国際問題

【内発的発展とは】背景・意義・具体例からわかりやすく解説

内発的発展とは

内発的発展(endogenous development)とは、住民が主体となって、その地域の自然や文化を守りつつ合理的に活用しながら取り組む、持続可能な発展のことです。

海外における開発途上国の発展と、国内の過疎地域の農村を発展には共通点があります。

それはその国や地域が抱える問題を解決するために、住民が問題意識をもち、主体的に取り組む必要がある点です。このような取り組みを行う上で役に立つのが、内発的発展という考え方です。

この記事では、

  • 内発的発展の意味・背景
  • 内発的発展の問題点
  • 内発的発展の具体例

について解説します。

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1章:内発的発展とは

1章では、内発的発展という考え方やそれが生まれた背景、意義、問題点などについて解説します。具体的な事例に関心のある方は、2章から読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:内発的発展の背景

内発的発展という概念の元になった考えは、1975年にダグ・ハマーショルド財団が発表した「もう一つの発展」という概念です。

「もう一つの発展」という考えは、次の5つの性質をもった発展モデルです。

  1. 発展の目標を経済成長ではなく人間の基本的なニーズの充足とすること
  2. 社会の内部の人々が自分たちの価値観や将来展望を決定しようとすること
  3. 発展は当該社会のおかれた自然的・文化的環境下で、社会の構成員や内部の資源を活用して行われるべきであること
  4. 将来世代の資源利用を考慮し、エコロジー的に健全であること
  5. 社会の成員がみな意思決定・政策決定に参加できるように、社会構造の変化が必要であること

この中でも②の性質は「内発性」と呼ばれ、地域住民が主導となって自発的・自律的に取り組むことを意味します。これは内発的発展の核となる考え方となっています。

一方、従来の外来型開発とは、中央政府や外部の組織・国・企業が中心となって行う「開発」こそがその社会を発展させる方法であるという考え方でした。

  • 「発展」という言葉は、もともと内部から起こる変化の動きを指している
  • 一方で、「開発」は上からの政策的な変化を指している

この言葉の違いからも、内発的発展は住民たちが主体となって発展を進めることを目指していることがわかります。

さて、内発的発展という考え方が登場した背景には、大きく「南北問題」「環境問題」への世界的関心の強まりがあったと言えます。簡潔にいえば、以下のようにまとめることができます。

南北問題

  • 第二次世界大戦後に進められた開発途上国の開発の多くは、国際機関や先進国が主導で行われたものであった
  • しかし、先進国と開発途上国の経済格差は埋まるどころかどんどんと広がっていき、欧米社会をモデルとする開発論には疑問がもたれるようになっていった

※南北問題に関して詳しくは、以下の記事を参照ください。

→【南北問題とは】意味・原因・現状・対策をわかりやすく解説

環境問題

  • 1960年代ごろから、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の出版を機に環境問題への関心が一気に高まり、日本でも水俣病など公害の発生が社会問題となった
  • 経済発展が環境問題に与える負の影響が世界的に注目を浴びるようになり、やはりそれまでの欧米型の開発モデルの限界が叫ばれるようになった

※環境問題に関しては以下のような関連記事を参照ください。

→【エコロジーとは】意味・思想の種類・取り組みをわかりやすく解説

→【ゴミ問題とは】日本・世界の現状から取り組みまでわかりやすく解説

→【循環型社会とは】3Rから具体的な取り組みまでわかりやすく解説

→【環境倫理学とは】自然環境保護の思想と代表的議論をわかりやすく解説

また近年では、海外だけでなく日本国内においても、過疎地域の発展や地方創生政策として内発的発展の考え方が用いられています。



1-2:内発的発展の手法

内発的発展の考え方に基づいて国・地域の発展を進めていくためには、以下の4つが重要です。

  1. 当該国・地域による経済循環の確立
  2. キー・パーソンの育成
  3. 独自文化の活用
  4. 環境と調和した発展

それぞれ解説していきます。

1-2-1: 当該国・地域による経済循環の確立

①の「当該国・地域による経済循環の確立」とは、

その社会の中で生産と消費が循環するようなシステムを構築する必要があること

を意味します。

従来の開発では、その主体が中央政府や外部の企業にあり、その社会の利益が外部に吸い上げられてしまう外来型開発という仕組みでした。したがって、生産から消費までのプロセスにおいて、その社会内の多様な産業が結びつき、社会内に還元され続ける経済循環を作る必要があります。

1-2-2: キー・パーソンの育成

②の「キー・パーソンの育成」とは、

内発的発展の取り組みにおいてイニシアチブを発揮する存在を育成する必要があること

です。

キー・パーソンは、その社会の内部と外部(中央政府、他の国・地域)の双方をよく理解し、両者を結ぶことでその社会独自の発展を推進していける人物である必要があります。

外の世界を知っているからこそ、その社会の良さに気づき、その良さを伸ばすことができ、その社会の新たな発展の方向性を示すことができるのです。

1-2-3: 独自文化の活用

③の「独自文化の活用」とは、

その社会に根付いた文化や伝統を社会の発展資源として利用すること

です。

グローバル化が進む国際社会の中で、その社会独自の文化を生かした発展は他との差別化を生みます。

また、その社会の住民たちが自分たちの文化の良さに気づき、誇りを持てるようになることは、内発的発展を進める原動力にもなります。

1-2-4: 環境と調和した発展

④の「環境と調和した発展」とは、

近年悪化の一途を辿る環境や生態系を改善し、その中で持続可能な発展を目指すこと

です。

従来の開発では、それに伴う環境破壊や生態系の悪化により、結果的に住民の生活に大きな負の影響を与える方法で行われてきており、決して持続可能なものではありませんでした。

内発的発展では、住民が自分たちの生活や環境を守るために参加する、住民参加型の発展が重視されています。

このように、住民が主体的に参加しながら開発を進めていく手法を「参加型開発」と呼びます。参加型開発では、どのような開発を行うか、それを決める段階から現地の人をプロジェクトのメンバーとして参加させます。

内発的発展では、参加型開発の手法を用いて、住民たちが中心となって上述の①〜④について話し合い、同じビジョンを共有する機会を設けることが重要です。



1-3:内発的発展の意義

では、内発的発展の意義は、どのような点にあるのでしょうか?これについては、それまでの地方や開発途上国の発展において中心的考え方であった外来型開発からの脱却という観点から説明することができます。

加えて、「内発的発展は長期的にみると経済的な安定をもたらす」2豊田昌秀(1998)「地域開発と内発的発展論:宮本憲一氏の所説に関連して」『一橋研究』第23巻(1), 37頁ことも指摘されています。

これは従来の外来型開発が、一つの大企業や中央、つまりその地域の外部に依存した産業で成り立っていた背景があるためです。この理由から、地域の財政が破綻したり、産業が低迷したりした場合、地域の経済も共倒れになって低迷するリスクがありました。

その点で内発的発展はそのデメリットを補うことができるシステムと言えるでしょう。内発的発展では、地域の中でさまざまな産業が連関し、地域の内部で循環するような経済の仕組みを構築することを目指すためです。

もしその循環が機能すれば、外部に依存しない持続可能な安定した産業を生むことができます。



1-4:内発的発展の問題点

一方で、内発的発展に対する批判や問題を指摘する声もあります。その一つが、外部が内部の発展のためにどこまで介入すべきかかという問題です。

たとえば、日本における内発的発展に発展を唱えた第一人者として鶴見和子は、以下のような意見をもっています。

  • 欧米型の近代社会モデル、すなわち国際機関や国家、中央が主導となって制度等によって開発進めることに対して批判的な立場をとっている
  • 冒頭でも触れたが、これは国際機関や先進国などが主導となって開発途上国の開発を主導してきた過程において、多くの問題が発生した背景があったためである
  • そのため、発展していく上で重要なものは制度やシステムではなく、人・個人であるべきと考えている

