東洋哲学・東洋思想

【中華文明とは】思想や秩序の特徴から日本との関わりまでわかりやすく解説

中華文明とは

中華文明は中国大陸における文化・文明・風土を総称するものであり、世界四大文明の一つとされています。世界最古の文明の一つに数えられ、黄河・長江・東北地域を中心に発展をしていきました。別名を黄河文明ともいいます。

中華文明のテーマは非常に多岐に渡りますが、その要点を知っておくことは超大国化する中国を理解する上でもとても重要です。

今回はそんな中華文明について、

  • 中華文明の政治、思想について
  • 中華文明の歴史とアジアにおける影響
  • 中華文明の特徴について

上記3点に着目して解説をしていきます。

名前は知っているけど、どういう内容なのか詳しく知らないという方は是非読んでみてください。

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1章:中華文明とは

冒頭でも触れたように、中華文明とは中国大陸で興った四大文明の一つです。裴李崗文化から始まり、現代に至るまで数千年もの歴史を誇ります。

「文明」というと、主に物質的なものを指しますが、中華文明の中には、政治制度や言語、建築、思想、武術など、物質的なもの以外も含まれます。それぞれが中国独自の発展を遂げたものが多く、今なおアジア各国に大きな影響を与えています。

具体的事例を挙げると、中国の官僚制度が日本に伝わり、律令制度として整備されたことはあまりに有名です。その他にも東アジア諸国を中心に漢字文化圏を形成し、四大発明(造紙技術・ 印刷術・羅針盤・火薬)による技術革新を行いました。

思想では儒教が誕生して日本や朝鮮半島に伝来し、インド発祥の仏教を漢訳することで、漢字文化圏への普及にも一役買っています。

この様に、中華文明はアジアの中心として、政治的にも文化的にも抜きん出た存在だったのです。

1-1:中華文明の歴史

中華文明の興りは黄河周辺に起こった複数の文化圏から始まります。その中でも最も古いとされているものが、裴李崗文化(現在の河南省新鄭県裴李崗)です。時代が前後しますが、その他にも老官台文化仰韶文化龍山文化などがありました。

裴李崗文化 紀元前7000年~紀元前5000年頃 現在の河南省新鄭県裴李崗
老官台文化 紀元前6000年~紀元前5000年頃 現在の陝西省華県
北辛文化 紀元前6000年~紀元前5000年頃 現在の山東省滕県官橋鎮北辛村
磁山文化 紀元前6000年~紀元前5000年頃 現在の河北省武安県磁山
仰韶文化 紀元前4800年~紀元前2500年頃 現在の河南省澠池県仰韶村
後岡文化 紀元前5000年~紀元前4000年頃 現在の河南省安陽市後岡
大汶口文化 紀元前4300年~紀元前2400年頃 現在の山東省寧陽県磁窯鎮堡頭村
龍山文化 紀元前2500年~紀元前2000年頃 現在の山東省章丘県龍山鎮
二里頭文化 紀元前2000年~紀元前1600年頃 現在の河南省偃師市二里頭

これらの文化の中でも、後期の龍山文化や二里頭文化では、銅器や青銅器の鋳造技術が確認されており、殷・周王朝誕生の基盤となっていたと考えられています。

殷王朝の時代になると、神と交信する手段として、骨に火を押し付けてヒビの入り方で吉凶を測る卜占が行われていました。この卜占に使用された甲骨文字が原型となり、漢字が誕生します。周王朝に入ると、漢字は商取引など卜占以外でも利用されるようになり普及していきます。

周王朝の統治がかげりを見せ始める春秋戦国時代になると、各地で戦乱が活発になり浪人が多く発生します。その一人である孔子が儒教を説き、一大学派として流行します。儒教は漢によって国教に定められ、後々まで中国の価値基準として政治的にも思想的にも大きな影響を与えました。

唐王朝の時代に入ると、官吏採用試験である科挙が盛んに行われます。そして続く宋代に中央集権制が強化され、科挙も官吏登用システムとして機能していきます。科挙には必須科目として儒教の経典が多く挙げられており、儒教という思想と官僚制という政治システムが密接に関わっていたことが伺えます。

中華文明は、儒教に代表される思想とそれを伝達する漢字、さらには官僚制という政治制度に特徴が色濃く表れているのです。

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1-2:中華文明のアジアにおける影響

漢による中華統一が行われるようになると、中国は周辺のアジア諸国に対して冊封を行うようになります。この冊封の影響によって、漢字の文化が周辺に普及します。具体的には台湾、ベトナム、朝鮮半島、日本列島などの地域です。

