政治思想・政治哲学

ロバートノージックの思想とは|『アナーキー・国家・ユートピア』からわかりやすく解説

ロバートノージックのアナーキー・国家・ユートピア

ロバート・ノージック(Robert Nozick)のリバタリアニズム(libertarianism)とは、

個人が生み出したものは勝手に分配されるべきではない(権限原理)、国家は暴力などから守り契約の履行を強制するなどの、一部の役割のみしか認められない、などの特徴を持つ自由主義思想のことです。

ノージックのリバタリアニズムの代表作は『アナーキー・国家・ユートピア』であり、この著作は多くのリバタリアンに大変大きな影響を与えました。

ノージックの思想はそれほど難解ではありませんが、多くの場合で「リバタリアニズム」とひとくくりにされがちです。

しかし、政治哲学・思想に興味がある方や、リバタリアニズムや新自由主義に興味がある方には、ひとくくりにした説明だけでは不十分です。

そこでこの記事では、

  • ノージックのリバタリアニズムとはどんな思想か
  • 『アナーキー・国家・ユートピア』ではどのようなことが語られているのか
  • 最小国家、配分的正義、権限原理とはどのような概念か

などについて詳しく解説します。

ノージックの議論は、「国家の役割はどこまで認められるか?」という永遠のテーマに対する一つの答えです。

ぜひ読みたいところから読んで、あなたもこの問いについて考えてみてください。

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1章:ロバート・ノージックのリバタリアニズムとは

現在の日本では、「国家は税金を無駄遣いする悪者」「国家は民間に機能を譲り渡して、できるだけ小さくなるべき」と考える人が多いように感じませんか?

この思想は、リバタリアニズムに通じる思想です。

つまり、自覚のあるなしに関わらず、多くの方がリバタリアニズムに近い立場を取っているのです。

そのリバタリアニズムのスターと言えるのが、アメリカの哲学者ロバート・ノージック(Robert Nozick/1938-2002)です。

ノージックはロシア系ユダヤ人移民の子であり、プリンストン大学で哲学博士を取得しました。

ノージックの著作は、リバタリアニズムの古典である『アナーキー・国家・ユートピア』ですが、実はノージックの政治に関する著作はこれだけで、それ以外は純粋な哲学に関する著作です。

ノージックのリバタリアニズムの思想について理解するためには、まずは「リバタリアニズムとはどんな思想なのか?」から理解する必要があります。

リバタリアニズムについてすでに理解していて、ノージックの具体的な思想について知りたい場合は2章からお読みください。

1-1:リバタリアニズムの政治的立ち位置

まずはリバタリアニズムについて、政治的立ち位置から解説します。

リバタリアニズムとは、端的に言えば「個人の自由や経済的な自由を重視し、国家の役割を最小限に考える思想」のことです。

他の政治的立場と比較すると、以下のように整理できます。

古典的自由主義の政治的立場

自由主義の一種ですが、自由主義の中で最も国家の役割を軽視する思想と言ってもいいでしょう。「最小国家論」とより過激な「無政府主義」があります。

古典的自由主義とリバタリアニズム

リバタリアニズムの特徴をまとめると、

  • 人間は、身体や財産に関する権利を生まれながら持っており、それを他者や権力が規制するべきではない
  • 国家の役割は最小限か、もしくは国家の存在そのものを認めない
  • 「大きな政府」「福祉国家」「社会自由主義」のように、国家が社会の平等・公正のために積極的な役割を持つ体制は、自由を侵害すると批判

という思想です。

新自由主義(ネオリベラリズム)と同じ意味で使われることもあります。

しかし、新自由主義がどちらかと言えば報道の中で使われ、経済的自由(民営化、市場主義)が協調される一方、リバタリアニズムは個人的な自由についても重視する点に若干の違いがあります。

