アボリジニの文化は彼らの世界観を表すドリーミングや、「く」の字型をしたブーメランが有名です。しかし、そのような伝統文化を今日議論する際、その真正性や「誰が文化を語るのか」といった問題が指摘されています。
アボリジニの文化は非常に魅力的である一方で、その文化がどのような意味をもつかを理解するのは難しいと感じる方が多いのではないでしょうか?
そのような困難に加えて、現在、アボリジニの文化に関する議論は多くの問題をはらんでいます。それはアボリジニの生活に直結する現実的な問題です。
そこで、この記事では、
- アボリジニの文化の特徴
- アボリジニの文化の歴史
- アボリジニの文化に関する問題
をそれぞれ解説していきます。
関心のある部分から読み進めてください。
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1章:アボリジニの文化とは
まず、1章ではアボリジニ文化をその「特徴」「歴史」から概観します。アボリジニ文化に関する問題に関心のある方は、2章から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: アボリジニの文化の特徴
ここで、アボリジニの文化を「ドリーミング」「トーテム」「ブーメラン」「食文化」からみていきましょう。
その前に注意したい点は「文化」という言葉です。広く一般的に使われる言葉ですが、「文化」の意味は英語でもっとも複雑といわれています。
ですから、ここでは簡単に「人間が生み出したある特定の生活様式」と捉えて、読み進めてもらえれば幸いです。
「文化」に関するより具体的な議論に関心のある方は、以下の記事を参照ください。
「文化」の語源から意味まで知りたい方には、レイモンド・ウィリアムズの『キーワード辞典』がおすすめです。
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1-1-1: ドリーミング
まず、アボリジニの文化の本質といわれる「ドリーミング」です。
簡単にいえば、ドリーミングとは、
- アボリジニの世界観を表す概念である
- 具体的に、創世時代における先祖の精霊の行為を意味する言葉で、先祖が創造した土地と、動植物や人間のつながりが表されている
ものです。
もともとは人類学者のスペンサーとギレンが中央砂漠のアランダ社会を調査した際に、アランだ語の「アルチェレンゲ」の訳語として使用された言葉です。
この説明だけではわかりくにいので、藤川(編)の『オーストラリアの歴史』(有斐閣)で示される事例を紹介します(同書, 15頁)。
たとえば、あるアボリジニがカンガルーをドリーミングだという場合、以下の3つの意味があります。
- 神話に登場する精霊が創造した人であり動物でもあるカンガルーの精霊を意味する
- その精霊の永遠の生命と力を継承する自分自身を意味する
- 人とともに同じ土地で同じ時間を生きるカンガルーを意味する
そのため、カンガルーの絵が描かれた場合、それは先祖の土地とその力を象徴するものとして捉える必要があるのです。
このようにみると、ドリーミングが神話に基礎を置いているといっても、アボリジニの哲学や世界観を表す生きた現実そのものだということがわかるはずです。
1-1-2: トーテム
ドリーミングからアボリジニが動植物とつながりをもつことが理解できたと思いますが、特に強いつながりをもつ動植物は「トーテム」といわれます。
たとえば、青山の『アボリジニで読むオーストラリア』(明石書店)ではこんな事例が紹介されています(同書, 33頁)。
- 植物の採集にでかけた女性が岩場で休憩をしていると、女性のお腹の赤ちゃんがはじめて動いた
- すると、この赤ちゃんは岩場と特別な関係があり、守り手として考えられる
アボリジニ社会では誰もが動植物と特別な関係をもっているため、ある人のトーテムは「ヘビ」であり、ある人のトーテムは「オオトカゲ」である人もいます。
科学的な思考に慣れた私たちにとって、トーテミズムは一見不思議な慣習にみえます。しかし、人類学者のレヴィ=ストロースによってその構造が解明されています。
詳しくは以下の記事を参照ください。
1-1-3: ブーメラン
これまではアボリジニの世界観が中心でしたが、物質的な文化はどのようなものがあるのでしょうか?
もっとも有名なものの一つに、アボリジニが使用する「ブーメラン」が挙げられるでしょう。しかし、実はアボリジニのブーメランは3種類あることを知っている方は少ないかもしれません。
簡単にまとめると、アボリジニのブーメランは以下のように分類できます。
- リターン・ブーメラン…「く」の字型の狩猟用具。標的を外した場合でも、空中に円を描いて戻ってくる
- ノンリターン・ブーメラン…「7」の字型をした狩猟用具。カンガルーやブッシュ・ターキーを倒すための使用された。投げたら戻ってくることはない
- 儀礼用のブーメラン…形・大きさとも千差万別。さまざまな装飾がほどこされていることが多い(→アボリジニアートに関して詳しくはこちら)
すべてのブーメランはユーカリの木から作られたものですが、用途や投法が異なることがわかると思います。
1-1-4: 食文化
そして、アボリジニの食事ですが、アボリジニを知ってる方はカンガルーとワラビーを思い浮かべるのでないでしょうか?
しかし、中野は『アボリジニーの国』(中公新書)のなかでアボリジニの食事に関して地域差があることを指摘しています。
具体的に、ロック・ペインティングに描かれる動物から、地域によって食べられていたものがその土地その土地で異なることがわかるといいます(同書, 65頁)。
たとえば、
- 北部沿岸部…ウミガメ、エイなど
- 内陸部…ゴアナ、カンガルー、ワラビーなど
といった違いがあったそうです。
また、中野はアボリジニの食事に次のような記述を残しています2中野 1985『アボリジニーの国』(中公新書, 64頁)。
アボリジニのオバサンが、そこらにあるペパーミントの木から葉っぱをもいで牛肉にすりこんで焼いてくれたステーキは、奇妙であるがいける味だった。このへんで朝露にぬれたペパーミントの葉が歯ブラシのかわりになるし、よくもんだから顔をこすれば、機内サービスのタオルよりもさっぱりする。そしてもちろん料理にも重宝されているのである。
少しはイメージができたでしょうか?
