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東洋哲学・東洋思想

【韓非子とは】時代背景から代表的な名言までわかりやすく解説

韓非子

『韓非子』とは中国戦国時代の法家である韓非の著書で、法治主義・富国強兵を唱えた当時の思想書の代表作です。

「矛盾」「信賞必罰」など現代でも知られる言葉が生まれた思想書であり、秦の始皇帝にも思想的な影響を与えたと言われています。

この記事では

  • 『韓非子』が誕生した背景
  • 『韓非子』の目次と説かれている内容

について、詳しく解説をしていきます。

関心のあるところから読んでみてください。

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1章:韓非子とは?

『韓非子』とは韓非によって書かれた全20巻、55編の中国の思想書です。

韓非子韓非子

法治主義を基本として、信賞必罰・富国強兵を説いており、近年、マンガ『キングダム』でも人気な秦の始皇帝にも大きな影響を与えました。唐代までは『韓子』と呼ばれましたが、唐代の詩人である韓愈との混同を避けるために『韓非子』と呼ばれるようになりました。

1章では韓非子に関する基礎的なことを解説します。『韓非子』に由来する有名な言葉から知りたい場合は、2章からお読みください。

1-1:韓非子が生まれた時代背景

『韓非子』は、中国における戦国時代に書かれたものです。まずは韓非が生まれた時代や『韓非子』が書かれた時代背景について説明します。

1-1-1韓非の人生

『韓非子』を著した韓非は、『史記』(※)の記述によってのみ知ることができますが、詳細は不明なところが多い人物です。

※『史記』とは、前漢の武帝の時代に司馬遷が編纂した中国の歴史書です。

出自は春秋戦国時代の韓という国の公子(王族の子)と言われており、法家として有名な李斯と一緒に荀子に学んだとされています。

韓非が学んだ荀子荀子

その後、韓王(おそらく桓恵王か韓王安)に自分の主張を提案するものの、上手く説得することができませんでした。

韓王安の代になると、秦が韓の属国化に動くようになってきたため、韓非は使者として秦に赴き、交渉をすることになりました。秦王政(後の秦の始皇帝)はかねてより『韓非子』を愛読しており、その思想に大いに共感していました。そのため韓非が使者として秦を訪れた際に臣下として登用しようと考えます。

この時、かつて韓非と同じく荀子の元で学んだ学友の李斯は秦に仕えていました。李斯は韓非が臣下として登用されると、その才能から自分の地位も危うくなると考え、秦王に讒訴(ざんそ:事実を曲げて訴えて人を貶めること)します。

結果として、韓非は秦にて牢獄され、李斯の勧めにより服毒自殺を遂げることになるのです。



1-1-2韓非子が生まれた時代背景

『韓非子』が書かれた時代は、中国の歴史上では戦国時代に分類されます。当時は中央の周王朝の権威が没落し、各地に封じられた王(周王朝の一族)の力が増していました。各地で国と国同士の戦争が頻発する弱肉強食の状態でした。

国の興亡が激しい時代を背景として、この時期には多くの治国用兵の術を説く思想家が生まれます。礼で国を治めようとする孔子、兼愛非攻を説く墨子、無為自然を主張する老子などは、その一例です。この人々は諸子百家と称され、後の中国の思想や制度に大きな影響をもたらしました。

老子老子

老子の思想について詳しくは以下の記事で解説しています。

【老荘思想とは】代表的な考え方から道教・仏教との関係までわかりやすく解説

韓非は諸子百家の中でも法家と呼ばれる思想家に分類されます。

戦国時代において、戦国七雄と呼ばれる七国(秦・韓・魏・趙・斉・燕・楚)が天下統一の有力候補となりましたが、韓非の生まれた韓は、七国の中で最弱国でした。加えて、秦の隣国ということもあり、国家の存亡が間近に迫っていたのです。

