社会思想

【古典的自由主義とは】2つの意味と変遷をわかりやすく解説

古典的自由主義の意味や歴史を解説
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あなたは、古典的自由主義(Classical liberalism)がどのような思想か正確に答えられますか?

古典的自由主義とは、個人の自由を重視し「小さな政府」を志向し、国家の役割よりも市場の役割を重視する政治思想・経済思想のことです。

中心となるのは個人の所有権の重視であり、そのからさまざまな権利について、国家・権力による抑圧からの解放を目指す思想です。

現代では「自由放任(レッセ・フェール)」「市場主義」「新自由主義」「リバタリアニズム」などの概念と混同されることも多いです。

注意して頂きたいのが、上記の「市場主義」「リバタリアニズム」などとは、完全にイコールの概念ではないということです。

それぞれ微妙に示す所が異なるため、混同すると大きな間違いを犯すことにもなりかねません。

そこでこの記事では、

  • 古典的自由主義やその特徴とは?
  • 古典的自由主義の歴史は?
  • 古典的自由主義は、現代ではどのような思想に枝分かれしているのか?

などについて詳しく解説します。

古典的自由主義やそこから派生する「自由主義」的思想は、現代人の心に意識的にも、無意識的にも大きな影響を与えています。

古典的自由主義について理解することは、私たちが暗黙のうちに前提としている思想を浮き彫りにすることにもなります。学生はもちろん、政治や経済の思想的面について好奇心がある社会人の方にも知っていただきたい内容です。

ぜひ気になるところから読んでみてください。

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1章:古典的自由主義とは

もう一度確認しましょう。

古典的自由主義とは、個人の自由を重視し「小さな政府」を志向し、国家の役割よりも市場の役割を重視する政治思想・経済思想のことです。

これだけでは抽象的ですので、詳しく説明します。

1-1:古典的自由主義の立ち位置

そもそも、古典的自由主義は大きく二つの意味で使われることが多いです。

  • 経済的な意味での古典的自由主義・・・国家が市場にできるだけ介入しない、小さな政府的な自由主義。経済学やジャーナリズムにおいてはこちらの意味で使われることが多い。
    →新自由主義(ネオリベラリズム)や市場主義に近い
  • 政治的な意味も含んだ古典的自由主義・・・個人の所有権を中心とした、個人的自由への国家の介入を最小限にするべきと考える自由主義・政治学の世界ではこちらの意味が多い。
    →リバタリアニズムに近い

単なる「国家の市場への介入の度合い」を軸に分類した場合、古典的自由主義と近い思想の 政治的立場は以下のようになります。

古典的自由主義の国家への介入

経済学やジャーナリズムの世界での「古典的自由主義」は、このように単なる経済統制の度合いについての分類で、個人的自由については含まれていないことが多いです。

ここでは、古典的自由主義と市場主義、そして古典的自由主義の復活である新自由主義(ネオリベラリズム)が同じ概念としてくくられがちです。

また、古典的自由主義やリバタリアニズムが区別されずに使われることも多いです。

これに対して、経済的自由と個人的自由の両方を軸に取ると、以下のようになります。

古典的自由主義の政治的立場

上記の立場は、それぞれ以下のようなものです。

  • リバタリアニズム・・・個人的自由・経済的自由を共に重視し、国家の役割を最小限に考える、もしくは国家はなくて良いと考える立場
  • 古典的自由主義・・・個人的自由・経済的自由を共に重視し、部分的な国家の役割を必要と考える立場
  • リベラル(社会民主主義・・・社会の平等・公正といった個人的自由を尊重し、国家の役割を積極的に認める立場
  • 保守主義・・・経済的自由は重視するが、個人的自由は重視しない立場で、国家の役割を部分的にしか認めない立場
  • 権威主義・・・共産主義、全体主義(ナチズム、ファシズムなど)のように、個人的自由も経済的自由も重視せず、国家が個人の活動や経済に深く介入する立場

政治学で使われる場合の古典的自由主義は、このように経済的自由と個人的自由の両方を含んだ概念であることが多いです。

この場合も、古典的自由主義とリバタリアニズムは同義で使われることもあります。

1-2:古典的自由主義とリバタリアニズムの違い

「古典的自由主義とリバタリアニズムって使い分ける必要ないんじゃないの?」

このように思われたかもしれません。

確かに、同じ意味でも問題がないことも多いですが、細かく分けると以下のように違いがあります。

古典的自由主義とリバタリアニズム
  • 無政府主義(アナルコ・キャピタリズム)・・・国家は必要ない、国家がない方が平等・公正な社会になる
  • 最小国家論・・・国防、治安、司法、一部の公共財(生活インフラなど)は国家の役割
  • 古典的自由主義・・・国防、治安、司法、公共財に加え福祉サービスの供給も国家の役割

