社会思想

【マキャベリズムとは】マキャベリの本当の思想をわかりやすく解説

マキャベリズムとは

マキャベリズム(Machiavellianism)とは、

人間は誰もが自己利益の追求という原理に従って行動するのであるから、君主も道徳的・倫理的にではなく合理的に行動していくべき、というマキャベリが『君主論』で説いた思想

のことです。

一般的には「目的のためには手段を選ばない思想」と思われているマキャベリズムですが、これだけの思想として片付けてしまうのはあまりにももったいないということです。

マキャベリズムには、その後の近代思想を形作った重要な考え方が含まれているため、深く知ることで現代の政治思想への影響を学んだり、自分の生き方として取り込むことも可能なのです。

特に厳しい環境で生きている方は、マキャベリズムから学べることは多いかも知れません。

そこでこの記事では、

  • マキャベリズムの意味や特徴
  • マキャベリズムが生まれた時代背景や思想の系譜
  • マキャベリズムがその後の時代に与えた影響
  • マキャベリズムについて学べる書籍

などを詳しく解説します。

知りたいところから読んで、あなたの生き方にも活かしてみてくださいね。

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1章:マキャベリズムとは

マキャベリズムは、ルネサンス期のイタリアの思想家・外交官だったニコロ・マキャベリ(Niccolò Machiavelli/1469年-1527年)が生み出した思想のことです。

マキャベリ

彼は自らの思想を『君主論』『ディスコルシ(ティトゥス・リウィウスの最初の十巻についての論考)』などの著作で広め、その後の世界に大きな影響を与えました。

1-1:マキャベリズムの意味

繰り返しになりますが、

マキャベリズムとは、人間は誰もが自己利益の追求という原理に従って行動するのであるから、君主も道徳的・倫理的にではなく、合理的に行動していくべきという思想

です。

これだけ読むと「つまり、目的のためには手段を選ばないってことでしょ?」と思われるかもしれません。

確かにそれも間違ってはいないのですが、マキャベリもっと広いことを論じています。

1-2:マキャベリズムの人間観

マキャベリは『君主論』で、民衆だけでなく、君主や官僚もみな自己利益を追求するように行動する、という人間観を明らかにしています。

愛されるより恐れられる方がはるかに安全である。そもそも人間は恩知らずで、むら気で、偽善者で、厚かましい。・・・人間は恐れている者より愛する者を容赦なく傷つけるものである。たんに恩義の絆で繋がれている愛情などは、自分の利害が絡めば、すぐにでも断ち切ってしまうからである

マキャベリ『君主論』より引用

現代人にとっては「それはそうだろう」と思うようなことかもしれませんが、当時まで君主の生き方は「人間的な欲望に流されてはならない」と道徳律から説明されることが多かったのです。

マキャベリは、自らが実際に生きた政治の世界から「実際は自己利益を追求しているじゃないか」と事実をありのまま見て、

  • 君主も名誉や権力などの自己利益のために行動する
  • 徹底的に合理的に手段を選ぶ

という生き方でなければ、権力者として生き抜いていくことはできないと考えたのです。

ここでの「自己利益の追求」というのは、純粋な経済活動におけるそれではなく、祖国の自由・独立という目的を追求するという意味での「自己利益」である点に注意が必要です。

1-3:抗争に勝つためには「法律」と「力」がいる

ただし、マキャベリは単に手段を選ばない君主であれば、政治的抗争に勝てると考えたわけでもありませんでした。

抗争に勝つためには「法律」「力」が必要だと考えたのです。

マキャベリは、

  • 法律・・・人間固有のもの
  • ・・・野獣に固有のもの

と考え、君主は人間にも野獣にもなれなければならないと考えました。

マキャベリは、国家は法によって支配されるべきものと考えたのですが、それだけでなく、抗争に勝つためには権力者の力、つまり臨機応変な対応力が必要なのだと考えたのです。

