく、論理的・哲学的に国家権力の正当性を検討したものなのです。

社会契約説について、以下の本が入門書としておすすめです。

ここまでをまとめます。

1章のまとめ
  • 社会契約説は王権神授説の批判から生まれた
  • 社会契約説は、国家権力の正当性について、哲学的に考えた思想
  • 国家権力がない状態(自然状態)において、どのような合意(社会契約)がなされたのか?という問いから、国家権力の正当性を説明する

さて、ここまで社会契約説の定義や意味を説明しましたが、社会契約説は数人の思想家によって発展させられてきた思想なので、提唱された内容にそれぞれ違う所があります。

そこでこれから、17世紀以降に生まれた社会契約説の発展を、それぞれの思想家の提唱したことを辿りながら見ていきましょう。

それよりも、書籍から詳しく学びたいという場合は3章に飛んでください。

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2章:社会契約が生まれた歴史と思想家たち

社会契約説は、17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパで花開いた思想です。

「国際法の父」と言われるフーゴー・グロティウスによってその前提となる思想が形成され、

  • トマス・ホッブズ
  • ジョン・ロック
  • ジャン・ジャック・ルソー

によって発展させられました。

2-1:フーゴー・グロティウス

オランダの法学者フーゴー・グロティウス(Hugo Grotius/1583年-1645年)は、「近代自然法学の創始者」と呼ばれており、社会契約説にも関連する「自然法」の思想を詳しく論じました。

グロティウスは、自然法は神の意志でも変更できないもので、人間の理性によって作られるものだと主張しました。

彼の自然法思想には以下の原理があります。

①自己保存

自分を守るための力の発動は正義だが、それと関係ない他者への侵害はダメ。自己保存のために、個人の生命や財産を守る政府は必要。

②同意

個人の所有権や政府の設立は、人々の同意による。

③支配

個人が支配者に隷従する自由も認めた(その後のヨーロッパ諸国による植民地支配を正当化する論理となった)

このように、グロティウスは社会契約説を生み出す前提となる思想を形作ったのです。

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2-2:トマス・ホッブズ

社会契約説とホッブズ

トマス・ホッブズ(Thomas Hobbes/1588年-1679年)は、『リヴァイアサン』『市民論』などが代表作のイギリスの思想家です。

絶対王政〜共和制の樹立〜王政復古の時代を生きました。

ホッブズはデカルトの影響を受けており、人間を「運動する機械」と考えました(機械的人間観)。この人間観は、彼の考えた社会契約説にも色濃く影響しています。

彼の社会契約説は、以下の3つの原理によって構成されます。

2-2-1:自己保存権

ホッブズは、人々の自然権として自己保存権を認めました。

人間の本質はあくなき自己保存にあるため、人間が本性むき出しになると「万人の万人に対する戦争」、つまり「戦争状態」になると主張しました。

2-2-2:自己保存権の相互の放棄

戦争状態を脱するためには、自己保存権(自分の生命を守る権利)を相互に放棄し合うことが必要です。

しかし、本性むき出しの「自然状態」では疑心暗鬼になり、互いに自己保存権を放棄することはできません。

そこで、③の原理が登場します。



2-2-3:国家権力

自然状態で自己保存権を相互に放棄するために、強力な権力が登場し、処罰する必要が出てくる。ここで、人々が国家を設立する「社会契約」が生まれます。

ホッブズの社会契約説

以上がホッブズの社会契約説です。

上記の社会契約説から特徴を抜き出すと、

  • 自然状態=戦争状態
  • 機械的人間観
  • 人々は自然権(もともと持っている権利)として自己保存(生命を守る)の権権を持つ
  • 人々に「処罰(死)の恐怖」を与えることで社会契約できる

ということです。

また、大衆の意志と国家権力(主権者)の意志が同一であるため、国家の持つ権力は絶対的になり、抵抗できないということでもあります。

これに対し「いや抵抗は認められるはず」と言ったのがロックです。

2-3:ジョン・ロック

社会契約説とロック

ジョン・ロック(John Locke/1632年-1704年)は『人間知性論』『統治二論』『利子・貨幣論』などが代表作であるイギリスの思想家です。

王政復古〜絶対王政の崩壊〜名誉革命による立憲君主制の樹立という時代を生きました。

ホッブズとは生きた時代が違うため、ロックの人間観はホッブズの「機械的人間観」と違い、「理性的人間観」であり、これも彼の社会契約説に色濃く影響しています。

ロック思想は以下のようなものです。

2-3-1:自己保存

ホッブズと同じく、ロックも人間は自己保存(自分の生命を守る)権利を持っていると考えたのですが、ホッブズと違って、自己保存権は他人の自己保存権を犯さない限り認められる、という条件が付きました。

