インディアンカジノ(Indian casinos)とは、居留地においてネイティブ・アメリカンによって所有されるカジノを意味します。主に、カジノ収益は部族の福利厚生や伝統の再生にむけて使われています。
20世紀の後半に登場して以来、インディアンカジノは大きな注目を集めています。それはカジノ収益によってインフラの整備や伝統文化の再生がおこなわれているからです。
しかし、「なぜ居留地にカジノなのか」「どういった歴史的経緯で誕生したのか」を理解している方は少ないかもしれません。
そこで、この記事では、
- インディアンカジノの概要
- インディアンカジノの事例
- インディアンカジノの問題点
をそれぞれ解説していきます。
興味関心のある箇所から、ぜひ読み進めてください。
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら
- 「インディアン」という呼称はコロンブスの勘違いから広まった言葉であり、本来使うべきではありません。しかし、通称として定着してるため、ここでは「インディアンカジノ」を使用します
- アメリカに住む先住民を指す場合は、「ネイティブ・アメリカン」という総称を使います
1章:インディアンカジノとは
まず、1章ではインディアンカジノの概要と事例を紹介します。インディアンカジノが誕生した背景や問題点に関心のある方は、2章から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: インディアンカジノの概要
冒頭の確認となりますが、「インディアンカジノ」とは、
居留地において、ネイティブ・アメリカンによって所有される賭博施設の総称
です。
あなたはカジノと聞いてどのような施設を想像しますか?「カジノといえば、ラスベガス!」と考える方が少なくないと思います。
確かに、インディアンカジノにはラグジュアリーなホテルと併設されるカジノも存在しますが、ガソリンスタンドにある数台のスロットマシーンといった簡易的なものまであります。
1-1-1: カジノ数と収益
では、インディアンカジノの数と収益はどの程度あるのでしょうか?ネイティブ・アメリカン研究者の鎌田は、2006年のデータを以下のように示しています2鎌田『ネイティブ・アメリカン』岩波新書。
- カジノを経営する部族…224部族
- カジノの総数…286個
部族数とカジノの数に違いがあるのは、いくつの部族が複数のカジノ経営してるためです。
インディアンカジノの収益どうでしょうか?結論からいえば、インディアンカジノの総収益は、ラスベガス全体の収益を超えるほどに成長しています。
- 1988年の約2億1200万ドルから2002年には約147億に成長。2002年の時点で、インディアンカジノの総収益は米国全体の賭博産業収入の21%である
- 2006年に250億ドルを記録し、米国全体の賭博産業収入の42%を占めるまでになった
地域の観点からいえば、カリフォルニア州とネバダ州における収入が極めて高いです。カジノ単体では、後述するピークワット族のカジノが桁外れの収益を出しています。
1-1-2: なぜ居留地なのか
ここまでくると、「なぜ居留地にカジノが建てられているんだ?」と疑問に思う方も多いと思います。
端的にいえば、それは以下の理由からです。
- 居留地ではネイティブ・アメリカンの自治権が認められており、州法とは異なった賭博の規制がされる
- そのため、部族政府は部族法を用いて、比較的自由に経済開発ができる
実際には、部族政府は「完璧」な自治権をもつわけではありませんので、注意が必要です。たとえば、カジノが建設される際、部族政府は州政府との「協定」を結ぶ必要があります。
居留地の複雑な状況に関しては、次の記事を参照ください。ネイティブ・アメリカンに関する基礎知識を合わせて読むと、理解が深まります。
1-2: インディアンカジノの事例
ここで、インディアンカジノの有名な事例を「ピークワット族」と「チッペワ族」から紹介します。両者に共通するのは、カジノ収益で伝統の再生を試みている点です。
1-2-1: ピークワット族
ピークワット族のカジノはカジノでもっとも成功を収めた部族です。
- ピークワット族は1992年にコネチカット州にカジノを開設する
- 当時の人口はたったの350人という小部族であった
- しかし、カジノ収益は10億ドルに達し、西半球でもっとも大きいカジノとなってる
- カジノ収益の一部はスミソニアンの「アメリカ・インディアン博物館」や「マシャンタケット・ピークワット博物館研究センター」の建設費に使われた
