アメリカの連邦制とは、連邦政府と州政府との間で主権を分割しているアメリカの統治形態のことです。
アメリカの連邦制という政治の仕組みは、日本の中央・地方の関係とは大きく異なり、各州の独立性が非常に高い特徴があります。
そのため、アメリカの政治について理解するには、連邦制がどういう仕組みなのか、どういう歴史から作られたのかよく知っておくことが大事です。
そこでこの記事では、
- アメリカの連邦制という仕組みについて
- 連邦制が作られたアメリカ政治の歴史について
を詳しく解説します。
関心のある所から読んでみてください。
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1章:アメリカの連邦制とは
まずは、アメリカの政治制度全体における連邦制の仕組み、役割等の概要を解説します。連邦制がどのような思想、歴史から作られたものなのか知りたい場合は、2章からお読みください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:中央政府と州政府(連邦制)、地方政府
そもそも、アメリカの政治制度は大きく2つの仕組みによって作られています。中央と地方の関係である連邦制と、中央の中における権力分立制です。
- 連邦制:アメリカの連邦政府(中央政府)と州政府がそれぞれ権限を持ち分業している仕組みのこと。連邦政府は国防、外交、州間の商取引、国家財政・税制などの州を超えて行わなければならないことを役割とし、それ以外は州に権限がある。
さらに、州の下部に地方政府がある。 - 三権分立(権力分立制):連邦政府の中で、「立法府=議会」「行政府=大統領」「司法=連邦裁判所」という3つの権力が分立している仕組み。
この2つの仕組みは、イギリスを中心としたヨーロッパの政治制度の歴史に影響を受けつつも、アメリカ独自の歴史の中で形成されたものでアメリカ合衆国憲法で規定されています。
簡単に説明すると、中央政府(連邦政府)の中で、権力が独占されないように作られた仕組みが三権分立であり、その中でも行政府のトップが「大統領」ということです。
ただし、アメリカの場合は中央である連邦政府が強い力を持ちすぎないように、独立性の高い各州の政府が権限を持っています。この中央と州の関係が連邦制です。
アメリカの政治制度は、大きく上記の2つの仕組みから成り立っている、ということを頭に入れておいてください。
次に、アメリカにおける連邦政府と州政府が持つそれぞれの権限、役割について簡単に説明していきます。
日本の政治制度も三権分立制ですが、アメリカほどは権力が「分立」していない仕組みになっています。三権分立制について詳しくは下記の記事で説明しています。
【三権分立とは】権力はいかに独立し監視しあっているのかわかりやすく解説
アメリカの大統領制について詳しくはこちらで解説しています。
1-2:連邦政府の役割、権限
アメリカ合衆国はそもそも、当初は13の別々に作られた植民地の集まりとして始まったものです。そのため、それぞれの植民地の独立性を維持しつつ、国全体としての政治を行えるように中央政府である連邦政府が作られたという経緯があります。
したがって、アメリカの連邦政府が持つ権限は下記のものです。
- 課税、徴税権
- 合衆国の信用で金銭を借り入れる
- 諸外国、各州間、そしてインディアン部族との通商の制限
- 統一的な帰化、および合衆国全土に適用される破産に関する法律の制定
- 貨幣の鋳造、外国貨幣の価格規制、度量衡を定める
- 合衆国の証券、通貨の偽造に関する罰則を定める
- 郵便局の設置、郵便道路の建設
- 著作権の保障、学術、技芸の進歩の促進
- 最高裁の下に下位裁判所を組織する
- 公海上で犯された海賊行為、重罪行為、国際法に違反する犯罪を定義、処罰
- 戦争の宣言、船舶捕獲免許状を授与、陸上および海上における捕獲に関する規則を設ける
- 陸軍の編成、意地
- 海軍の創設、意地
- 陸海軍の統帥および規律に関する規則を定める
- 反乱の鎮圧、侵略の撃退のために民兵団を召集する規定を設ける
- 民兵団の編制、武装、規律に関する定めを設ける権限
- 特定の地域において、いかなる事項についても専属的な立法権を行使する権限
- 上記の権限およびこの憲法により合衆国政府またはその部門もしくは官吏に付与された他のすべての権限を行使するために、必要かつ適切なすべての法律を制定する権限2参考:米国大使館「アメリカ合衆国憲法」
後にも説明しますが、ここに列挙された権限以外は、州もしくは国民が持つものとされています。
これに対して、アメリカ合衆国憲法の第1条10節には、州政府に対する禁止事項が列挙されています。具体的には「条約、同盟、連合の締結」「貨幣の鋳造」「平時の軍隊の保持」「他州や外国との協定の締結」などです。
