ネオコン(Neoconservatism /新保守主義)とは、アメリカの保守系の勢力の一部を構成する「国際政治へのアメリカの積極的介入」「アメリカの覇権を重視」「アメリカ的な思想を世界に広めること」などを信条とする勢力のことです。
「イラク戦争を主導した」と批判されたこともある思想です。
アメリカの政治の世界でとても大きな役割を担ってきた一方で、その思想は初期のものから大きく変わっており、近年はかつてほどの勢力はないとも言われています。
とは言え、現在でもアメリカの政治を理解する上でとても大事な勢力ですので、政治や経済を学ぶ学生はもちろん、国際情勢について理解する必要があるビジネスマンや投資家の方にも大事なことです。
そこでこの記事では、
- ネオコンの意味、人物、思想の特徴
- ネオコンが生まれた歴史的背景
- ネオコンについて学べる書籍一覧
について詳しく解説していきます。
興味があるところから読んでみてください。
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1章:ネオコン(新保守主義)とは?
もう一度確認しましょう。
ネオコン(新保守主義)とは、アメリカの保守系の勢力の一部を構成する「国際政治へのアメリカの積極的介入」「アメリカの覇権を重視」「アメリカ的な思想を世界に広めること」などを信条とする勢力のこと
これだけでは分かりませんよね。
ネオコンは「新保守主義」という意味ですので、ネオコンについて理解するためには、何が「新」なのかから知ることが近道です。
1-1:ネオコンの意味
そもそも、アメリカの「保守主義」がどのような思想かご存知ですか?
アメリカはもともと、大陸から渡ってきた自由を求める人々によって作られた国です。そのため、アメリカの伝統は「自由」であり、その伝統を守るのが「保守主義」だと考えておきましょう。
もう少し詳しく説明します。
1-1-1:アメリカの保守主義とリベラル
そもそも、政治勢力は何らかのテーマについて保守(伝統を守る、慣習や文化を重視)とリベラル(現状を変える、理想・理念重視)の対立軸で争われるものです。
アメリカの場合、基本的には保守勢力が共和党であり、リベラル勢力が民主党です。
ただし、これは政治で争われるテーマによって変わることがあります。
アメリカの保守主義とリベラルを区別するためには、「国家権力がどこまで個人に介入するのか」という点から考えると分かりやすいです。
- 保守主義・・・経済、社会、宗教、州の行政などについて、国家になるべく介入して欲しくない(自由にさせてほしい)
- リベラル・・・それぞれについて、必要であれば国家の介入をある程度認める
大まかに分けるとこのようになります。
別の視点から見れば、アメリカの思想はどちらも「自由主義」という点では一致する一方で、
- 保守主義・・・経済活動への国家の介入を最小限にする、経済的自由を重視
- リベラル・・・福祉、権利の平等など倫理的・社会的な領域での自由を重視する(そのため国家の介入は必要と考える)
という区別が可能です。
細かく覚える必要はありませんが、基本知識として何となく頭に入れておくとこれからの説明が分かりやすいです。
アメリカのリベラル勢力について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
1-1-2:何が「新」保守主義なのか?
