政治史

【ジムクロウ法とは】その内容・具体例・理由をわかりやすく解説

ジムクロウ法とは

ジムクロウ法(Jim Crow laws)とは、1870年代から1960年代までアメリカ南部における、州・郡・市町村レベルでの人種隔離をする規則と条例です。「ジムクロウ」という言葉の語源は、顔を黒塗りした白人俳優のトーマス・ライスが演じたキャラクターにあります。

ジムクロウはアメリカ合衆国における人種主義制度の一つにすぎませんが、アメリカ史、強いては世界史を理解する上で不可欠な出来事です。

そこで、この記事では、

  • 「ジムクロウ」が登場する歴史とその政治的意味
  • ジムクロウ法の内容・具体例・理由など

について詳しく説明していきます。

関心のあるところから読んでみてください。

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1章:ジムクロウとは

1章は「ジムクロウ」が誕生する社会的土壌とその政治的意味について詳しく解説します。ジムクロウ法の内容や具体例などに興味のある方は、2章から読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: ジムクロウとミンストレルショー

まず冒頭で述べたように、

「ジムクロウ」という言葉は、顔を黒塗りした白人俳優のトーマス・ライスが演じたキャラクターから生まれたもの

です。

聞いたことがある方もいるかもしれませんが、ライスが演じたショーは「ミンストレルショー」といわれる19世紀半ばのアメリカで大流行した大衆芸能です。

具体的には、ミンストレルショーは以下のようなものです2大和田俊之『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』講談社

  • 顔を黒塗りにした演者が歌や踊りを、ステージ上で披露するもの
  • 米英戦争後に経済的な独立を果たしたアメリカでは都市化が進み、都市の新たな社会階層を顧客とした娯楽文化として生まれた
  • 1843年にニューヨークで公演が開催されると、翌年にはホワイトハウスに招かれるほどの爆発的な人気をみせた

ここで、大事なのはミンストレルショーの熱狂的な顧客となった都市部の労働者の存在です。これらの労働者は人種的優越感を保障する奴隷制とそれを推進する民主党を支持し、ミンストレルショーの第一顧客となっていました。

当時の民主党の政策は、主に以下のようなものに集約されます。

  1. 奴隷制の支持(特に南部)
  2. 領土拡張主義
  3. 反ヨーロッパ的なナショナリズム
  4. 経済的な独占の禁止
  5. 白人至上主義

 

こうしてみると、劣悪な都市環境で生活する労働者がナショナリズムと奴隷制を推進する民主党を支持しながら、ミンストレルショーに熱狂していったことがわかると思います。より詳しくはこちら→【アメリカのリベラル(左派)とは】保守との違いと歴史をわかりやすく解説



1-2: ジムクロウの誕生と発展

そして、ミンストレルショーで人気を博したのが「ジムクロウ」という黒人奴隷の動きを誇張する歌と踊りをするキャラクターでした。ジムクロウというキャラクターには、次のような特徴がありました。

  • 白人俳優のトーマス・ライスが1832年にニューヨークやフィラデルフィアの公演を成功させたことをきっかけに、ヨーロッパ大陸でも人気を博した
  • 人気が増すにつれて、「ジャプ・クーン」「オールド・ダン・タッカー」などのキャラクターに細分化していった

加えて社会学者の大和田が指摘するように、この演劇はさまざまな芸や歌を加えながら、白人労働者を楽しませつつ、ステレオタイプ的な黒人らしさを演出していくという巧妙な仕掛けがありました3大和田俊之『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』講談社

ここで注意したいのは、白人が顔を黒塗りにする伝統はミンストレルショーに始まったものでなく、シェイクスピアの『オセロ』に代表されるように以前から存在したことです。

しかし、面白おかしく「黒人らしさ」を強調するミンストレルショーは、白人性を構築する政治性をもった演劇だったのです。

ちなみに、ミンストレルショーをはじめとするアメリカ社会の音楽史は『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』が詳しいです。