これらを除けば、州は独自に法律を持ち、政策を決定できるのです。
もちろん、連邦政府の法律や憲法と矛盾する法律は作れませんが、日本の地方政府に比べてずっと大きな権限を持っていることが分かると思います。
この記事でも詳しく解説していますが、アメリカ連邦制について理解するには以下の本がおすすめです。まずはスタンダードな知識から勉強してみてください。
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1-3:連邦政府の構成
連邦政府は、立法=連邦議会、行政=大統領、司法=連邦裁判所、連邦最高裁判所によって構成されており、それぞれが独自の権力を持ちつつ互いに緊張関係を持っています。
連邦政府は下院議員435名、上院議員100名で構成される議会で法律を制定します。
- 上院:50州の各州が2議席ずつ持つ
- 下院:州ごとに人口に比例して議席が割り当てられる
連邦議会で法案が承認されると、大統領がそれに署名して法律が成立します。大統領は拒否権を持つため、署名を拒否して成立させないこともできるようになっており、議会に対して大統領が一定の影響力を及ぼせるようになっているのです。
これは大統領の役割が議会が勝手な行動を起こすことを防ぐために作られていった、という歴史的な経緯が関係しています。
※アメリカの大統領制の仕組みや成立の歴史について、詳しくは下記の記事をご覧ください。【アメリカの大統領制とは】大統領の役割・成り立ち・選挙の仕組みまでわかりやすく解説
繰り返しになりますが、アメリカは最初から「アメリカ」というまとまった1つの国家だったわけではありません。それぞれが独立した主権国家のような性格を持った13の植民地から始まったため、州の独立性が高く、州の独立性を脅かそうとする連邦政府(中央政府)との関係には緊張関係があったのです。
その緊張関係を持った歴史の中で形成され変化してきたのが、連邦制という仕組みでああるため、連邦制という仕組みについて理解するには、その歴史を知らなければなりません。
そこで次に、連邦制形成の歴史を説明していきます。
- アメリカの連邦制とは、連邦政府と州政府が主権を分割する統治の仕組みのこと
- アメリカの連邦政府の権限は限定されており、州政府は一定の条件のもと、自由に立法、政策決定ができる
2章:アメリカ連邦制形成の歴史
13の植民地の連合体から始まった国家であるという特徴から、合衆国憲法に基づいて「アメリカ合衆国」という国家が成立してからも、州の独立性の強さは続きました。
日本の中央ー地方関係とも異なるもので、日本人にはイメージしにくいものかもしれません。そこで、アメリカ連邦制の生成の歴史を大まかにたどりながら、その特徴をみてみましょう。
2-1:アメリカ合衆国の成り立ちと連邦政府と州の関係
そもそも、アメリカ合衆国が誕生したのは、連邦政府が誕生した1789年です。
しかし、この時はそれぞれが主権を持つ13の「邦3※当初、それぞれの植民地は連合体を形成する上で、主権国家に近い性格を持っていたため、現在の「州」とは異なる「邦」という言葉で説明されることが多い。」が連合した、いわば半主権国家的な状態で、それは「アメリカ」というまとまった国家ではなく国家の連合体(アメリカ連合)だったのです。
しかし、このアメリカ連合は設立当初から問題を抱えていました。それは、「邦」同士の独立性が高すぎて国家としてまとまりのある政策が実践できなかったということです。具体的には、以下の点です。
- 連合議会に徴税権がない
- 連合議会に通商を規制する権限がない
- 各邦の議会が多数者の専制的な政策を行った(アメリカ全体のことを考えない、自分たちの邦の利害を優先した政策を行った)4参考:阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(全)』(ちくま学芸文庫)1章
簡単に言えば、邦の独立性が高すぎる≒連合政府(中央政府)の権限が弱いがために、まとまった政策が打ち出せなくなっていたのです。
さらに、アメリカ連合は連合規約という邦の政治を規制するルールを持っていたもの、その規約を変えるためには邦の全会一致が必要で、利害を侵害される邦が反対票を入れれば改正できなかったのです。
こうした経緯から、「アメリカ連合」を「アメリカ合衆国」というまとまりのある国家に発展させるために、1787年に各邦の代表がフィラデルフィアに集まり、4か月缶詰になって議論し起草したのが「アメリカ合衆国憲法」なのです。
1789年には、憲法にもとづいて連邦政府が発足し現在につながるアメリカという国の形が規定されたのです。
ただし、独立した植民地の集合体として作られたために、憲法制定の過程から連邦(中央政府)の権力と州の権力のバランスについて度重なる議論がなされるようになりました。この連邦と地方の議論について、簡単に概要を説明していきます。