「その保守主義に対して、ネオコン(新保守主義)は何が新しいの?」
と思われるかもしれません。
ネオコン(新保守主義)が新しいのは、
- もともと保守勢力ではなくリベラル(民主党支持)から転向した
→左派が「反ベトナム戦争」「アメリカの伝統の否定(カウンターカルチャー)」といった運動をはじめ、その思想を受け入れられなかった一部のユダヤ人知識人たちが、共和党支持に転向したのがネオコン(新保守主義)誕生のきっかけ。 - 旧来の保守主義とも違う主張をする
→国際社会をアメリカの理念を実現する場と捉える点で、他の保守主義と異なる。
という点です。
左派からの転向について、詳しくは2章で解説します。
1-2:ネオコンの思想
ネオコン(新保守主義)の思想の特徴は、以下の点です。
- 反共主義・・・特に初期のネオコンに見られた思想。
- 国際社会はアメリカの理念を実現する場・・・自由主義、民主主義といった理念を、普遍的なものとして、国際社会でも実現すべきと考える。
- 外交タカ派・・・上記のような思想から、国際社会の問題に積極的に介入することを良しとする。
ネオコン(新保守主義)と言っても、みなが一貫した思想を持ってるわけではないので大まかな把握と考えてください。
1-3:ネオコンの人物・政治家
ネオコン(新保守主義)と言われる人物として、有名な人物には以下の人がいます。
- マイク・ペンス:共和党、宗教右派、元副大統領
- ジェブ・ブッシュ:共和党、子ブッシュ大統領の弟
- ジョン・マケイン:共和党、元上院議員
- ディック・チェイニー:共和党、元下院議員、元副大統領
- ヒラリー・クリントン:民主党、元上院議員、ビル・クリントンの妻、
- ミット・ロムニー:共和党、上院議員
新聞やニュースサイトでも、アメリカ政治の記事を見るとネオコン(新保守主義)の人物が出てくることはよくありますので、ぜひチェックしてみてください。
これからさらに解説していきますが、ネオコンについて知る上では下記の本がおすすめです。ぜひ読んでみてください。
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- ネオコンは、左派・民主党支持から保守・共和党支持に転向した勢力に起源を持つ
- ネオコンは、国際社会をアメリカ的な理念を実現する場と考え、積極的に国際問題に介入する思想を持つ
さて、ネオコン(新保守主義)について簡単には以上の通りですが、現代社会のニュースを読み解くためには、より深い理解が必要です。
2章:ネオコン(新保守主義)が生まれた歴史
ネオコン(新保守主義)は、初期の思想から現代に近づくに連れて変化しており、一つの思想としてまとめて語ることは正確ではありません。
ネオコン(新保守主義)の原点から知ることが、ネオコン(新保守主義)についてより理解を深める近道になります。
※ネオコンを含むアメリカの政治勢力の思想について、こちらの本は分かりやすくまとまっているのでおすすめです。
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2-1:ネオコンの原点はユダヤ人知識人たち
ネオコン(新保守主義)という思想の原点を作ったのは、ユダヤ人知識人たちでした。
2-1-1:伝統的アメリカへのこだわりがネオコンの原点
20世紀初頭、ロシアや東欧圏では激しいユダヤ人の迫害があり、多くのユダヤ人達が迫害から逃れるためにアメリカに移住してきました。
その経緯から、彼らは、「アメリカに移住したことで生き延びることができた」「その時代のアメリカに救われた」という強い思い入れを持つようになります。
これが、ネオコン(新保守主義)の思想的な原点になりました。
2-1-2:ユダヤ人二世たちは共産主義・リベラルだった
ユダヤ人二世たちは、トロツキスト(スターリンを批判する思想)になりました。
それは、スターリニズムによって迫害された彼らのルーツを考えれば当然のことです。
そして、彼らはアメリカの社会主義や社会民主主義的な立場で、リベラルな思想を発信し、ニューヨーク知識人と呼ばれ、徐々に存在感を持つようになります。
つまり、もともとは保守主義ではなく左派の立場を取っていたのです。
ネオコン(新保守主義)の原点がリベラルにあるとは意外に思われるのではないでしょうか。
とは言え、彼らは一貫して共産主義に対抗する自由主義の砦としてのアメリカを理念の柱に持っていました。
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2-1-3:リベラルからの転向がネオコン(新保守主義)を生んだ
もともとリベラルだった彼らが、リベラルから転向したきっかけはベトナム戦争でした。
ユダヤ人知識人(まだ当時はネオコンとは言われていませんでした)たちは、迫害のルーツをもつことから、「アメリカの軍事力でソ連を押さえ込むべき」とベトナム戦争を肯定していました。