それぞれ、詳しくは以下の記事で解説しています。

リバタリアン党のゲーリージョンソン
【リバタリアニズムとは】自由主義との違いと批判・役割をわかりやすく解説リバタリアニズムとは、国家の役割を一切認めない、もしくは国家を最小限にしようと主張する思想です。アメリカでは一定の支持層がいてさまざまな運動に繋がっています。一方で多くの批判もあり、議論の多い思想です。詳しく解説します。...
新自由主義とレーガン
【新自由主義とは】定義・問題点・生まれた背景をわかりやすく解説新自由主義とは、日本では中曽根政権以降に行われた「民営化」「構造改革」などの政策を支える思想のことです。新自由主義的政策の結果、労働者の立場が弱くなり自己責任論がはびこる社会になったとも言われます。議論の多い新自由主義について詳しく解説します。...

1-2:ノージックのリバタリアニズムの特徴

以上が一般的なリバタリアニズムの特徴ですが、

「では、ノージックはどのような主張をしたの?」

と疑問を持つかもしれません。

ノージックの主張を端的にまとめると、以下のようになります。

  • ロールズ批判
    福祉国家の正当性を説明したロールズの『正義論』に対し、個人が生み出した価値を国家が強制的に分配するのは認められないはず、と批判。
  • 最小国家論
    国家の役割は、暴力、詐欺などからの保護や契約の履行の強制などしか認められない(夜警国家)。それ以上の役割を持つ拡張国家は個人の自由を侵害する。
  • 権限原理
    個人が生み出した価値を誰に与え、交換し、売るのか、は所有者の意思によって決められる

いったんここまでをまとめます。

1章のまとめ
  • ノージックはロールズの『正義論』や福祉国家的な政策を批判し、個人の自由を最大限重視するリバタリアニズムを提唱した
  • ノージックのリバタリアニズムは、暴力からの国民の保護や契約履行の強制などのみを国家の役割として認め、それ以上の役割は認めない

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2章:『アナーキー・国家・ユートピア』から見るノージックの思想

それではこれから、ノージックが『アナーキー・国家・ユートピア』で説明したリバタリアニズムについて、具体的に説明していきます。

2-1:福祉国家・正義論への批判

ノージックに限りませんが、政治哲学のテーマの一つは「国家はなぜ必要なのか」ということです。

このテーマについて、政治哲学者のロールズ(John Bordley Rawls)は『正義論』で、

  • 現代の福祉国家政策は、結果的に不平等・不公正な社会を作っている
  • 社会のメンバーが全員で「無知のヴェール」の下で合意した社会秩序は、社会的弱者にとって最も公正な社会であるはず
  • 「正義の二原理」に従って、より平等・公正な社会を構想して実現していくべき

と主張しました。

つまり、社会の平等・公正のために国家の役割をより積極的に認めたのです。

※ロールズの『正義論』について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

正義論とは
【正義論とは】二つの原理・無知のヴェールから批判までわかりやすく解説正義論(A Theory of Justice)とは、 アメリカの哲学者ジョン・ロールズの著作『正義論』で展開した、現代の実際...

これに対して、ノージックは、

  • 人々が自分で生み出した価値は、その人に所有権があるはず
  • それを強制的に没収し(たとえば税金として)、それを社会の他のメンバーに勝手に配分することは、自由を侵害する行為
  • 国家にはそこまでの役割は認められないはずだ

と主張したのです。

つまりロールズの『正義論』が肯定する再分配政策を批判したわけです。

そしてノージックは、国家は最小限の役割のみを持ち、それ以上の権力を持たない「最小国家」であるべきと主張します。

2-2:最小国家論

ノージックは、国家の役割がどこまで認められるか?という問いに答えるために、ロック的な自然状態から国家の成り立ちを説明します。

結論から言えば、自然状態→保護協会→最小国家(夜警国家)と国家の成立を説明し、そこから正当化できる国家の役割を指摘しました。

2-2-1:個人が持つ自由、権利について

そもそも、ロックの自然法思想では、

  • 他人の権利を侵害してはならない
  • 個人は権利の侵害に対して防衛できる
  • 侵害されたらその分だけ侵害者から損害を取り戻せる、またを与えられる
  • 報復は侵害されたもの以上には許されない

