政治学各論

【内閣とは】役割・仕組みから成立の歴史までわかりやすく解説

内閣とは

内閣(Cabinet)とは、国会で決められた法律や予算に基づいて、国の仕事を進めていく行政機関のことです。

日本の内閣は、三権分立の制度上は行政権のみを担っているものの、国会の立法権や裁判所の司法権の力を上回っているのではないかという議論になることがしばしばありました。

戦後、際立って内閣の力が過剰に暴走したことはありませんが、内閣がどういうものなのか、どうして内閣のシステムがこのような形態なのかを理解することは、政治を監視する立場である一国民として不可欠であると言えます。

そこで、この記事では、

  • 内閣の役割
  • 内閣はどのように構成されるのか
  • 内閣の歴史

を中心に解説していきます。

好きな箇所から読んでみてください。

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1章:内閣とは何か

1章では、具体的に内閣とはどのような仕事をし、どのような立ち位置なのかといったかを解説していきます。

1-1: 三権分立と内閣

まず、内閣が何かを理解するためには、三権分立のシステムを考える必要があります。三権分立とは、一箇所に国の権力を集中させるのではなく、三機関に分散させることです。

三権分立のメリットは、強大な国家が権力を濫用するのを防ぐ働きがあることです。それによって、国民主権の社会を守ることができているからです。

より詳しくは、以下の記事では詳細に解説してます。

【三権分立とは】権力はいかに独立し監視しあっているのかわかりやすく解説

三権分立の制度では、国の権力は立法権と行政権と司法権に分かれています。日本では、立法権は国会が、司法権は裁判所が、そして行政権は内閣が担当しています。

国家に関しては、次の記事を参照してみてください。

【国会とは】役割・仕組み・歴史をわかりやすく解説

1-2: 日本の内閣の役割

では、内閣はどのような役割を果たしているのでしょうか?まず、憲法73条で定められている内閣の仕事のうち重要な「法律の執行」「条約締結」「予算の発案権」を紹介いたします。

1-2-1: 法律の執行

まず最も重要な仕事として、法律の執行が挙げられます。すなわち、立法機関である国会で制定された法律を実行に移すのが内閣の役割です。

この法律の執行の例として、景気を回復・安定させる財政政策、年金や医療体制の整備といった社会保障政策、さらには森林資源をどう守るかといった環境政策等が挙げられます。

1-2-2: 条約締結

また、条約締結も重要な内閣の役割です。内閣には外交権という諸外国と交渉して条約を結ぶ権限が与えられています。

ただ、条約が内閣の恣意的な都合で結ばれるのを防ぐために、内閣は条約の調印後国会の承認を得る必要があります。

1-2-3: 予算の発案権

さらにもう一つ内閣の大きな役割として、予算の発案権があります。つまり、予算を策定することができるのは内閣だけということです。

ただ内閣は予算案を完成後、それを国会に提出しなければなりません。予算案が適切なものかを国会で審議し、承認を得る必要があります。

ここまで内閣の大きな仕事を3つ挙げましたが、ここまで見て分かるように、内閣は国会ととても深い関係性を持っています。その意味で、国会の承認が内閣を動かしているとも言えます。

これこそ、1-1で紹介しました三権分立というシステムです。つまり、行政権という強大な権力を持つ内閣を統制するために、立法機関である国会が監視しています。



1-2-4: その他の役割

他にも内閣の役割として、

  • 天皇の国事行為についての助言と承認
  • 最高裁判所長官の指名(任命は天皇が行う)とその他の裁判官の任命
  • 政令の制定
  • 衆議院の解散

が挙げられます。それぞれ細かく解説していきます。

天皇は日本国憲法が戦後誕生したことで、国政に関わる権限を一切失いました。しかし、日本国憲法に定められている国家的行事を形式的、儀礼的に執り行う義務は課されています(これを国事行為と言います)。

→象徴天皇制について詳しくはこちら

そこで内閣に、天皇の国事行為に対する助言と承認の役割が与えられました。ですので、国事行為に関しては内閣が責任を負うことが定められています。

また、最高裁判所長官の指名とその他の最高裁判所の裁判官の任命、さらには下級裁判所の裁判官の任命も内閣の役割です。これは、三権分立の制度に当てはめると、行政権による司法権の監視(あるいは統制)の一種に入ります。

また、政令の制定を行うのも内閣です。前述したように内閣の役割の一つとして法律の執行が挙げられますが、憲法や法律の規定を社会の中で実施するために必要な命令を政令と言います。

ただし、内閣は政令を制定する際、法律で定められていない限りは義務や罰則を設ける、あるいは人権を制限する内容を政令の中に組み込むことはできません。

さらには、内閣は衆議院を解散することが可能です。これは三権分立の制度において内閣(行政権)が国会(立法権)を統制する役割の一つとして挙げられます。

衆議院を解散する時は、主に内閣不信任決議が国会で成された場合ですが、内閣が衆議院での与党議席を増やすことを目的として国民に意思を問うときにも解散は可能です。

1-3: 内閣の構成員とその役割

続いて、内閣の構成員とその役割を紹介していきます。

1-3-1: 内閣の構成員

内閣は、内閣総理大臣十名強の国務大臣(例えば財務大臣など)によって構成されます。そして、以下のように内閣のメンバーは選ばれます。

  • 内閣総理大臣
    →国会の議決によって国会議員の中から指名され、国事行為の一つとして天皇から任命される
  • 国務大臣
    →内閣総理大臣によって、人選・任命され、こちらも国事行為に一つとして天皇からの認証を受ける。ちなみに、国務大臣を罷免(やめさせること)ができるのは内閣総理大臣である

内閣の構成員のルールとして、内閣総理大臣と国務大臣は文民(軍人でない人)でなければなりません。

加えて、国務大臣の過半数は国会議員である必要があります。裏を返せば国会議員以外を国務大臣に登用することが可能です。従って、ごく稀ですが学者や大学教授が国務大臣を担うこともあります。

では一体、内閣総理大臣と国務大臣はどのような役割を担うのでしょうか?

内閣総理大臣はその名の通り、内閣の中心、すなわち行政全体を管轄するトップの存在です。従って、主な役割としては、

  • 国務大臣の人選
  • 内閣の統率
  • 国会での説明
  • 外交
  • 国民の安全を守る(たとえば、甚大な災害が起きた際に、自衛隊に出動命令を出す)

といったものが挙げられます。

一方、国務大臣(閣僚)は各省庁の仕事を進めるので、総理に比べると役割が実務的であるのが特徴です。以下で主な国務大臣を確認します。

  • 文部科学大臣
  • 環境大臣
  • 総務大臣
  • 厚生労働大臣
  • 防衛大臣
  • 法務大臣
  • 農林水産大臣
  • 外務大臣
  • 経済産業大臣
  • 財務大臣
  • 国土交通大臣
  • 国家公安委員長
  • 内閣官房長官
  • 復興大臣
  • 内閣府特命担当大臣

まず、文部科学大臣から国土交通大臣は各省庁のトップです。たとえば、農林水産大臣は農林水産省のトップであり、日本の農業、林業、水産業を管轄する組織全体を取り仕切る最高責任者の役割を果たします。

国務大臣の多くは各省庁のトップですが、例外的な国務大臣も複数いるので理解しておくと有益です。簡潔にまとめれば、以下のような国務大臣がいます。

国家公安委員長・・・大臣と名前はついていませんが、日本の警察組織を管轄する国務大臣の1人です

内閣官房長官・・・国務大臣の1人です。内閣官房長官は内閣官房という総理を補佐する組織のトップであり、いわば総理の事務方の役割です。従って、しばしば総理の右腕と言われます。

復興大臣・・・期間限定で設けられている復興庁(東日本大震災からの復興を支援する)という部門のトップです。他には東京オリンピック、パラリンピック競技大会担当大臣がいます。復興大臣は2020年度末まで、五輪担当大臣は東京五輪が終了するまで設置される役職です。

内閣府特命担当大臣・・・政府が進める政策や、課題解決のための専任として働く大臣のことです。たとえば、現在は、少子化対策、マイナンバー制度、地方創生、原子力防災、宇宙政策といった特命担当大臣が存在します。多くの大臣はこれらの担当を掛け持ちしています。



1-4: 内閣の仕組み

では、どのように仕事が遂行されているのかを確認していきましょう。

まず、閣議について説明します。内閣の意思決定、すなわち政府の決め事は基本的に閣議で行われます。閣議は基本的に内閣総理大臣と国務大臣が出席する会議で全会一致方式です。

閣議で決定された法案や予算案は国会に提出され、承認を受けます。また閣議で決定された政策は各省庁によって実行されます。

たとえば、法律案の作成から成立までの流れを見てみましょう(ここでは内閣立案の法律案の流れについて説明いたします)。

  1. まず、法律案原案作成はその法律を所管する各省庁において行われる(道路に関する法案なら国土交通省等)
  2. 各省庁の国務大臣が原案を作るように指示を出し、省庁で働く職員(官僚)が実際に作成する
  3. ここで作られた法律案の原案は次に内閣法制局において審査される
  4. そして、修正が施された上で、閣議で決定される
  5. 完成した法律案は内閣総理大臣によって国会に提出される
  6. 最終的に国会において審議、承認されてようやく法律は成立、公布される

続いて、予算案の作成から成立までの流れも合わせて確認しましょう。

  1. まず、予算案は財務大臣の指示の下、財務省の官僚が他の省庁にどのくらいの予算が必要かを聞き取る(概算要求)ことを通して作成される
  2. 財務省で作成された予算案原案は内閣に提出され、閣議決定で承認される
  3. 国会では、予算委員会、中央公聴会、議院本会議を通じて審議が可決されて、ようやく予算案は成立する

政策も同様に、閣議で決定された政策(政令)は担当の各省庁に回され、国務大臣の指示の下、官僚が遂行するという流れです。

1章のまとめ
  • 内閣とは、国会で決められた法律や予算に基づいて、国の仕事を進めていく行政機関のことである
  • 内閣の重要な仕事は、「法律の執行」「条約締結」「予算の発案権」である
  • 内閣は、内閣総理大臣と十名強の国務大臣によって構成される
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2章:日本の内閣の成立と変遷

さて、2章では内閣がどのように生まれ、どのような変遷を辿っていったのかを解説していきます。

2-1: 内閣の誕生

まず、内閣制度は1885年にそれまでの太政官制度に代わって創設されました。確認ですが、初代内閣総理大臣は伊藤博文です。

では、なぜそれまでの太政官制度を廃止してまで内閣制度が作られたのでしょうか?

2-1-1: 家柄の否定

まず、一つ目の理由として、封建的な身分関係の否定(家柄の否定)が挙げられます。ここでいう、封建的な身分関係とは次のようなものです。

  • それまでの太政官制度は明治維新の時に、古代の律令制を真似て作られたもの
  • 従って、太政官制度での要職(太政大臣、左大臣、右大臣)につくことができたのは公家(朝廷の貴族)のみだった

しかし、近代国家として歩み出すためにはこうした既存の身分関係を否定し、実力本位、人物本位の世の中を目指さなければなりません。

そうした近代化の一環として、内閣制度は創立されました。伊藤博文という百姓の出の者が総理大臣を務めたことも封建的な身分関係の否定を象徴していると言えるでしょう。

2-1-2: 権力集中の否定

もう一つの理由として、太政官制度における極度とも言える権力集中が挙げられます。太政官制度では太政大臣と左大臣と右大臣に権力が集中しており、国政を進める際は常にこれら三者に伺いを立てる必要がありました。

しかしこうした制度では、近代化の流れの中で複雑化する政治問題解決や政策決定に支障をきたしてきました。そこで内閣制度を創設し、各省庁をある程度独立させることで、迅速に政治を進めることが可能になっていきます。



2-2: 内閣官制の制定

その後、1889年に明治憲法が発布され、内閣官制が制定されました。当初、内閣総理大臣は国務大臣と同等の立場であると規定され、他の国務大臣を罷免する権利も与えられていなかったため、たびたび内閣総辞職が起き、政局が不安定でした。

その後、内閣官制が改定され、総理の権力強化は幾分図られました。しかし、戦前までの内閣の人選は、以下のような状況がありました。

  • 元老や重臣会議(明治維新を成し遂げた薩長土肥出身の重鎮で天皇の側近)といった憲法では定められてない機関によってされることが多く、立憲政治とは言い難い状況であった
  • 従って、内閣はいわば重鎮のいいなりであり、実質的権力は持っていなかった
  • また、軍部大臣現役武官制(陸海軍大臣は現役の大将、中将を充てる)という制度があり、軍部が陸海軍大臣の人選権を持っていたため、内閣は軍部の意向も重視しなければならなかった

内閣の力不足が結果、軍部の暴走を招き、悲惨な戦争を起こすことになったという側面もあります。

2-3: 戦後

戦後、GHQによって明治憲法に変わり日本国憲法が定められると、内閣は現在の形になりました。

つまり、

  • 憲法65条によって、名実ともに内閣は行政権の中心を担うことになった
  • 憲法67条では内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で指名することが定められ、議院内閣制が確立された

のです。

また、内閣官制は廃止され、内閣法が制定され内閣と内閣総理大臣の権限強化が図られました。

大まかですが、私たちが今見る、内閣とはこのような歴史をもちます。

2章のまとめ
  • 太政官制度は「封建的な身分関係」と「権力集中」のために拒否された
  • 1889年に明治憲法が発布され、内閣官制が制定された
  • GHQによって明治憲法に変わり日本国憲法が定められ、内閣は現在の形になった

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3章:内閣について学べるおすすめ本

内閣について理解いただけたでしょうか?

最後に、内閣について詳しくわかる本を2冊ほど紹介いたします。興味があればぜひ読んでみてください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 山口二郎『内閣制度』(東京大学出版会)

戦後の内閣の歴史を詳しく解説した本です。憲法学の立場から内閣を位置づけていますので、非常に勉強になると思います。

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オススメ度★★ 川人貞史『シリーズ日本の政治1〜議院内閣制〜』(東京大学出版会)

日本の議院内閣制を諸外国と比較したものです。内閣の立ち位置や役割を再度把握できると共に、日本の政治制度について深く考えさせられる本です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 内閣とは、国会で決められた法律や予算に基づいて、国の仕事を進めていく行政機関のことである
  • 内閣の重要な仕事は、「法律の執行」「条約締結」「予算の発案権」である
  • GHQによって明治憲法に変わり日本国憲法が定められ、内閣は現在の形になった

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参考文献

首相官邸ホームページ「閣議」最終閲覧日 2020年6月10日

首相官邸ホームページ「内閣制度の概要」最終閲覧日 2020年6月10日