政治思想・政治哲学

【共同体主義(コミュニタリアニズム)とは】主な主張をわかりやすく解説

共同体主義とは

共同体主義(コミュニタリアニズム/communitarianism)とは、

普遍的、単一的な価値観ではなく、文化的な共同体(国家、地域、家族など)の中で培われる価値観を重視する政治哲学の立場

のことです。

主にアメリカのリベラリズム批判の中で登場した思想ですが、古代のアリストテレス以降の歴史の中でも、さらにヨーロッパでも確認できる思想です。

共同体主義は古臭い伝統的な共同体の慣習を重視するようなものでもありませんし、「地方創生」のようた単なる政策レベルの話でもありません。

日本では「リベラル」「保守」の対立軸が主であり、共同体主義(コミュニタリアニズム)の立場はそれほど知られてはいませんし、影響力も持ちません。

しかし、政治的立場として世界では主流の一つの思想になっているため、私たちがより良い社会を目指していく上でとても大事な思想なのです。

そこでこの記事では、

  • 共同体主義とは何か
  • 共同体主義とリベラリズムの関係
  • 共同体主義について論じる主な論者とその主張
  • 共同体主義の学び方

などについて詳しく解説します。

自分自身の国家に対する価値観をアップデートするためにも、ぜひ興味のあるところから読んでみてください。

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1章:共同体主義(コミュニタリアニズム)とは

もう一度確認しましょう。

共同体主義(コミュニタリアニズム/communitarianism)とは、

普遍的、単一的な価値観ではなく、文化的な共同体(国家、地域、家族など)の中で培われる価値観を重視する政治哲学の立場

のことです。

共同体とは、地域社会や家族、親族関係など様々なものを含みます。

共同体主義は、

「私たちの歴史の中で、共同体の中で自然に培われてきた価値観が現代社会では失われているのではないか?」

「『民主主義』とか『自由主義』のような、世界で普遍的とされる価値観よりも、共同体の中で培われてきた価値観に注目し、それを重視した社会にしていくべきではないのか?」

ということを主張する立場のことなのです。

「それって、昔の村社会の慣習やしきたりみたいなものを大事にしろってこと?冗談じゃない!」

と思われる方もいるかもしれませんが、そういうことではありません。

まずは他の政治思想と比べてイメージを持ってみましょう。

ちなみに、民主主義については次の記事で詳しく解説しています。ぜひ読んでみてください。

【民主主義とは】基礎知識・歴史・重要用語をわかりやすく解説

1-1:共同体主義(コミュニタリアニズム)の政治的立ち位置

政治的な立ち位置について、「右派」「左派」という分け方が一般的ですよね。

結論から言うと、共同体主義(コミュニタリアニズム)は、中道左派と言われます。

コミュニタリアニズムの政治的立ち位置

上記のようにイデオロギーで分けると、右派が「資本主義的社会の維持」、左派が「平等、公正な社会主義的社会の形成」という分け方になり、共同体主義はその真ん中よりも左よりと考えられます。

共同体主義(コミュニタリアニズム)が、近代以前の旧態依然とした価値観を持つ共同体を連想させ、一種の保守主義だと考えられることもあるようですが、これは誤りです。

共同体主義は、リベラリズムとの論争の中で、リベラルの持つ「自由」に対する哲学的な把握を批判する中で形成された思想ですので、少なくとも中道的で、

  • 平等、公正な社会(共同体)を求める
  • 福祉国家的な政策を支持
  • 共同体にとっての「善(共通善)」を重視する

という点でやや左派よりだと考えられるのです。

また、リベラルを批判する思想だとは言っても、自由主義(リベラリズム)の伝統をすべて否定するわけではありません。

戦後形成された社会自由主義的なリベラリズムの欠点を指摘し、それを克服してより良い国家・社会の在り方について考えた思想が共同体主義です。

そのため、あくまで自由主義の枠内で近代的リベラリズムを批判したのだ、と知っておいてください。

※社会自由主義について、詳しくは以下の記事で解説しています。

社会自由主義とは
【社会自由主義とは】定義・政治的立場から批判までわかりやすく解説社会自由主義とは、古典的自由主義の立場を批判し福祉国家を擁護する政治思想のことです。国家による平等、公正な社会の実現を目指す思想で、特に戦後のアメリカにおいて展開しました。社会自由主義を詳しく解説します。...