1-1-3韓非の説いた思想

韓非は法家思想を説いた人として、諸子百家の中では法家に分類されますが、意外にも師事した人物は儒家の荀子(じゅんし)でした。

荀子は孔子の教えを独自に発展させた人物であり、性悪説で有名です。孔子は「仁」(人を思いやる心)を行うことにより秩序が保たれると主張しましたが、荀子は人の性は悪であると説き礼による教育が必要と説きました。「礼」とは人の規範のことであり、規範によって縛ることで、世が無事に治められると主張します。

韓非は荀子の教えを発展させ、人を縛る「礼」よりもさらに強制力の強い「法」を重視しました。そして、明確な規範である法の運用と、有能な人材を集め国を強くすることで、弱小国の韓の生きる道を模索したのです。

1-2:韓非子の目次構成

韓非の著作である『韓非子』は全五十五篇で、十余万言からなっています。ここでは秦王政(秦の始皇帝)が共感した「孤憤篇」「五蠹篇」を中心に解説し、全五十五篇の篇名を紹介していきます。

秦王政は『韓非子』の「孤憤篇」「五蠹篇」に感銘を受けたといわれています。「孤憤篇」は邪で私利私欲に走る臣下とそれを許してしまっている君主の過ちを嘆き、人の用い方について述べています。

「五蠹篇」では「学者」・「遊侠の徒」・「言談者」・「私人(労役を放棄し、佞臣につく者)」・「商工の民(農民から利益を奪う者)」を有害な五要素として挙げています。そして、これら五要素と向き合い対処することの重要性を主張しました。

秦王政はこの二篇に感化され、「韓非と話し合うことができれば、死んでも構わない」と言ったそうです。

■『韓非子』全五十五篇

「初見秦篇」(しょけんしん)

「存韓篇」(そんかん)

「難言篇」(なんげん)

「愛臣篇」(あいしん)

「主道篇」(しゅどう)

「有度篇」(ゆうど)

「二柄篇」(にへい)

「揚権篇」(ようけん)

「八姦篇」(はちかん)

「十過篇」(じっか)

「孤憤篇」(こふん)

「説難篇」(ぜいなん)

「和氏篇」(かし)

「姦劫弑臣篇」(かんきょうしいしん)

「亡徴篇」(ぼうちょう)

「三守篇」(さんしゅ)

「備内篇」(びない)

「南面篇」(なんめん)

「飾邪篇」(しょくじゃ)

「解老篇」(かいろう)

「喩老篇」(ゆろう)

「説林篇 上」(ぜいりん)

「説林篇 下」

「観行篇」(かんこう)

「安危篇」(あんき)

「守道篇」(しゅどう)

「用人篇」(ようじん)

「功名篇」(こうめい)

「大体篇」(だいたい)

「内儲説篇 上 七術」(ないちょぜい しちじゅつ)

「内儲説篇 下 六微」(りくび)

「外儲説篇 左上」(がいちょぜい)

「外儲説篇 左下」

「外儲説篇 右上」

「外儲説篇 右下」

「難一篇」(なんいつ)

「難二篇」(なんじ)

「難三篇」(なんさん)

「難四篇」(なんし)

「難勢篇」(なんせい)

「問弁篇」(もんべん)

「問田篇」(もんでん)

「定法篇」(ていほう)

「説疑篇」(せつぎ)

「詭使篇」(きし)

「六反篇」(りくはん)

「八説篇」(はっせつ)

「八経篇」(はっけい)

「五蠹篇」(ごと)

「顕学篇」(けんがく)

「忠孝篇」(ちゅうこう)

「人主篇」(じんしゅ)

「飭令篇」(ちょくれい)

「心度篇」(しんど)

「制分篇」(せいぶん)

1章のまとめ
  • 『韓非子』は、韓非が著した思想書で、秦の始皇帝にも影響を与えたが、韓非は秦で投獄され自殺した
  • 『韓非子』は、「礼」よりも「法」を重視し、弱小国韓が生き残るために富国強兵を唱えた
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2章:韓非子の代表的な思想

ここまで述べてきた通り、『韓非子』は法家の書として始皇帝からも重宝されてきました。また、先駆的な法家として有名な商鞅や申不害の理論を継承し、秦の法治主義に大きな影響を与えています。