ただし、冊封体制下の国家=漢字文化圏という単純な図式は成立しない点は注意が必要です。例えば、日本は隋の煬帝に送った「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無しや、云々」と書いた国書によって、冊封体制下からの独立を宣言しています。

冊封による交易で漢字文化が周辺に伝播していくと同時に、儒教もまた伝えられていきました。朝鮮半島では唐の影響を受けて、科挙が実施されるようになります。これは高麗王の光宗の代に本格化し、成宗が儒教の高等教育機関である国子監を設立したことで大成されます。

朝鮮半島の儒教は宋や明の時代に盛んに行われた儒教の「理」をテーマとした宋明理学であり、これは後の清の崩壊と日本の侵攻まで発展し続けました。

この宋明理学の中の朱子学は、12世紀頃に日本に伝わり、日本仏教である天台宗や臨済宗の僧によって研究が進められました。

応仁の乱により京都が荒廃すると、儒教を研究していた僧侶などの知識人が地方へ四散して薩摩学派海南学派が誕生します。この様な地方に拡散した儒教は、後々の幕末明治の世に流行した維新思想にも大きな影響を与えたと考えられています。

儒教や漢字の他にも、兵法書の『孫子』は704年に日本に伝来し、以後は教養の書物として貴族の間で読まれるようになりました。中世に入ると武士にも広く愛読され、南北朝時代の北畠顕家や戦国時代の武田信玄が「風林火山」を旗印にしたことはあまりに有名です。

その他にも中国で流行した『三国志演義』が江戸初期には日本に伝わっていたと考えられています。滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』には『三国志演義』の赤壁の戦いと酷似した合戦の描写があり、大衆文化にも影響を与えていました。

■西洋にも影響を与えた中華文明

中華文明について考える際に、東アジアを中心とした地域をイメージすることが多いですが、実は中央アジア、そして西洋諸国に与えた影響については軽視されがちです。

例えば、1世紀頃に蔡倫によって改良された紙は751年のタラス河畔の戦いを契機としてイスラム圏の中央アジア諸国に伝播されました。次いで12世紀頃にヨーロッパにも紙工場が建設されるようになり、紙は世界へと普及していきました。

銃についても、火薬を発明した中国(当時はモンゴル帝国支配下)から西洋に伝わった可能性が指摘されており、中華文明の技術は西にも大きな影響を与えていたことが分かります。その他、中国では羅針盤や印刷技術が開発・発展していきます。

1章のまとめ
  • 中華文明は黄河周辺に起こった複数の文化圏から始まったもので、最も古いのが裴李崗文化
  • 中華文明はアジア諸国に冊封を行うとともに、漢字文化や儒教を伝えた
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2章:中華文明の特徴

中華文明は、当時思想的にも技術的にも進んだ社会を形成し、アジアの中心として君臨してきました。この中国を中心とする世界観は、中国の思想とそれに基づく制度によって形成されていきました。ここでは、中華文明の基幹的な思想や制度、そして特徴を紹介していきます。

2-1:中華思想

中国の世界観について語る上で外せないキーワードがあります。それは「中華思想」です。中華思想とは、中国を文化・技術・思想等が進んだ世界の中心と位置づけ、中国以外の国家を夷狄(非文化・非文明)とする概念です。

夷狄は東西南北に東夷、西戎、北狄、南蛮が存在し、四方の夷狄はやがて皇帝の徳に感化されて改心し、儒教的な「礼」を受容すると考えられていました。

中国はこの様な極端な自国中心主義であったため、諸外国との間に対等な立場同士の交易は存在しませんでした。諸外国が中国と取引をする際には、朝貢として中国に貢物を献上し、中国がそれに対する返礼の形で物品を賜与していました。

中華文明の特徴として、この朝貢に見られるように、実質は交易であったとしても、体裁や立場にこだわる性質がありました。

2-2:儒教

中華文明を語る際に、真っ先に挙げなければならないキーワードが儒教です。儒教は孔子によって今から2500年ほど前に説かれたものです。

春秋戦国時代の最中に、国を統治する手段として、「徳」や「礼」によって国を治めようとする儒教の教えは大きな広がりを見せました。荀子や孟子によって発展した儒教は漢代に入ると国教化されるまでになります。