などの自由を全ての人が生まれつき持っていると考えられました。

ノージックもこれに従い、個人は他者の権利を侵害しない範囲で自由に行動できるはずだと考えます。

しかし、自然状態(社会が成立する前の原始的な状態)では、人々は自分の自由を守ることに精いっぱいです。

そこで、人と協力して自由を防衛するようになります。

2-2-2:保護協会と最小国家

人々は自然状態で自分の自由を守るために、複数人で自衛組織を作り、財産や身体の自由を奪おうとしてくる他者から自分たちを守ろうとします。

これがノージックの言う「保護協会(protective association)」です。いわば、社会の原型です。

最初は保護協会が複数乱立し、競い合いますが、やがて市場原理によって一つの権力に集約されていきます。これが「最小国家(minimal state)」です。

この説明から、ノージックの以下の主張が分かります。

  • 国家は社会契約(※)ではなく、自生的に生まれたものである
  • 国家の役割は暴力、詐欺、盗みなどから国民を守ることや契約の履行を強制することのみである(夜警国家

※社会契約とは、国家は社会のメンバーによる契約によって成立したものと考える伝統的な政治思想です。詳しくは以下の記事をご覧ください。

社会契約説をわかりやすく解説
【社会契約説とは】ホッブズ・ロック・ルソーの違いからわかりやすく解説社会契約説(社会契約論)とは、国家の正当性を平等な立場にある社会の成員による同意に求めた思想のことです。社会契約説は、その後の社会科学の発展や社会の形成に非常に大きな役割を果たしました。社会契約説(社会契約論)について詳しく解説します。...

最小国家の成立を説明することで、国家が最低限持つべき役割を明らかにしたのです。

そして、最小国家以上の役割を持つ国家のことを「拡張国家(extensive state)」と言って批判しました。

「なんで『最小国家』以上の役割を持つ国家を批判するの?」

と思われるかもしれませんが、それは国家が「何を所有してよくて、何を所有したらだめなのか」を決めるのは、個人の自由を侵害することになると考えたからです。

これから説明します。

2-3:配分的正義と権限原理

あなたもご存じの通り、国家は税金や社会保険料という形で国民から富を吸収し、それを高齢者、病人、障碍者、貧困層などのために年金や医療保険、生活保護などの形で再分配しています。

しかし、再分配というのは人の富を勝手に取り上げ、勝手に他人にあげてしまうということです。

これは、はたして正当化できるものなのでしょうか?

日本の若者の間でも、「年金なんて破綻するのに支払う必要ない」「高齢者のために若者の生活が圧迫されている」という声が上がっています。これを見るに、現代の日本でも避けられないテーマです。

この再分配政策の正当化について、ノージックは「配分的正義」と「権限原理」から説明します。

2-3-1:配分的正義の批判それを他者

配分的正義とは、「国家は富の再分配をする権利を持っているのだ」ということを正当化する根拠になる概念のことです。

ロールズも『正義論』で、平等・公正な社会の実現のための再分配政策を容認しています。

これが一種の配分的正義ですが、ノージックは、

  • 個人が自分で生み出した価値には、所有権があるはず
  • 個人が所有権を持つものを、勝手に取り上げられたり、勝手に人に配分されたりすることを、正当化できる根拠はないはずだ

と主張しました。

2-3-2:権限原理

ノージックは、自分が生み出したものを誰に与え、交換し、売ることができるのか決めることができるのは、所有者のみであるとしました。

これが「権限原理(entitle theory)」です。

権限原理とは、

  1. 正当に獲得したものに対しては、獲得者がその所有権(権原)を持つ
  2. その所有者から正当にものを移転された者は、そのものの所有権を持つ
  3. 上記の者以外に、そのものに対して所有権を持つ者はいない

