社会思想

【シティズンシップとは】マーシャルの三要素から問題点までわかりやすく解説

シティズンシップとは
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「シティズンシップ(citizenship)」とは、

「ある共同体の完全な成員である人びとに与えられた地位身分である。この地位身分をもってるすべての人びとは、その権利に付与された権利と義務において平等である」

とされる権利です(「シティズンシップ」『政治・権力・公共性』(2011)から参照)

トマス・マーシャルが1950年に発表した「シティズンシップと社会的階級」という論文で提示した概念として有名です。この論文は、福祉国家を議論する上で不可欠な論文として評価されてきました。

そこで、この記事では、

  • シティズンシップの意味
  • マーシャルが提示した三要素
  • シティズンシップ論への批判

をそれぞれ解説します。

私たちが社会的弱者になった時、福祉が最後の命綱です。その命綱を主張する権利はシティズンシップから発生しています。つまり、シティズンシップ論を学ぶことで、福祉国家の土台となる市民の権利を理解できます。

興味関心のある箇所からで構いません。ぜひ読んでみてください。

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1章:シティズンシップとはなにか?

まず、冒頭の定義を再確認しましょう。

「シティズンシップとは、ある共同体の完全な成員である人びとに与えられた地位身分である。この地位身分をもってるすべての人びとは、その権利に付与された権利と義務において平等である」

とされる権利です。

マーシャルはイギリス社会におけるシティズンシップの発展を対象としています。

根底にある考えは、労働者階級を含めたすべての人びとが文明市民としての生活を送るためにはある程度国家が強制的に権利を保障すべきである、というものです。

では一体、文明市民の生活を支える権利、つまりシティズンシップはどのような要素があるのでしょうか?

1-1: シティズンシップの意味

シティズンシップの意味を理解するためには、マーシャルが提示した三要素を理解することが一番の近道です。

そのため、ここではマーシャルの議論を簡潔にまとめた「シティズンシップ」『政治・権力・公共性』(2011)を参照して、マーシャルの三要素をみていきましょう。

結論からいうと、シティズンシップには、

  • 市民的権利
  • 政治的権利
  • 社会的権利

の三要素といった意味を含みます。

1-2: シティズンシップとマーシャルの三要素

「市民的権利」「政治的権利」「社会的権利」の三要素の形成時期は異なります。大まかに、市民的権利は18世紀に、政治的権利は19世紀に、社会的権利は20世紀に入って形成されました。

それぞれの権利が形成される歴史的過程をみると、「権利は一度にすべて獲得されるのではなく、社会的変化に伴って徐々に形成されたもの」とわかります。

それぞれの権利をみていきましょう。

1-2-1: 市民的権利

市民的権利とは、

  • 自由権
  • 平等権
  • 財産権

を指します。

マーシャルによると、1688年の名誉革命から1832年の第一次選挙法改正までに、現在と変わらない市民権が形成されました。

そして、市民的権利のポイントは以下の通りです。

市民的権利の特徴

  • 経済的な意味では、労働の権利を意味する
  • たとえば、特権階級による特定の職業の独占は市民の自由と繁栄を阻害すると考えられたため、移動の自由と職業選択の自由が承認される
  • 市民的権利の形成には裁判所、つまり法の支配が重要な役割を担った

1-2-2: 政治的権利

政治的権利とは、

  • 選挙権
  • 被選挙権

を指します。

19世紀以前の「選挙権」や「被選挙権」は一部の階級による特権でした。しかし、選挙法改正をとおして、労働者階級まで政治的権利が拡大します。これを政治的権利といいます。

細かくいうと、成年男性の普通選挙が実施されたのは1918年の国民代表法まで待たなければなりません。

一般的に、政治的権利は市民的権利の派生物として捉えられていましたが、20世紀までに市民的権利とは独立した権利として扱われるようになりました。

1-2-3: 社会的権利

社会的権利とは、

  • 教育を受ける権利
  • 最低限の生活を送る権利

を指します。

具体的に、社会的権利は次のような考えから生まれてきます。

社会的権利が必要とされた理由

  • 市民的権利に保障された個人が経済活動に自由に参加する(社会が個人を保護する必要はない)
  • しかし労働者階級の人びとは市民的権利を法的に保護されているが、実質的に権利を行使する保障はなかった
  • たとえば、読み書き能力が十分ではない労働者階級の人びとに、言論の自由を認めても権利を行使する能力はない

重要なのは、平等な権利だけでなく平等な社会的価値を生み出す過程で社会的権利が誕生した、ということです。



1-3: シティズンシップと資本主義

マーシャルはシティズンシップの発展を同時期に発展した資本主義と関連付けて議論しています。

簡単にいうと、シティズンシップと資本主義の関係は「相互補完的な部分」「対立的な部分」があります。それらの点をみていきましょう。

1-3-1: シティズンシップと資本主義:相互補完的な部分

シティズンシップの発展は個人の権利と平等を目指すものでした。しかし、シティズンシップは資本主義のシステムに適合的であり、人びとに新たな不平等を生み出す場合があります。