このように「国家の役割をどこまで認めるか?」という点で、古典的自由主義とリバタリアニズム(の中でも特にラディカルな立場)は若干立場を異にするのです。

また、無政府主義や最小国家論を「ハード・リバタリアニズム」、古典的自由主義的な立場を「ソフトリバタリアニズム」と呼ぶこともあります。

特に、リバタリアンの中には非常にラディカルで、国家は必要ないと主張して自分たちで独自の自治区を打ち立てようとする人々もいるほどで、それは古典的自由主義とは異なる立場です。

リバタリアニズムについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。

リバタリアン党のゲーリージョンソン
【リバタリアニズムとは】自由主義との違いと批判・役割をわかりやすく解説リバタリアニズムとは、国家の役割を一切認めない、もしくは国家を最小限にしようと主張する思想です。アメリカでは一定の支持層がいてさまざまな運動に繋がっています。一方で多くの批判もあり、議論の多い思想です。詳しく解説します。...

1-3:古典的自由主義の特徴

「では、古典的自由主義は具体的にはどんな主張をするの?」

このような疑問が出てきたかもしれません。

古典的自由主義の主張は、一言でいえば「小さな政府」です。

経済的側面から言えば、原則的に財の供給は市場に任せた方が効率的なのであり、国家が介入すると市場よりも非効率的な供給が行われる。一部の公共財の供給(国防など)は認めるものの、国家の肥大は避けるべきと考えます。

個人的自由の側面から言えば、国家は個人の自由の根源である「自己所有権」を制限する存在であるため、自己所有権を犯さない範囲で、もしくは自己所有権を保護する目的のためのみで存在すべきであり、それ以上の役割は必要ないと考えます。

もう少し具体的な主張を見てみましょう。

先ほども軽く触れたように、古典的自由主義の立場では、国家の役割を、「国防」「治安」「司法」「一部の公共財の供給」「福祉サービスの供給」など、部分的にしか認めません。

そのため、

  • 教育
  • 公共事業
  • 金融政策など通貨供給の過度なコントロール
  • マイノリティや社会的弱者の救済、優遇政策
  • 文化的事業(図書館、博物館など)

などについては、「民営化した方が効率的になる」「国家が介入することではない」と主張する傾向にあります。

※もちろん論者によって主張の内容は異なりますので、大まかな把握だと思ってください。

1-4:古典的自由主義の「自由」とは

さて、ここまであえて深く解説していませんでしたが、政治的立場を左右する「自由」という概念には、大きく分けて「個人的自由」「経済的自由」があります。

  • 個人的自由・・・国家対個人の軸で、個人の身体やその行動の自由、さらにその労働の対価として得られた財産の自由
  • 経済的自由・・・国家対個人の軸で、国家が個人の経済活動に介入しないことを重視する自由

これを見て分かるとおり、それぞれ若干異なる概念です。

1-4-1:個人的自由とは

個人的自由とは、端的に言えば「自己所有権(自分の身体は自分のもの)」という自由のことです。やや抽象的に思われるかもしれませんが、それほど難しくありません。

あなたの身体はあなたのものである。これは間違いないですよね?

そのため、自分の身体とその行動に対しては、自由が認められるべきでそれを国家が規制すべきではないと考えるのがこの立場です。

そして、この自己所有権はさらに広い「自由」に繋がります。

たとえば、自分の身体や行動が自由なら、自分の労働によって獲得された財産の権利も認められるべきだし、自分の身体に対する強制(たとえば奴隷労働)は認められません。

また、思想信仰主張も認められるべきだと考えられます。

このように、自己所有権を中心とした個人的自由は、さまざまな「自由」の根源にあるものなのです。

さまざまな「自由」は自己所有権から具体化したものでしかありません。

そして、個人的自由を重視することは、個人の身体や行動を国家が制限すべきではない→そのため「小さな政府」であるべきだという立場になるのです。

1-4-2:経済的自由とは

経済的な自由とは、アダム・スミスやリカードなど経済学者を中心として生まれた思想です。

経済学者的な視点から考えると、

  • 財・サービスは市場で供給される方が効率的
  • しかし、実際には国家が経済活動に介入し、国家によって供給されている財(公共財など)があったり、国家が経済活動を規制してコントロールしようとしたりする
  • 国家が市場に介入するのは非効率てきであるため、規制を緩和し、民営化を進め、「小さな政府」を目指すべき