2-3-2:処罰権

自己保存の権利が他人から犯された場合や、第三者の自己保存権が誰かに犯されている場合は、加害者への処罰の権利が与えられることをロックは認めました。

つまり、自然権としての処罰権を認めたのです。この点もホッブズと違います。

処罰権があると、個人の生命が脅かされる状況が起きても他人によって処罰されるため、自然状態から脱して平和な社会を維持することができます。

ただし、この平和な自然状態は富の不平等が生まれることで崩れてしまいます。

2-3-3:富の不平等が戦争状態を生み出す

ロックは、自らの生存の範囲を超えて、労働によって生み出された所有・蓄積を行うことは自然法によって禁じられていると考えました。

別の言葉で言うと「生産物が腐敗しない限り」は所有が許されると考えました。

たとえば、自分が生きるために野菜を育てることは良いのですが、人に売るために野菜を育てて、富を蓄積することは自然法では禁じられていると考えたのです。

しかし、これでは社会が発展しません。

そこで、人類社会には「貨幣」という形で富を蓄積したと考えました。

貨幣なら「腐敗」することがないため、富を蓄積することも許されるのです。

しかし、貨幣という形で富を蓄積する者が現れることで、社会は不平等になり、理性によって守られる自然法は守られなくなってしまいます。

その結果、やはり人間社会は「戦争状態」になると考えられました。

ロックの社会契約説

ここで、人々は戦争状態を抜け出すために「社会契約」をしたというのがロックの考えです。

2-3-4:同意と信託

ロックは社会契約で、

  • 人々は国家を設立することを相互に「同意」する(結合契約)
  • 政治形態を決め、特定の個人もしくは団体に自然権を「信託」する(支配服従契約)
  • 国家設立の目的は自然法の実現であるため、「立法権力」が最高権力

と考えました。

さらに、国家が人々を裏切って行動した場合の「抵抗権」や「革命権」を認めるべきと主張し、現代に繋がる民主主義の根本になる思想を打ち出したのです。

ホッブズが、国家(主権者)に裏切られたら逃げるしかないと考えたのに対し、ロックは「抵抗」「革命」を認めている点に、思想の発展があるのです。

ジョン・ロックの思想について詳しくは以下の記事で解説しています。

【ジョンロックの思想とは】『統治二論』からわかりやすく解説



2-4:ジャン・ジャック・ルソー

社会契約説とロック

ジャン・ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau/1712年-1778年)は、ジュネーヴ共和国出身で、フランスで活躍した思想家です。代表作には『社会契約論』『エミール』などがあります。

2-4-1:自然状態=未開社会

ルソーは、ホッブズやロックの人間観は間違っていて、本来の自然状態にある人間は、

  • 自己愛(生物としての自己防衛本能)
  • 憐憫(同情心)

を持っていると考えました。

ルソーによると、自然状態は未開社会であり、そこでは平和で幸福な社会が営まれていました。

2-4-2:農業社会で権力が生まれる

しかし、未開社会から農業社会に発展する中で政治的支配関係が生まれたと考えます。

農業社会になると、一部の者が「ここは自分の土地だ」と主張し、そこから私有財産という観念が生まれます。

さらに、大規模な農業生産が行われるにつれ、特定の人間に権力が集中していくため、そこから政治権力が生まれます。

つまり、私有財産制の確立と政治権力は表裏一体にあるのです。

2-4-3:社会の発展で戦争状態へ

こうして生まれた国家は、さらに発展することで以下のように変化します。

  • 最初の国家(君主制国家)は、支配について被支配者からの「同意」を装っている
  • さらに社会が発展すると社会がますます不平等になり、国家は専制国家になる
  • 社会は戦争状態になる