2-2:新憲法起草の過程の対立
新たな憲法を起草する議論の中ではさまざまな論点が議論されましたが、大きな対立は以下の点でした。
- 中央政府の権限の強さに関する対立:強い中央政府VS州の主権・自由の重視
- 北部と南部の対立
- 規模の大きな州と小さな州の対立
連邦制という仕組みに強く関わるのは、特に最初の論点である中央政府の権限の強さに関する対立です。
繰り返しになりますが、そもそも新憲法が起草されたのは連合議会の権限が弱くアメリカ全体として統一的な政策が打ち出せなかったからでした。この問題意識から、ハミルトン、マディソンらは強い中央政府を構想しました。
しかし、アメリカ連合はもともと自由を求めて移住してきた人々を中心に作られたため、強力な中央政府が生まれると州の自由が失われてしまうと考え、ハミルトンらの思想に反対する人々が現れました。
そこで、連邦政府は憲法第1条8節にリストアップされた権限のみを保有する、ということになったのです。そして、リストされた権限以外は、すべて州と人民が保有しているものとされました(修正第10条)。
修正第10条 [州と国民に留保された権限] [1791 年成立]
この憲法が合衆国に委任していない権限または州に対して禁止していない権限は、各々の州または国民 に留保される5米国大使館「アメリカ合衆国憲法に追加され、またはこれを修正する条項」。
しかし、これで連邦政府と州政府の関係に関する議論が終わったわけではありませんでした。その後、連邦政府・州政府のそれぞれの権限の強さをめぐる議論は続いていくことになります。
2-3:憲法草案批准をめぐるアメリカ全土の議論
起草された新憲法案は、批准されなければ意味がありません。
実は、もともと、フィラデルフィアで行われた起草のための連合議会は各邦から集まった代表者たちが独自に行ったものだったため、新憲法を自分の邦に持ち帰った所で受け入れられない可能性もあったのです。
そこで、起草に関わった代表者たちは各邦で憲法批准の合意を得るための行動を始めることになりました。この批准をめぐるキャンペーンの過程で、以下の2つの勢力に分かれて対立が生まれました。
- 批准反対勢力:リパブリカン(共和党)=邦(州)の独立を重視し連邦政府に大きな権限を認めない(ただし、現在の共和党とは別物)。
- 批准賛成勢力=アンチ・リパブリカン(反共和党)=邦(州)よりも権限を持った連邦政府を作ることを目指す。やがて、フェデラリスト(連邦派)と自称するようになる。
新聞広告なども用いて激しくキャンペーンが行われ、連邦派のハミルトンはマディソンらとともに憲法の必要性を訴えた論文集を編纂しました。
これが政治史における古典『ザ・フェデラリスト』です。
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ちなみに、『ザ・フェデラリスト』では共和主義的理念が掲げられており、この理念は現代政治哲学の議論でもたびたび扱われます。くわしくは下記の記事をご覧ください。
【共和主義とは】古代・ルネサンス期・アメリカの伝統をわかりやすく解説
連邦派の人々はこうして、連邦政府の必要性を訴えたましたが、単に強い政府を作るだけであれば反対派の言うように政府が人民や邦(州)の自由を脅かしたり、政府が暴走してしまう可能性もあります。
そこで、アメリカでは政府の在り方を連邦政府と州政府、さらにそれぞれに三権分立を取り入れ「議会」「行政」「司法」の3つの分割したのです。
→三権分立について詳しくはこちら
反対はあったものの、こうした経緯を経て憲法は無事批准され、1789年に連邦政府が発足しました。こうして、アメリカ独自の連邦制(と三権分立)という仕組みが作られたのです。
もちろん、憲法は国家の最高のルールであるため、そう簡単に変更されることはできません。しかし、実際に運用する中でさまざまな問題が生まれたり、州の独立性を重視する人々によって批判がなされたりするようになりました。
そのため、憲法は司法判決を通じた判決によって、より具体的に検討されるようになっていきました。この過程でさまざまな事件があったものの、連邦と州の関係の転換点としては大きく以下の3つの出来事があります。
2-4:連邦と州の関係の転換①南北戦争
連邦と州の関係の転換点の1つは、南北戦争です。
南北戦争はアメリカ合衆国にとって、国家が分裂する建国以来の最大の危機でした。
■南北戦争とは
そもそもアメリカの南部諸州と北部諸州は独立以来、下記のような点で経済や価値観、政治的に対立してきました。
- 関税の対立(産業の強い北部の高関税の要求VS農業輸出の多い南部の低関税の要求)
- 奴隷制をめぐる対立(奴隷制廃止論が強い北部VS奴隷制を保護したい南部)があった
南北戦争の直接のきっかけとなったのは、奴隷制をめぐる対立でした。