という考えになります。

※これはかなり単純化した議論です。

このように、個人的自由も経済的自由も、共に「小さな政府」を目指すのですが、それぞれ思想の立脚点が異なることに注意してください。

そして、古典的自由主義は、この二つの思想が合わさったような思想だと考えると良いでしょう。

「なんでこんなに分かりづらくなってるの?」

と思われるかもしれませんが、それは2章で紹介するように、歴史を辿ると分かります。

いったんここまでをまとめます。

1章のまとめ
  • 古典的自由主義は、国家の役割を限定的に捉える思想
  • 古典的自由主義は、経済的な自由主義と、自己所有権に基づく個人的な自由主義が合わさったもの(もしくは別の意味で使われる)
  • 古典的自由主義、市場主義、リバタリアニズムはそれぞれ若干異なる立場と考えるべき

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2章:古典的自由主義の歴史

古典的自由主義について、

「なんで複数の意味があるの?」

「なんで『古典的』と言われるの?」

「新自由主義と同じものでは?」

などの疑問があるかもしれません。

それらは、古典的自由主義が形成された歴史を見ると解決する疑問です。

これから、古典的自由主義の歴史を解説します。

2-1:古典的自由主義の原点①ジョン・ロック

自由主義の原点はさまざまな思想家に求めることができますが、ジョン・ロック(John Locke)を自由主義の原点と考える研究者は多いです。

ロックは、国家の権力の範囲について以下のように考えました。

  • 国家は国民の所有権(生命、自由、財産の権利)の調整、保護のために存在する
  • 上記が国家の権力の範囲であり、これを超えるのはダメ
  • 国家の権力は「立法部」によって行使されるが、立法部が個人の所有権を侵害した場合は、個人は抵抗する権利がある

このように、ロックは国家の権力の限界について論じ、個人の自由を国家が侵害しないことを主張したのです。

このロックの(古典的)自由主義的思想は後の時代に大きな影響を与えました。

2-2:古典的自由主義の原点②アダム・スミス

アダム・スミス(Adam Smith)は誰もが知る経済学の父です。

スミスは、経済的な自由主義の原点であると言って良いでしょう。

スミスが生きた時代は、植民地経営や戦争を通じて貨幣や貴金属などを蓄積する、貿易や自由貿易ではなく保護貿易を行い、自国に有利な規制をする、それらを通じて国富を増やす(重商主義)、ということが目指された時代でした。

つまり、国家が深く市場に介入し、国家のために富の蓄積が行われたのです。

それに対してスミスは、国家と市場(経済)の関係について以下のように考えました。

  • 財の供給を市場に任せれば「見えざる手」によって自動的に調整され、需要と供給が釣り合い、もっとも効率的になる
  • そのため、国家は市場に介入すべきではない
  • 国家の役割は経済の統制ではなく、「国防」「司法」「公共事業」のみである

現在のジャーナリズムの世界では、スミスが「自由放任(レッセフェール)」を主張したかのように言われることがありますが、上記の通りスミスは国家の役割を部分的に認めています。

しかも「公共事業」まで認めている点で、スミスはそれほど「小さな政府」を主張していたわけでもないと思われます。

経済的な面での古典的自由主義は、このようにある程度の国家の役割を認めたものであったのです。

このように、ロックやスミスから生まれた古典的自由主義の思想は、その後政府の役割を部分的にしか認めない自由主義的思想として混ざり合い、継承されていきました。

しかし、時代を経るにつれて、自由主義はさまざまに変化します。

2-3:自由主義の先鋭化

19世紀半ばに入ると、(古典的)自由主義の中からさらに先鋭化した思想を持つ人々が登場しました。

例えば、

  • ギュスターヴ・ド=モリナリ:政府に安全保障の供給を独占する権利はない
  • フレデリック・バスティア:国家は皆が他人の金で生きるために作られたもの
  • ハーバード・スペンサー:個人には国家を無視する権利がある

などと主張する人々が登場します。

19世紀は、社会主義の登場により、自由主義の立場が揺らいだ時代でした。

そのため、社会主義に対抗するために、自由主義の中から、上記のような急進的な立場(リバタリアニズム)と、国家の役割を積極的に認める社会自由(民主)主義・リベラルと言われる立場がわかれたのです。