ここでは教育でよくみられる場面を紹介します。まず、「身分制度の社会」と「シティズンシップの保障された社会」を相違を確認します。

  • 身分制度の社会・・・ある社会における成員の地位や収入、教育達成度は生まれ落ちた社会における身分で決定される
  • シティズンシップの保障された社会・・・個人は平等に教育の機会が与えれる

「身分制度の社会」と「シティズンシップの保障された社会」とでは教育機会にこのような違いがあります。

しかし、シティズンシップの保障された社会では好成績を収めた者がよりよい職につき、高額の収入を得る、といったことがおきます。この場合、教育が生み出す社会的な地位の格差とそれから生じる収入の格差は不問となります。

この教育のケースがシティズンシップと資本主義の相互補完的な部分です。

1-3-2: シティズンシップと資本主義:対立的な部分

一方で、シティズンシップと資本主義は対立する場合があります。

たとえば、労働者階級の人びとの権利と資本家の自由な経済活動は対立しないでしょうか?

この場合、労働者階級の人びとの社会的権利と資本主義のシステムのあり方は相互補完的というよりも対立的です。

シティズンシップと資本主義はの関係は「相互補完的な部分」と「対立的な部分」をもった両義的なもの、と理解してください。

ちなみに「シティズンシップ」『政治・権力・公共性』(2011)はマーシャルの議論をわかりやすくまとめていて、初学者には非常に有益です。

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いったんここまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 「シティズンシップとは、ある共同体の完全な成員である人びとに与えられた地位身分である。この地位身分をもってるすべての人びとは、その権利に付与された権利と義務において平等である」
  • シティズンシップには、市民的権利、政治的権利、社会的権利といった三要素がある
  • シティズンシップと資本主義はの関係は「相互補完的な部分」と「対立的な部分」をもった両義的なもの

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2章:シティズンシップ論の問題点と展望

さて、マーシャルの提示したシティズンシップ論は、社会的な変化とともに批判の対象となってきました。

まず、ここではマーシャルの議論が現代社会でどれほど有効なのか?を理解するために、シティズンシップ論に浴びせられた批判を紹介します。その後、シティズンシップ論とグローバリゼーションの関係を解説します。

マーシャルの「シティズンシップと社会的階級」(1950)を日本語に翻訳し公刊した社会学者の中村健吾による「テーマ別研究動向(シティズンシップ)」(社会学評論)を中心にみていきましょう。

2-1: シティズンシップ論への批判

シティズンシップ論への批判は、大きく次の5つの点にわけることができます。

シティズンシップ論への批判

  1. 権利の形成過程に関する批判
  2. 時代的・地理的な制約
  3. コミュニタリアンからの批判
  4. 移民や難民の排除
  5. フェミニズムからの批判

それぞれの批判を簡潔に解説します。

2-1-1: 権利の形成過程に関する批判

1章で解説したように、マーシャルは市民的権利が18世紀に、政治的権利が19世紀に、社会的権利が20世紀に入って形成されたと考えました。

この権利の形成過程に関する批判がされます。それはおおまかに、次のようなものです。

マーシャルの議論は、

  • まるでそれぞれの権利の発展軌道がすでに決定されてるかのような記述
  • そのため、実際に行われた政治闘争や階級闘争が抜け落ちている目的論である

というものでした。

2-1-2: 時代的・地理的な制約

第二の批判はある特定の時代の地理的な状況(イギリス社会)にマーシャルの議論が依存している、ということです。

つまり、マーシャルの議論は、

  • あたかも普遍的な権利の形成過程を提示するが、それは他の国には当てはまらない
  • たとえば、19世紀のドイツでは労働者階級の人びとの政治的権利が抑圧された
  • 社会主義国家では市民的権利と政治的権利が整備されないまま、社会的権利が保障された

といった事態を見過ごしていたのです。

2-1-3: コミュニタリアンからの批判

第三の批判はシティズンシップ論に含まれる「権利」と「義務」に関して、コミュニタリアンからの批判です。

マーシャルの議論はシティズンシップ論が提唱する「個人の権利」に焦点をあてます。しかし、コミュニタリアンは「マーシャルの議論は市民の義務や徳」を無視すると主張します。

つまり、マーシャルの議論は、

  • 「市民であること」に個人としての権利を見出すのみ
  • 共同体に不可欠な「共通善」に対する徳が抜け落ちている

と批判がされます。

コミュにタリアンという政治的な立場については、次の記事で解説しています。

共同体主義とは
【共同体主義(コミュニタリアニズム)とは】主な主張をわかりやすく解説共同体主義(コミュニタリアニズム/communitarianism)とは、 普遍的、単一的な価値観ではなく、文化的な共同体(国...