北部と南部の妥協策だったミズーリ協定が無効になった(カンザス=ネブラスカ法)ことによって南北対立が決定的になり、1860年の大統領選で、奴隷制反対派が共和党に結集しリンカーンが大統領になります。
南部は政治的に少数派になる危機に陥り、連邦脱退を宣言して独自にアメリカ連合国を結成。
こうした分裂によって南北戦争が開戦したのです。
結果的に、南軍は降伏したものの、北軍36万人、南軍25万人の使者が出てリンカーンも1965年に暗殺されました。南部の大部分は軍政下におかれ、南部は共和党の影響化に置かれました(その後は南部の支配が崩れ、南部の白人は民主党支持に結集した)6参考:久保文明『アメリカ政治史』p.33-38。
このアメリカ分裂の危機から、連邦制の在り方にも転換があったのです。南軍の鎮圧のためには強い権力が必要であったため、州に対する連邦政府、特に大統領の力が強くなったのです。
具体的には、当時の大統領リンカーンは下記のような政策の多くを議会の承認なしに行い、それを批判する議会に対し憲法上正当な行為であると主張しました(議会は結局これを追認)。
- 南軍鎮圧のために各州から民兵が集められ、連邦軍に組み込む
- 南部の港を封鎖(実質はこれが宣戦布告であり、議会の承認なしに大統領が行うのは問題があった)
- 人身保護令状の一部の地域での一時的な停止
- 徴兵制の導入
- 所得税の導入、グリーンバック(紙幣)の発行
- 占領した南部の奴隷解放を宣言7参考:阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(全)』13章 No.2330、2450など
リンカーンは、これらの正当性を大統領が持つ戦争権限にあることを主張したのです。
こうしたリンカーンの行動によって州の自由、独立性は制限されることになり、それはその後のアメリカ政治でもそのまま維持されることになりました。
州の権限に対する連邦政府の権限の強化は、憲法上にも見られました。
前述のように南北戦争は奴隷制をめぐる戦争であった面が大きかったのですが、アメリカ全土で奴隷制を廃止させることは、州による自由な立法を制限することになるため困難でした。
そのため、憲法を改正して修正第13条が批准され、連邦政府は州の権限を抑えて個人の権利を保証したのです。
修正第13条[奴隷制の禁止] [1865 年成立]
第1項 奴隷制および本人の意に反する苦役は、適正な手続を経て有罪とされた当事者に対する刑罰の場合を除き、合衆国内またはその管轄に服するいかなる地においても、存在してはならない。
第2項 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する8米国大使館「アメリカ合衆国憲法に追加され またはこれを修正する条項」。
2-5:連邦と州の関係の転換➁19世紀末の革新主義
建国の歴史からも分かるように、もともとアメリカは自由主義の伝統を持つ国であり、連邦政府の権限の拡大に対して個人や州の独立性・自由が阻害されることが懸念されてきました。
しかし南北戦争後、アメリカは、
- 著しい経済発展
- 工業化
- 人口増加(新移民の渡来)
- 都市化の加速など
といった大きな社会変革が起こり、国内では新たにさまざまな問題が発生し、政府がその対処を迫られるようになりました。こうして連邦政府の権限が拡大が進むのです。
この連邦政府拡大の背景には、革新主義の台頭がありました。革新主義とは、社会経済的課題に対して積極的に改革を唱える姿勢のことです。
- 前述のような大きな社会変動によって、主に都市部の中間層の人々は改革の必要性を唱え、まずは地方政治で改革が求められる
- そこで各都市・州では、政治的腐敗根絶のための予備選挙の導入、女性参政権の確立、工場法・最低賃金法の立法など、革新的な政策が進められた
- また、都市における貧困問題解決のための政策も積極的に取り組まれた
さらに20世紀に入ると、革新主義の運動は連邦政府にも影響を与えます。具体的には、セオドア・ルーズベルト大統領によって社会経済的問題に対する革新的な政策が行われ、その結果、連邦政府(特に行政府)の権限が拡大されたのです。
2-6:連邦と州の関係の転換③:憲法革命
ここまでも見てきたように、アメリカ合衆国の成立以降、連邦と州の関係は対立的で、常に互いの権限をめぐって争われてきました。
その関係が大きく変わった転換点に、1930年代のニューディール関係法に関する最高裁の判決もあります。
ニューディール関係法とは、1929年にアメリカの株式市場から始まった世界恐慌に対応するために作られた法律です。世界恐慌はアメリカ建国以来の経済危機であったため、連邦政府が強い権限を持って経済政策を行う必要があったのです。
この記事ではニューディール政策の詳しい個別の政策については解説しませんので、詳しくは下記の記事をお読みください。
