政治思想・政治哲学

【ホッブスの『リヴァイアサン』とは】内容・議論をわかりやすく解説

ホッブスのリヴァイアサンとは
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ホッブスの『リヴァイアサン』(Leviathan)とは、自然状態において個人は「自然権(自己保存権)」を持っているが、そのままでは人々は「万人の万人に対する戦争」という殺し合いにいたるため、互いの権利の保障のために国家権力を作ったのだと主張した政治思想の古典です。

政治思想・政治哲学における自由主義(リベラリズム)は、『リヴァイアサン』から始まったと言っても過言ではありません。

この記事では、

  • 『リヴァイアサン』の要点や書かれた背景
  • 自然状態、2つの自然権、政治権力のありかたなど『リヴァイアサン』の内容について

を詳しく解説します。

関心のあるところから読んでみてください。

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1章:ホッブスの『リヴァイアサン』とは

ホッブスの『リヴァイアサン』は、個々人の自然権を保護するために、社会契約によって国家権力を打ち立てることを合意したのだ、と考えた政治思想の古典です。

より深く理解するために、1章ではホッブスの思想の特徴や『リヴァイアサン』が書かれた時代背景などについて説明します。すぐに『リヴァイアサン』の詳しい内容が知りたい場合は2章からお読みください。

1-1:ホッブスについて

トマス・ホッブス(Thomas Hobbes/1588年―1679年)は、イギリス(イングランド)の哲学者で、チャールズ2世太子の家庭教師も務めた、17世紀のイギリスを代表する哲学者です。

社会契約説とホッブストマス・ホッブス

哲学における唯物論(世界は観念ではなく物質から成り立っていると考える立場)の先駆的な議論を行ったことでも有名です。人間は「運動する機械」であるという人間観を持っていました。

ホッブスをここまで有名にしたのは、『リヴァイアサン』における個人の自由と国家の関係に関する主張です。ホッブスをはじめ、このころに議論された社会契約思想は、「自然権」を定義し国家が個人の自然権を侵害しないことを主張し、その後の市民革命の理論的基盤となったのです(※)。

詳しくは2章で説明します。

※とはいえ、ホッブスの思想は逆に絶対主義(王権による支配)の理論的基盤になったとも言われます。

1-2:『リヴァイアサン』の意味と書かれた背景

結論を先取りしますが、『リヴァイアサン』というタイトルのもともとの意味は、旧約聖書に登場する海の怪物「レヴィアタン」にあります。リヴァイアサンという怪物の名前として日本でも知られています。

ホッブスが「リヴァイアサン」と表現したのは、「国家」のことです。後に詳しく説明するように、ホッブスは社会契約、つまり社会の成員(メンバー)による合意によって国家が成立させられたと考え、その社会契約によって生まれた国家を「リヴァイアサン」と表現したのです。

ホッブスによると、

  • 国家は社会の成員の自然権を保護するために設立されたもの
  • その社会の成員のみんなが合意する目的(コモンウェルス/共通善)を実現するのが国家
  • コモンウェルスを実現する国家=リヴァイアサン

ということになります。



1-3:『リヴァイアサン』の要約と意義

2章で詳しく説明しますが、先にここで『リヴァイアサン』の要点をまとめます。

『リヴァイアサン』の要約
  • 人々は国家権力のように人々の行動を制限する機構が存在しない状態(自然状態)においても、自分の生命を守り、自由に行動する権利を持っている(自然権)
  • しかし、自然状態における人間は人間本性丸出しであり、しばしば他人の自然権を侵害してしまう(万人の万人における闘争=戦争状態)
  • 戦争状態では、人々は安心して暮らすことができないため、相互に自然権を保証するために、権利の保護と社会の管理を行うことを、第三者としての「国家権力」に譲渡する
  • この譲渡と国家権力の設立に関する契約が「社会契約」であり、社会契約が行われたために、国家権力は正当性を持つ

このように、ホッブスは「社会契約」という推論から、政治権力(国家)の正当性について主張しました。

当時の政治権力は、現代社会のような民主主義的政府ではなく、絶対王政です。つまり、絶対的な権力を持つ国王によって国家が統治されていました。

そのため、ホッブスの「私たちは社会契約という正当な手続きによって、権利の保護を国家にお願いしたのだ。だから国家が権力を持つことが正しいのだ。」という主張は、結果的に絶対王政を支持する理由になってしまいました。