共同体主義(コミュニタリアニズム)は、アメリカでリベラリズムを批判する中で登場した思想ですので、リベラリズムとの対比で把握するとより分かりやすいです。

1-2:共同体主義(コミュニタリアニズム)とリベラリズム

そもそも、共同体主義(コミュニタリアニズム)はアメリカでの「リベラル批判」から出てきたものです。

【リベラルとは】

ここでのリベラルとは、戦後アメリカ(やその他の西側先進国)における、自由・平等・公正な社会を実現するために、「大きな政府」の役割を積極的に認める立場。

特にアメリカでは、1930年代~1970年代にかけて、

  • 政府が公共事業の創出や手厚い社会保障サービスを提供する、「大きな政府」的な政策
  • 黒人や女性などの、当時の社会的弱者に対する差別の是正、優遇政策

などが行われました。

これはアメリカ社会をより平等、公正な社会に近づける意義ある政策でしたが、やがてその政策が「自由すぎる」と批判されるようになりました。

共同体主義(コミュニタリアニズム)からのリベラルへの批判からはじまった論争のことを、「リベラル・コミュニタリアン論争」と言い、現代のアメリカ思想を語る上で避けては通れない論争です。

※アメリカのリベラルについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。

【アメリカのリベラル(左派)とは】保守との違いと歴史をわかりやすく解説アメリカのリベラルとは、一般的には民主党のことで経済的・社会的平等の達成のために、政府の役割を積極的に認める立場です。アメリカのリベラルは、1930年代から明確に強くなった思想で、旧来の「自由主義」とも異なります。アメリカのリベラルの特徴や歴史を解説します。...

■共同体主義が批判したリベラリズムの価値観

リベラルを「自由すぎる」と批判したのが、共同体主義(コミュニタリアニズム)という勢力です。

「自由すぎる」というのは、当時のアメリカのリベラルや、そのリベラルな側面をさらに強く持ったリバタリアンが想定しているほど、人間は共同体から切り離されて、自由にふるまうことはできないということです。

リベラリズムの思想は、「個人は社会から独立していて、自由に思想や価値観を選択し、行動していくことができる」という前提に立っています。

それに対して、コミュニタリアンは「いやいや、人間は自らの所属する共同体の価値観によって規定されており、その価値観から完全に離れた個人などありえない。それは抽象的な観念の世界ではあり得るかもしれないが、現実の政治や生活の場では共同体の価値観に拘束される。そのため、共同体のメンバー共通の「善(共通善)」を目指して生きていくことを重視すべき。」

と考えたのです。

あたかも、個人を社会から切り離された原子的な存在と考えるリベラルの立場を批判したのです。

※共同体主義(コミュニタリアニズム)とリベラルの思想の違いや論争について、詳しくは2章で説明します。

1-3:共同体主義(コミュニタリアニズム)の「共通善」とは

ここまで読んで「共通善っていう言葉が出てくるけど、これって何のこと?」と思われたかもしれません。

共同体主義(コミュニタリアニズム)について理解する上で大事なのが、「共通善」について理解することです。

「共通善(Common good)」とは、一言でいうと共同体のメンバーが共に目指す共通の目的のようなものです。

それは具体的には、

人々の平等、公正に役立つ公共財(インフラ、安全保障、治安維持)や、制度や慣習、法律、共有された文化、歴史、伝統、さらに道徳的な良心、自由の意識、友愛、正義、善と悪や正と不正を区別する価値観

などを含むものです(※論者によって共通善の定義は異なります)。

共同体には「共通善」があるために、共同体(や国家)が成立する。しかし、近代以降の社会では個人が個人主義的に捉えられ、「共通善」を忘れてしまっている。特に、リベラルは「共通善」をないがしろにし、個人がそれぞれ自らの「善」を見つけ、合理的に「善」を追求していけると考えている。

コミュニタリアンはこのような主張をするのです。

そして、よく勘違いされるように、共通善は、共同体における支配者やマジョリティの価値観を押しつけるものではありません。

少なくとも哲学的には、共同体のメンバーが合意するもので、誰かに押しつけられ強制されるものではないのです。

1-4:共同体主義の主張の例

さて、抽象的な話が続いたので、具体的な共同体主義(コミュニタリアニズム)の主張を知るとイメージがわきやすいかもしれません。

共同体主義(コミュニタリアニズム)は、以下のような主張する傾向があります。

  • 家族…両親による子供の教育を重視し、育児休暇やフレックスタイム制などの拡充を主張。子供の教育は共同体の共通善。
  • 地域…地域の共同体による自治を重視。社会保障や経済活動、年金制度も共同体単位で行うことを主張。
  • 国家…国家も一種の共同体であるため否定しないが、国家は共同体として「共通善(たとえば固有の言語や歴史、文化、制度、法律など)」を重視すべきと考える。