1-3: ジムクロウと白人性

歴史学者のデイヴィット・ロディガーによると、ミンストレルショーのブラックフェイスは、多様な白人移民によって構成された白人労働者階級にとって、「白人」というアイデンティティを構築する意味をもった演劇であると考察しました4Roediger, The Wages of Whiteness: Race and the Making of the American Working Class, Verso

具体的にみていくと、そこには次のような過程があります。

  1. 白人の観客はブラックフェイスの芸人が、黒人ではないことを当然知っている
  2. この「黒人でない」という否定が、逆に「白人」という抽象的な概念を浮上させる
  3. 多様な文化やルーツをもつ白人の労働者階級の人びとは、この「白人」というカテゴリーに統一的なアイデンティティを感じることになる

つまり、「黒人」否定による「白人性」の構築といった政治性がミンストレルショーのブラックフェイスにはあったのです。

いったん、これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 「ジムクロウ」という言葉は、顔を黒塗りした白人俳優のトーマス・ライスが演じたキャラクターから生まれたもの
  • 「黒人」否定による「白人性」の構築といった政治性がミンストレルショーのブラックフェイスにはあった

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2章:ジムクロウ法とは

さて、ミンストレルショーで広く知れ渡った「ジムクロウ」というキャラクターは、アメリカ南部における人種隔離的な法律/規制の総称となります。これが「ジムクロウ法」と呼ばれるものです。

2章では、このジムクロウ法を概観します。下記の簡潔なアメリカ史を踏まえると、内容が理解しやすいです。

ジムクロウ制度成立の歴史
  • 南北戦争後の再建期(Reconstruction)…アメリカ合衆国憲法修正案第13条、14条、15条が承認されると、「奴隷制の廃止」「黒人の市民権」「黒人男性の投票権」が保障された
  • 再建期の終わり…しかし1877年までに南部に政治的影響力をもった北部のアメリカ軍は撤退し、南部の黒人に対する連邦政府の保護は排除されていく。その結果、アメリカ合衆国憲法修正案第13条、14条、15条は死文となり、解放された黒人に対する市民権の保護、経済的支援は終わりを告げる
  • ジムクロウ制度の成立…その後は「分離すれど平等」で知られる1896年のプレッシー判決で人種隔離が公認されると、ジム・クロウ制度によって有色人種に対する抑圧的な政治経済制度が継続した

2-1: ジムクロウ法の内容と具体例

社会学者のジェームス・バーダマンが次の著書で述べるように、ジムクロウと呼ばれる制度は「法律規制」「社会的規範」から成り立つものです。それぞれ解説していきます。

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2-1-1: 法律規則

ジムクロウの法律規制とは、

州・郡・市町村において、人種隔離をする規則と条例

です。

具体的には、黒人は公共施設、公立学校、病院、待合室、レストランなどで白人から「平等に」隔離されていました。これは後に説明する1896年のプレッシー判決によって支持されたものです。

そのなかで最も影響があったのは、黒人公民権の実質的な剥奪です。1870年に黒人を含めたすべての市民に対する投票権は保障されていました。しかし、これはさまざまな方法で剥奪されていきます。

たとえば、次のような事例が報告されています。

  • 投票税や識字テストを導入することで、黒人からの投票権を奪う
  • 投票前に申し込みする制度が州によっては存在し、白人のみに支援がされた(黒人に対しては当然なかった)
  • アメリカ憲法の特定の条項に関する解釈を求められたり、難解な法律用語の解釈を求められたりした
  • ある黒人は投票所で中国語の新聞を渡されて「なんと書いてあるかわかるか?」と記録員に問われると、「黒人は投票できないと書いてある」と答えたという逸話もある