儒教では家族内の秩序を最小の単位と捉えて、これを国家規模に拡大させ国家を安定させようとする思想でした。そのため、人として守るべき「礼」はとても重要なものとされ、ややもすると形式のみが重視されるようになりました。



2-3: 冊封体制

冊封体制とは、中国王朝が諸外国に対してとった外交体制とそれによって構築された国際秩序のことです。朝貢しに来た夷狄に対して、皇帝が夷狄の統治者を臣下に封じることで、冊封体制下に入れていきました。

儒教によって形成された中華思想と儒教の強化を外交に反映させた形になります。儒教の「礼」でもって、国内を統一した後には、これを国外にも適用して組み入れようとしたのです。

しかし、直接現地を中国が支配することはなく、関係性は一部地域を除けばあくまで限定的でした。この体制は中国の世界観(中華思想)を体現するものでもありました。漢代から続いていた冊封体制が崩壊したのは何と1895年で、日清戦争で清が敗北したのがきっかけでした。日清戦争の敗北で清は朝鮮半島の独立を認め、全ての冊封国を手放すことになったのです。

→冊封体制について詳しくはこちら

2-4:科挙制度

儒教によって理論化され、その概念を諸外国に適用したものが冊封体制であったとすると、中国国内に概念を体現したものが科挙制度でした。

科挙は官吏登用試験として、隋の時代に導入されて以降、清によって1905年に廃止されるまで踏襲されてきました。儒教は君臣や父子の忠孝を重視したため、為政者にとって自己の支配を正当化するものでもありました。

そのため、科挙は時代によって差異はあるものの、官吏登用の基準として、儒教の経典である四書五経が重視されました。儒教一辺倒な内容になっていくにつれ、有能な人材の排出が困難になっていきました。結果、19世紀に入って西欧諸国の進出が始まると、これに対応することができずに、諸外国の支配を受けることになっていきました。

2-5:天子

天子とは天の命を受けて、天下を統治する者を指します。天子とは読んで字のごとく、天の子供という意味であり代弁者でもありました。

中国では何事も天の意思に則って行わなければならないとされていました。天命は自然の摂理であり、人には抗うことができないと考えられていたのです。漢代に入り儒学者の董仲舒によって「天人相関説」がとなえられると、人の行動と天の為すことが感応していると考えられるようになりました。そのため、異常気象や超常現象が起きると、これを天の意思と捉えるようになりました。

この様に中国では天が絶対的な存在としてあり、その天の意思を受けて天子となった者(皇帝)もまた絶対的な存在であったのです。

「天子」について理解するためには、下記の記事も参考になるはずです。

【易姓革命とは】天命、五行、讖緯思想とあわせてわかりやすく解説

2章のまとめ
  • 中華思想は、中国を世界の中心と位置付け、中国以外を非文化・非文明とする思想
  • 儒教は孔子によって2500年前に説かれた思想で、「礼」「徳」によって国家を治めようとするもの
  • 冊封体制とは、周辺国に対する外交体制・国際秩序
  • 科挙制度とは、儒教の論理を国内に適用した官吏登用試験
  • 天子とは、皇帝を天の命を受けて天下を統治する者と捉える思想
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3章:中華文明について学べる本

中華文明について要点を理解することができたでしょうか。

繰り返しになりますが、中華文明というテーマは非常に多岐に渡りますので、これから紹介する書籍を通じて理解を深めることをおすすめします。

おすすめ書籍

オススメ度★★★岡田英弘『中国文明の歴史』 (講談社現代新書)

中国文明を学ぼうとする初学者に向けた新書です。中華文明の成り立ちから、現在に至るまでの概略を書いており、文章もとても読みやすいです。その一方で岡田氏の中国観も垣間見ることができるため、退屈せずに読み進めることができます。

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中国中世史の研究者である渡邉義浩氏の著作です。中華思想という規模の大きいテーマを扱った珍しい書籍です。各分野に細分化して解説がなされています。中華文明の根幹を成す中華思想を学ぶ際の入り口にちょうどいい内容になっています。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 中華文明とは、黄河周辺に起こった複数の文化圏からはじまった中国の文明のこと
  • 中華文明は、外交・国際秩序としての冊封体制、中国を世界の中心と考える中華思想、「礼」「徳」によって国家を治める儒教、官吏登用試験の科挙、皇帝を「天子」と捉える思想などによって特徴づけられる

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