1-4:共和制こそ自由で安定した政体

マキャベリは『君主論』では権力者の人間としての生き方を説きましたが、『ディスコルシ』という著作では、国家の制度について詳しく述べました。

マキャベリは、

  • 最も繁栄するのは自由な国家
  • 自由な国家は共和制である必要がある
  • さらに君主制、貴族制、民主制の混合政体である共和制が最高

だと主張しました。

なぜ混合政体なのかと言うと、君主制は独裁制(君主が独裁的に権力を濫用する)、貴族制は寡頭制(一部の権力者が独裁的に振る舞い民衆を抑圧する)、民主制は衆愚制(政治的リーダーがいないために愚かな政策が行われる)に陥ると考えたからです。

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1-5:安定した国家には「徳」と「市民軍」が必要

そして、このような共和制の国家に必要なのは「徳」と「市民軍」だと考えました。

1-5-1:徳の必要性

徳(ヴィルトゥ)は、当時ルネサンス期の思想に多く見られるもので、マキャベリも国家のために必要だと以下のように考えたのです。

  • 君主の徳・・・法の支配を活きたものにするための判断力として必要
  • 大衆の徳・・・大衆には、法の支配に従う徳が必要

「君主は合理的に自己利益を追求して行動すべき」と主張したと言われるマキャベリが、「利」ではなく「徳」に訴えかけることを重視しているのは、意外に思われるかもしれません。

しかし、ここでの「徳」は単に倫理的なものと言うよりも、国家の統治のための一種の力としてのものだと考えてください。

1-5-2:市民軍の必要性

マキャベリは、傭兵ではなく自国の市民による軍隊(市民軍)が、共和制の国家には必要だと考えました。

なぜなら、

  • 法の支配は軍事力の裏付けがなければ無力
  • 市民が自ら自国を守る愛国心がなければ、共和制国家は揺らぐ

と考えたからです。

現代でも、日本では自衛隊の存在意義について論じられることがありますが、このマキャベリズムの思想は参考になるかもしれません。

『君主論』は現代人が読んでもさまざまな学びがある名著です。少しでも興味があるなら実際に読んでみることをおすすめします。

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ここまでをまとめます。

1章のまとめ
  • マキャベリズムとは、自己利益の追求という人間観から出た、君主も合理的に行動すべきという思想
  • マキャベリは合理性以外にも、安定した国家には「法律」や「徳」、「力」が必要だと考えた。

さて、ここまでマキャベリズムの基本的な考え方について解説しましたが、マキャベリがこのような思想を持つようになった背景には、時代背景や思想の流れがありました。

時代背景や影響を受けた思想まで知っておくと、より深くマキャベリズムが理解できると思います。

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2章:マキャベリズムが生まれた背景とその後への影響

マキャベリズムは、マキャベリの生きた時代や生き方が色濃く反映された思想です。

まずはマキャベリが生きた時代から簡単に解説していきます。

2-1:マキャベリが生きた時代

マキャベリが生きた時代は、

  • 市場経済の登場
  • 都市国家の登場

という意味で時代の転換点でした。

簡単に言えば、

市場経済の拡大→都市国家や絶対王政の登場による中世社会の崩壊→イタリアが厳しい権力政治の舞台になる

という時代を生き抜いたからこそ、現実主義的なマキャベリズムが生まれたのです。

2-1-1:市場経済の登場

ヨーロッパでは、もともと封建制、つまり土地が領主によって所有され、農民は領主から土地を借りて農作物を作り、その多くを領主に納め、残りを食べて生きていくという自給自足的な生き方をしていました。

しかし、この時期市場経済化が進み、農民は領主に農産物ではなくお金で税金を納めるようになり、農民は領主から独立したり、市民になったりしていきます。

2-1-2:都市国家の登場

市場経済の発展によって、ヨーロッパの権力構造が崩れたのもこの時代の特徴です。

ヨーロッパでは領主による支配、国王や皇帝による支配、さらに国家を超えたローマ教会による宗教的・世俗的支配という重層的な支配が行われていましたが、市場経済の発展でこの支配体制が崩れ、