ここでは、そんな『韓非子』に由来する言葉とその意味をいくつか紹介していきます。

2-1:矛盾

日常でも頻繁に使う「矛盾」という言葉ですが、実は『韓非子』に出てくる言葉です。

これは、儒家の論説を批判する際に有名な矛と盾の話が出てきます。儒家は中国の伝説上の王朝である堯と舜が理想の統治を行っていたとし、舜が悪を正し、立派な行いをしたため、堯が帝位を譲ったと説きます。

しかし、『韓非子』では、堯と舜が理想的な統治を行っていれば、舜が悪を正す必要はないと説きます。一方が理想的であれば、他方はそうでなくなると主張し、これを矛と盾のたとえ話で批判しました。

2-2:信賞必罰

これも有名な言葉です。

信賞必罰は『韓非子』内儲説上の内容が由来となっています。この篇では、君主が臣下を統率するために必要な心得が七つあるとして紹介しています。信賞必罰の四字熟語はこの七つの中の「必罰の術」「賞誉の術」から来ています。参考までに七つの心得を全て紹介しておきます。

  1. 参観の術 臣下の言動をよく見て聞くこと
  2. 必罰の術 罰を下して威厳を保つこと
  3. 賞誉の術 褒賞を手厚くすること
  4. 一聴の術 臣下の言ったことに責任を持たせること
  5. 詭使の術 意表を突く命令を出して相手の真意を探ること
  6. 挟智の術 知らないふりをして問いかけること
  7. 倒言の術 反対の事を言い、反応を見ること

2-3:逆鱗

上司を激しく怒らせるポイントのことを「逆鱗」と言いますが、これも『韓非子』説難の言葉です。龍の顎には一つだけ逆さ向きの鱗があると言われており、ここに触れると、龍が怒り必ず殺されるという伝説があったそうです。

よく天子は龍に例えられるため、君主の怒りを被ることを「逆鱗に触れる」というようになったそうです。

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2-4:守株

この言葉はあまり聞き慣れませんが、矛盾と同じく、儒家を批判する例え話です。

宋という国の農民が、兎が偶然にも切株に追突して死んだのを見て、農作業を放棄し、切株を見張り再び兎を得ようと願ったという話です。この例え話から、古い習慣にこだわる愚かさを説いています。

当時は儒家の思想が理想論・空論となり、仁や礼で国を治めるには限界が来ていました。『韓非子』ではそんな空虚な古い習慣を捨てるよう、批判しています。

2-5:郢書燕説

郢書燕説は、楚の都である郢の人が、燕の大臣へ送った書簡の誤った箇所を大臣が都合よく解釈し実行したところ、国を良く治めることができたという例え話です。ここから、こじつけてもっともらしく説明する意味を指すようになりました。

韓非はこの例え話から、「古典の難解な箇所を自分流に理解しようとすると、それが作者の意図と全く違うものになる」と述べています。

2-6:唯唯諾諾

唯唯諾諾は『韓非子』八姦に登場する言葉です。八姦は臣下の悪事を八つに分類して、対策について述べたもので、八姦の一つである在旁(ざいぼう)の説明で「唯唯諾諾」が登場します。

■『韓非子』引用

二に曰く、旁に在り。

何をか旁に在りと謂ふ。

曰く、優笑、侏儒、左右近習、此れ人主未だ命ぜずして唯唯、未だ使はずして諾諾。

意に先だち旨を承け、貌(かたち)を観、色を察し、以て主の心に先だつなり。

■日本語訳

二つ目は、傍らに在るものである。

何を傍らに在るものというのか。それは、道化、伽役、側近、近習、これらは君主がまだ命令する前から、はいはい、と言い、まだ何かをさせる前から、わかりましたわかりました、と言い、君主の意向に先んじてその旨に従い、表情や顔色を見て気持ちを察し、君主の心に先んじる者であり、皆が、共に進み、共に退き、口を揃えて応対し、言葉づかいをひとつにし、振る舞いを同じくして君主の心を誘導する者である。

