政治思想・政治哲学

【共和主義とは】古代・ルネサンス期・アメリカの伝統をわかりやすく解説

共和主義とは

共和主義(Republicanism)とは、

国民による公民的道徳に基づいた自己統治を目指す思想のことで、「共和政」という政体を構成する思想のことです。

自由主義的思想が当たり前になった私たちにとっては、身近な思想ではありませんが、今でもその重要性が指摘されることがあります。

特に、共和主義支持者による、国民の道徳心の啓蒙や政府による人格形成の重要性は、現代の社会に欠けたものを考えるきっかけになります。

そこでこの記事では、

  • 共和主義の意味、特徴
  • 共和主義のイギリス近代化~現代までの思想の変遷
  • 共和主義者であるマイケル・サンデルの共和主義の主張

などについて説明します。

共和主義について知ることは、より良い政治、より良い社会を考える上で新しい考え方を得ることになります。

知りたいところから読んでみてください。

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1章:共和主義とは

共和主義(Republicanism)とは、

国民による公民的道徳に基づいた自己統治を目指す思想のことで、「共和政」という政体を構成する思想のことです。

共和主義について理解するためには、共和主義を構成するいくつかの言葉の意味から理解することが大事です。

1-1:共和主義の意味

共和主義の意味は、その特徴である「公民的道徳」「自己統治」「市民としての人格形成」という言葉を理解すれば分かります。

  • 公民的道徳…個人が「公」つまり自分たちの社会の運営を行う上で持つべき、道徳心や倫理観
  • 自己統治…個人が国家の運営を人任せ、政府任せにするのではなく、「より善い政治」を自分たちで考え、実践していく姿勢
  • 市民としての人格形成…公民的道徳を持って自ら政治に積極参加するために、市民としての人格形成ができる政治を行うこと

この言葉の意味を考えると、現代人である私たちの政治に対する姿勢とは違うものだと分かると思います。

ほとんどの現代日本人にとって、政治について実践することと言えば、「選挙で議員を選び、議員の行動や結果に対して意見を言うこと」くらいかもしれません。

これは共和主義の思想から考えると、人任せで消極的な姿勢ですよね。

後に解説するように、これはリベラリズム的な思想が支配的になったが故に持ってしまう発想です。

それに対して共和主義は、もっと積極的に「公」つまり政治の実践に個人が関わることを主張します。

「公」に積極的に関わるということは、共和主義がラテン語の「Res Publica=公共のこと」という意味から来ていることからも分かります。

したがって、国家が個人の行動に介入しない自由主義的な思想と異なり、国家が個人の徳の育成や人格形成の機会の提供など、部分的な介入を行うという特徴もあります。

こうした共和主義の思想は、「共和政」という政体を実現する思想として生まれました。

1-2:共和政とは

共和主義は、もともと「共和政(republic)」という政体を支える思想として生まれたものです。

共和政とは、端的に言えば君主政(国王が政治を運営する体制)ではない体制のことです。

そのため、君主ではなく国民が権力を持ち、自分たちで政治を運営します。それゆえに、公民的道徳や自己統治といった思想が必要になるわけです。

共和政の国家のことを、共和国と言います。

「共和政と民主政は同じものでは?」

と思われるかもしれませんが、これは区別しておく必要があります。

1-3:共和主義と民主主義の違い

もともと、近代以前には世界のほとんどの国家は国王によって支配されていました。これが君主政です。

その国王支配(君主政)に対して、国民が自分たちによる国家の運営(自己統治)を求めて生み出した思想が共和主義であり、理想とされた体制が共和政なのです。

しかし、君主政から、すべての国民が平等な民主主義にいきなり移行することはありません。

そのため、共和主義は国民による国家運営(自己統治)を理想とするとは言え、もともとは貴族が中心に支配する思想・体制でした。

そのため、当初は民主主義(国民による支配)と共和主義(貴族による支配)は対抗する思想でした。

それに対して、近代以降は民主主義が生まれ、平等に扱われる人間の範囲が広がっていき、それが当たり前の体制になっていきます。

その結果、共和政・共和主義は民主政・民主主義と合体していきました。

そして現代では、民主主義の体制の中で、市民の公民的道徳や自己統治を目指す思想として考えられるようになっているのです。

民主主義という政治体制については、次の記事でわかりやすく解説しています。

【民主主義とは】基礎知識・歴史・重要用語をわかりやすく解説

共和主義の意味は分かりましたか?2章では、共和主義が歴史の中での発展や現代の政治哲学における考えられ方を説明します。

ここまでをいったんまとめます。

1章のまとめ
  • 共和主義とは、市民の公民的道徳や自己統治を重要視する政治思想
  • 共和主義・共和政は、君主政に対抗する思想として生まれた
  • 共和主義は、もともとは民主主義と対立する概念だったが、近代化以降は民主主義と合体していった
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2章:共和主義の歴史