この点でホッブスの社会契約説は批判されます。

一方で、ホッブスははじめて人々が守られるべき「自然権」について定義し、その保護が国家の役割であるとも主張しています。

そのため、「国家は絶対的な権力を持ちつつも、個々人の「自然権」を侵害してはならない」という意味で、自由主義(リベラリズム)の思想の基盤を作ったと言えます。この点に、ホッブスの社会契約説の意義があるのです。

それではこれから、『リヴァイアサン』の内容を詳しく解説していきますので、まずは1章の内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 『リヴァイアサン』とは、哲学者のホッブスの著作で、国家権力は人々の自然権を保護するために同意によって設立されたと主張したもの
  • 「リヴァイアサン」とは旧約聖書の怪物のことだが、ホッブスは社会契約によって設立された国家のことを「リヴァイアサン」と呼んだ
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2章:『リヴァイアサン』の解説

『リヴァイアサン』で重要なポイントは、「自然状態」「自然法」「ホッブスが理想とした社会、国家」について理解することです。これから詳しく説明します。

2-1:自然状態における社会契約

ホッブスは、国家権力の正当性を論じるために、まず権力が一切存在しなかった「自然状態」を想定し、その状態では人間はどうふるまうのか?ということから推論していきました。

2-1-1:自然状態とは

自然状態とは、一切の権力が存在せず個々人が何にもとらわれず、自由に行動できる状態のことです。これは、実際に過去の原始社会でそのような状態があったということではなく、あくまで仮想的に考えられた想定です。

「もし、一切の権力が存在しなければ人々はどうふるまうのか?」「一切の権力がない状態から、何をきっかけに国家権力が成立させられたのか」ということを論じることで、国家権力の正当性や存在意義が定義できると考えたわけです。

2-1-2:自然状態における自然権

そして、自然状態における自然権について以下のように論じました。

  • 国家権力が存在しない自然状態においても、生命や身体の安全や自分の意志で自由に行動できる自由を個々人が持っている(自然権)
  • しかし、人間の本質は「自己保存」、つまり自分が生き抜くことにあるため、その目的のために他者の自然権を侵害する状態になる(戦争状態)
  • 戦争状態においては、自然権は危険にさらされる

つまり、人間は生まれながら守られるべき自然権を持っているが、「戦争状態」になると自然権は侵害されてしまうのだということです。

ホッブスは、自然状態において人間が人間本性をむき出しにして、自己保存のために他人の自然権を侵害する状態になることを「万人の万人に対する戦争=戦争状態」と言いました。

ホッブスが生きた時代、人々の自由は権力によって制限されていました。そのため、人々の生まれ持っているはずの「自然権」の保護も不安定であり、そうした時代背景から「戦争状態」のような不安定な状態から仮定したのだと思われます。



2-1-3:自然状態のイメージ

自然状態や戦争状態について、まだイメージがつかめないかもしれません。具体的にイメージできるように説明します(イメージできる方は2-2に進んで問題ありません)。

たとえば、政府の存在しない農村の共同体(小さな村)を考えてみましょう。ここには平等な立場の農民しかおらず、村長のような権力者もいません。

この村では、みなが農作物を作って自給自足しています。しかし、ある時天災によって不作になり、生活していく上での農作物が足りなくなってしまいました。

このような状態では、ホッブスの考えでは、人々は協力して農作物を保存しようとしたりはせず、互いに自分が生き延びる(自己保存)ために奪い合うということになります。

なぜ自然状態では、人々が協調せずに「戦争状態」になってしまうのかと言うと、

  • 人間の本性は自己保存にあり、自己保存のためには他人の自然権も侵害するのが人間である(とホッブスは考えた)
  • 自然状態では、人々の行動を制限する権力やルールが存在せず、人々が野放しになってしまう
  • 自然状態では、互いに「自分の権利が奪われるかも」と考えて相互不信が広がり、結果的に戦争状態が生じる

という理由があります。

2-2:2つの自然法と社会契約

繰り返しになりますが、人間は自然状態では殺し合いまでも発展してしまいます。これは、人間の行動が「第一の自然法」に従っているからです。

2-2-1:第一の自然法

第一の自然法とは、究極的には他人を殺してでも自分の命を守る(自己保存する)ことを認めるという法です。

しかし、このような「戦争状態」が続く限り、いつになっても人間は自分の権利が侵害される危険性におびえ、安心して生活することができません。

そこで、理性的な人間なら「自分の権利を守るためには平和を得る必要がある。そのためには、どんな手段が最適だろうか?」と考えるはずです。



2-2-2:第二の自然法

そこで、理性的な人々は勝者も敗者も生まれないような取り決めを作り、相互に自己保存権を放棄しあうことを考えるだろう、というのがホッブスの主張です。

このように、自然権=自己保存権を相互に放棄しあうことを、ホッブスは第二の自然法と言っています。

しかし、これでもまだ不十分です。なぜなら、相互に自己保存権を放棄しあうとしても、人間は「自分だけ放棄させられて支配されるのでは?」と疑心暗鬼になり、結局自然権を放棄することができないからです。