より詳しくは、中野の『アボリジニーの国』(中公新書)をぜひ読んでみてください。
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1-2: アボリジニの文化と歴史
さて、上述してきたアボリジニの文化は、白人入植から大きな変貌を余儀なくされます。
たとえば、アボリジニに対して次のような政策がおこなわれました。
保護政策…「混血」と「純血」のアボリジニを分離して、混血のアボリジニを白人社会に吸収し、先住民を生物学的に抹消しようとする
同化政策…アボリジニの子どもを親から拉致まがいで引き離し、寄宿舎で「文明」的な教育を叩き込む
このように、アボリジニの文化を「野蛮」と位置付けて、ヨーロッパの価値観を押しつけるということが行われてきました。
アボリジニの歴史やオーストラリアの支配的な思想であった白豪主義については、以下の記事で詳しく解説しています
いったん、これまでの内容をまとめます。
- アボリジニの文化として特徴的なのは、「ドリーミング」「トーテム」「ブーメラン」「食文化」などの文化である
- オーストラリアが植民地化されて以降、さまざまな政策によってアボリジニは抑圧されてきた
2章:アボリジニの文化に関する問題
さて、これまでアボリジニ文化を概観してきましたが、実はアボリジニの文化は学問によって形成されたともいえます。
「え、アボリジニの文化はアボリジニのものでしょう?」と思うかもしれませんが、現実はそこまで短絡的ではありませんでした。
青山の『アボリジニで読むオーストラリア』(明石書店)がその点を詳しく解説していますので、それに沿ってアボリジニ文化をめぐる問題を紹介していきます。
2-1: アボリジニの文化に関する知識とパワー
先ほどアボリジニ文化は学問によって形成されると述べましたが、それは具体的に文化人類学や考古学を指します。
では一体、これらの学問がアボリジニ文化をいかにつくりだしてきたのでしょうか?それは簡潔に以下のような過程がありました。
- ヨーロッパから入植者はアボリジニという「他者」に大きな関心をもった
- そのため、アボリジニの起源や文化を学問的な理論から分析していった
- 言い換えれば、文化人類学などの学問的な知識ととおしてのみアボリジニ文化が理解されていった
- つまり、アボリジニ文化を分類・定義したのは西洋の学問であった
問題なのは、「アボリジニ文化とは何か」「アボリジニとはどんな人々か」といった知識を生産する人々は白人側であったということです。
このように生み出された言説は、政府の政策に影響を与えたり、アボリジニの存在をあり方を方向づけていったからです。
「言説」という言葉に注意してください。ここでいう「言説」とは、次のような意味をもちます。
- 特定の対象に対するある表象のあり方で、その対象に対する知識を生み出していく
- その知識はパワーと絡み合いながら、「真実」を生産してく
より詳しくはこちらの記事を参照ください。→フーコーの言説とは?」
2-2: アボリジニの文化の伝統性
上述の話は抽象的だったので、次のようなアクチュアルな状況を考えてみてください。
- 土地権を主張するために、アボリジニは「アボリジニ性(アボリジニであること)」を証明しなければならない
- 言い換えれば、伝統的な文化を継承し先祖代々の土地を所有していたことを、アボリジ二性から主張する必要がある
- しかし、その「アボリジニ性」は白人が残した学問的知識に基づいている
- つまり、アボリジニであることは白人の資料から過去を復元していく必要ある
問題なのは承認を得るために使用される資料が白人もので、アボリジニの主張よりも侵略者の白人の資料に重きがおかれることです。
加えて、白人の残した資料によって文化を復興させることは極めて本質主義的で、外部社会との接触から文化が変容することを念頭においていません。
このようにみると、アボリジニ文化を規定しているのは「白人」であってアボリジニではありません。詳細な議論は避けますが、オーストラリア社会における複雑な歴史と力関係からアボリジニ文化が構築されることが理解できたと思います。
- 「アボリジニ文化とは何か」「アボリジニとはどんな人々か」といった知識を生産する人々は白人側であった
- オーストラリア社会における複雑な歴史と力関係からアボリジニ文化が構築される
3章:アボリジニの文化を学ぶためのおすすめ本
どうでしょう?アボリジニ文化の概観をつかむことはできましたか?
最後に、参照した本を含めてアボリジニ文化を深く理解する参考書物を紹介します。
青山晴美『アボリジニで読むオーストラリア』(明石書店)
この書物では非常にわかりやすくアボリジニ文化・社会が紹介されています。「です・ます調」で解説されるため、初学者にもとても読みやすい書物です。
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中野不二男『アボリジニーの国』(中公新書)
中野は彼自身の経験を民族誌的に記述しています。アボリジニ社会における実体験がもとになっているため、とてもリアルで読み物としても面白いです。
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藤川降男(編)『オーストラリアの歴史』(有斐閣)
オーストラリア史が簡潔にまとめられた書物です。アボリジニを深く理解するには、オーストラリア史の前提知識が必要ですから、この書物から学んでみてください。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。
まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- アボリジニの文化として特徴的なのは、「ドリーミング」「トーテム」「ブーメラン」「食文化」などの文化である
- 「アボリジニ文化とは何か」「アボリジニとはどんな人々か」といった知識を生産する人々は白人側であった
- オーストラリア社会における複雑な歴史と力関係からアボリジニ文化が構築される
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