投票権の剥奪に加えて、法律が誰に適応されるのか?という問題もありました。

結論からいえば、法律は白人を保護するものであり、黒人には法の下もとでの平等な保護を受ける資格がないと考えられていました。

そもそも、裁判の際に評決を下す陪審員は白人が独占しており、黒人が選ばれることはまずなかったのです。

黒人と公民権の関係は深く長い歴史があります。興味のある方は、こちらの書籍を参考にしてください。

2-1-2: 社会的規範

そして上述のような法律規則に加えて、社会的な規範、つまり日常におけるルールとともにジムクロウ制度は成り立ってたといえます。

たとえば、ジムクロウの社会的な規範には次のような具体例があります。

  • 呼称に関して… 黒人は白人に必ず敬称を用いた(MrやMiss)一方で、白人が黒人に敬称を用いることは皆無であった
  • 日常的な振る舞い…黒人は白人と話すときに帽子を取ること、黒人が贅沢な暮らし(高級車に乗ること、立派な服を着ること)は見せびらかしてはいけない等
  • 黒人男性と白人女性の関係…白人男性は黒人男性と白人女性が関係をもつことを嫌った。関係をもったとされた場合は、「犯人」である黒人男性はリンチされ、公開処刑さえることが大半であった
  • 労使関係…白人が地主の土地で働く場合は、奴隷同然に「主人」の指示に従う必要があった

ジムクロウ制度は実体があるものではなく、上述した内容のような「法律規制」と「社会的規範」から成り立っていました。



2-2: ジムクロウ法の理由

ジムクロウ法を正当化するために用いられた理由は多様です。たとえば、聖書の読解から奴隷制やジムクロウ法を正当化する人びともいました。

しかし、最も中心的な理由は「1896年のプレッシー判決」でしょう。差別稼働させるイデオロギーであった「社会進化論」「人種主義」とともに紹介していきます。

2-2-1: プレッシー対ファーガソン裁判

プレッシー対ファーガソン裁判とは、

  • 鉄道車両における白人と黒人の分離を定めた1890年のルイジアナ州法を連邦最高裁が是認したもの
  • 以後、約半世紀にわたる「分離すれど平等」の原理のもと、南部における人種隔離体制を正当化する理由となったもの

です。

概要を詳しくみていきましょう。

1890年代まで黒人は合衆国憲法とその修正条項を盾に、ある程度抵抗をすることが可能でした。しかし、プレッシー対ファーガソン裁判によって、その事態は急変しました。

ホーマー・プレッシーは8分の7が白人の血で、8分の1が黒人の男性でした。つまり、言われなければ誰も気づかないほど、見た目は白人だったのです。

しかし問題となったのは、彼の体内に流れる8分の1の黒人の血です。この血があるために、白人席に乗車した瞬間、プレッシーは逮捕されたのです。

黒人の血が一滴でも流れている限り、黒人と分類されることを「ワンドロップ・ルール」といいます。(→詳しくはこちらの記事

平等の権利を求める弁護団は有色人種の座席を設けることに抗議しただけでなく、ジムクロウ制度そのものを止めるために戦いました。しかし、ヘンリー・ブラウン判事は「分離すれど平等」のもと、弁護団の主張を退けたのでした。

この瞬間、南北戦争後の再建期が目指した黒人の権利は死文となりました。連邦政府はジムクロウという人種主義制度を公認し、黒人や有色人種を二級市民へとおとしめることを認めたのです。

ちなみに、「ナチスのニュルンベルク法はアメリカ合衆国の人種主義制度をお手本としていた」という衝撃の歴史的事実が指摘されています。興味のある方は次の書籍を読んでみてください。

