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【ディジュリドゥーとは】吹き方からアボリジニとの関係まで簡単に解説

ディジュリドゥーとは

ディジュリドゥー(Didjeriduとは、北部オーストラリアで発展したアボリジニの吹奏楽器です。本来は楽器としてではなく、コールサインを送る交信手段として発展しました。

一部の方にとって、アボリジニといえば、ディジュリドゥーを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?

そこで、この記事では、

  • ディジュリドゥーの構造から吹き方まで
  • ディジュリドゥーとアボリジニの関係

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:ディジュリドゥーとは

1章ではディジュリドゥーという楽器に関する解説をします。

2章からはディジュリドゥーとアボリジニの関係を紹介しますので、あなたの関心に沿って読み進めてください。

ちなみに、今回の記事は以下の論文と書物を参照しています。詳しい内容に関心のある方は、参照資料をぜひ読んください。

1-1: ディジュリドゥーの構造と呼称

さて、ディジュリドゥーの「構造」「呼称」を知っていますか?それぞれ解説していきます。

1-1-1: ディジュリドゥーの構造

そもそも、ディジュリドゥーは、

  • アーネムランドユーカリの仲間であるストリンギーバーク (Eucalyptus tetradonta)が素材である
  • シロアリによって中空になった幹が、ほとんどそのまま使用される
  • リードがないため、吹き口に蜜蝋を塗られる

ものです。

構造はシンプルで、長さ1メールから1.5メートル、直径5センチ、中を直径3センチほどのパイプ状の吹奏楽器です。

ディジュリドゥー独特の音は空気が流れた振動によって作り出せれて、内部のシロアリの生活痕が共鳴に微妙な影響を与えます。

近年、観光客向けに販売されるディジュリドゥーは内部がドリルで削られているものが多いです。

1-1-2: ディジュリドゥーの呼称

アボリジニは共通言語をもちませんから、この楽器の全国共通の呼称はありません(*アボリジニの言語に関して詳しくはこちら)。

そのため、土地によって以下のような異なる呼称があります。

  • アーネムランド東部のヨロング(Yolongu)・・・イダキ(Yidaki)
  • 中央部のジナン(Djinang)・・・ウインバル(Wuyimbal)

「それじゃ、なぜ「ディジュリドゥー」と呼ばれるの?」と思う方もいるかもしれません。

それは、ディジュリドゥーという名称はこの楽器の音の響きに由来した英語で、当時のヨーロッパ人にはそのように聞こえていたからです。

ヨーロッパ人による呼称がもっとも知られたものになっていることは、悲劇的かもしれません。なぜならば、アボリジニは彼らの文化について人々が正確に理解することを常に求めてきたからです。(→アボリジニの歴史についてはこちら



1-2: ディジュリドゥーの使用場面

では一体、どのような場面でディジュリドゥーは使用されてきたのでしょうか?

結論からいえば、ディジュリドゥーは基本的に儀礼の際に使用されます。

たとえば、

  • 星まつりの儀礼・・・神話上の祖先である明星や鶴、海水と淡水、カモメやカンガルーなどの歌とともに、ディジュリドゥーが演奏される
  • 葬送の儀礼・・・死者に関する業績や物語が語られて、それにつれてディジュリドゥーが演奏される

といった場面があります。

このようにみると、ディジュリドゥーの使用は限定的といえるでしょう。

また、しばしば「ディジュリドゥーを女性が使用してはならない」と言われますが、ディジュリドゥー文化が根強いアーネムランドでそのようなタブーは存在しません。

たしかに、儀礼のような公式の場面における演奏者は男性に限られますが、世俗的な空間では女性がディジュリドゥーを吹いたりすることは禁じられていないです。

ちなみに、男性の演奏者は成人以上ではあれば、特に制限がないそうです。

1-3: ディジュリドゥーの吹き方

ディジュリドゥーの一番難点は、その吹き方かもしれません。上述した松山によると、ディジュリドゥーを吹くには、「循環呼吸法」が不可欠です。

簡単にいえば、循環呼吸法とは、

鼻から吸い込んだ空気を口腔にため唇を振動させながら管のなかに吹きだし、その直後のまだ音が共鳴している間に鼻から空気を吸い込む

というものです1松山利夫 2016「ディジュリドゥ : アボリジナル楽器の世界化への軌跡」『平安女学院大学研究年報』(16): 2頁を参照

実際には、部族の伝統によっていくつか方法があるそうですが、基本的には、

  • マウスピースに口をあてて、鼻から空気を吸い込む方法
  • マウスピースを口の右側にあてて、左側から息を吸い込む方法

があるそうです。

それによって、ディジュリドゥー独特の音がでます。中野はディジュリドゥーの音を次のように表現しています2中野不二男『アボリジニーの国』(中公新書, 714頁)を参照