2-2-3:第三の自然法

そこで、「結ばれた契約は履行すること」という第三の自然法が登場します。

そして、第三の自然法を実行するためには、人々の間で必ず契約が履行されるように強制し、契約に違反した人には処罰を与えることができる権力が必要とされます。

こうして、第三の自然法を理解した理性的な人々によって、国家権力が作られることに同意(社会契約)され、その結果として国家権力が成立したのだ、というのがホッブスの社会契約説です。

自然法について、詳しくは以下の記事でも解説していますのでぜひご覧ください。

【自然法とは】定義と古代ローマ~イギリスまでの歴史をわかりやすく解説

自然状態において、他人の行動を管理するような権力が存在することは、自然権を侵害することになるため認められません。しかし、このようなプロセスで同意(社会契約)がなされることで、国家権力の存在が正当化されるのです。

こうして生まれた国家は、理性的な人々の人格が統合された「コモンウェルス(commonwealth)」であり、それをホッブスはリヴァイアサンという怪物に例えました。

こうして正当性を持った国家権力は、人々の理性によって正当性を得たものですので、絶対的な権力を持つことになります。しかも、ホッブスの社会契約は現状の国家権力である絶対王政を正当化する根拠にもなりえるものです。

そのため、ホッブスは絶対王政の権力に正当化の理由を与えたと批判されることになったのです。

したがって、ホッブスよりも後の時代に活躍した、社会契約思想の哲学者であるジョン・ロック(John Locke/1632年~1704年)はホッブスの主張を批判し、さらに発展した議論をしています。

ロックの主張について詳しくは以下の記事をご覧ください。

【ジョンロックの思想とは】『統治二論』からわかりやすく解説

また、グロティウスやルソーも含めた社会契約思想について、以下の記事でまとめて説明しています。

【社会契約説とは】ホッブス・ロック・ルソーの違いからわかりやすく解説

2章のまとめ
  • ホッブスは、権力が存在しない自然状態でも、人間には自己保存の権利があると考えた(第一の自然法)
  • 自己保存のために、人々は他者を殺すこともいとわないため、そこで自己保存権を相互に放棄して強調することを考える(第二の自然法)
  • その相互放棄を実現するため、契約の履行を行う(第三の自然法)必要があり、そのために国家権力の存在が認められた(社会契約)
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3章:『リヴァイアサン』に関連する政治思想のオススメ本

『リヴァイアサン』の内容について理解できましたか?

『リヴァイアサン』は政治思想、政治哲学上の古典ですので、ぜひ原著を読んでみることをオススメします。しかし、より大事なのは政治思想、政治哲学の大きな流れの中でホッブスの思想を位置づけることです。

そのために、思想史を一気通貫したものとして学べる以下の本を読むことが、とてもいい勉強になるはずです。

オススメ書籍

オススメ度★★★坂本達哉『社会思想の歴史―マキアヴェリからロールズまで』(名古屋大学出版会)

この本は、社会思想という切り口で政治学や経済学など社会科学のベースとなった思想について、一貫した流れから説かれています。社会契約思想や自然法、自然権を含めた重要な政治思想の歴史も、大きな流れの中で理解できます。

オススメ度★★★中村隆文『リベラリズムの系譜学―法の支配と民主主義は「自由」に何をもたらすか―』(みすず書房)

この本は、「自由主義」と「民主主義」について、政治思想の系譜として詳しく論じられた本です。ホッブスの思想もリベラリズムの起点の一つですので、この本からその後の流れも確認すると良い勉強になるはずです。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 『リヴァイアサン』は、ホッブスが国家権力の正当性や個人と国家の関係について論じた古典
  • 人間は自然状態では他社の自然権を侵害するため、相互に自然権を放棄し、その契約を強制し処罰する機関として国家権力の設立が同意された
  • ホッブスの議論は、絶対主義を支持する思想にもなった

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