つまりは、基本的には社会の平等、公正を重視するリベラルな立場を持ちながら、これまでに培われてきた共同体の存在を重視する主張をする傾向があるわけです。

とはいえ、このような具体的な政策レベルの議論は、共同体主義(コミュニタリアニズム)の本質的な面ではありません。

これから紹介するように、共同体主義(コミュニタリアニズム)の本質は、その哲学的側面にあるのです。

いったんここまでをまとめます。

1章のまとめ
  • 共同体主義は、リベラルを批判する中で生まれた思想
  • 共同体主義は、中道左派的な立場でリベラルな政策そのものは否定しない
  • 共同体主義は、リベラルの「個人が独立して『善』を追求できると考える人間観」を批判した

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2章:共同体主義(コミュニタリアニズム)の主な論者の主張

共同体主義(コミュニタリアニズム)の主な論者は、

  • アラスディア・マッキンタイア
  • マイケル・サンデル
  • マイケル・ウォルツァー
  • チャールズ・テイラー

です。

共同体主義(コミュニタリアニズム)について理解する上では避けられない論者ですが、逆に言えば彼らの思想を理解できれば十分です。

2-1:マッキンタイア

アラスディア・マッキンタイア(Alasdair MacIntyre/1929~)は、『美徳なき時代』(1981)という書籍から、コミュニタリアンとして最初に立場を明確にした哲学者と言われています。

彼は、

  • 現代社会は統一された道徳基準がない状態
  • リベラリズムは、規則に従って生きることを道徳基準にしている
  • しかし、規則より先に目的がないと、統一された道徳的な生活はできない
  • また、リベラリズムは価値中立的(特定の価値観を押し付けないこと)と言いつつ、結局は官僚主義的な権力を生んでいる
  • 近代社会は結局エリート支配に陥っているため、大衆による共同体(学校、職場、教区など)で助け合う社会に向かうことが必要

と考えました。

マッキンタイアは、近代以前の共同体の持っていた価値観や伝統を重視したという点で特徴的で、共同体主義の中でも右派の立場にいると言えます。

2-2:サンデル

日本でも有名な政治哲学者マイケル・サンデル( Michael Sandel)は、1982年に出版した『自由主義と正義の限界』で、ロールズの『正義論』を批判し、共同体主義(コミュニタリアニズム)の的な立場を明らかにしました。

【ロールズの正義論とは】

『正義論』は、アメリカのリベラルが実は不平等・不公正を生んでいることを批判し、現実社会における平等・公正な社会を「正義の二原理」などの概念を通じて明らかにした理論。

※『正義論』について詳しくは以下の記事で解説しています。

正義論とは
【正義論とは】二つの原理・無知のヴェールから批判までわかりやすく解説 正義論(A Theory of Justice)とは、アメリカの哲学者ジョン・ロールズの著作『正義論』で展開した、現代の実際の社...

若きサンデルが主張したのは、以下のようなリベラル批判でした。

  • カントからロールズに至るリベラリズムの思想では、「正義(正しいこと、権利)」が「善(幸福)」より優位に置かれている
  • 近代的なリベラリズムは、個人主義を前提としていて共同体メンバーがが共通して持つ「共通善」を考えない
  • つまり、個人は自分の合理的選択によって「善」を追求できるとされていて、その「善」の追求=権利とされる
  • 個人を自己完結した存在と考えるのは誤りで、個人は、共同体が持つ価値観、慣習、関係などに規定されて選択する
  • そのため、個人が「どんな生き方が『善(幸福)』なのか?」を考えるためには、共同体の持つ「共通善」を考えなければならない
  • また、リベラルな政策(福祉国家的な再配分政策)を正当化するためには、「共通善」に訴えなければならない

このようにリベラリズムが立つ人間観を批判し、共同体主義(コミュニタリアニズム)のコアとなる考えを打ち出したのです。

そこでは、個人が価値中立的、普遍的な価値観を持ち、自分の「善(幸福)」を自由に選び取っていけるというリベラリズムの前提は誤りである、ということが鋭く指摘されています。

ちなみに、サンデルはロールズの正義論に対しては、

  • ロールズは、「善」の追求のために必要なものを社会の構成メンバーで一緒に決める(格差原理)点で、近代的な個人主義から若干離れている
  • しかし「無知のヴェール」でおおわれて、自らの置かれた状況や他人の持つ条件がわからない状態では、格差原理に同意する動機がないはず
  • そのため、結局個人が格差原理に同意し、善の追求のために必要なものを共同体で決めるためには、「共通善」を考える必要がある