そもそも、ピークワット族は1637年のイギリス人入植者から虐殺をされ、「ほとんど」滅びた部族だと思われていました。
しかし、1983年連邦政府に部族と居留地が承認されると、カジノ開設に動きました。大成功を収めたカジノは「ピークワット族の逆襲」とも言われるようになっています。
1-2-2: オネイダ族
カジノの成功事例には、ミネソタ州のチッペワ族の例もあります。
- カジノ収益を使って、チッペワ族の本来の主食であるワイドライスの復活を目指してる
- 居留地内にあるネット湖は、ヨシやスゲの繁茂によって、ワイドライスの生育に適さない土地となっていた
- しかし、カジノ収益によってネット湖の整備がおこなわれるようになっている
ネット湖の整備がされれば、伝統儀礼やそれにまつわる言語の復活が期待できる可能性があります。
このような事例の他にも、カジノ収益によって学校建設やインフラの整備がおこなれており、カジノは部族社会を立て直す貴重な経済的支柱となっています。
ここで紹介した事例や他の事例をさらに詳しく知りたい方は、阿部珠理の『アメリカ先住民-民族再生にむけて-』がおすすめです。
いったん、これまでの内容をまとめます。
- 「インディアンカジノ」とは、居留地において、ネイティブ・アメリカンによって所有される賭博施設の総称である
- 部族政府は部族法を用いて、比較的自由に経済開発ができるため、居留地にカジノがある
- カジノ収益で伝統の再生を試みている部族がある
2章:インディアンカジノの問題点
ここまでインディアンカジノの概要を説明してきましたが、
- 「そもそも、なぜインディアンカジノが登場したのか?」
- 「インディアンカジノにはどうような問題点があるのか?」
と疑問には答えてきませんでした。
2章ではまずインディアンカジノ誕生の背景を説明し、その後にインディアンカジノの問題点を解説します。
2-1: インディアンカジノ誕生の背景
インディアンカジノの歴史をするためのキーワードは「レーガンの思惑」と「インディアン賭博規制法」です。それぞれ解説していきます3鎌田『ネイティブ・アメリカン』岩波新書。
2-1-1: レーガンの思惑
インディアンカジノの歴史は長いわけではありません。誕生のきっかけは1970年代後半にあります。
結論からいえば、1970年代後半から1980年代にかけてのアメリカ経済はベトナム戦争で経済状態が疲弊しており、ネイティブ・アメリカンへの予算削減を試みていたことが背景にあります。
具体的に、レーガン政権では以下のような過程がありました。
- 表向きには、部族政府とアメリカ国家に「政府対政府」の関係を認めて、部族の自治権に理解を示した
- 部族社会の経済的な自立と発展を求める連邦政府は、ネイティブ・アメリカンの賭博産業への参入を推進した
- その背景は、ベトナム戦争で痩せ細った経済があり、ネイティブ・アメリカンへの予算を大幅に削除する必要があった
州法が及ばない居留地でのカジノ開設は部族政府の自由である一方で、犯罪組織や腐敗の危険性がありました。そこで連邦政府が一定の規定を設定した「インディアン賭博規制法」が誕生しました。
※レーガノミクスについてはこちらの記事が詳しいです。→【レーガノミクスとは】その意味・背景・結果をわかりやすく解説
2-1-2: インディアン賭博規制法
「インディアン賭博規制法」とは、居留地においてカジノ開設をする際に州政府と結ばれる「協定」に関する規定を示したものです。
具体的に、インディアン賭博規制法では以下のことが示されています。
- 一定年度のごとに、協定を更新すること
- 賭博とは①部族儀礼などでおこなわれる社交的なゲームに属するもの、②ビンゴやトランプゲームに属するもの、③それ以外のすべての賭け事(競馬やカジノ)の3種類であること
- ①と②の賭け事では協定を結ぶ必要がないこと
州政府はカジノ収益から徴収し財源を確保したいと考えているため、インディアンカジノへの介入が続いています。
部族政府はインディアン賭博規制法で義務づけられた次の項目に則って、収益の再配分がされています。
- インディアン賭博規制法では「カジノ収益の70%は部族社会に還元しなければならない」という義務が設けてある
- そのため、大半のカジノ収益は社会福祉や経済開発、医療制度などの当てられている
2-2: インディアンカジノの問題点
このように、カジノ開設は経済状態を向上させる起爆剤として部族社会で注目を集めています。しかし、多くの部族が貧困状態から抜け出せないことを考えると、すべてのカジノが成功しているとはいえません。