音のほうはなにか太い金属棒をふるわせたような、単調であるが低く安定感があり、じっと聞いていると一拍ごとに腹の奥にしみこんでゆくような響きがある

ディジュリドゥーが奏でる音をうまく表現していると思います。

いったん、これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • ディジュリドゥーの素材には、アーネムランドユーカリの仲間であるストリンギーバークが使用される
  • ディジュリドゥーは基本的に儀礼の際に使用される
  • ディジュリドゥーという名称はこの楽器の音の響きに由来した英語である
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2章:ディジュリドゥーとアボリジニ

さて、これまでディジュリドゥーを楽器の観点から解説してきましたが、2章はアボリジニとの関係をみていきましょう。

2-1: ディジュリドゥーの世界的展開

そもそも、ディジュリドゥーはどのように世界的な広がりをみせたのでしょうか?アボリジニがディジュリドゥーを世界中にプロモーションしたのでしょうか?

松山によると、物語はそのように進みません。結論からいえば、アボリジニには「外の世界の出来事」として、ディジュリドゥーは世界に広まったのです。

たとえば、ディジュリドゥーはある種の神秘性をもった楽器として以下のように広まっていきました。

  • アボリジニの儀礼に参加できない人(外部者)にとって、アボリジニは「自然とともに生きる人」と漠然とイメージされた
  • ディジュリドゥーはその音色からある種の神秘性が付与されて、「ニューエイジ」と結合していった

ここで出てくる「ニューエイジ」とは、1960年代のアメリカで始まった運動で、人間の能力を開花させるために、キリスト教的科学万能主義などを批判し、神秘的な体験に心を開くことで自己の実現をめざしてきたものです。

この運動が展開されるなかで、ディジュリドゥーは心のバランスのための一種の治療として採用されたのです。



ニューエイジに加えて、観光資源として採用された場合もあります。

たとえば、

  • あるバックパッカー向けのホテルには、白人オーナーによるディジュリドゥーの製作がおこなわれていた
  • その他にも、空港や観光地で「アボリジニの文化」としてディジュリドゥーが販売される

といったケースがあります。

上述した事例はどれもアボリジニの「外の世界の出来事」として広まったものであったため、アボリジニはディジュリドゥーとその音楽を正確に理解してくれることを願ってきました。



2-2: ディジュリドゥーとアボリジナリティ

では一体、アボリジニはディジュリドゥーにどんな意味を付与させてきたのでしょうか?

アボリジニのブーメラン」に関する記事でも触れましたが、アボリジニのシンボルとして、つまり「アボリジナリティ」を証明するものとしてディジュリドゥーは社会運動の際に使われる場合があります。

アボリジナリティとは、簡単に「アボリジニであること」を意味します

「伝統的」なディジュリドゥーを採用してアボリジナリティを証明することは、普遍的で本質的なアイデンティティだと思う方がいるかもしれません。

たしかに、アイデンティティを流動的に捉えるポスト構造主義的な視点からは、そのような本質的なアイデンティティや政治に対して多くの批判があります。(たとえば、アイデンティティ・ポリティクス

しかし、より重要なのは「誰が何のために」本質的なアイデンティティを主張するのか?という疑問です。

政治思想や理論の話に進むと話が脱線しますのでここで止めますが、アボリジニがディジュリドゥーを用いて語るとき、その社会的文脈を忘れるべきではありません。

ディジュリドゥーがアボリジニの「外の世界の出来事」として広まった物語であるならば、なおさらディジュリドゥーが使用される文脈を真剣に考える必要があります。

2章のまとめ
  • アボリジニには「外の世界の出来事」として、ディジュリドゥーは世界に広まった
  • 「アボリジナリティ」を証明するものとしてディジュリドゥーは社会運動の際に使われる場合がある
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3章:ディジュリドゥーを学ぶためのおすすめ本

どうでしょう?ディジュリドゥーを学ぶことはできましたか?

最後に、参照した本を含めてアボリジニ社会を深く理解する参考書物を紹介します。初学者向けの書物が選定されていますので、これから学ぼうとする方に特におすすめです。

おすすめ本

青山晴美『アボリジニで読むオーストラリア』(明石書店)

この書物では非常にわかりやすくアボリジニ文化・社会が紹介されています。「です・ます調」で解説されるため、初学者にもとても読みやすい書物です。

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中野不二男『アボリジニーの国』(中公新書)

中野は彼自身の経験を民族誌的に記述しています。アボリジニ社会における実体験がもとになっているため、とてもリアルで読み物としても面白いです。

藤川降男(編)『オーストラリアの歴史』(有斐閣)

オーストラリア史が簡潔にまとめられた書物です。アボリジニを深く理解するには、オーストラリア史の前提知識が必要ですから、この書物から学んでみてください。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • ディジュリドゥーの素材には、アーネムランドユーカリの仲間であるストリンギーバークが使用される
  • ディジュリドゥーは基本的に儀礼の際に使用される
  • 「アボリジナリティ」を証明するものとしてディジュリドゥーは社会運動の際に使われる場合がある

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