ニューディール政策では、政府が経済への介入を最小限にするという意味だった「自由主義(古典的自由主義)」的政策から、政府が経済に積極的に介入する「自由主義(新自由主義:ニューリベラリズム)」へと転換したことが特徴的でした。
アメリカの自由の伝統が、これをきっかけに大きく変わっていったということです。大まかに言えば、大統領を中心に行政府の権限をかつてないほど強化し、その強い権限を使って経済に介入しようとしたわけです。
これまでのアメリカの連邦VS州の対立を見れば、連邦政府の力が強くなることに対して、反発が起こることは容易に分かると思います。
実際、当時の最高裁はニューディール関連法を次々に違憲と判断しました。これは、最高裁に保守派(自由な経済、小さな連邦政府を志向)の判事が多く、ニューディール政策を進めたフランクリン・ルーズベルトらの進歩派(経済に積極介入、大きな政府)と対立したということです。
詳しい内容は知らなくても問題ありませんが、大まかには以下のような出来事がありました。
- ルーズベルトは民主党で、議会も民主党が多数を占めていたため、議会は次々とルーズベルト政権の新法案を可決
- ニューディール政策導入後、全国産業復興法(NIRA)を皮切りにニューディール法のうち重要な判決を10回下し、うち8回の判決が違憲だった
- ルーズベルト政権は、この判決に不満を持ち、同じようなニューディール関連法を再び議会で制定
- 最高裁の保守的な態度は民主主義を軽視したものと批判されるようになる
- その後、最高裁判事がリベラル派と交代し、保守的態度を転換して合憲判決を出すようになる
- その後、連邦政府による経済に介入する規制は、ほとんどが合憲とされるようになった
このように、ニューディール政策をきっかけに生まれたルーズベルト政権と最高裁の対立は、ルーズベルト政権の進歩派の勝利に終わり、経済活動への積極介入が正当化されるようになったのでした。
※このように経済活動に積極介入する政府のスタンスは福祉国家と呼ばれます。詳しくは下記の記事で解説しています。
【福祉国家とは】3つの分類と誕生〜現代までをわかりやすく解説
前述のように、アメリカ連邦政府の持つ権限は憲法第1条8節に列挙されたもののみでしたが、経済への介入は「通商条項」というそのうちの1つを根拠に、ほぼ自動的に合憲とされるようになったのです。その結果、連邦政府と州のパワーバランスは大幅に変わり、州の独自性は削がれてしまったのでした。
このように、建国から様々な歴史的出来事を乗り越える中で、連邦と州の関係が変わり、新法の制定や憲法の判決を経て現在の連邦制が成立してきたのです。
ちなみに、ニューディール政策以降福祉国家的な政策が主流になりましたが、その政策のスタンスは1980年代の新自由主義の台頭によって転換します。くわしくはこちらの記事をごらんください。
【新自由主義とは】定義・問題点・生まれた背景をわかりやすく解説
- 連邦制の仕組みは、アメリカが13の独立した植民地から始まったという歴史的背景から生まれている
- 13の植民地は、統一的な政府の必要性からアメリカ連合を作り、それがアメリカ合衆国へと発展した
- 連邦制の仕組みは合衆国憲法で規定されているが、南北戦争、国内経済や人口などの大きな変動、世界恐慌といった出来事からその在り方は転換してきた
3章:アメリカ連邦制に関するおすすめ本
アメリカ連邦制について理解できたでしょうか?
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阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(全)』ちくま学芸文庫
この本は、アメリカ合衆国憲法からアメリカの歴史を解説するもので、前提知識がなくても理解できるように、分かりやすく解説されています。この記事を執筆する上でも参考にしました。非常におすすめです。
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久保文明『アメリカ政治史』有斐閣
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- アメリカの連邦制とは、連邦政府と州政府が主権を分割する統治の仕組みのこと
- アメリカの連邦政府の権限は限定されており、州政府は一定の条件のもと、自由に立法、政策決定ができる
- 連邦制の仕組みは、アメリカが13の独立した植民地から始まったという歴史的背景から生まれている
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
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