そこで、最後にインディアンカジノに関する問題点を紹介してきます。
2-2-1: モラル・治安の悪化
カジノ反対派がまず掲げるのは、「カジノによるモラル・治安の悪化」です。たとえば、次のような批判があります。
- ギャンブルは努力といった資質の向上のを阻害させる
- また、アルコールに代わった中毒を生む
- そもそも、ネイティブ・アメリカンのギャンブルは伝統的な生活とは異なる
反対派がさらに危惧するのは、カジノの成功が一般的なネイティブ・アメリカンのイメージとなると、連邦政府の予算削減がさらに進む可能性があることです。
そもそも、カジノ自体は政策転換によって一夜にして消滅する可能性があるため、部族政府は連邦政府に依存しない経済構造を構築する必要があるともいわれています。
2-2-2: 部族政府の主権問題
もっとも根本的な問題として、「部族政府の主権問題」があります。
- インディアン居留地における部族政府の自治権が認められているにもかかわらず、州政府との「協定」が必要であること
- つまり、カジノ経営には連邦政府の「承認」が最終的には必要であること
これは、カナダ先住民研究者であるグレン・クルサードが主張する内容とつながります。クルサードは次のような主張をしています。
- 承認を通してカナダ先住民と国家の植民地的な関係は弱体化するという主張が近年されるものの、それとは反対に、承認を支配社会から 与えられることで、植民地的関係の再生産に繋がる場合がある
- なぜならば、先住民の存在と文化を「承認」し、国家に包摂するというパワー関係が継続するからである
本来、主権をもつ国家はならば、なぜ他者から「承認」される必要があるのでしょうか?その他者が圧倒的なパワーをもつ国家ならば、両者のパワー関係はどうなるのでしょうか?
クルサードの考えは非常に魅力的ですので、ぜひ読んでみてください。
(2024/11/21 06:13:39時点 Amazon調べ-詳細)
- 1970年代後半から1980年代にかけてのアメリカ経済はベトナム戦争で経済状態が疲弊しており、ネイティブ・アメリカンへの予算削減を試みていたことが背景にインディアンカジノは誕生した
- インディアンカジノには「モラル・治安の悪化」「部族社会の主権問題」がある
3章:インディアンカジノの学び方
インディアンカジノについて理解を深めることができたでしょうか?
まず、気軽に学べる教材として映画があります。次の記事ではネイティブ・アメリカンと映画の関係をまとめていますので、ぜひ紹介した映画をみてみてください。
以下はおすすめの書籍になります。
鎌田遵『ネイティブ・アメリカン 先住民社会の現在』(岩波新書)
鎌田はネイティブ・アメリカンに関して網羅的かつ詳細に議論しています。この本が一冊あると、今後の学びにも役に立つ教科書的な本です。
(2024/04/06 21:28:23時点 Amazon調べ-詳細)
阿部珠理『アメリカ先住民-民族再生にむけて-』(角川書店)
より学術的なネイティブ・アメリカンの本です。カジノ経営によるネイティブ・アメリカンの文化創造に関心のある方は読みたい本です。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。
また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
Amazonプライムは、1ヶ月無料で利用することができますので非常に有益です。学生なら6ヶ月無料です。
数百冊の書物に加えて、
- 「映画見放題」
- 「お急ぎ便の送料無料」
- 「書籍のポイント還元最大10%(学生の場合)」
などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。
まとめ
今回の内容をまとめます。
- 「インディアンカジノ」とは、居留地において、ネイティブ・アメリカンによって所有される賭博施設の総称である
- 部族政府は部族法を用いて、比較的自由に経済開発ができるため、居留地にカジノがある
- 1970年代後半から1980年代にかけてのアメリカ経済はベトナム戦争で経済状態が疲弊しており、ネイティブ・アメリカンへの予算削減を試みていたことが背景にインディアンカジノは誕生した
- インディアンカジノには「モラル・治安の悪化」「部族社会の主権問題」がある
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら