ポストフェミニズム(Post feminism)とは、特定の思想や運動ではなく、ジェンダー間の平等は達成され、フェミニズムは必要なくなったという「社会状況」を指します。
ポストフェミニズムに関する一連の議論を抜きに、21世紀の女性の連帯を考えることはできません。
そこで、この記事では、
- ポストフェミニズムの背景・目的
- ポストフェミニズムの具体的な運動
などをそれぞれ解説していきます。
関心のある所から読み進めてください。
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1章: ポストフェミニズムとは
1章ではポストフェミニズムを「背景」「特徴」から概説します。より具体的な運動・思想を知りたい場合は2章からお読みください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: ポストフェミニズムの背景
さっそくですか、ポストフェミニズムが生まれた背景とはどのようなものでしょうか?この点を理解するためには、フェミニズムの歴史を押さえる必要があります。
簡単にいえば、フェミニズムには以下のような「波」があります。
- 第一波フェミニズム・・・近代ヒューマニズムとともに生まれ、女性参政権をはじめとする「男並み」の権利を求めたもの(→より詳しくは第一波フェミニズムの記事)
- 第二波フェミニズム・・・男性を中心にした近代社会そのものを問題化したもの(→より詳しくは第二派フェミニズムの記事)
ポストフェミニズムの関係で特に大事なのは、第二派フェミニズムです。これは1960年代後半に公民権運動や学生運動の波と同時期に起こった女性解放運動でした。この運動では、法制度では覆いきれない社会的な抑圧全体を問題としました。
第二派フェミニズムが提起した問題
- 教育と雇用の場での機会均等
- 性差別の是正
- 中絶
- セクシュアル・ハラスメント
- 日常に潜む性差別など
そして、1980年代をつうじ先進諸国では第二派フェミニズムの目標がある程度達成されていきます。
その結果、公私領域における地位の向上やメディア表象における性差別の是正など、女性にとって、政治的にも社会的にも文化的にも権利が認められるようになったとみなされました。これが契機となって、1980年代にポストフェミニズムは生まれます。
ここで注意しなければならないのは、ポストフェミニズムには注目された時期が二つあるとことです。ひとつはこの言葉が誕生する1980年代で、もうひとつは2000年代です。それぞれ解説していきます。
1-1-1: 1980年代
ポストフェミニズムという言葉が最初に登場したのは、『ニューヨーク・タイムズ』にスーザン・ボロディンが書いた「ポストフェミニズム世代の声」(1982年10月)とされます。
これは多くの若い女性たちが「私はフェミニストではありません。でも……」という定型句のあとに「男女は平等の権利をもつべきと考えます」「女性は男性と同じ仕事に対して同じ報酬を受けるべきです」という主張を口にするという現象について論じた記事でした。
ところが、それを契機に「フェミニズムは終わった」とマスメディアがこぞって喧伝しました。女性の驚異的な社会進出や性の解放など第二波フェミニズムの成果は認めるにせよ、これ以上のジェンダーの変革は有害であるという議論が盛んに聞かれるようになったのです2有賀夏紀 2010 「アメリカ・フェミニズムの現在――第三波フェミニズムなのか」有賀夏紀編『アメリカ・ジェンダー史研究入門』青木書店 300頁。
1-1-2: 2000年代
その後、2000年代にポストフェミニズムはカルチュラル・スタディーズの流れをくむジェンダー研究によってふたたび光が当てられます3菊地夏野 2019 『日本のポストフェミニズム――「女子力」とネオリベラリズム』大月書店 71頁。それは、保守派の反発を受けて流通したポストフェミニズムという言葉に、新自由主義の分析眼をくわえたものでした。
新自由主義とは、戦後復興を経て成立した福祉国家がオイルショック以降の不況により見直しを迫られ、80年代に新たに登場した政治経済体制のことを指します。
※より詳しくは、以下の記事で解説しています。
大きな政府を批判的にのりこえ、小さな政府を目指す新自由主義体制への移行によって、政治経済だけでなく文化的な観点からも新自由主義化が進み、私たちの生活レベルや思考様式にまで多大な変化が起こります4ハーヴェイ、デイビッド 2007『新自由主義――その歴史的展開と現在』渡辺治監訳 作品社 11頁。
具体的には、
- 自己管理、自己監視、自己統御が強調され、個人主義、自己選択、エンパワメントが重要になった
- 「私探し」による自己実現の流行とともに、それにそぐわないものは自己責任という理屈で「負け組」として社会から排除される傾向が強まった
のです。
2000年代以降、再登場したポストフェミニズムの定義は、基本的にこの新自由主義下における女性とフェミニズムの状況のことを指します。それは、以下のような社会的状況を意味するといえるでしょう。
- かつて第二波フェミニズムで訴えられた女の連帯によって解放を目指すシスターフッドは捨て置かれ、個人主義的な成功・立身出世が女の人生すごろくのゴールだとされる社会状況である
- ここでは、女性が女性として連帯することは重要ではなく、女性個人の成功が鍵となる
一方で、1990年代に登場した「第三波フェミニズム」を忘れてはいけません。(→第三波フェミニズムに関してはこちら記事)
これらの運動は第二波フェミニズムやポストフェミニズムへの批判を含みながら、第三世界の女性たちや非白人女性など非主流派の女性たちによって担われました。そして、第二波フェミニズムを批判的に継承するかたちで「第三波フェミニズム」と呼ばれるようになりました。
ライオット・ガール・ムーブメントからポストコロニアルフェミニズムまで、混沌としたイメージのある第三波フェミニズムですが、一貫して、多様性と選択の自由を尊重する点で共通しています5有賀 同上 311頁。
ちなみに、ポストフェミニズムを第三波フェミニズムと同義で見るか、含まれているものと見るか、別の動きとして見るか、論者によってまちまちで現時点で評価が定まっていません。
ポストフェミニズムがさまざまな意味で把握されていることは、フェミニズムのおかれた状況が複雑なことを示しているともいえます。この記事では、ポストフェミニズムと第三波フェミニズムとは異なるものとして見る立場で説明していきます。
1-2: ポストフェミニズムの目的
ポストフェミニズムの定義をもう一度ふりかえると、ジェンダー間の平等は達成され、フェミニズムは必要なくなったという状況となります。では、この「状況」とは一体どのようなものでしょうか?
お気づきだと思いますが、時代的区分や思想や運動を示すほかのフェミニズムとは異なり、ポストフェミニズムは、反フェミニスト的な感情によって特徴づけられる社会文化的な「状況」のことを指します。つまり、社会意識や言説の一定の傾向といえます。
ポストフェミニズム研究は、カルチュラル・スタディーズの流れを汲む、メディア研究のアンジェラ・マクロビーが『The Aftermath of feminism(フェミニズムの余波)』(2009)で土台を築きました6菊地 同上。
ポストフェミニズム論の代表的な論者としてはアンジェラ・マクロビーのほかに、シェリー・バジェオン、ロサリンド・ギルなどが挙げられます。論者によって議論される内容は異なります。
しかし、共通しているのは、
- 「フェミニズムは終わった」という言説が支配的になっていること
- 反フェミニスト的感情が一般に、とくに若い女性に広がっていることを危惧していること
にあります。
ポストフェミニズム研究の代表的な分析対象として「セックス・アンド・ザ・シティ」(1998−2004)と、「ブリジット・ジョーンズの日記」(2001)の2作品が挙げられます。
- 主人公たちは女性の身体とセクシュアリティを重要なアイテムとすることによって女らしさを享受し、男性とのロマンティックな関係や恋のかけひきが物語の主題となっている
- かつて男を喜ばせるために男への従属の証拠とされていたセックスにまつわる諸行為が、「自分自身であるため」「自身の欲望に従った」もの、つまり自分の選択の結果であると説明されるようになった
このような点が、ポストフェミニズムの文化の特徴です7三浦玲一 2013「ポストフェミニズムと第三波フェミニズムの可能性――『プリキュア』、『タイタニック』、AKB48」三浦玲一編『ジェンダーと自由』彩流社 63頁。ここから、以下の点がいえるでしょう8菊地 同上 96−7頁。
- 個人の選択やエンパワメント等のフェミニズム的な語彙が広がった代わりに、女性たちは新しい女性性を身につけるよう社会的に要請されている
- その上、そのような新しい女性性をとりまくように、性差を再強化する言説が流行してもいる
- このように、フェミニズムと反フェミニズムが同居している点がポストフェミニズムを把握する難しさである
以上、みてきたように、ポストフェミニズムとは、具体的な運動や思想ではなく、社会的・文化的な「状況」を表す言葉であり、それらを分析するための考え方のひとつです。
セックスに主体的で欲望をかくさず、自分の選択に従う「私らしい」女性たちは、新自由主義のもとライフスタイルや消費の選択の自由を得たことにされてきたわけです。
しかし、本当にフェミニズムはもう必要なくなってしまったのでしょうか?女が連帯し社会変革を目指すことはもう古臭いことになってしまったのでしょうか?この点は2章でより詳しくみていきます。
- 1980年代をつうじ先進諸国では第二派フェミニズムの目標がある程度達成された
- 主にマスメディアがその「状況」をポストフェミニズムと呼んだ
- 2000年代に入ると、カルチュラル・スタディーズの流れを汲む研究者により、ポストフェミニズムと新自由主義との関連が指摘されるようになった
2章: ポストフェミニズムの具体的な動き
この章では、ポストフェミニズムの具体的な動きについて、フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ、さらには日本の新自由主義とポストフェミニズムの関係を中心に見ていきます。
2-1: アメリカ〜『リーン・イン――女性、仕事、リーダーへの意欲』
ポストフェミニズムを端的に示す書物として、フェイスブック社の最高執行責任者(COO)であるシェリル・サンドバーグの『リーン・イン――女性、仕事、リーダーへの意欲』(2013)が挙げられます。ここでは、河野真太郎の分析をもとに見ていきたいと思います9日本ヴァージニア・ウルフ協会・河野真太郎ほか編 2016『終わらないフェミニズム――「働く」女たちの言葉と欲望』研究社 ⅱ頁。
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詳しく解説に入る前に、サンドバーグの半生を簡潔に紹介します。
- サンドバーグはハーバード大学にて経済学の学位、ハーバード・ビジネススクールにて経営学修士(MBA)を取得する
- その後、マッキンゼーでコンサルタント、グーグルでグローバル・オンライン・セールスおよびオペレーション担当副社長、財務省首席補佐官を歴任し、2008年にフェイスブック社の最高執行責任者(COO)となった
- プライベートでは2004年に当時ヤフー社の重役だったデイヴ・ゴールドバーグと結婚し、2子をもうける
- 2015年に夫が心臓発作で死亡後、シングルマザーとして情報を発信してきた
- 2020年2月、インスタグラムにてコンサルティング会社ケルトン・グローバルの設立者で俳優のジョン・バーンサルの兄である、トム・バーンサルとの婚約を発表した
この本は、2010年に行われたTED講演会での「なぜ女性リーダーは少ないのか」というタイトルのプレゼン(なんと1000万ビュー超!)をもとに書かれています。タイトルである『リーン・イン』には、女性たち一人ひとりに向けて一歩踏み出そうという意味があります。(→プレゼンはこちらから観ることができます)
『リーン・イン』は自分自身の職業経験と家庭、子育てを振り返りながら、女性の幸せとキャリア上の成功を手に入れるための方法を伝授する内容で、全世界で150万部を超えるベストセラーとなりました。
さて、富も名声も家庭も子どももすべてを手に入れたともいえるサンドバーグは、フェミニズムが獲得しようと目指した、解放された女性像だといえるでしょうか?
サンドバーグ自身は、第10章「声を上げよう」において、堂々と自分をフェミニストだと呼びたいと宣言しています。しかしながら、サンドバーグの理想とは、男女が差別されることなく職業においてその能力を最大限に発揮し、評価されることです。フェミニズムの理想とは、人間が男女に関係なく最大の生産性を発揮することなのでしょうか?
河野によれば、ここでは二つのものが排除されているといいます10日本ヴァージニア・ウルフ協会・河野ほか編 同上 ⅳ頁。
- 集団的な連帯による変革の可能性
- 当事者以外が客観的な公正の観点から変革をもたらす可能性
実際、サンドバーグはこの本の出版後、リーンインサークルという「女性が野心を持って、挑戦することができる社会」を実現するために、コミュニティ・サークル活動を120カ国で展開しています11https://leanintokyo.org。
注目すべきは、このボランティアベースのサークル活動です。この活動では当事者同士が経験談をシェアするワークショップを開いたり、ネットワーキングを重ねたりと、支え合いによる個人の内面の変化によって性の問題を解決しようとしている点です。
この手法は、第二波フェミニズムが積極的にとったコンシャスネスレイジング(CR)活動と共通しています。
ただ大きく異なるのが、その目的です。具体的にいえば、次のとおりです。
- CRのような集団的な連帯による社会変革の可能性を追求するものではなく、リーンインサークルでは個々の女性がいかに労働市場で競争し勝ち上がることができるかに重点が置かれている
- そこからは、弱者や権力、無償労働へのまなざし、そしてシスターフッドが消えてしまっている
- 女性のエンパワメントの美名のうらに見え隠れしているのは新自由主義である
この節の最初の問い、「サンドバーグはフェミニズムが獲得しようと目指した解放された女性像なのか?」という問いに戻れば、現時点では残念ながらうなずくことができません。
河野が「サンドバーグとは何者であろうか。それは、賃金格差のもとで搾取を受ける女性労働者を隠すための遮蔽幕である」12河野真太郎 2017 『戦う姫、働く少女』堀之内書房 37頁と断定するように、18億ドルの資産をもつといわれるサンドバーグと、時間で区切られた低賃金にあえぐ女性労働者とは、とても手をつなげそうにありません。
このような状況下で、どうしたら、女性たちはふたたび解放を目指し、連帯することができるのでしょうか?
2-2: 日本〜女性が輝く
つづいて、女性たちの連帯可能性を探るために、日本の新自由主義とポストフェミニズムの関係について、三浦玲一の議論を参照しながら考えてみたいと思います13三浦 同上。
まず、三浦は、日本のポストフェミニズムにおいて1986年に施行された男女雇用機会均等法が決定的に大きな意味を持つといいます。
男女雇用機会均等法の概要
- 均等法によって、総合職と一般職の区分けによるコース別雇用が登場する
- これにより、学卒後一般職で就職した女性たちの多くが結婚・出産退職をし、子育てが一段落ついた中年期にパートや派遣などの非正規労働者として企業に雇われる「M字型就労」ともいわれる中断再就職型のライフコースが出現する
つまり、この時期に「男が稼ぎ、女が家事」という性別役割分業に代えて、「男女ともに稼ぎ、女は家事も」というスタイルが推奨されはじめるのです。しかし、実際は、男性労働者が家族給を得ることで維持されるシステムのもと、女性が男性と同等に稼ぐことは困難でした。
しかし、均等法の成立によって、一見すると女性にも雇用のチャンスが開かれ、メディアでは総合職として活躍する女性たちが華々しく取り上げられています。
自分もがんばれば「私らしく」生きることができるかもしれないという淡い期待を抱いた女性たちが、社会的連帯による政治活動という枠組みを捨て去ったのは当然の流れだともいえます。しかし、皮肉にもそれこそが新自由主義の文化だったということもできます。
三浦によれば、新自由主義は第一期と第二期に分かれるといいます。
- 第一期・・・英国のサッチャー政権(1979−90)、アメリカのレーガン政権(1981−89)、日本の中曽根政権(1982−87)に当たる時期。この時期の特徴は、大きな政府による福祉国家の達成という目標を捨て、官僚性を批判し、小さな政府と競争原理の導入をその哲学とします。
- 第二期・・・英国のブレア政権(1997−2007)、アメリカのクリントン政権(1993−2001)、日本の小泉政権(2001−06)に当たる時期。第二期の特徴は、それまで「革新」と考えられていた政党が新自由主義の改革を推し進めた点である
より細かくみていくと、第二期新自由主義の特徴には、さらに次の三つが挙げられます。
- 福祉国家による社会政策を見直して、国家が完全雇用を保証しないと宣言すること
- 国家の経済的な反映のためにはアクティブな市民が不可欠で、流動的でフレキシブルで起業家精神にとんだ市場文化の創生を目標とすること
- グローバル化を前提としたコンテンツ産業、クリエイティブ産業の振興を重視すること
そして第一期と第二期の間には、1989年のベルリンの壁崩壊とそれにつづくソ連の崩壊と冷戦の終結という歴史的な転換点がありました。冷戦の終結による社会主義への失望とアメリカの覇権の表面化によって、新自由主義はグローバル化における必然として一気に承認されたのです。
これによりまったく正反対なはずの「革新」的な新左翼と新自由主義が、既存の仕組みやエスタブリッシュメントを批判し、改革を行い、オルタナティブな社会を目指す点で協調しており、見分けがつかないものになってしまいました14三浦 同上 66−67頁。
加えて、福祉国家批判がフェミニズムとも重なります。
- 男性労働者の家族給で維持されてきた性差別を含む近代家族が、新自由主義によって破壊され、女性は新たな労働力の象徴的な記号となった
- しかしそれは同時に、生存権の保障のためのセーフティネットも破壊してしまったことになる
- すなわち、女性が社会進出を果たすということは、同時に、組織化された男性労働者による労働運動という連帯による社会運動の破壊にもつながった
こうして、福祉国家の構造的な性差別が撤廃されて、女性の個人主義的な社会進出を持ち上げるポストフェミニズムが現れてます。そして、社会的連帯による左翼的な政治運動という、労働運動をモデルとした第二波フェミニズムを時代遅れのものとして批判されることになります。
前節で見てきたように、ここで消滅したのは、シスターフッドであり集団としての女性の連帯でした。
ポストフェミニズム下の女性たちは、ギルが指摘するような身体とセクシュアリティから特徴づけられる存在として、恋愛も「援交」もAKB48のあり方も「自分の労働と身体(とセクシュアリティ)しか売るものを持たない」男性プロレタリアートの姿の翻訳であると三浦は指摘します15三浦 同書 70頁。
まさに、新自由主義とフェミニズムの矛盾がポストフェミニズム下の女性の身体とセクシュアリティに現れ、連帯を忘れた女性たちは自らの身体を切り売りするしかサバイブできない状況に追い込まれているということができます。
2-3: 連帯に向けて
では、そろそろ問いに戻りましょう。自己実現という女性の個人的な成功のみが称賛され、「私らしく」あることが環境的にも条件的にも難しい女性たちとの格差がますます広がっていく現在、女性たちはどうしたらふたたび解放を目指し、連帯することができるのでしょうか。
そのひとつの答えが、第三波フェミニズムだといえます。(→第三波フェミニズムに関してはこちら記事)
つまり、
だれもが私でいられる個性の平等を目指すこと、すなわち、多様性と選択の自由を尊重する第三波フェミニズムだからこそ、サンドバーグのような成功した女性と無償の家事労働を担う主婦と自助努力に息を切らす女性をつなぐことができる
のです。
もちろん、そこにはインターセクショナリティと呼ばれるさまざまな権力関係の交錯が存在し、ひと筋縄にはいきそうもありません。
また、徹底的に新自由主義に覆われた世の中で、それに背を向けて生きる手立てはそう簡単には見つからないでしょうし、そこにこそ生きがいややりがいを見つけている女性たちに対し「あなたは間違っている」「まやかしを見ている」などと否定できるわけがありません。
このように課題は山積しているわけですが、あらゆるものを利用しようとする資本主義に対し、女性たちはどう向き合い、どう連帯し、集合体としての社会的地位の向上を目指すことができるのか。2010年代以降、第四波フェミニズムと呼ばれる新しいフェミニズムの潮流を生み出しながら、運動と理論の往還がいまもなおつづけられています。
- ポストフェミニズムを端的に示す書物としてフェイスブック社COO・サンドバーグの『リーン・イン』が挙げられる
- 富も名声も家庭も子どもも手に入れたサンドバーグと、低賃金にあえぐ女性労働者は手を結ぶことができない
- 連帯を忘れたポストフェミニズム下における女性は、自らの身体とセクシュアリティを切り売りするしかないプロレタリアートである
3章:ポストフェミニズムを学ぶためのおすすめ本
ポストフェミニズムに関して理解は深まりましたか?以下ではさらに理解を深めるための書物を紹介します。
オススメ度★★★ 菊地夏野『日本のポストフェミニズム――「女子力」とネオリベラリズム』(大月書店)
ハーヴェイ、フーコー、フレイザーによる新自由主義の理論的検討をとおして、ネオリベラル・ジェンダー秩序という概念を編み出した意欲的な一冊です。
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オススメ度★★★ 三浦玲一・早坂静(編)『ジェンダーと自由』(彩流社)
2013年秋に47歳で亡くなった三浦玲一が手掛けた論集。最新の研究を幅広く網羅するなかでも、三浦自身による第3章は、ポストフェミニズム理解のために必読の論考です。
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オススメ度★★★ 河野真太郎『戦う姫、働く少女』(堀之内書房)
『アナ雪』、『逃げ恥』、『ナウシカ』等々、ポピュラー文化に登場する女性主人公とポストフェミニズムの関係性について論じた一冊。観たくなる映画がたくさん出てきます。
オススメ度★★★ サンドバーグ、シェリル『LEAN IN(リーン・イン)――女性、仕事、リーダーへの意欲』(日本経済新聞出版社)
ポストフェミニズム体現者による象徴的な著作。仕事と人生を楽しみながら女性一人ひとりが一歩踏み出す(Lean In)することによって、「真の平等」に近づけるのだと説きます。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- ポストフェミニズムとは特定の思想や運動ではなく、ジェンダー間の平等は達成され、フェミニズムは必要なくなったという「社会状況」を指す
- 2000年代に入り、カルチュラル・スタディーズの流れを汲む研究者により、ポストフェミニズムと新自由主義との関連が指摘されるようになった
- ポストフェミニズム下における連帯の鍵は第三波フェミニズムである
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