共和主義的な思想は、古代に特有のもので単なる歴史の一部に過ぎない、と思われるかもしれません。

しかし、実はそうではなく共和主義は現代まで大きな影響を生んでいるのだと主張した政治思想家がいます。

それがケンブリッジ学派のJ・G・A・ポーコック(John Greville Agard Pocock)です。

ポーコックは『マキャヴェリアン・モーメント―フィレンツェの政治思想と大西洋圏の共和主義の伝統』という著作で、市民的人文主義(civic humanism)という政治思想を発掘しました。

一般的に、政治思想は自由主義や民主主義の歴史として説かれるのが王道ですが、そこに共和主義の伝統も見出したのです。

そこで、ポーコックによって見いだされ、明らかになった系譜をもとに共和主義の歴史を説明します。

2-1:ルネサンス期イタリアの共和主義

ポーコックは、その後の時代に影響を与えた市民的人文主義は、ルネサンス期イタリアで生まれたと論じました。

市民的人文主義とは、当時のイタリアで論じられた一種の共和主義思想です。

当時理想とされた共和政とは、

  • 紀元前6世紀ごろから500年近くに渡って維持された古代ローマの共和政
  • 貴族政、民主政、君主政の混合政体(=共和政)が最善の政体である

と考えられたものです。

つまり、古代ローマの共和政をモデルとした政治思想(共和主義)が、この時代に再び影響力を持ったのです。

■マキャヴェリによる共和主義の継承

ポーコックが注目したのは、古代ローマの共和主義のマキャヴェリによる継承です。

マキャヴェリの著作で最も有名なものは、君主の現実主義的な在り方を主張した『君主論』ですが、具体的な政治思想については『ディスコルシ』で語っています。

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『ディスコルシ』では、他の政体に対する共和政の優れている点や、

  • 共和政は、高度な市民の徳(civic virtue)がある場合のみ維持できる政体
  • また、市民が高度な徳を持つために、政治に関わる市民はみんな生活基盤を持ち、自分の利益追求に走らない状況である必要がある

などの主張をしました。

つまり、経済的に安定した生活があること、その上に市民の徳を持っていることが共和政には必要だということです。

この共和主義の思想は、ピューリタン革命、フランス革命、アメリカ革命に影響を及ぼしたとポーコックは主張します。

2-2:アメリカのリベラリズム的社会への移行

共和主義が最も明確な形で影響を及ぼしたのは、アメリカ革命です。

今では自由主義の国と言われるアメリカですが、建国から第二次世界大戦ごろまでは、共和主義の伝統を色濃く継承した国家だったのです。

ところで、あなたはアメリカについてどのようなイメージを持っていますか?

イメージの一つに「訴訟大国」というものもあるのではないでしょうか。

実は、アメリカが「訴訟大国」になってしまったのは、共和主義の伝統が失われリベラリズムの思想が支配的になったからだとも言えます。

つまり、アメリカの共和主義の伝統は、共和主義からリベラリズムへという流れから捉えると分かりやすいです。

2-2-1:共和主義とリベラリズムの違い

最初に共和主義とリベラリズムの違いを確認しておきましょう。

これは政治哲学者マイケル・サンデルの議論ですが、共和主義とリベラリズムには、

  • リベラリズム…個人のより善い人生を生きようとする価値観(善)と正義(権利)を切り離し、権利の保護のみを法・ルールにしようとする思想
  • 共和主義…個人の「善」の形成や「人格形成」に介入する思想

という違いがあります。

つまりは、国家が共和主義的思想を持って個人の自己統治や人格形成に訴えかける政治(共和主義)と、個人の価値観の形成などには触れず、個人が自由に考え行動する権利のみを保護する(リベラリズム)という違いがあるのです。