2-1-4: 移民や難民の排除

第四の批判はマーシャルの議論が「ナショナル・シティズンシップ論」であることです。

言い換えると、マーシャルはナショナル・シティズンシップを前提にして概念を構成したため、移民や難民が保障されるべき権利が議論されていない、ということです。

2-1-5: フェミニズムからの批判

第五の批判は公的な世界を前提とするマーシャルのシティズンシップ論に対するものです。

フェミニズムはマーシャルの議論を、

公的世界における市民を前提とするため、私的世界における家父長制を不問とするだけなく、助長している

と批判しました。

2-2: シティズンシップと福祉国家

マーシャルの議論の内容に加えて、福祉国家を議論する文脈でシティズンシップ論は批判されてきました。

福祉国家論におけるシティズンシップ論の批判とは、

  • 1980年代以降、高度経済成長の停滞と人口変動といった社会的変化を背景に新保守主義や新自由主義の側から起きたもの
  • 具体的に、福祉国家的な政策に対する批判が高まる
  • 特に、シティズンシップ論の社会的権利は批判の対象になった

というものです。

簡単にいうと、福祉国家の限界を新保守主義や新自由主義といった陣営が指摘した、といった構図がありました。

それぞれの立場は次の記事で詳しく解説しています。シティズンシップ論の展開を深く理解するために非常に役立ちますので、ぜひ読んでみてください。

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2-2: シティズンシップとグローバリゼーション

さて、マーシャルへの批判はもっともな点もあれば、誤読もあるといわれています。

とにかく、重要な点は「マーシャルのシティズンシップ論に問題があるから使えない」と考えるのではなく、「マーシャルの議論を土台にしながら現代社会にどう適応させるのか?」と未来を向いた思考をすることです。

近年、シティズンシップ論で議論になるは「国民国家を超えたシティズンシップ」です。つまり、グローバリゼーションに直面する世界で、新たなシティズンシップ論が必要とされています。

具体的に、新たなシティズンシップ論とは、

  • 国民国家を前提としたナショナル・シティズンシップ論ではない
  • 「世界シティズンシップ論」や「コスモポリタン・シティズンシップ論」といった新たな枠組み

を指します。

そして新たなシティズンシップ論を具体的に議論する際、土台となるのはやはりマーシャルの議論です。このような意味で今日でもなおマーシャルの議論は土台として、学ぶべき重要な概念です。

2章のまとめ
  • マーシャルのシティズンシップ論に対する批判:①権利の形成過程に関する批判②時代的・地理的な制約③コミュニタリアンからの批判④移民や難民の排除⑤フェミニズムからの批判
  • 福祉国家論といった文脈でもシティズンシップ論は批判をうける
  • 近年は「国民国家を超えたシティズンシップ」が議論される

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3章:シティズンシップの学び方

シティズンシップに関して理解を深めることはできましたか?

シティズンシップはあなた自身の権利を守るために理解するべき概念です。逆にいうと、シティズンシップを知らないと、社会におけるセーフティーネットがない状態で意味します。

そのため、これから紹介する書籍だけでなく新聞や雑誌から「世界でどうようにシティズンシップが保障されるか?」を学ぶことをおすすめします。

ぜひ参考にしてください。

書籍

オススメ度★★★ 井上 俊, 伊藤 公雄 (編)「シティズンシップ」『政治・権力・公共性』(世界思想社)

マーシャルの議論をコンパクトにまとめています。この本の多くをこの記事では参照しました。まず、マーシャルのシティズンシップ論を学びたい方にオススメ。

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オススメ度★★★ T.マーシャル (著), T. ボットモア 『シティズンシップと社会的階級』(法律文化社)

マーシャルのシティズンシップ論が提示された論文です。シティズンシップ論を真剣に学びたい方にオススメ。

オススメ度★★★田中拓道『福祉政治史-格差に抗するデモクラシー-』(勁草書房)

福祉国家の歴史を整理し、これからの福祉国家の在り方まで論じられた素晴らしい本です。各国の事例まで詳しくのっているので、ぜひ読んでみてください。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 「シティズンシップとは、ある共同体の完全な成員である人びとに与えられた地位身分である。この地位身分をもってるすべての人びとは、その権利に付与された権利と義務において平等である」
  • マーシャルのシティズンシップ論に対する批判:①権利の形成過程に関する批判②時代的・地理的な制約③コミュニタリアンからの批判④移民や難民の排除⑤フェミニズムからの批判
  • 近年は「国民国家を超えたシティズンシップ」が議論される

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