これに対して、「国家や市場といった近代社会のシステムなしに、内発的発展論のような高度な議論を国際的な場で討論することや、人々の必要を満たすような財を生産することは困難である」3松本貴文(2017)「内発的発展論の再検討-鶴見和子と宮本憲一の議論の比較から-」『下関市立大学論集』第61巻(2), 6頁といった意見もあります。

このように、内発的発展を進める上での問題点として、どこまで国家などの外部が介入するべきなのかといった問題は議論され続けています。

これについては、国レベルだけでなく、一国内の地方の発展を論じる際も同様の問題が生じます。これは「内発的発展のジレンマ」と呼ばれ、たとえば、以下のような議論が提示されています4若原幸範(2007)「内発的発展論の現実化に向けて」『社会教育研究』第25巻,45-46頁

行政が主体となり、政策として地域の内発的発展を成そうとする場合、地域住民に対してある強制力がはたらき、内発的発展論の最も重要な原則である地域住民の主体性・自発性・自律性が損なわれる危険性を必然的に内包してしまう

このように、内発的発展ではその地域に住む住民が中心となって進めていく必要がある一方で、それを支える中央や国家など外部のサポートも必要です。

しかし、外部の干渉が行き過ぎると従来のトップダウン型の開発と変わらず、内発的発展とは言えないというジレンマが指摘されているのです。この問題については、現在においても議論され続けています。

1章のまとめ
  • 内発的発展とは、住民が主体となって、その地域の自然や文化を守りつつ合理的に活用しながら取り組む、持続可能な発展のことである
  • 内発的発展の手法:当該国・地域による経済循環の確立、キー・パーソンの育成、独自文化の活用、環境と調和した発展
  • 内発的発展の意義は、地方や開発途上国の発展において中心的考え方であった外来型開発からの脱却にある
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2章:内発的発展の具体的事例

さて、2章では、内発的発展の具体的な事例について紹介していきます。

2-1:開発途上国における内発的発展の事例

まずは、タンザニアの農村で起こった内発的発展の事例を紹介していきます。1999年から5年間、国際協力機構(JICA)はタンザニアの農業大学地域開発センターとともに水源涵養林の保全や河川の利用に関する事業を行いました。

事業の概要

  • 当時のタンザニアの農業は、コーヒーの自由化によって市況が下落し、協同組合の倒産や補助金の一部撤廃などにより、住民の生活は危機に瀕していた
  • この事業は、住民の人々に知識や技術を身につけてもらい、自分たちで問題を解決する能力を育成していきながら、農村の内発的発展を目指す事業だった

その中で用いられた農村開発手法「SUAメソッド」は、徹底的にフィールドワークを行ってその地域にあるポテンシャルを最大限生かすことを特徴としています。

SUAメソッドは、あくまで住民参加・住民主導を前提として、住民たちの学びのプロセスを大切にし、そのプロセスに対してアプローチしていく方法でした。したがって、事業過程で発生した問題点は住民と共に話し合い、住民の要望も踏まえた形で柔軟に対応していくプロセスをたどります。

その結果、事業が終了したあとも、森林や河川を守り続けているだけでなく、住民たちが自ら考え、養魚事業や小型水力製粉機建設など、新たな事業を次々と発展させていきました。

乾(2017)は、住民たちの手によって地域を発展させ続けている内発的発展が起こった要因の一つに「つなぐ存在(キー・パーソン)」を挙げています5乾直樹(2017)「内発的発展とつなぐ存在:-JICA「タンザニア国ソコイネ農業大学地域開発センタープロジェクト」の分析から-」『沙漠研究』第27号(1)17-22頁

このプロジェクトの中では、その地域に住む住民と、事業関係者である大学やJICA、行政、行政、NGOなどの関係者、つまり内と外をつなぐキー・パーソンが多くいました。

  • たとえば、タンザニアでは各村に農業普及員という、国や県の農業政策を住民に伝えたり、農業技術を指導したりする立場の人がいた
  • 彼らは、地域で行われている活動を実際に見て、県などの行政にその活動の価値を正しく伝えられたことでトップの理解を得ることができ、行政と住民、事業メンバーをつなぐ重要な存在として機能した
  • 他にも、村の神父が住民たちの衝突を仲裁し、住民全体を一つにまとめた事例もあった