  • イタリアでの都市国家の設立
  • フランス、スペインなどでの絶対王政の成立

といった出来事が起こりました。

こうした、中世的な社会が崩れ、徐々に近代化に向かいつつあった時代にマキャベリは生きたのです。

2-1-3:マキャベリの課題はイタリアの安定

マキャベリは、イタリア・フィレンツェという都市共和国で、外交・軍事担当の書記として実際の政治に深く関わった人物です。

当時のイタリアは、激しい権力政治の舞台となっていて、マキャベリも生涯で、

メディチ家による支配→没落→共和制の再建→メディチ家復権

という波瀾万丈な経験をしました。

このような時代に、外交・軍事に関わる立場にあったため、マキャベリはイタリアを安定させていくことを課題として持っていました。

こうした厳しい現実を生きていたからこそ、それまでの政治思想とは異なる現実主義(リアリズム)的なマキャベリズムが生まれたのです。

2-2:思想の流れ

さらに、マキャベリの思想には、ルネサンス期の思想の影響が現れています。

ルネサンスの学問を一言でいうと「神学からリベラルアーツ(教養)へ」です。

中世の学問は、

  • 『聖書』の解読や解釈
  • 『聖書』の筆者、注解

などのキリスト教の信仰と表裏一体のものでした。

これに対し、12世紀ごろから徐々に司教の学校として設立された学校が自治を主張し「大学」となり、教会から独立した教育機関になっていきます。

さらに市場経済の発展と共に、専門職の養成機関となり、基礎科目のためにリベラルアーツ(教養)が教えられるようになりました。

こうしてできた大学では、政治思想(とは言え当時はまだキリスト教と不可分の政治思想でしたが)が発展し、また、その大学に学んだ政治家、官僚、外交官、思想家などが、実際の政治を執り行うようになったのです。

マキャベリは大学で学んだわけではありませんが、法律家の父から当時の政治思想の影響を受けたと言われています。

※ルネサンス期の思想は宗教改革と強く結びついています。宗教改革について詳しくは以下の記事で解説しています。

宗教改革とは?意味・思想・その後の時代への影響をわかりやすく解説

2-3:マキャベリズムがその後の時代に与えた影響

マキャベリズムが生まれた時代背景や思想について理解できましたか?

繰り返しになりますが、激動の時代で権力政治のまっただ中にいたからこそ、

  • 『君主論』的な、道徳律から解放された合理的な君主の思想
  • 法の支配を前提としつつ力としての「徳」や裏付ける「市民軍」が必要であるとする思想

であるマキャベリズムが生まれたのだ、ということが何となく分かって頂ければと思います。

こうして生まれたマキャベリズムは、

といった影響をその後の時代に残しました。

また、単に「目的のために手段を選ばない」という思想としてのマキャベリズムは、ビジネスマンや政治家にも信奉者が多いようです。

さて、ここで紹介したのは、実はマキャベリズムの基本的な面に過ぎません。

あなたも自分の生き方に活かしていきたいなら、これから紹介する書籍からより深く学ぶことを強くおすすめします。

2章のまとめ
  • マキャベリが生きた時代は、市場経済化、都市国家の成立などが起こり、中世社会が崩壊し近代化に進んだ時代だった
  • ルネサンス期には、学問はキリスト教の信仰そのものだったものから、キリスト教から独立した政治思想へと移り変わりつつあった

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3章:マキャベリズムについて学べる書籍リスト

マキャベリズムについて学ぶことは、政治学や社会思想を学ぶ方にはとても大事なことです。

また、彼の強い言葉は、政治や思想に興味がない社会人の方にも刺激になるはずです。

ぜひ、これから紹介する本を読んでマキャベリの思想に触れてみてください。

オススメ度★★★マキャベリ『君主論-新版』(中央公論新社)

やはりマキャベリズムを学ぶためには『君主論』は外せません。特にリーダー、管理職など人の上に立つ人はぜひ読んでみて欲しいです。

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オススメ度★★塩野七生『マキアヴェッリ語録』 (新潮文庫)

歴史小説家として有名な著者による、マキャベリの語録です。小難しいことは抜きにして彼の名言に触れたいという方は、この本が一番おすすめです。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 君主であっても自己利益を追求して行動するのであり、それを前提に合理的に行動しなければ、政治抗争の中で生き抜けない
  • 安定した国家は混合政体の共和制だが、そこには「徳」や「力」が必要
  • 君主は人間にも野獣にもなれなければならない
  • マキャベリズムは、マキャベリが生きた時代や生き方に強く影響された現実主義(リアリズム)的な思想

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