しかし、ベトナム戦争が起きてから、アメリカでは反ベトナム戦争の運動や「カウンターカルチャー」といった左派の運動が激しくなり、
- ベトナム戦争を否定すること
- カウンターカルチャーがアメリカの伝統を破壊しようとしている(ように見えた)こと
の2つの点で、自らも属する左派の思想に疑念を持つようになったのです。
「アメリカの伝統によって救われた」と思っていたユダヤ人知識人たちにとって、その伝統を壊そうとする左派の運動は受け入れられるものではありません。
そこで、ユダヤ人知識人たちはリベラル・民主党支持から共和党支持に移行していったのです。
さらに、大きなきっかけになったのが1972年の大統領選です。
この大統領選では、
- 民主党のジョージ・マクガヴァンと共和党のニクソンの対決だった
- マクガヴァンは反ベトナム戦争的政策の主張など、非常に左派的な立場だった
ということがきっかけで、ユダヤ人知識人たちは共和党のニクソンに投票したのです。
これが、彼らが明確に保守に転向したきっかけであり、ネオコン(新保守主義)の流れが生まれた出来事でもあります。
この時期のネオコン(新保守主義)の思想は、
- アメリカの混迷の原因は、大きな政府的政策を進めた政治家や官僚にある
- リベラルは、アメリカの伝統や宗教、愛国心を軽く見る勢力である
といった主張をしていました。
2-2:ネオコンの保守への合流
アメリカの政治は、リベラル中心の時代と保守中心の時代がかなり明確に分かれています。
60年代は「人種主義の否定」「貧困層や有色人種への支援」「同性愛者の権利を認める」などリベラルな政策が中心に行われた一方で、政策が徐々に「リベラル過ぎる」と考えられるようになり、その後さまざまな保守勢力が生まれていきます。
それが以下の勢力です。
- 伝統主義・・・ヨーロッパ的伝統・階級社会を肯定する思想
- リバタリアン・・・国家は個人の自由を阻害する存在として否定し、国家の権力を最小限にする(もしくは国家をなくす)ことを目指す思想
- 宗教右派・・・キリスト教・プロテスタントの中でも、特に『聖書』に忠実な福音派やキリスト教原理主義の勢力
- ネオコン・・・ベトナム戦争に賛成し国際社会における問題にはアメリカの覇権が重要と考える思想
彼らは、「反共主義」そして「リベラルの行きすぎ」という点で思想を共有していたため、1980年の大統領選で共和党のロナルド・レーガン(Ronald Wilson Reagan)に投票し、一代保守勢力を形成しました。
※リバタリアン(リバタリアニズム)や宗教右派、保守主義について、それぞれ詳しくは以下の記事をご覧ください。
【リバタリアニズムとは】自由主義との違いと批判・役割をわかりやすく解説
ネオコン(新保守主義)という思想は、「もともと左派だったくせにレーガンに投票しやがった」という左派からの蔑称として使われ出したものだったのですが、その後のアメリカの政治思想として大きな影響力を持つようになったのです。
2-3:ネオコン第二世代の時代
保守勢力が合流したことについてはお伝えした通りですが、その後ネオコン(新保守主義)を含めた保守勢力は分裂します。
2-3-1:冷戦終結によるネオコン(新保守主義)の分裂
なぜなら、共通の敵であった共産主義に勝利し、目的が達成されてしまったからです。
それどころか、軍備縮小と財政縮小を目指すリバタリアンや、外交に関与すべきではと考える孤立主義勢力と、アメリカの国際社会への積極的介入を良しとするネオコンの間で対立が生まれることになりました。
その後の実際の政策としても、
- ブッシュ父:外交には中道的な立場
- クリントン:外交には内向きな政策(国内・経済を重視)
が行われ、ネオコンにとっては不満な時代が続きます。
この時期、ネオコン(新保守主義)は世代が入れ替わり第二世代となっていましたが、やはり思想としてはアメリカの理念を普遍的に世界で実現すること、そのために積極的な外交を辞さないことを主張していました。
2-3-2:9.11以降のネオコン(新保守主義)の巻き返し
ネオコン(新保守主義)の影響力が強まったのは、9.11がきっかけでした。
ここまで読まれたら想像がつくと思いますが、9.11のテロをきっかけに「アメリカを守るべき」「自由主義的理念を広めるべき」という一種のナショナリズムがアメリカで生まれ、それが外交に積極的になる動きを生み出したのです。
国内で、外交に積極的になる(つまり戦争を肯定する)世論が強まったことから、ネオコン(新保守主義)を含む保守主義は再び合流することができました。
しかし、
- イラク戦争の終結
- リーマンショック後の経済問題
などから、再び世論は戦争否定、外交より経済に向くようになり、今に至っています。
2-4:トランプはネオコン?