このように、内と外のバランスを最適化するための存在として、キー・パーソンの役割が重要であることがこの事例からも分かります。



2-2:日本国内における内発的発展の事例

次に、日本国内の事例も紹介します。

大分県の由布院は、温泉を観光資源の中心に据え、観光業者や住民たちが主体となって内発的に発展してきた農村の一つです。この活動の中心を担ってきたのが、1971年に観光旅館の若手経営者たちで設立された「明日の由布院を考える会」でした。

明日の由布院を考える会の活動

  • 彼らは、南ドイツの温泉保養地の地域づくりに学び、自然景観と農村景観を資源として重視し、地域の農産物なども活用していった
  • また、彼らがリーダーシップをとって、さまざまな学習機会やシンポジウムなどの討論会などが実施され、多くの住民の協働によって温泉地づくりが進められていった

さらには、このような自然や住民の暮らしを守りながら地域を発展させていく取り組みが、1990年の「潤いあるまちづくり条例」の制定にもつながり、行政にも影響を与えていきました。

この条例では外部資本も地域づくりの担い手として位置づけており、内発的発展には、地域住民が開発の在り方や方向性を適切に管理することが重要であるということが分かります。

※このような新たな観光のあり方を「オルタナティブツーリズム」と呼んだりします。オルタナティブツーリズムについてはこちらの記事を参照ください。

→【オルタナティブツーリズムとは】意味や具体例をわかりやすく解説

このように、日本国内でも、特に過疎地域や農村地域を中心に、住民が主体となって村おこし運動のような形で広がってきました。

2章のまとめ
  • タンザニアの事例では、農村開発手法「SUAメソッド」が用いられた
  • 大分県の由布院では「明日の由布院を考える会」が中心となって、内発的発展がおこなわれた
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3章:内発的発展について学べるおすすめ本

内発的発展について、理解できましたか?

さらに深く知りたいという方は、以下のような本をご覧ください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 川勝平太・鶴見和子『「内発的発展」とは何か 〔新しい学問に向けて〕』(藤原書店)

内発的発展という概念について学術的に知りたい方におすすめの一冊です。日本の社会学者で内発的発展研究の第一人者である鶴見による解説です。

オススメ度★★★ 大林稔・西川潤・阪本公美子『新生アフリカの内発的発展―住民自立と支援』(昭和堂)

内発的発展の考え方に基づいてこれからのアフリカの発展を論じた一冊です。海外の事例について知りたい方におすすめです。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 内発的発展とは、住民が主体となって、その地域の自然や文化を守りつつ合理的に活用しながら取り組む、持続可能な発展のことである
  • 内発的発展の手法:当該国・地域による経済循環の確立、キー・パーソンの育成、独自文化の活用、環境と調和した発展
  • 内発的発展の意義は、地方や開発途上国の発展において中心的考え方であった外来型開発からの脱却にある

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<参考文献>

  • 松宮朝(2001)「「内発的発展」概念をめぐる諸問題-内発的発展論の展開に向けての試論」『社会福祉研究』第3巻(1)45-54頁
  • 中川秀一, 宮地忠幸, 高柳長直(2013)「日本における内発的発展論と農村分野の課題-その系譜と農村地理学分野の実証研究を踏まえて-」『農村計画学会誌』第32巻( 3 )380-383頁
  • 霜浦森平,宮崎猛(2002)「内発的発展に関する産業連関分析-京都府美山町における地域経営型都市農村交流産業を事例として-」『農林業問題研究』第38巻(1)13-24頁
  • 山本栄一(1992)「過疎地域活性化と「内発的発展論」」『経済学論究』第46(1)41-57頁
  • 西川潤(2004)「内発的発展の理論と政策 ―中国内陸部への適用を考える―」『早稲田政治経済学雑誌』第354号 36-43頁