これを前提において上で、アメリカの歴史を捉えてみてください。

2-2-2:共和主義的伝統からリベラリズム化

もともとアメリカの合衆国憲法では、個人の権利について明確に規定していませんでした。つまり、法律で個人の権利を保護していなかったのです。

訴訟大国と言われる現在のアメリカの姿を考えると、権利についての保護がなかったというのは意外ですよね。

しかしその後、第14条修正(1867年)で個人の権利の保護について明確に憲法に規定したのを皮切りに、裁判でも州の法律に対して、個人の権利を侵害するような内容のものは「違憲」とする判例が増え、リベラリズム的(権利保護的)な流れが生まれました。

こうして、1940年代ごろまでには、個人の思想や行動の自由を国家は奪わない、そのためのルールを作っていくという権利の保護(リベラリズム)が支配的な思想になったのです。

2-2-3:政府の個人の価値観に対する中立的な姿勢の形成

また、リベラリズムの思想の特徴として、個人の価値観(善)に対して中立的であろうとする姿勢があります。

つまり、個人がどのような価値観を持っていても、政府はそれに関与しないよ(否定も肯定もしないよ)ということです。

これは、宗教に対する姿勢を見ると明らかです。

トーマス・ジェファーソンは、政府は宗教に対して中立的であるべきと主張しました。つまり、特定の宗教を優遇したりするなということです。

これは、アメリカがイギリス国教会に反発し、宗教の自由を求めて移住した人々によって建国されたことを考えると、ある意味当然の主張かもしれません。

実際に、国家の宗教に対する中立性が明確に成立したのは、1947年の最高裁の判決でした。

時間はかかってしまいましたが、これをきっかけに、戦後のアメリカでは個人の思想や信仰、行動などは自由であるべきで、その権利を政府は保護しなければならない、という思想が浸透していきました。

こうして、アメリカ社会は、個人は特定の価値観に左右されず、自由に自らの価値観(善)を形成し、自由に考え行動していくことができるというリベラリズムの社会になっていったのです。

2-3:アメリカ産業界における共和主義の伝統の変遷

現代ではどこの国家でも、経済政策のテーマは経済成長と富の再分配(格差是正)の両立です。

しかし、今では資本主義の最先端とイメージされるアメリカは、建国当時の経済のテーマは共和主義的政策でした。

つまり、いかなる経済政策なら市民的な徳の育成や人格形成、自己統治に繋がるか?ということが議論されたのです。

2-3-1:工業化に関する議論

具体的には、建国の父と言われる人物たちも以下のように考えていました。

  • トーマス・ジェファーソン…農民的な生活が自己統治や公民的道徳を形成するため、農業を重視。産業化は公民的道徳を形成できなくなる。
  • ジェームズ・マディソン…利害が相互に抑制しあう権力分立的な機構が自由をもたらす。ただし、自己統治、人格形成に繋がる政治は必要。
  • アレクサンダー・ハミルトン…工業化は必要だが、共和主義的思想は必要。

このように、共和主義の必要性は当時共有されていたのです。

とはいえ具体的な経済政策については意見が分かれ、ジェファーソンやマディソンは農民的な生活を維持することを主張し「民主共和党」を結成したのに対し、ハミルトンは工業化の推進を主張する連邦党(フェデラリスト)で対立しました。

ジェファーソンら民主共和党の主張は、工業化を進め工業労働を生活の糧にする労働者(無産階級)が増えると、独立した判断ができない、つまり公民的道徳を持たない市民が増えるというものです。

工業化が進めば、市民がそれぞれ自己利益の追求に走り、公民的な道徳を放棄し、国家の自己統治を目指さなくなるという考えられました。

その後、時代の流れには逆らえず工業化は進められることにはなりましたが、それでも共和主義的な思想を実現できる社会を作ることが、経済政策として議論されていたのです。

2-3-2:労働に関する議論

さらにその後、「共和主義的社会の実現のために賃労働がふさわしいかどうか」という議論もなされました。

現代人にとって会社から賃金をもらって働くことは当たり前のことですが、工業化が進む途上にあった当時のアメリカでは、賃労働そのものが共和主義的観点から議論されたのです。