と論じました。

2-3:ウォルツァー

マイケル・ウォルツァー(Michael Walzer)は『正義の領分』(1983)で、福祉国家的な配分政策を共同体主義の立場から論じたことで有名です。

ウォルツァーは、

  • 個人の価値観や行動が共同体によって規定されているとしても、それは必ずしもいいことではない
  • 福祉国家的な配分政策を正当化できる思想(配分的正義)は、各領域によって異なる正義の基準があるはずで多元的
  • 配分的正義は、歴史を見ると闘争の中で獲得されてきたものだが、ある平等が達成されると他の領域で不平等が発生しがち
  • その矛盾が解消されることは難しいため、単一の平等ではなく、各社会における特性を活かして複合的な平等を目指すべき
  • つまり、普遍的な正義よりも共同体での正義を考えていくべき

と主張しました。

彼の思想の特徴は、共同体について

闘争を通じて共同体的枠組み自体が変化するものであるという認識を持っている点で左派的であるが、共同体的なものは常に形を変えて登場してくるという認識を持っている点ではコミュニタリアニズム

(仲正昌樹(2008)p.142)

という点です。

彼は実際、自らを社会民主主義者と考えていて、コミュニタリアンとは考えていないようです。

2-4:テイラー

チャールズ・テイラー(Charles Margrave Taylor)は、ウォルツァーと同じように共同体主義(コミュニタリアニズム)から若干距離を取った立場にいますが、一般的にはコミュニタリアンと考えられている政治哲学者です。

テイラーは、

  • 伝統の解体によって、近代社会では個人がアイデンティティの元となる価値を見失い、自己疎外状態に陥っている
  • そのため、共同体的存在としての自己を見直すことが必要
  • そのためには、個人の道徳の源泉である「共通善」を考えることが大事
  • ただし、その「共通善」は共同体において単一のものではなく、多文化主義的なものであるべき

と主張しました。

彼は、カナダのケベック州(フランス語系住民がマイノリティの州)出身であるため、このような多文化主義的な共同体主義に行き着いたようです。

共同体主義(コミュニタリアニズム)はこのように、リベラルへの批判という点では一致していても、論者によって微妙に思想は異なるものです。

ここまでをまとめます。

2章のまとめ
  • マッキンタイア・・・リベラルは価値中立と言いつつ、その結果エリート支配を生んでいるため、大衆は共同体を重視すべき
  • サンデル・・・個人は共同体の価値観に規定されているため、共同体の善(共通善)を考える必要がある
  • ウォルツァー・・・個人が共同体から規定されるのは必ずしも良いことではない。また、配分的正義は共同体によって異なり多元的。
  • テイラー・・・近代では個人が共同体から切り離され自己疎外されているため、「共通善」を考えることが大事。そして共通善は多文化主義的であるべき。

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3章:共同体主義(コミュニタリアニズム)の学び方

共同体主義(コミュニタリアニズム)について理解することができましたか?

共同体主義を学ぶ上で大事なのが、「リベラルやリバタリアニズムとの対比で学ぶこと」そして、「各論者の主張を区別すること」です。

そこで、より詳しく知りたい方はこれから紹介する書籍から学んでみてください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★菊池理夫『日本を甦らせる政治思想-現代コミュニタリアニズム入門』 (講談社現代新書)

共同体主義の思想や特徴がわかりやすくまとめたれた本です。リベラリズムとの違うも分かりやすく書かれているため、初学者には必読書です。

オススメ度★★小林正弥『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』 (平凡社新書)

日本ではコミュニタリアンとして最も有名なサンデルですが、その思想が分かりやすく解説された入門書です。サンデルについて知りたい方にはおすすめです。

オススメ度★★仲正昌樹『集中講義! アメリカ現代思想-リベラリズムの冒険』 (NHKブックス)

アメリカの政治哲学であるリベラリズム、共同体主義(コミュニタリアニズム)、リバタリアニズムについて包括的に論じられた書籍です。ちょっと読むには時間がかかるかもしれませんが、これを読めば現在主流の政治哲学が網羅的に学べます。

まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 共同体主義とは、リベラルの持つ価値中立的な姿勢を批判し、個人は共同体に規定されると考る立場
  • 共同体主義は、リベラルを哲学的に批判するが、政治的立ち位置はそれほど変わず福祉国家、再分配的な政策を否定しない
  • 共同体主義は、共同体の共通の「共通善」を見直すことが、より善い生き方を見つけることになると主張する

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