「トランプは中国との貿易戦争など、対外政策に積極的だけど、それはネオコンではないの」
と思われる方がいるかもしれませんが、トランプの思想はネオコン(新保守主義)とは異なるものです。
トランプの支持者は、
- アメリカの中流の中でも下層の人々、労働者たち
- 白人男性
- 地方の人々
が中心で「エスタブリッシュメント(既得権益層、エリート)への反発」「移民や白人以外の民族の優遇への怒り」などを持つ人々です。
トランプは一貫した政治思想を持っているのではなく、こうした労働者、中流・下層、白人男性といった、自分の支持基盤を強化するために過激な発言をしています。
そのため、トランプの「移民排斥」「人種差別的発言」は確かに保守的に見えますが、労働者に仕事を作るために「大きな政府」的な公共事業政策を主張しているところは、リベラルでもあります。
また、対外政策に強硬な態度を取っているのは、単に国内経済の保護・優遇のためであり、ネオコン的な「アメリカの理念の国際社会での実現」を考えているわけではないと思われます。
さて、ここまでをまとめてみましょう。
- ネオコンは、左派の反ベトナム戦争、カウンターカルチャーをきっかけに保守に転向した勢力
- ネオコンの政治的影響力は、レーガン大統領当選時の保守勢力の合流がきっかけ
- 国内問題が大きくなる時期は、ネオコンの影響力は小さくなる傾向がある
- トランプは外交タカ派だがネオコンとは異なる思想を持つ
3章:ネオコンについて学べる書籍一覧
ネオコン(新保守主義)についてここまで説明してきましたが、ネオコン(新保守主義)は十把一絡げに論じられるものではありません。
各時代、各人物の思想を一つ一つ見ていかなければ、彼らの思想を理解することは難しいでしょう。
これから紹介する書籍を読めば、ネオコン(新保守主義)の思想やアメリカ政治の流れまで詳しく分かりますので、学生はもちろんビジネスマンや投資家にもおすすめします。
会田弘継『トランプ現象とアメリカ保守思想-崩れ落ちる理想国家』(左右社)
トランプ当選前に書かれた本で、ネオコンを含むアメリカの保守主義の流れとトランプ現象との関連について書かれています。トランプ政権の政治を理解するのにとても良い本です。
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宇野重規『保守主義とは何か反フランス革命から現代日本まで-』(中公新書)
ネオコンはそれ単体として学んでもあまり意味がありません。保守主義全体の流れから理解することが大事です。この本の3章ではアメリカの保守主義が通史的に書かれているため、とても分かりやすいです。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
この記事の内容をまとめます。
- ネオコンはユダヤ人知識人が中心となって生まれた、国際社会でアメリカ的理念を実現することを目指す思想
- ネオコンは、レーガン政権以降に影響力を強め、ブッシュ父、クリントン時には下火になったものの、9.11以降に再び影響力を持った
- トランプは外交に積極的だが、国内経済や自分の支持層へのアピールであり、ネオコンとは異なる
この記事では、他にもアメリカ経済や国際情勢に影響する思想を紹介していきますので、ぜひブックマークしてこれからも読んでみてください。