意味は人のいいなりになることを指し、何事にも二つ返事で従うということですが、在旁の趣旨としてはイエスマンの側近を利用した臣下の悪事を非難するものになっています。

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2-7:一顰一笑

一顰一笑は『韓非子』内儲説 上に登場する言葉で、一瞬笑ったり微笑んだりする意味です。そこから、ささやかな表情の変化や感情の変化を指すようになりました。信賞必罰の説明でお話した「賞誉の術」に関連して述べられています。

2-8:螻蟻潰堤

螻蟻潰堤は小さな出来事が大きな事になるという意味です。『韓非子』喩老篇に登場する言葉です。喩老篇では過去の事件や逸話など引用して、老子の教訓が紹介されています。

具体的には堤防でもアリの作った穴から水が滲みて潰れることがあり、大きな家も隙間から入った煙で焼けてしまうと述べ、事前の対策の重要性について説いています。

2-9:虎に翼

「虎に翼」とは、元々勢いのある強者に、さらに力が加わることを言います。

『韓非子』難勢篇に登場する言葉で、とても有名な言葉です。韓非は徳や知恵などがあっても、権勢の前には歯が立たないと述べる一方で、それを不肖者が持つと、天下を乱す原因になると主張しています。この流れで、「不肖者を勢位に乗せるのは、虎に翼をつけるようなことである」と喩えています。

■『韓非子』引用

夫れ勢は治に便にして乱に利なる者なり。

故に周書に曰く、虎の為に翼を傅(つ)くる毋(なか)れ。将に飛んで邑に入り、人を択りて之を食らはんとす、と。

夫れ不肖人をして勢に乗ぜしむるは、是れ虎の為に翼を傅くるなり。

■日本語訳

そもそも勢位は世を治めるのに便利で、世を乱すのに役立つものである。

ゆえに周書に言う、虎に翼をつけてはならない、邑に飛び込み、人を取って食おうとするだろう、と。

不肖者を勢位に乗せるのは、虎に翼をつけるようなことである。

2-10:濫吹

濫吹は本来無能な者が賢者の様に装うことを指し、実力がないにも関わらず分不相応な地位にいることを意味します。

『韓非子』内儲説 上に記述があります。斉の宣王は笛が好きだったため、演奏家を集めて、笛の音を楽しんでいましたが、その中に笛が吹けない人が紛れ込んでいました。その人は笛を吹く物真似をして不当に給料を貰っていました。

信賞必罰の説明でお話した「一聴の術」と関連して登場するこの話を元に、韓非は一人一人の話を聞き、言行一致させることの重要性を説きました。

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3章:韓非子が学べるオススメ本

『韓非子』が書かれた背景や、『韓非子』に関連して生まれた言葉について理解を深めることができましたか?

より詳しく理解したい場合は、これから紹介する本を読んでみることをおすすめします。

おすすめ本

オススメ度★★★蔡志忠 (著), 和田 武司 (訳), 野末 陳平 (監修)『マンガ孫子・韓非子の思想』(講談社/1995年)

まずは『韓非子』の内容についてポイントをつかみたい、イメージを得たいという場合は、こちらの漫画版を読んでみてください。

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オススメ度★★★森三樹三郎『中国思想史』上・下(レグルス文庫/1978年)

思想史の大家である森樹三郎氏により、各時代の思想史、そして思想の内容が解説されています。平易で読みやすい文章になっているので、初めて中国思想を勉強する方にはもってこいです。各思想がどう関係し、どんな影響を与えたのかも触れています。

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オススメ度★★★冨谷至『韓非子―不信と打算の現実主義』(中公新書/2003年)

中国法制史に深く精通した富谷至氏の著作です。法制史研究のエッセンスを含みつつも、入門書として分かりやすく書かれており、韓非子について勉強する際には必読の書です。上記の『中国思想史』から入って、こちらの本でより深く掘り下げて勉強するとより理解しやすくなります。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 『韓非子』は法家の韓非が著した思想書で、「礼」よりも「法」を重視することや富国強兵を唱えた
  • 『韓非子』からは「矛盾」「信賞必罰」など現代にも伝わる言葉が生まれた

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