マキャヴェリの『ディスコルシ』でも書かれていたように、共和主義的な実践ができる市民は、自己利益の追求に走らない生活基盤と共和主義的人格が必要とされます。

しかし、賃労働は資本家に依存する生活であり、経済的にも道徳的にも自立性に欠け、人格形成をすることも難しいです。

当時の共和主義者たちは、

  • 独立して生活している自由農民や同じく独立して働く職人や、その見習いの労働者は共和主義的市民
  • そのため、自由農民や独立して生計を立てられる職人の形態を維持していくべき

と主張しました。

ところが、その後産業資本主義社会の到来によって共和主義の伝統は崩れてしまいます。

労働者側も、共和主義的な理念を捨てて、資本主義・リベラリズムの思想を前提に、労働条件の改善や賃金アップを主張するようになりました。

このように憲法や法律面からも、経済政策の面からも、建国時にあった共和主義的伝統は徐々に失われていき、リベラリズム(=個人の価値観に中立的で、権利の保護を重視する思想)が支配的になったのです。

2-4:マイケル・サンデルの共和主義論

こうした共和主義の伝統をもう一度復活させるべき、と主張するのが政治哲学者のマイケル・サンデルです。

サンデルは、

  • アメリカはリベラリズムの国家になった結果、市民が公民的道徳心を失い自己統治を目指さなくなった
  • しかし国民の中には道徳心を求める精神もあるため、ロナルド・レーガンのような見せかけ上の共和主義的主張が支持された
  • また、国家が個人の価値観に介入しないことから、倫理的テーマ(妊娠中絶合法化や安楽死など)に明確な答えを示せないか、中立的になった結果特定の価値観を支持してしまっている
  • さらに、国家が価値観(共通善)を示せないことから、格差が広がり新たな社会問題を生んでいる

などと主張しています。

マイケル・サンデルの議論について、詳しくは以下の記事で解説しています。

マイケル・サンデルの政治哲学
【サンデルの政治哲学とは】正義の議論から共和主義までわかりやすく解説マイケル・サンデル(Michael Sandel)とは、 ロールズの『正義論』を中心としたリベラリズムを批判し、コミュニタリア...

また、サンデルの思想についての入門書として以下の書籍がとても分かりやすいです。

2章の内容をまとめます。

2章のまとめ
  • 共和主義の伝統は古代ギリシャ・ローマ世界に起源があり、その後ルネサンス期のイタリアで盛り上がり、海を渡ってアメリカに継承された
  • 建国時のアメリカでは共和主義的伝統に基づいた憲法、法律の制定、経済政策の実践などがなされた
  • 特に1940年代以降のアメリカでは、共和主義の伝統が失われリベラリズム(=個人の価値観に中立的で権利を中心にルールを作る思想)が支配的になった
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3章:共和主義の学び方

共和主義について理解を深められましたか?

共和主義はただの古臭い考えではないことが伝わったでしょうか。

共和主義の伝統についてアメリカを中心に説明しましたが、共和主義的思想は、アメリカと同じくリベラリズムが支配的な日本社会にも必要なものです。

共和主義について学ぶことは、これからの日本や自分の人生のビジョンを考える上でも、とても有効なものなのです。

共和主義についてもっと深く学びたい方には、以下の書籍をおすすめします。

おすすめ書籍

おすすめ度★★★マイケル・サンデル『民主政の不満―公共哲学を求めるアメリカ〈上〉手続き的共和国の憲法』(勁草書房)

サンデルが共和主義の伝統とその復興を論じたのは、『民主政の不満』です。共和主義の伝統やリベラリズムの問題点について詳しく論じられていますので、ぜひ読んでみてください。

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 共和主義とは、市民の「公民的道徳」を形成し、市民による「自己統治」を目指す政治思想
  • 共和主義は、古代ギリシャ・ローマに起源があり、ルネサンス期のイタリアで発展し、その後のさまざまな市民革命に影響を与えた
  • アメリカは伝統的に共和主義の国家で、国民の公民的道徳や人格形成、自己統治のための政策が検討されていた
  • アメリカでは徐々に共和主義の伝統が崩れ、国家は個人の善(価値観)に中立的で、「権利」の保護のみを政策とするリベラリズムが支配的になった

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