この戦争状態を抜け出すために、社会契約が必要だとルソーは考えました。

ルソーの社会契約説



2-4-4:一般意志による国家の設立

ルソーの社会契約では、一般意志(人々の統一された意志)によって国家(主権)が設立されると考えられ、一般意志の具体的な形を「立法権」と考えました。

一般意志という人々の意志が頂点にあり、それが国家の主権をつくり、立法権という具体的な形を取るということです。

したがって、ルソーの思想は、

  • 人々が自らの意志で、自然状態から脱するために社会契約によって国家を作る
  • 社会契約で人々は自然的自由を失うが、代わりに政治的自由を得る
  • 政治的自由を得た人々は、一般意志に服従し国家全体のために生きる(本性が変わる)

というものになります。

「一般意志」をめぐる議論は、以下の記事でも詳しく解説しています。

【ルソーの一般意志とは】社会契約論との関係から批判までわかりやすく解説

2-4-5:人間の本性は社会契約で変わる

ルソーの特徴は、社会契約によって人々の本性が変化し、共同体の幸せを目指す理性的な生き方を得るということです。

ホッブズやロックが、人間の本性は利己的なもので、社会契約の前後でも変化しないと考えたことと比較すると大きな違いであることが分かると思います。

ルソーの社会契約説は、「人間本性が理性的なものに変化する」という点で、やや理想的過ぎるように思えるかもしれません。

しかし、重要なのは、それが本当に社会の成り立ちの説明として正しいかどうかではありません。

大事なのは、ルソーの社会契約説が、

  • 人民主権
  • 公共の福祉

という観念を生み出し、それが社会に影響を与え、後のフランス革命フランス人権宣言にも影響を与えていくということです。

このように、社会契約の思想はグロティウスからホッブズ、ロック、そしてルソーへと受け継がれ、発展し、後の社会に強い影響を与えていったのです。

2-5:現代の社会契約説

社会契約説は、長い間過去の社会思想であり歴史の一部に過ぎませんでした。

しかし、1970年代以降に発展して現代でも注目されている「政治哲学」という分野では、再び社会契約説的な思想が生まれています。

政治哲学は、国家の正当性というよりも、より平等・公正な社会を作ることについて論じる議論です。

現代の政治哲学における社会契約を用いた議論には、ロールズによる『正義論』の議論やリバタリアンのノージックによる議論などがあります。それぞれ以下の記事を参考にしてください。

【正義論とは】二つの原理・無知のヴェールから批判までわかりやすく解説

ロバートノージックの思想とは|『アナーキー・国家・ユートピア』からわかりやすく解説

政治哲学の全体の議論について、詳しくは以下の記事で解説しています。

【政治哲学とは】3つの流れと主な議論をわかりやすく解説

ここまでをまとめます。

2章のまとめ
  • 社会契約説はグロティウスからホッブズ、ロック、ルソーへと発展させられた
  • それぞれ唱えた社会契約説は違ったが、人民主権や抵抗権、革命権、公共に福祉といった、民主主義の根幹を作る概念が作られた

ここまで社会契約説について詳しく説明してきましたが、ここでは要点だけを伝えるために、細かい説明は飛ばしています。

より詳しく、正確に知りたい場合は、必ず次に紹介する書籍にあたってください。

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3章:社会契約説について学べる書籍リスト

冒頭でもお伝えしたように、社会契約説は現代社会の成り立ちや政治学を中心とした社会科学を学ぶ上で、ベースとなるとても重要な概念です。

これを学ばずに勉強を進めても、結局後から学び直す必要に迫れてしまいます。

そこで、社会契約説についてより詳しく学びたい方は、これから紹介知る書籍をぜひ読んでみてください。

重田園江『社会契約論: ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ』(ちくま新書)

この本は社会契約論の優れた入門書ですので、最初の1冊としておすすめします。

坂本達哉『社会思想の歴史-マキャベリからロールズまで-』(名古屋大学出版会)

社会思想について詳しく通史的に書かれた本で、社会契約説についても書かれています。社会契約が生まれた歴史的背景から、前後の思想の繋がりまで学べるとても良い本です。

ルソー『社会契約論』(岩波文庫)

社会契約論について論じた、ルソーの本です。社会契約説(論)について本当に学びたいなら原著にあたるのが一番良い方法です。手軽な値段ですので、手元に一冊置いておくことをおすすめします。

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まとめ

今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 社会契約説は政治権力の正当性について明らかにしようとした思想
  • 社会契約説は、その後の民主主義の根幹となる概念をいくつも形成した
  • 社会契約説は、グロティウスからホッブズ、ロック、ルソーと発展させられた

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