という原理のことです。

難しく考える必要はありません。

要は、自分で生み出したもの、獲得したものの所有・移転の権利は自分だけが持つのであり、それを人にあげた場合は、その他人が新たに権利を持つということです。

ノージックは、この「権限原理」を軽視するロールズ的な再分配の理論は、個人の自由を軽視した理論であると批判します。

つまり、「自分で生み出したものを、国家が勝手に取り上げるなんて認められるわけがない」ということです。

まとめると、権限原理を重視すると、「最小国家」を超える「拡張国家」は自由を侵害する存在であるため認められない、ということになります。

そこでノージックが提案するのが、独自のユートピアです。

2-4:ノージックのユートピア

ノージックは、最小国家のデメリットも指摘しています。

それは、いろいろなことができる大きな国家と比べて、最小国家は存在感がなく魅力的ではないということです。

そこでノージックが提案するのが、

  • 価値観を共にする人々が集まって、独自のルールを決めた最小国家を作る
  • 世界には無数の最小国家があり、その国家間の移動を自由にする

というものです。

現在の世界から考えると独特すぎて、非現実的に思えます。

しかし、実際に世界ではこのような実験的なコミュニティが、リバタリアンによっていくつか実践に移されています。

リバタリアニズムの記事で紹介しているので、ぜひ読んでみてください。

2章のまとめ
  • 国家は、自然状態→保護協会→最小国家と自生的に生まれたもので、「社会契約」によるものではない
  • 自生的に生まれた最小国家のみが、国家として正当性を持ち、それ以上の「拡張国家」は個人の自由を侵害する
  • 獲得した本人がそのものに対する権利を持っている(権限原理)ため、国家がそれを勝手に取り上げて分配するのは、正当化できない

『アナーキー・国家・ユートピア』は、それほど難解な内容ではありませんので、より詳しくは原著から学んでみてください。面白い内容です。

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3章:ノージックのリバタリアニズムの問題点

ノージックのリバタリアニズムは、ノージック自身がその後思想を転換させたことからも分かるように、問題点をもつものです。

『アナーキー・国家・ユートピア』の思想では、現実問題として存在する「高齢者」「病人」「障碍者」「貧困層」などの社会的弱者を保護することが難しいからです。

これらについて、リバタリアンは民間企業や互恵的な組織が自生的に生まれ、国家の代わりに彼らを援助、保護すると考えます。

しかし、これまでの経済学や政治学では、それが難しいため国家の役割が「拡張」され、「大きな政府」が認められてきたという歴史があります。

「大きな政府」もある意味自生的に認められてきたものである以上、それを批判し「民間で補える」と考えるのはいささか楽観的ではないでしょうか。

とは言え、ノージックをはじめとするリバタリアンの主張は、極端である一方で「国家の役割はどこまで認められるのか?」という根源的な問いを考えるきっかけになります。

ぜひあなたも深く学んで、国家の役割について考えてみてください。

4章:ノージックのリバタリアニズムの学び方

ロバート・ノージックのリバタリアニズムや『アナーキー・国家・ユートピア』について理解できましたか?

ノージックのリバタリアニズムの思想は、それほど難解なものではありません。

そのため、ぜひ原著や関連する思想家の本と合わせて読んで、政治哲学や政治思想の学びに活かしてください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★森村進『自由はどこまで可能か−リバタリアニズム入門−』(講談社現代新書)

リバタリアニズムの思想について、リバタリアンの立場から詳しく書かされています。リバタリアニズムの入門書として最適です。

オススメ度★★仲正昌樹『集中講義!アメリカの現代思想−リベラリズムの冒険』(NHK出版)

リバタリアニズムはリベラリズムを批判する思想です。この本ではリベラリズムとノージックを含むリバタリアニズムの論争についても触れられているので、より広く政治哲学を学ぶ上で役立ちます。

まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • ノージックは福祉国家的な政策は、個人の自由を侵害するとして批判した
  • 個人が獲得したものには所有権がある(権限原理)ため、それを国家が勝手に取り上げるのは認められない
  • 個人の自由を侵害しない最小国家のみが認められ、拡張国家は認められない

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