古典的自由主義の転換

さらに、アメリカでは1930年代以降、「大きな政府」的な政策が行われるようになります。

これをニューリベラリズム(新しい自由主義)社会自由主義と言います。

アメリカでは「新しい自由主義」が主流になることで、国家の役割を最小限しか認めない伝統的な自由主義者達は、リバタリアンとして思想を先鋭化させていきました。

※「新しい自由主義」「社会自由主義」について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

社会自由主義とは
【社会自由主義とは】定義・政治的立場から批判までわかりやすく解説社会自由主義とは、古典的自由主義の立場を批判し福祉国家を擁護する政治思想のことです。国家による平等、公正な社会の実現を目指す思想で、特に戦後のアメリカにおいて展開しました。社会自由主義を詳しく解説します。...

2-4:古典的自由主義の復活?新自由主義(ネオリベラリズム)

戦後、多くの西側先進国では、社会自由主義、「大きな政府」的な政策が主流になりましたが、「大きな政府」は財政支出が巨大なため、経済成長が鈍化する中で巨額の財政赤字を生むようになりました。

また、アメリカではリベラルな政策が「行きすぎ」であると批判されたり、日本では業界と癒着し、既得権益層を生む政治の仕組みが批判されるようになりました。

こうして、「大きな政府」的な思想に変わって登場したのが「新自由主義(ネオリベラリズム)」です。

【新自由主義とは】

新自由主義とは、国家の市場への介入を否定し、民営化、構造改革、小さな政府を主張する政治的立場。

そして、新自由主義の登場によって、「古典的自由主義のように、本来の『小さな政府』に立ち返ろう」という主張がなされるようになりました。

この流れで、古典的自由主義=自由放任、市場主義のように捉えられるようになってしまったのです。

※新自由主義について詳しくは以下の記事で解説しています。

新自由主義とレーガン
【新自由主義とは】定義・問題点・生まれた背景をわかりやすく解説新自由主義とは、日本では中曽根政権以降に行われた「民営化」「構造改革」などの政策を支える思想のことです。新自由主義的政策の結果、労働者の立場が弱くなり自己責任論がはびこる社会になったとも言われます。議論の多い新自由主義について詳しく解説します。...

しかし、ここまで説明したように、本来の古典的自由主義は、国家の役割を部分的に認める立場であり、それはどこまでも「小さな国家」を目指す新自由主義とは異なります。

そのため、新自由主義は政治学の世界ではリバタリアニズムと同一視されることが多いのです。

古典的自由主義の変遷についてまとめます。

2章のまとめ
  • 個人的自由主義としての起源はロックに、経済的自由主義としての起源はスミスにある
  • 古典的自由主義は19世紀の社会主義との対決の中で、リバタリアニズムと社会自由主義に派生した
  • 古典的自由主義は、1980年代以降の新自由主義の登場によって、新自由主義と混同されることが多くなった

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3章:古典的自由主義の学び方

古典的自由主義について理解することはできましたか?

自由主義(リベラリズム)という概念は、さまざまな意味と複雑な歴史を持つ分かりにくい概念です。

そのため、この記事で解説した内容も十分ではありません。

より詳しい内容を学びたい場合は、これから紹介する書籍にあたってみることをおすすめします。

おすすめ書籍

オススメ度★★★森村進『自由はどこまで可能か-リバタリアニズム入門-』(講談社現代新書)

この本は、リバタリアンの立場に立つ著者がリバタリアニズム(古典的自由主義を含む)について詳しく、分かりやすく解説した本です。古典的自由主義やリバタリアニズムの立場の違いや、さまざまな政治的テーマについてどのように考えるのか、学ぶことができます。

オススメ度★★坂本達哉『社会思想の歴史-マキャベリからロールズまで-』(名古屋大学出版会)

社会思想について広く解説された本ですが、「自由」と「公共」を一貫したテーマにしているため、自由主義(リベラリズム)の歴史として読むこともできます。非常に分かりやすく、まとまった本なのでおすすめです。

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 古典的自由主義は、国家の役割を限定的に考える思想であり、経済的自由主義と個人的自由主義の両面がある
  • 古典的自由主義は国家の役割を限定的に考えるが、リバタリアニズムよりは国家の役割を認める傾向にある
  • 古典的自由主義は、19世紀に社会自由主義とリバタリアニズムに派生したが、新自由主義の登場で再び論じられるようになった

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