2-2-2: 社会進化論

ジムクロウのような人種主義制度を稼働させたイデオロギーとして有名なのは、社会進化論です。社会進化論とは人間の社会や文化が進歩的に発展していくと考える思想です。

この思想が蔓延した当時の社会では、白人の優性と黒人の劣性がまことしやかに信じられていました。

そして、社会進化論は次のような出来事を正当化するイデオロギーとして導入されます。

  • 植民地や帝国主義の経済的競争は、自然の摂理に従っている
  • 寒冷気候で生きる白人は強者であり、温暖な気候で生きる黒人は生存競争を勝ち抜いていない弱者

たとえば、ノーベル文学賞を受賞したラドヤード・キップリングは帝国主義を支持し、白人の優越性を謳った『白人の重荷』(1899)を書きました。これは社会進化論を背景に書かれた本です。

社会進化論について詳しくは、次の記事を参照ください。

【社会進化論とは】スペンサーの議論や問題点をわかりやすく解説

2-2-3: 人種主義

社会進化論と同様にジムクロウ制度を稼働させた理由にあるのは、アメリカにおける人種主義の長い歴史です。

膨大な蓄積のある人種主義をここで解説することはできませんので、興味のある方は次の記事を参考に、アメリカの人種主義に関する理解を深めていってください。

2-3: ジムクロウ法の廃止

さて、人種隔離の撤廃や1965年の投票権法の制定など、人種主義制度が改善をみせるのは1950年代から1960年代の公民権運動まで待たなければならなかったです。

周知のように、人種隔離を違憲とする1954年のブラウン対教育委員会裁判は、公民権運動を促進させたマイルストーン的な判決です。

ブラウン対教育委員会裁判は、教育を良き市民の土台であり州政府と地域のもっとも重要な機能であるした上で、教育における人種隔離を違憲としたものです。

ブラウン判決に至るまでの法廷闘争は中村(2005)の「教育と『人種』−再隔離とアファーマティブ・アクション−」を参照ください。

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その他にも、1940年代には中国人排斥法の廃止、1967年に異人種間の結婚を禁止する法律の違憲を認めるなど、さまざまな人種主義的制度は時代とともに改善されていきました。

公民権運動の成果は、その後の有色人種の教育達成度の改善、彼らの経済的な成功、さらには有色人種の政治的指導者の出現に示されています。

しかし、公認の人種主義や合法の人種隔離制度が廃止されたことは、人種主義が社会に存在しないというわけでないという認識は大事です。ジムクロウ法をきっかけに、アメリカ社会に関する理解を深めていってください。

2章のまとめ
  • ジムクロウと呼ばれる制度は「法律規制」と「社会的規範」から成り立った
  • 連邦政府はジムクロウという人種主義制度を公認し、黒人や有色人種を二級市民へとおとしめることを認めた
  • 公認の人種主義や合法の人種隔離制度が廃止されたことは、人種主義が社会に存在しないというわけでない
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3章:ジムクロウを学べる本

ジムクロウについて理解を深めることができましたか?

ジムクロウはアメリカ黒人の歴史を語る上で欠かせないものです。ここで紹介する本を参考に、ジムクロウや黒人の歴史について理解を深めていってください。

おすすめ書籍

上杉忍『アメリカ黒人の歴史 – 奴隷貿易からオバマ大統領まで』(中公新書)

アメリカ黒人の歴史の概要を知りたいという方におすすめな本です。黒人の歴史が学術的に議論されているわけでないですが、全体像を把握したいという方はぴったりです。

ジェームス・バーダマン『アメリカ黒人の歴史』(NHK出版)

こちらもアメリカ黒人の歴史の概要をまとめた本です。アメリカが奴隷制を求めた社会的土壌からオバマ大統領まで議論されています。ジムクロウを含めて、学ぶことが多い本です。

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最後に、書物を電子版で読むこともオススメします。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 「ジムクロウ」という言葉は、顔を黒塗りした白人俳優のトーマス・ライスが演じたキャラクターから生まれたもの
  • ジムクロウと呼ばれる制度は「法律規制」と「社会的規範」から成り立った
  • 連邦政府はジムクロウという人種主義制度を公認し、黒人や有色人種を二級市民へとおとしめることを認めた

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